鉛筆が六角形なのは、親指・人差し指・中指の3本で支えて書く道具だからです。3の倍数の角があると指が面に収まりやすく、角のおかげで机の上でも転がりにくくなります。いっぽう色鉛筆の多くが丸いのは、広い面を塗るときに軸を回し、芯が片方だけすり減らないようにするためです。そして「鉛筆」という名前に反して、芯に鉛は入っていません。
六角形は3本の指に合わせた形

親指・人差し指・中指の3点で支える
鉛筆を持つ手を思い浮かべると、軸に触れているのは親指と人差し指、そして中指の3本です。日本筆記具工業会やトンボ鉛筆は、この3本の指で持つことから、角の数が3の倍数だと正しく握りやすいと説明しています。六角形なら、3本の指がそれぞれの面にぴたりと収まるわけです。
三角では痛く、十二角では丸に近い
3の倍数なら、三角形や十二角形でもよさそうに思えるでしょう。ただ三角形は角がとがっていて、長く握ると指に食い込みがちです。角を増やして十二角形にすると、今度はほとんど丸と変わりません。痛くなく、それでいて指の位置が決まる。その間にあるのが六角形だと考えると、定番になった理由が見えてきます。
六角形の鉛筆はなぜ転がらない?

角が机に引っかかって止まる
六角形には、持ちやすさとは別の働きもあります。丸い軸は少し傾いた机でもころころと転がり、そのまま床へ落ちてしまうもの。角のある軸は平らな面が机に接するので、少し転がってもすぐ止まるのです。日本筆記具工業会も、角軸には机の上で転がりにくくする役割があるとしています。
1枚の板から9本ずつ削り出す
形が決まるのは、作る工程の終わり近くです。三菱鉛筆の工場紹介によると、長さ185ミリ・幅70ミリ・厚さ5ミリの板(スラット)に9本の溝を彫り、そこへ芯を乗せます。もう1枚の板を貼り合わせたら、上の面と下の面を削って1本ずつ切り離す流れです。
このとき使う削り刃の形しだいで、軸は六角にも丸にも三角にもなります。日本筆記具工業会の説明でも、軸の形は板から切り分けるカッターの形で決まるとのこと。つまり六角形は作る都合で決まった形ではなく、使う人のために選ばれている形です。
色鉛筆はなぜ丸い?

回しながら塗って芯の片減りを防ぐ
色鉛筆の多くが丸いのは、使い方が字を書く鉛筆と違うからです。トンボ鉛筆によると、広い面を塗るときには軸を回しながら使うので、丸いほうが芯の片側だけがすり減るのを防げます。寝かせたり立てたりと持つ角度も変わるため、どの向きでも指あたりのやさしい丸が向いているのです。
色の芯は焼き固めないものが多い
芯の作り方も、黒い鉛筆とは違います。黒い芯は1,000〜1,200℃の炉で焼き固めますが、一般的な色鉛筆の芯は焼かずに作る「非焼成」が主流です。顔料をワックスや樹脂などでまとめるため、やわらかく発色がよい反面、減りが早いのが弱点。回しながら均等に使える丸い軸とは、相性がよいといえます。
削り出しの工程は黒い鉛筆と同じ
三菱鉛筆の工場紹介には、色鉛筆も黒い鉛筆と同じ方法で板から削り出すとあります。軸の形を分けるのは、最後に当てる削り刃の形です。トンボ鉛筆の説明も「多くの色鉛筆が丸軸」という言い方で、すべてが丸いわけではありません。丸は色鉛筆の決まりではなく、塗る道具として選ばれやすい形だといえます。
三角の鉛筆は何のためにある?

3つの面に3本の指を当てる
六角と丸のほかに、三角形の軸もあります。日本筆記具工業会が挙げる軸の種類も、六角軸・三角軸・丸軸の3つです。三角軸は面が3つしかないので、3本の指をそれぞれの面に置くだけで自然に正しい持ち方になります。字を習いはじめる子ども向けの鉛筆や色鉛筆によく使われるのは、このためです。
3つの形を並べてみると
同じ板から削り出しても、形によって得意なことははっきり分かれます。
| 軸の形 | よく使われるもの | 得意なこと |
|---|---|---|
| 六角 | 字を書く黒い鉛筆 | 3本の指が収まり、転がりにくい |
| 丸 | 色鉛筆 | 回しながら塗れて、芯が均等に減る |
| 三角 | 子ども向けの鉛筆 | 正しい持ち方が自然に身につく |
「鉛筆」なのに鉛は入っていない

