「日直」の「直」は「まっすぐ」ではなく、当番として勤めることを指す字です。平安時代の法令の注釈書は、夜の勤めを「宿」、昼の勤めを「直」と書き分けていました。夜通しの当番が宿直で、昼の当番が日直。この言葉は教室だけのものではなく、労働基準法の省令にもいまも現役の用語として載っています。
日直・宿直・当直・週番はどう違う?

受け持つ時間で分かれる六つの言葉
よく似た当番の言葉を横に並べると、語彙の一覧というより時間割に近い姿が見えてきます。どの言葉も、一日や一週間のどこを受け持つかで分かれているからです。
| 言葉 | 読み | 受け持つ時間 | よく使う場所 |
|---|---|---|---|
| 日直 | にっちょく | 昼間、または休日の昼 | 学校・職場・法令 |
| 宿直 | しゅくちょく(古くは とのい) | 夜間 | 職場・病院・法令 |
| 宿日直 | しゅくにっちょく | 昼と夜をまとめた言い方 | 労働の法令・通達 |
| 当直 | とうちょく | 昼夜を問わず、その番 | 病院・船・職場 |
| 週番 | しゅうばん | 一週間 | 学校 |
| 日番 | にちばん | 昼(学校の日直と同じ) | 兵庫県の学校 |
「宿」と「直」が分けるのは夜と昼。「日」と「週」が分けるのは一日と一週間です。『デジタル大辞泉』も日直の類語に当直・夜直・宿直・泊まり番・週番を並べており、時間の単位の後ろに直や番を置く型はどれも共通しています。
「日番」だけは辞書に載らない呼び名
表の最後の一語だけは立場が違います。ほかの五つは国語辞典の見出しや法令に出てきますが、「にちばん」と読む「日番」は辞書にその語義がありません。兵庫県、とくに神戸の教室で通じてきた呼び名です。
ただ、「日番」という字の並び自体は古くからありました。読みも意味も少しずれた古語として、南北朝時代の軍記物語に出てきます。この一語の話は、記事の最後に回しましょう。
「直」はどんな意味を持つ字か

辞書が並べる五つの語義
『デジタル大辞泉』は漢字の「直」に五つの語義を立てています。「曲がっていない。まっすぐ」から始まり、「正しい。心がすなお」「じかに。すぐに」「値段。あたい」と続きます。五番目が「その番に当たる」で、用例に挙がるのが宿直・当直・日直の三語です。
辞書のうえでは、「まっすぐ」と「当番」は最初から別の語義として並んでいます。日直の「直」をまっすぐの意味で読もうとしても通じないのは、引き出しがそもそも違うからです。
最古の用例は703年の「番直」
「当番で任務につくこと」という語義は、『精選版 日本国語大辞典』にも別立てで載っています。初出の用例は『続日本紀(しょくにほんぎ)』の大宝3年(703年)の記事です。勲位を持つ者に軍団の「番直」、つまり当番をさせたいという大宰府の申請が記されています。
この意味の「直」は、学校の係の名前として生まれたわけではありません。古代の役所が勤務を割り振るための、行政の言葉として先に現れました。
「高直」は値段が高いこと
四番目の語義「値段。あたい」の名残は、「高直(こうじき)」という言葉に見られます。値段が高いことを指し、反対に安いことは「下直(げじき)」と書きました。「直」と「値」は、あたいという一点で重なる字だったのです。
まっすぐ・正しい・じかに・あたい・当番。これだけの仕事を一字で引き受けているのですから、字の形から意味を推し量ろうとしても届きません。
当直は同じ意味の字を重ねた言葉
「当直」を分けると、「当」も「直」も番に当たることを指しています。同じ意味の字を重ねて熟語を作るのは漢語によくある形で、当直もその一つと見てよさそうです。
この見方に立つと整理がつきます。日直と宿直は頭に時間帯を付けた言葉で、当直だけは時間帯を持たない総称です。工場の交代勤務でひと組のシフトを「一直」「二直」と数える言い方も、当番のまとまりを「直」で数える発想から来ています。
令集解が書き分けた昼と夜

