くせ毛のうねりは、髪の内側で起きています。1本の毛の中に、水を含みやすい細胞と含みにくい細胞が片寄って並んでいます。その差が毛をたわませているのです。
「毛穴が曲がっているからうねる」という説明もよく耳にします。それも一部は当たっているのですが、毛根がまっすぐでも髪は曲がると花王の毛髪研究は述べています。犯人はもう少し内側にいました。
うねりを担当している場所は、頭皮の奥から空気中まで散らばっている

くせ毛の原因は一か所にまとまっていません。頭皮の奥・毛穴・毛の内部・その日の空気。それぞれに別の担当がいます。どこが何を決めているのかを、地図のように並べてみましょう。
| 場所 | そこで決まること | うねりへの効き方 |
|---|---|---|
| 毛球部(毛穴のいちばん奥) | 毛が作られるときの細胞の配分 | くせの設計そのもの。ここで決まる |
| 毛包の形(直線かS字か) | 毛が育つ管の曲がり | 強いくせ毛では湾曲。ただし直線でも曲がった毛は出る |
| 毛の内部(2種類のコルテックス) | 硬い側と柔らかい側の配置 | うねりの本体。偏りが大きいほどくせが強い |
| 毛の断面(円か楕円か) | 毛の太さと形 | 曲がりに伴って現れる形。原因とは言い切れない |
| 空気中の水分(湿度) | 水素結合の切れ方 | その日のうねり具合を左右する |
| 加齢・ダメージ | 偏りの増減 | うねる毛の割合が増える方向に働く |
上の3行が「生まれつきのくせ」、下の2行が「その日・その年のゆらぎ」にあたります。混同されがちな二つを分けておくと、この先の話が追いやすくなるはずです。
髪の形は、頭皮から出てくる前に決まっている

まず押さえたいのは、うねりが「生えたあとに起きる変形」ではないという点です。毛の形は、頭皮の奥で毛が作られる段階ですでに決まっています。
形を決めているのは毛球部
髪は毛穴の底にある毛球部(もうきゅうぶ)で作られます。ここで細胞が分裂し、上へ押し上げられながら硬いタンパク質に変わっていくのです。
頭皮から出た毛は、もう作り替えられない
頭皮の外に出た時点で、髪の細胞はすでに死んでいます。爪と同じで、伸びた部分は自力で形を変えられません。だから毛先のうねりを「治す」ことはできず、外から結合を切り貼りするか、乾かし方で見え方を整えるかの二択になります。
縮毛矯正をかけても、次に生える毛はくせ毛のまま
縮毛矯正の効果が「かけた部分だけ」に留まるのは、この理屈からです。数か月たてば根元から新しい毛が出てきて、そこはまた元のくせを持っています。設計図が書き換わったわけではないのですから、当然といえば当然でしょう。
毛包が曲がっている場合と、そうでない場合
「毛穴が曲がっている」という話は完全な誤りではありません。ただし、それだけでくせ毛が説明できるわけでもないのです。
※ 毛包(もうほう)とは、1本の毛を包んで育てている皮膚の中の管のことです。俗に言う「毛穴」の奥に続く部分にあたります。
強いくせ毛では、毛包そのものがS字を描く
アフリカ系の人に見られるような強い縮毛では、毛包が皮膚の中で大きく湾曲していることが知られています。海外の毛髪研究でも、くせ毛の毛包は根元付近で反り返るように曲がり、直毛の毛包はまっすぐ植わっていると報告されました。曲がった管から出てくるのだから毛も曲がる、という説明はここまでは通ります。
まっすぐな毛根からも、曲がった毛は生えてくる
ところが花王のヘアケア研究は、はっきりこう書いています。毛根が真っ直ぐでも、細胞分布が偏っていれば髪は曲がる、と。日本人によくある「ゆるいうねり」の多くは、管の形ではなく中身の配分で生まれているわけです。管の曲がりは、強いくせに効く追加要因という位置づけになります。
1本の髪の中に、硬い側と柔らかい側がある

