つむじは、おなかの中にいたころ、ふくらんでいく脳に頭の皮膚が外へ引っ張られてできた渦の中心だと考えられています。髪は頭皮から垂直に生えているわけではなく、少し斜めに寝た状態です。その傾きが引っ張られた向きにそろうと「毛の流れ」ができ、流れが一点から放射状に出ていく場所がつむじになります。
模様が決まるのは妊娠18週ごろまでで、生まれたあとに向きが変わることはありません。右巻き(時計回り)が多いとよく言われますが、これは集団によってかなり違います。日本人を数えた報告では右巻き51%・左巻き49%と、ほぼ半々でした。
つむじの渦は何でできているのか

つむじを「毛が渦を巻いて生えている場所」と説明すると、毛そのものがねじれているように聞こえます。実際に渦を作っているのは毛ではなく、毛穴の向きです。
髪は頭皮から垂直には生えていない
毛を作る毛包は、皮膚の中へ斜めに潜っています。頭を指でなでたとき、一方向にはなめらかで逆方向にはひっかかるのは、この傾きのせいです。
毛穴は斜めに埋まっている
頭髪の毛包は、皮膚の表面に対して斜めに埋まっています。生えぎわが自然に前へ倒れるのも、後頭部の髪が下へ流れるのも、毛包の角度がそちらを向いているからです。ドライヤーでいくら逆へ流しても、乾けばもとの向きに戻るのはそのためです。
傾きがそろうと「毛の流れ」になる
隣り合う毛包が同じ方向へ傾くと、川の流れのような筋ができます。これを毛流(もうりゅう)と呼びます。頭全体の毛流をたどっていくと、必ずどこかに現れるのが「流れが出発する点」です。その出発点が、つむじです。
渦の中心を作ったのは脳のふくらみ
ではなぜ毛包が一点から放射状に傾くのか。1974年にスミスとゴンが発表した説明が、いまも基本になっています。毛包が皮膚の奥へ伸びていく時期に、下から脳がドーム状にふくらんで皮膚を引き伸ばす。その引っぱりの焦点が頭頂部に残ったものがつむじだ、という考え方です。
妊娠10〜16週に何が起きているか
頭の毛包ができ始めるのは妊娠9週ごろとされます。そこから10〜16週が、脳が急速に体積を増やす時期です。頭皮はその成長に合わせて外側へ引き伸ばされ、毛包はまだ柔らかいまま、引っぱりの方向へ倒れていきます。
つまり、つむじの位置は「毛がそこから生えようとした場所」ではありません。頭の中でいちばん強く外へ押し出された点の、外側に残った目印です。
18週にはもう模様が決まっている
頭皮の毛流のパターンは、妊娠18週ごろには固まるとされます。生まれた赤ちゃんのつむじが右巻きなら、その人は一生右巻きです。散髪もパーマも、渦の向きを変えることはできません。
つむじに「役目」があるわけではない
雨を流すため、あるいは頭を守るため。そうした説明を見かけることがありますが、つむじに機能があるという裏づけはありません。
渦は目的ではなく結果
斜めに生えた毛が球面をびっしり覆えば、どこかに必ず流れの中心ができます。毛の生えた哺乳類なら犬にも牛にも渦があり、人間だけの特徴ではありません。渦があること自体は、球の上で毛の向きをそろえた結果として避けられない形なのです。
医師が発達のてがかりとして見ることがある
役目はなくても、記録としては読めます。つむじが頭の前のほうにある、渦が三つも四つもあるといった珍しいパターンは、胎児期の脳の発育が通常と違ったサインとして小児科や皮膚科で注目されてきました。ダウン症やプラダー・ウィリー症候群で前方つむじが見られやすい、といった報告があります。
ただしこれは、多数の所見を合わせて判断するときの材料の一つにすぎません。つむじが二つある、あるいは少し前寄りにあるといった程度の違いは、正常な個人差の範囲です。それだけで何かを意味することはありません。
右巻きと左巻き、多いのはどちらか

上から見て時計回りに渦を巻くのが右巻き、反時計回りが左巻きです。欧米の調査では右巻きが9割を超えるのに対し、日本人を数えた報告ではほぼ五分五分でした。同じ人類の同じ部位で、これほど比率が動く形質は多くありません。
欧米では右巻きが圧倒的に多い
この分野をにぎやかにしたのは、米国立がん研究所の遺伝学者アマー・クラーです。2003年、彼はショッピングモールで人の頭頂部を観察するという方法で数字を集めました。
メリーランドのモールで数えた500人
渦がはっきり見えた500人のうち、左巻きは8.4%でした。残る9割以上が右巻きです。さらに右利きでは左巻きが8.4%だったのに対し、左利きでは45%が左巻きだった、という結果も合わせて報告されました。
新生児では94%が右巻き
髪型の影響を受けない新生児を調べた1975年の報告でも、右巻きは94%でした。赤ちゃんの段階ですでに右巻きが圧倒的に多いという点が、「向きは生まれる前に決まる」という見方を支えています。
日本人はほぼ半々だった