「夜仕曰宿、昼仕曰直」の一行
『精選版 日本国語大辞典』は「宿直」の項に補注を付けています。令の制度では「夜仕曰宿、昼仕曰直」と区別されていたとして、『令集解(りょうのしゅうげ)』の職員令の注釈を引いているのです。読み下すと、夜つとめるのを宿といい、昼つとめるのを直という。
日直の「直」の意味は、ここに書かれているとおりです。学校で使われるはるか前に、役所の勤務を昼と夜で呼び分けるための字として定められていました。
※ 令集解(りょうのしゅうげ)とは、奈良時代の法典である養老令について、それまでの解釈を集めた平安時代前期の注釈書のことです。
大宝令から始まった役所の宿直
『山川 日本史小辞典』によると、内外の役所の宿直制は大宝令(701年)に規定されました。番を決めて役所や内裏に詰めるもので、弁官という役所が名簿で勤務を把握していたといいます。日中を直、夜間を宿と呼ぶ区別も、この制度の言葉です。
注釈書にわざわざ書かれたのは、当時の役人にも説明が要る区別だったからでしょう。千年以上たった今、「日直の直って何だろう」と立ち止まるのは、それほど的外れな反応ではないわけです。
奈良時代の文書にも昼と夜の対
昼と夜を分けて勤める感覚は、当時の実際の文書にも残っています。辞典が「しゅくちょく」の初出に挙げるのは、正倉院文書の宝亀2年(771年)の上申書です。「昼は行事に仕え奉り、夜は宿直して侍る」という意味の一文が書かれていました。
昼の仕事と夜の泊まり番を、一人の役人が続けて引き受けていた様子がうかがえます。制度の言葉としての宿と直が、現場の勤務表の言葉でもあったことが分かる一行です。
宿直を「とのい」と読むのはなぜ?

「殿居」はその場に居ること
「宿直」には「しゅくちょく」のほかに「とのい」という古い読みがあります。辞書はこれを「殿居」の意、つまり宮中などにいることだと説明します。語の中心にあるのは、警備という作業より先に、その場に居続けるという状態でした。
『日本書紀』の皇極3年の記事にも「宿」を「とのゐ」と読ませる箇所があります。宮に参って宿直をしよう、という場面です。漢字の宿直に、和語のとのいが早くから重ねられていました。
平安時代は大臣も宿直した
辞典によると、令の制度では内舎人(うどねり)が刀を帯びて宿衛し、舎人たちも交代で天皇や東宮の警護のために宿直しました。平安時代になると、大臣や納言、近衛大将といった高官まで宿直をしています。
夜、貴人のそばで起きて守る不寝番も「とのい」の語義です。身分の高い人まで泊まり番に加わっていたことから、夜の宮中に人を絶やさない仕組みがいかに重く見られていたかが伝わります。
昼の当番の言葉はやせていった
宿と直が対だったのなら、昼の当番の言葉も同じくらい残ってよさそうなものです。ところが辞典の補注は、一般に「とのゐ」といえば夜の勤務だけを指しているようだ、と付け加えています。和語の側では、昼の当番を言い分ける言葉が育ちませんでした。
もっとも、昼の当番に名前が無かったわけではありません。『太平記』には「日番(ヒハン)・夜廻(よまはり)隙もなく」という一節があり、昼の警固を「日番」と呼んでいます。
学校の日直は先生の仕事だった

発端は御真影と勅語謄本の警備
学校で「日直」といえば児童・生徒の係が浮かびますが、この言葉は長いあいだ教職員の勤務を指していました。国立国会図書館のレファレンス協同データベースには、「昔の学校ではなぜ先生たちが宿直をしていたのか」という調査事例があります。
回答によると、教員の宿直制は御真影(ごしんえい)と勅語謄本(ちょくごとうほん)の保管警備に発端があります。御真影が学校に下されると、それを納める奉安所(ほうあんじょ)と警備の規則が整えられました。その規則には、教員の宿日直制が必ず書き込まれたといいます。
※ 御真影とは天皇・皇后の公式の肖像写真、勅語謄本とは教育勅語の写しのことです。戦前の学校ではどちらも厳重に保管するものとされていました。
明治後半から1950年代まで続いた
同じ事例によれば、始まりは明治の後半以降です。学校の規模が大きくなり、授業時間外の校舎の警備が課題になった時期にあたります。典拠には佐藤秀夫『学校ことはじめ事典』などが挙げられています。
教員の宿日直は、1950年代までは常識でした。子どもが帰ったあとの学校にも、誰かが必ず残っていたことになります。古い校舎に「宿直室」があったのは、先生が実際に泊まるための部屋だったからです。
1974年の規則が使った「無人化」
先生の宿日直は、昭和40年代から各地で廃止されていきます。長野県松川町の規程(昭和49年9月1日)は、教職員による日直と宿直の廃止をそのまま「無人化」と呼んでいます。同じ長野県の大鹿村も、同じ年の6月に同じ言葉で規則を定めました。
大鹿村の規則は、無人化の期間を「学校休業日の昼夜」と「教職員の下校時から翌日の登校時まで」と定めています。そのうえで学校に耐火書庫と火災報知機を置くとしました。校舎を守る役目を、人から設備へ移し替えたわけです。
児童の日直に決まりはある?