ここからがうねりの本体です。髪の断面を細かく見ると、性質の違う細胞が2種類あり、その並び方が直毛とくせ毛で違っています。
コルテックスは1種類ではない
髪の重さのおよそ9割を占めるのがコルテックスです。花王はニュージーランドの羊毛研究所との共同研究で、人の髪にも少なくとも2種類のコルテックス細胞があることを確かめました。
※ コルテックス(毛皮質)とは、髪の大部分を占める内側の層のことです。表面のキューティクルの内側にあり、髪の硬さや太さ、そしてくせを左右します。
水を含みやすいオルト、含みにくいパラ
2種類はオルトコルテックスとパラコルテックスと呼ばれます。前者は比較的やわらかく水を含みやすい細胞、後者は硬めで水を含みにくい細胞。内部の構造や組成が違うため、湿気に対する反応も同じにはなりません。
直毛はモザイク状、くせ毛は片寄る
直毛では2種類が細かいモザイク状、あるいは同心円状に散らばっています。偏りがないので、断面のどこを取っても性質がだいたい同じ。ところがくせ毛では片側にオルト、反対側にパラという具合に、はっきり分かれて存在しています。
偏るとなぜ曲がるのか
片側だけ性質の違う材料が入っていると、毛はまっすぐでいられません。理屈としては、身の回りにある「反り返る板」と同じです。
伸びの違う2枚を貼り合わせた板と同じ
温度で伸び方の違う2種類の金属を貼り合わせると、温めたときに片側だけ伸びて全体が弓なりに反ります。こたつやアイロンの温度調節に使われてきたバイメタルの原理です。髪の場合は熱ではなく水分で、よく膨らむオルト側が外側になるように曲がったりねじれたりします。
偏りが大きいほど、くせは強い
花王の研究では、この2種類の偏りが大きいほどくせが強いことが示されています。さらにくせ毛は1本ごとに偏る向きがばらばらで、毛の流れがそろわない。「まとまらない」「広がる」という悩みは、うねりの強さだけでなく、向きの不ぞろいから来ている部分もあるようです。
同じ仕組みは、羊の毛にもある

この2層構造は人間の発明品ではありません。もともと羊毛の研究で知られていた話です。
ウールの縮れと共通の構造
羊の毛が細かく縮れているのも、断面の片側と反対側で性質が違うためとされています。セーターがふんわりするのは、この縮れが空気を抱え込むから。人の髪の悩みの種が、羊では保温性能の源になっているというのは、少し愉快な対応関係でしょう。
薬品で、くせの向きをそろえた実験
花王は、オルトコルテックスに作用する2-ナフタレンスルホン酸ナトリウムの水溶液に毛束をひたすと、ばらばらだった曲がり方がそろうことを見いだしています。狙って片側だけに働きかければ、うねりの向きは制御できる。原因が「片寄り」にあることの、裏側からの証明にもなっています。
断面が楕円なのは、原因というより結果に近い

くせ毛の説明でよく出てくるのが「断面が楕円だからうねる」という一文です。断面の形が直毛と違うのは事実ですが、順番には注意が要ります。
日本人の髪と欧米人の髪
そもそも髪の太さや断面は、地域によってかなり違います。花王がまとめている数字を見ると、その差は思ったより大きいものでした。
| 項目 | 日本人の髪 | 欧米人の髪 |
|---|---|---|
| 太さ(平均) | 約0.08ミリ | 約0.05ミリ |
| 断面の形 | 真円に近い | 楕円形 |
| キューティクル | 1枚が厚く硬め、重なりが密 | 1枚が薄めで重なりも粗い |
太さは1.5倍ちがう
日本人女性の髪は平均で約0.08ミリ、欧米人は約0.05ミリ。単純計算で1.5倍の太さがあります。日本人の髪が「硬い」「まとまらない」と言われがちなのは、くせの強さ以前に、この太さとキューティクルの厚みが効いているわけです。
断面の丸さも違う
アジア人の髪は断面が真円に近く、欧米人の髪は楕円形をしています。ゆるくウェーブした髪が欧米に多い印象と、この断面の傾向はゆるやかに対応します。ただし「楕円だからうねる」と因果でつなぐと、話は少し飛びすぎです。
直毛の遺伝子は、ヨーロッパと東アジアで別のもの
おもしろいのは、直毛になる道すじが一本ではないことです。ヨーロッパ系の集団では、毛包の内側の鞘(さや)で働くトリコヒアリン遺伝子(TCHH)の変異が直毛と結びついており、髪の形のばらつきの約6%を説明すると2009年に報告されました。一方の東アジアでは、EDARという別の遺伝子の変異が太くて直毛の髪と関係しています。似た見た目の髪が、まったく違う経路でできあがったわけです。
断面だけでは説明が足りない
断面の形は、うねりと一緒に現れる特徴の一つにすぎません。もとをたどれば、両方とも毛球部で起きていることの結果です。
非対称は、毛が作られる段階から始まっている
2005年に発表された研究では、髪の形は毛球部でプログラムされていると報告されました。くせ毛の毛包では細胞の増え方が左右で非対称で、曲がりの外側と内側で分化の進み方までずれている。断面が楕円になるのも、コルテックスが片寄るのも、この非対称から派生した現象と考えられています。
ねじれ方まで説明できているわけではない
正直に言えば、わかっていない部分も残っています。断面が楕円であることから、なぜあのカール・あのウェーブ・細かい縮れという多様な形が生まれるのか。そこは科学的に十分説明されていないと指摘されてきました。毎朝うねる髪は、研究の最前線と地続きなのです。
雨の日にだけうねるのは、水で切れる結合があるから