ところが、そのクラー自身が2009年に、自分の説を揺さぶる観察を発表します。日本で見かけた人のつむじを数えたところ、右巻きと左巻きがほとんど同数だったのです。
電車の座席とエスカレーターで数えた100人
方法はモールのときと同じで、電車の席に座っている人や、エスカレーターを下りていく人の頭を後ろから観察するというものでした。頭頂部の髪が短く渦の見えた100人のうち、右巻き51人・左巻き49人。同じ論文が引く日本人の非右利きの割合は7.1%で、米国とほとんど変わりません。利き手の比率は同じなのに、つむじの比率だけが別物だったわけです。
「日本人のつむじは右巻き51%」という数字は各所で引用されますが、もとは100人を目で数えた観察にすぎません。傾向の手がかりにはなっても、全国の比率を測ったものではない点は押さえておきたいところです。
国ごとの差は51%から94%まで開く
過去の調査を並べると、右巻きの割合は集団ごとにこれだけ散らばります。年代も測り方もそろっていないので厳密な比較はできませんが、幅の大きさは一目でわかります。
| 調べた集団 | 右巻きの割合 | 報告 |
|---|---|---|
| 日本(100人) | 51% | クラー 2009 |
| イギリスの大学生 | 65% | アネット 1985 |
| ナイジェリアの男性500人 | 69% | ウチェヤら 2005 |
| ドイツの男子生徒 | 74% | ベルンシュタイン 1925 |
| アメリカの学生 | 81% | ラウターバックら 1927 |
| 米メリーランドの通行人500人 | 92% | クラー 2003 |
| アメリカの新生児 | 94% | ワンダーリックら 1975 |
2023年の遺伝子研究が出した答え
集団によってここまで違うなら、向きは遺伝で決まるのか。中国の研究チームが2023年、皮膚科学の専門誌でこの問いに正面から答えました。
4か所の遺伝子領域が関わっていた
中国人2,149人のつむじの向きを調べ、別の1,950人で再現を確認したところ、7p21.3・5q33.2・7q33・14q32.13という4か所の領域が向きと結びついていました。これらは毛包の細胞の「向きぐせ」を決める働きに関わると考えられています。
※ ゲノムワイド関連解析(GWAS)とは、たくさんの人のゲノム全体を一度に調べて、ある特徴と統計的に結びつく場所を探し出す手法のことです。
「一つの遺伝子で決まる」説は支持されなかった
クラーは当初、一つの遺伝子が利き手とつむじの向きの両方を決めるという単純なモデルを唱えていました。2023年の結果はこれを支持しませんでした。研究チームは、つむじの向きは複数の遺伝子の効果が積み重なって決まるものだ、と結論づけています。
つむじが2つある人はどれくらいいる?

ほとんどの人はつむじが1つで、2つある人は数%です。ただし調査によって数字の幅があり、「20人に1人」から「70人に1人」まで開きます。
1つが大多数、2つは数%
白人を対象にした調査では、頭頂部に1つだけつむじがある人が95%前後を占めます。残りが2つ以上、あるいは渦がはっきりしないタイプです。
調査ごとの数字は1.5%から5.4%
二重のつむじだった人の割合は、マサチューセッツの学童で5%・ドイツ人で5.4%・白人の新生児で1.5%・ナイジェリアの男性で2%と報告されています。学童の数字が新生児より高いのは、髪が伸びて渦が見分けやすくなるためだと考えられます。
集団によって大きく違うという報告もある
アフリカ系アメリカ人では二重つむじが9割に達したという報告もあり、比率は集団によってかなり動くようです。ただし調べた人数も観察の基準も報告ごとにまちまちで、この数字をそのまま一般化してよいかは慎重に見る必要があります。
位置は中央より右に寄っている
つむじは頭のてっぺんにあると思われがちですが、きっちり真ん中にある人は少数派です。
右寄り56%・左寄り30%・中央14%
白人を対象にした集計では、正中線より右にある人が56%・左が30%・ちょうど真ん中が14%でした。右巻きが多いことと右に寄っていることは別の話ですが、どちらも「右へのかたより」という点では共通しています。
日本の辞書も同じことを書いている
『精選版 日本国語大辞典』の「つむじ」の項にも、ほぼ同じことが書かれています。右巻きが左巻きよりやや多く、頭頂の右方にかたよっている場合が多い——辞典の記述はそこまで具体的です。国語辞典が形質の統計に踏み込んでいるのは珍しく、それだけ古くから観察の対象だったのでしょう。
2つあると生活で何が変わるか
二重つむじの人が実際に困るのは、医学的なことよりも毎朝の髪です。
髪が割れる、寝ぐせが直らない