芯は黒鉛と粘土を焼き固めたもの
鉛筆の芯の材料は、黒鉛と粘土です。三菱鉛筆の工場紹介では、この2つに水を加えて練り合わせ、細く押し出して乾かします。それを1,000〜1,200℃の炉で焼き固め、熱い油をしみこませて書くときのすべりをよくするのです。どの工程にも、金属の鉛は出てきません。
※ 黒鉛(こくえん)とは、炭素からできた鉱物で、グラファイトとも呼ばれます。やわらかく、こすると紙に黒い跡を残します。
黒鉛はダイヤモンドと同じ炭素
黒鉛は、世界一かたい宝石として知られるダイヤモンドと同じ炭素だけでできています。違うのは原子の並び方です。黒鉛は薄い層が積み重なった形をしていて、層どうしがずれやすい。紙の上を軽くこするだけで層がはがれて残るので、線が引けるのです。
黒鉛が鉛筆になるまで

1564年、イギリスで良質な黒鉛が見つかった
黒鉛の鉛筆の始まりは、1564年のイギリスにさかのぼります。カンバーランド地方のボローデールで良質な黒鉛が見つかり、棒状に切って糸を巻いたり木で挟んだりして使われました。まだ芯を練って作る技術はなく、掘り出した黒鉛をそのまま削って使う時代です。
粘土と焼く製法は1795年のフランスから
今の芯の作り方を生んだのは、フランスのニコラ・ジャック・コンテです。1795年、黒鉛の粉に粘土を混ぜて焼き固める方法を考え出しました。混ぜる割合を変えると芯の濃さが変わることも、このとき見いだされています。良質な黒鉛が取れない国でも、鉛筆が作れるようになったのです。
名前に「鉛」の字が残った
古代ギリシアやローマには、鉛そのものを使って線を引く筆記具がありました。黒く光る黒鉛も、長く鉛の仲間のように扱われてきます。幕末の日本では、オランダ語で「陶工の鉛」を意味する「potloot」の訳語として「石筆」と呼ばれたこともありました。名前の「鉛」は、そうした昔の道具や見立ての名残です。
日本最古の鉛筆は徳川家康の持ち物

久能山東照宮に残る一本
日本に残るいちばん古い鉛筆は、静岡市の久能山東照宮にあります。徳川家康の遺品の筆箱から見つかったもので、国の重要文化財です。芯の黒鉛はメキシコ産とされ、家康に会ったスペインの使節が贈ったと考えられています。ただしオランダ人の献上品とする辞典の記述もあり、贈り主には説が分かれるところです。
黒鉛の先は角度がつき、縁が丸くなっていて、実際に使われた形跡があります。ただ、オーク材の軸には削った跡がありません。当時よく使われた薄く表面に風合いのある和紙には書きにくく、あまり使われなかったとみられています。
国産の工場生産は1886年から
商品としての鉛筆は、1877年ころにドイツから輸入されはじめました。国内での工場生産は、1886年に眞崎仁六(まさきにろく)が東京の四谷内藤町に工場を設けたのが始まりとされます。1901年には逓信省が眞崎の鉛筆を採用し、国産鉛筆が広く知られるきっかけになりました。この工場が、のちの三菱鉛筆です。
HBのHとBは何の略?

HはHard、BはBlack、FはFirm
芯の記号の「H」は、かたいを意味するHardの頭文字です。「B」は黒いを意味するBlackから来ています。HとHBの間にある「F」はFirm(引き締まった)の頭文字です。日本の規格(JIS)では、やわらかい6Bからかたい9Hまで17種類の硬さが決められています。
濃さは粘土の割合で決まる
硬さと濃さを分けるのは、黒鉛と粘土の割合です。HBは黒鉛が約70%、粘土が約30%。粘土が増えるほど芯はかたく締まって線が薄くなり、黒鉛が増えるほどやわらかく濃い線になります。17段階の濃さを支えているのは、コンテが見つけた配合の工夫そのものです。
硬さごとに得意な使い道がある
日本筆記具工業会は、硬さごとの向き不向きも示しています。6H〜4Hは細く硬い線で図面に向き、F〜HBは濃さと硬さのつり合いがよく幅広く使えます。3B〜5Bは濃淡をつけやすく、スケッチやデッサン向きです。試験でおなじみのマークシート用には、粒をごく細かくした芯で濃く塗れて消しやすい専用の鉛筆まであります。
六つの角は3本の指のため、丸い軸は塗る手の動きのため、三角は持ち方を覚える子どものため。どの形も、作る側の都合より使う人の手に合わせて選ばれてきました。鉛を少しも含まない芯が今も「鉛筆」と呼ばれているように、身近な道具ほど、昔の事情と今の工夫が同じ一本の中に同居しています。
参考
- 日本筆記具工業会「鉛筆の種類」
- トンボ鉛筆「鉛筆の軸の形状(六角軸と丸軸)について」
- 三菱鉛筆「えんぴつができるまで」
- コトバンク「鉛筆」(世界大百科事典・日本大百科全書ほか)
- 観光庁 多言語解説文データベース「久能山東照宮 重要文化財 鉛筆」
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