解説にあるのは「交替しながら行う日直」
児童・生徒の日直を置きなさいという規定は、どこにもありません。文部科学省の『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 特別活動編』に、当番活動の例として「交替しながら行う日直」が出てくるだけです。清掃・給食・飼育・栽培と同じ列に置かれています。
係の名前を決める規定も無いため、何と呼ぶかは学校の慣習に任されています。兵庫の「日番」のような呼び名が残る余地は、ここにあると言えそうです。
ねらいは役割を果たす経験
同じ解説は、中学年の指導として「日直や当番活動,係活動など,自分の役割を果たすことの意味や大切さについて考え」と書いています。続くのは、友達と協力して最後までやり遂げられるように、という一文。
先生の日直が校舎を守るための勤務だったのに対し、児童の日直のねらいは役割を引き受ける経験のほうにあります。同じ名前の係でも、目的はまったく入れ替わりました。
日直の時間は授業時数に入らない
解説はさらに、児童が日常的に行っている当番活動の時間を標準授業時数に含めるのは適切ではない、と書いています。授業として数えるのは、当番の役割や働く意義を考えさせる学級活動の指導のほうです。
朝の会の司会も、学級日誌を書く時間も、時間割の外に置かれています。日直の仕事が授業の前と後ろに集まりがちなのは、この線引きの結果でもあります。
法令の日直は許可が要る勤務

たった一文の条文
学校を離れたとたん、この言葉は硬い顔つきに変わるのです。労働基準法の下にある省令、労働基準法施行規則の第23条です。条文はたった一文しかありません。
使用者は、宿直又は日直の勤務で断続的な業務について、様式第十号によつて、所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合は、これに従事する労働者を、法第三十二条の規定にかかわらず、使用することができる。
外れるのは週40時間・1日8時間の上限
条文が名指しする労働基準法第32条は、1週40時間・1日8時間という労働時間の上限を定めたものです。許可を受けた宿直や日直は、この上限の外に置かれます。厚生労働省の資料も、残業の上限を決める労使協定(36協定)の時間に数えないと説明しています。
この省令が思い描いているのは、働き続ける時間ではありません。何かが起きたときのために、そこに居る時間です。宮中の「とのい」が居続けることを指していたのと、発想はよく似ています。
名前を付けただけでは成り立たない
会社が「これは日直だ」と決めれば済む話ではありません。所轄の労働基準監督署長に申請し、許可を受けてはじめて成り立つ仕組みです。許可の無い泊まり込みや休日の出勤は、普通の労働として扱われます。
法令のうえでの日直は、勤務の呼び名であると同時に、行政の許可が付いた状態を指す言葉でもあります。教室の日直とは、同じ二字でも重さがまるで違うのです。
許可される日直は原則月1回まで

巡回と電話番と非常時の待機
許可の基準は、1947年(昭和22年)9月13日付の通達に始まります。厚生労働省の資料によると、認められるのは、ふだんはほとんど労働する必要のない勤務だけです。目的は定時の巡回、急ぎの文書や電話の受け取り、非常事態に備えた待機などに限られています。
通常の仕事の続きは、原則として許可されません。始業や終業の時刻に密着した時間帯に客からの電話を受けるような勤務も、対象外とされています。仕事の延長を日直と呼び替えることは、最初から封じられているのです。
宿直は週1回、日直は月1回
回数にも上限があります。宿直は原則として週1回、日直は月1回までです。人手がどうしても足りない場合や、勤務の中身がごく軽い場合には、実態に応じて超えて許可されることもあります。
手当にも目安があり、1回の宿直・日直の手当は、同じ種類の仕事をする人の1日の賃金の平均の3分の1以上とされます。宿直ならさらに、相当の睡眠設備が欠かせません。眠れる場所があること自体が、法令上の宿直の条件になっているわけです。
法令の日直が休日の言葉になる理由
『デジタル大辞泉』は「日直」の語義の一つを「昼間または休日の当直」としています。この「休日」には、法令の側の事情が透けて見えます。
平日の昼間はもともと通常の勤務時間で、わざわざ許可を取る理由がありません。上限の外に置きたい昼の勤務が生じるのは、本来なら誰も出勤しない休日です。毎日回ってくる教室の日直とは、ちょうど裏返しの関係になっています。
病院の当直と夜勤は何が違う?