渦が二つあると、そのあいだで毛流がぶつかり合い、髪が左右に割れやすくなります。分け目をどこに作ってもそこだけ浮く、短く刈ると頭頂部が盛り上がって見える、といった悩みは毛流の形そのものが原因です。美容師が「つむじが二つありますね」と先に言うのは、切り方を変える必要があるからです。
「頭がいい」「やんちゃ」に根拠はあるか
つむじが二つある子は賢い、あるいは気が強い、という言い伝えは各地にあります。性格や知能との関係を示した研究はなく、言い伝えの域を出ません。二重つむじは、生まれる前に引っぱりの焦点が二か所できたというだけの話です。
つむじで性格や利き手が分かるという話は本当か

利き手との関係は「まだ決着していない」、性格との関係は「根拠が見つかっていない」。現時点ではこの二つに分けて考えるのが正確です。
利き手との関係は決着していない
クラーの2003年の報告は大きな話題になり、その後いくつもの追試が行われました。結果はきれいに割れています。
| 報告 | 右利きのうち左巻き | 右利き以外のうち左巻き | 差は出たか |
|---|---|---|---|
| ラウターバックら 1927 | 19.3%(877人) | 20.6%(63人) | 出ず |
| ビートンら 2007 | 12.8%(125人) | 54.2%(48人) | 出た |
| シュミットら 2008 | 10.2%(177人) | 32.5%(40人) | 出た |
| シュワルツら 2010 | 18.7%(1,168人) | 16.0%(206人) | 出ず |
人数の多い調査ほど差が消えている
差が出た二つの報告は、右利き以外の人数が40〜48人と少なめです。一方、1,168人を調べたシュワルツらの2010年の報告では差が出ませんでした。デラウェア大学のジョン・マクドナルドが9つの研究を並べて検討したところ、クラーのモデルを支持したのは2つだけでした。
日本のデータが示したこと
左利きの割合が米国とほぼ同じなのに、つむじの向きだけ半々になる。この食い違いは、利き手とつむじが別々の仕組みで決まっていることを示します。クラー自身も2009年の論文で、胎児期に別々の決定が行われているはずだと書いています。
性格との結びつけは江戸時代からある
つむじで人柄を判断する発想は、近年のネット記事が作ったものではありません。少なくとも200年前の書物に痕跡があります。
『浮世床』に出てくる「つむじ」
式亭三馬の滑稽本『浮世床』(うきよどこ、1813〜23年刊)に、「つむじ」を意地悪という意味で使った例があります。これは人形浄瑠璃の世界の隠語でした。
つむじが頭頂の中心にない者は意地が悪い——『精選版 日本国語大辞典』は、その俗説から生まれた語義だと説明しています。つむじの位置を性格に結びつける話は、江戸の芝居小屋ですでに通じていたわけです。
「つむじを曲げる」はここから来た
機嫌を損ねることを「つむじを曲げる」、へそ曲がりな人を「つむじ曲がり」と言います。渦の位置が中心からずれている=ひねくれている、という見立てがそのまま言い回しになったものです。俗説そのものは根拠を失っても、そこから生まれた言葉だけは現役で残っています。
つむじから薄くなるのはなぜか
「つむじハゲ」という言い方があるせいで、つむじが弱い場所だと思われがちです。順番から言えば逆で、つむじは薄くなる場所にたまたま置かれた目印にすぎません。
薄くなるのは前頭部と頭頂部
日本皮膚科学会の診療ガイドラインは、男性型脱毛症を「前頭部や頭頂部の頭髪が軟毛化して細く短くなる」現象と定義しています。毛乳頭に届いたテストステロンが酵素によってより強いジヒドロテストステロン(DHT)に変わり、前頭部と頭頂部の毛包でだけ成長期を短くする方向に働くためです。日本人男性の発症頻度は全年齢平均で約30%、20代で約10%、40代で30%と報告されています。
※ ジヒドロテストステロン(DHT)とは、男性ホルモンのテストステロンが酵素によって変換されてできる、より作用の強いホルモンのことです。
つむじは原因ではなく目印
つむじは、もともと毛が放射状に散っていく場所です。頭頂部の毛が細くなると、そこからまっさきに地肌が透けて見え始めます。つむじが二つある人が「二か所から薄くなる」ように見えるのも、同じ理由によるものです。
「つむじ」という言葉はどこから来たのか

髪の渦が先にあって、そこから風の渦に名前が広がった——と思いきや、順序は逆だったようです。
先にあったのは「つむじ風」
語源由来辞典は、「つむじ」がもともと旋風(つむじかぜ)を指す語で、髪の渦をその風になぞらえたものだと説明しています。
「つむ」は回るもの、「じ」は風
「つむ」は糸を撚(よ)るときに回す錘(つむ)や、動詞「紡ぐ」につながる語だとされます。「じ」は嵐の「し」、風(かぜ)の「ぜ」と同じ、風を表す古い要素です。回る風、で「つむじ」。頭の渦は、そのミニチュアに見立てられたことになります。