医療法が定める医師の宿直
この条文がいちばん切実に効いてくるのが医療の現場です。医療法は、医業を行う病院の管理者は病院に医師を宿直させなければならない、と定めています。夜の病院に医師がいるのは、この条文があるからです。
ただし同じ条文には、医師が隣接した場所で待機するなど、すぐに診療できる体制があれば例外とする定めも付いています。宿直させる義務は医療法、その時間を上限の外に置くかどうかは労働基準法施行規則。二つの法令が、同じ一晩を別々の角度から見ています。
令和元年に示された医師の許可基準
厚生労働省は2019年7月1日、通達「医師、看護師等の宿日直許可基準について」を出しました。許可の条件は、通常の勤務の拘束から完全に解放されたあとの勤務であることです。そのうえで、宿日直中の仕事は特別な処置の要らない軽い、または短時間のものに限るとしています。
例として挙がるのは、少数の要注意患者の様子の変化に応じた問診や、看護師への指示です。許可は病院まるごとでなく、診療科・職種・時間帯などを限って出すこともできるとされました。
夜勤は労働時間として数える
許可を受けた当直は、ほとんど労働しないという前提で上限の外に置かれます。これに対して夜勤は、時間帯が夜であるだけの通常の労働です。同じ建物で夜を明かしていても、片方は待機で、もう片方は勤務になります。
通達は、当直中に急患の診療や出産への対応がまれにあっても、直ちに許可を取り消す必要はないとしています。ただしその時間には時間外労働の手続きを取り、割増賃金を払うよう求めました。実態が勤務なら、名前が当直でも扱いは勤務です。
船の「航海当直」
「直」が生きているのは、学校と病院だけではありません。船員法にも「航海当直」という言葉が出てきます。航海当直の実施など、航海の安全のために船長が守るべき事項は国土交通省令で定めるとされています。
止まれない乗り物、閉められない施設、無人にできない建物。誰かが交代で居続けなければならない場所には、たいていこの一字が残っています。
「日番」と呼ぶのは兵庫の教室

神戸の黒板に書かれる「日番」
Yahoo!知恵袋には2010年、神戸市に住む人から兵庫県では日直を日番と呼ぶのか、という趣旨の質問が寄せられています。黒板には日付の横に「日番:○○」と書いていたこと、東京の学校に通って初めて「日直」を知り驚いたことがつづられていました。
地域の話題を扱うJタウンネットも2014年、学校の日直を「日番(にちばん)」と呼ぶのを神戸ならではの習慣として紹介しています。並んで挙がっていたのは、小中学校の多くが上履きを使わず土足で過ごすという話でした。
古語の「日番(ひばん)」との距離
古語の「ひ‐ばん【日番】」は『精選版 日本国語大辞典』の見出しにあり、日中に警固などの仕事につく当番と説明されています。用例は先ほどの『太平記』巻七。昼の当番が日番、夜回りが夜廻という対です。ただし読みは「ひばん」で、兵庫の教室の「にちばん」とは違います。同じ表記が六百年以上を隔てて昼の当番を指しているのは面白い一致です。それでも、この一致だけで二つがつながっていると決めることはできません。
黒板の隅に名前を書かれた子どもは、律令の役所から続く当番の系譜のいちばん端にいます。授業時数には数えられないものの、誰かが引き受けなければならない一日ぶんの役目として。「直」はまっすぐの意味ではありませんでしたが、昼を誰が受け持つかという一点だけは、千三百年ぶんまっすぐに通っています。
参考
- コトバンク「宿直」(精選版 日本国語大辞典・山川 日本史小辞典ほか)
- レファレンス協同データベース「昔の学校ではなぜ先生たちが宿直をしていたのか。」
- 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 特別活動編」
- 厚生労働省「医師、看護師等の宿日直許可基準について」(令和元年7月1日 基発0701第8号)
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