「辻(つじ)」から来たという説もある
もう一つ、道が集まる場所を指す「辻」の音が変化したという説もあります。線が一点に集まるという意味では、毛流が集まる頭頂部にもそのまま当てはまる説明です。どちらが正しいかは決着していません。
千年以上さかのぼる用例
言葉としての「つむじ」は、記録に残っているだけでも奈良時代までたどれます。
750年の帳簿に出てくる
『精選版 日本国語大辞典』が「つむじ」の最も古い用例として挙げているのは、天平勝宝(てんぴょうしょうほう)2年、西暦750年の東南院文書「奴婢見来帳」です。東大寺に伝わった文書群のうち、奴婢(ぬひ)の名簿にあたるものにこの語が書かれていたことになります。
江戸の浮世草子では「あたまの辻」
井原西鶴の『好色二代男』(こうしょくにだいおとこ、1684年)には「二つ斗(ばか)りの子の鼻たれて、あたまの辻(ツヂ)ゆがふで」という一節があります。二歳ほどの子のつむじが曲がっている、という描写です。つむじの曲がりを人物の描写に使う感覚が、この時点ですでにあったことがうかがえます。
漢字で書くと「旋毛」、読み方は三通り
「旋毛」と書いて「つむじ」「つじ」「せんもう」の三通りに読みます。旋は「めぐる・回る」の意味で、渦を巻く毛をそのまま表した表記です。読み仮名なしで出てくると読めない漢字の代表格ですが、字面だけ見れば内容はそのまま書いてあります。
牛と犬のつむじは、いまも仕事に使われている

人間のつむじ占いには根拠がない。ところが家畜や使役犬の世界では、つむじを見る手法が真面目に研究され、現場で使われています。
牛の顔のつむじと気性(1,636頭)
動物行動学者テンプル・グランディンらは2001年、コロラド州とテキサス州の家畜市場で1,636頭の牛を調べました。牛の顔にあるつむじの高さと、競り場での落ち着きのなさを4段階で採点して突き合わせたものです。
結果は、つむじが目より高い位置にある牛、そしてつむじがない牛ほど興奮しやすいというものでした。全体では86%が顔につむじを一つ持ち、10%にはつむじがありませんでした。研究チームは、慣れない環境で暴れやすい個体を見分ける管理上の手がかりになりうる、と結論づけています。
盲導犬の適性と胸のつむじ(114頭)
シドニー大学のトムキンスらは2012年、盲導犬の訓練に入った114頭を追跡しました。前足のどちらを使うか、どちらの耳や鼻を先に向けるかといった「体の左右のくせ」と、訓練を修了できたかどうかの関係を調べたものです。
修了を予測する指標のなかに、胸のつむじの向きが含まれていました。毛の渦の向きが犬の行動を示す構造的な指標として報告されたのは、この研究が初めてです。訓練には時間と費用がかかるため、向いている犬を早めに見分けられる意味は小さくありません。
日本でも昔から馬の旋毛を数えていた
動物の渦を見る習慣は、日本にも古くからありました。『太平記』(14世紀後半)には、竜のような名馬を「四十二の辻毛(ツジゲ)を巻て」と描く一節があります。文明5年(1473年)の記録にも、将軍に献上された馬について「但辻あるによって」と旋毛(せんもう)の有無を書き留めた例が残っています。
馬の渦の位置や数を数え、良し悪しを見立てる相馬(そうま)は、中世の武家にとって実用の知識でした。牛の顔のつむじを採点する2001年の研究と、四十二の辻毛を数えた『太平記』は、六百年を隔てて同じところを見ていたことになります。
つむじの向きや数から性格を読む話には、いまのところ根拠がありません。体の模様に意味を読み取りたくなるのは、江戸の戯作から2023年のゲノム解析まで二百年たっても消えない癖のようです。鏡を二枚合わせれば自分のつむじも見えますが、映っているのは占いの材料ではなく、頭の中でいちばん大きく育ったものが外側の毛を押し流していった向きです。
参考
- John H. McDonald, Myths of Human Genetics: Hair Whorl(University of Delaware)
- Klar AJ, Scalp hair-whorl orientation of Japanese individuals is random(Seminars in Cell & Developmental Biology 20(4), 2009)
- GWASs Identify Genetic Loci Associated with Human Scalp Hair Whorl Direction(Journal of Investigative Dermatology 143(10), 2023)
- 日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」
関連記事