生まれつきの設計が同じでも、うねり具合は日によって違います。梅雨どきに髪が言うことを聞かなくなるのは、髪の中の結合に「水に弱いもの」が混ざっているためです。
髪の中の結合は一種類ではない
髪のケラチンは、いくつもの種類の結合で立体的に固められています。それぞれ切れる条件が違うところが、話の鍵です。
| 結合の種類 | 切れる条件 | 関わる場面 |
|---|---|---|
| 水素結合 | 水に触れるだけで切れる | 雨の日のうねり、寝ぐせ、ブロー |
| イオン結合(塩結合) | pHが大きく振れたとき | カラーやパーマ剤の作用下 |
| シスチン結合 | 還元剤で切り、酸化剤で戻す | パーマ、縮毛矯正 |
水で切れるのは水素結合だけ
空気中の水分子が髪に入り込むと、水素結合は簡単にほどけます。そして乾くときに、少しずれた相手と手をつなぎ直す。整っていた並びが崩れた結果が、あのうねりであり広がりです。イオン結合とシスチン結合は、湿気くらいでは動じません。
髪はふだんから11〜13%の水を抱えている
乾いて見える髪も、重さの11〜13%ほどの水分を持っているとされます。完全に乾ききっているわけではなく、周りの湿度に応じて出し入れしている状態。だから毛髪は、湿度によって伸び方や曲がりやすさといった物性そのものが変わります。
だから、乾かし方で形が変わる
水素結合が「水で切れて乾くと結び直る」性質は、裏返せば毎日使える手がかりでもあります。
濡れて乾くときの形が、その日の形になる
寝ぐせが直らないときにお湯で濡らし直すと整うのは、水素結合をいったん切って結び直しているからです。逆に、生乾きのまま放っておけば、そのときの曲がりが固定されます。半乾きで外へ出た日にかぎってうねるのは、気のせいではありません。
パーマと縮毛矯正は、もっと奥の結合を切る
パーマ剤の1剤に含まれるチオグリコール酸などは、硫黄どうしをつないでいるシスチン結合を切ります。形を決めたうえで2剤の酸化剤をかけ、切れた結合を新しい相手とつなぎ直す。水素結合が一日限りの仮どめだとすれば、こちらは骨組みの組み替えにあたります。
年をとると、うねる髪が増えてくる

子どものころは直毛だったのに、いつのまにか前髪が波打つようになった。そんな変化も、統計としては珍しくありません。
生まれつきのくせと、後から出るうねり
同じ「うねり」でも、遺伝的なくせ毛と加齢によるうねり毛は、出てくる時期も広がり方も違います。
30〜40代、50〜60代と割合が増える
花王の調査では、年齢とともに不規則に細かくうねった毛髪の割合が増えていく傾向が示されています。10〜20代より30〜40代、さらに50〜60代のほうが多い。全部が一度に変わるのではなく、うねる毛が少しずつ混ざってくるイメージです。
ダメージも、偏りを増やす方向に働く
ヘアカラーなどのダメージが重なると、うねりが増長することも確認されています。加齢と施術の両方が同じ向きに効くので、40代あたりで「急に髪が変わった」と感じる人が出やすいのでしょう。
まだわかっていないことも残っている
ここは、はっきり書いておきたいところです。加齢でうねる理由は、実はまだ解明されていません。
なぜ偏りが増すのかは未解明
花王は自社サイトで「なぜ、どのようなしくみでその偏りが年齢とともに増加するのかは解明されていない」と明記しています。現象としては見えているが、原因はまだ、という段階。研究者が言い切っていないことを、記事の側で言い切るわけにはいきません。
「毛穴のゆがみ」説の扱い
加齢のうねりについては「毛穴がゆがむから」という説明が広く出回っています。頭皮がたるんで毛包の向きが変われば毛の出方も変わる、という筋書きです。もっともらしくはありますが、先の未解明という記述と突き合わせると、確定した答えとして受け取るのは早いでしょう。
豆知識:髪は、湿度計として実際に使われていた

髪が湿気で伸び縮みする性質は、うねりの原因であると同時に、計測の道具にもなってきました。天気予報の歴史に、人の髪が登場します。
1783年に生まれた毛髪湿度計
スイスの科学者オラス=ベネディクト・ド・ソシュールが1783年に考案したのが、毛髪湿度計です。湿度が上がれば髪が伸び、下がれば縮む。その動きをてこで拡大して針を振らせる仕組みでした。
脱脂した髪を10本以上、束ねて使う
使うのは、脂を抜いた人の頭髪を10本以上束ねたもの。回転する筒に巻いた紙へ記録すれば、一日の湿度の変化がグラフとして残ります。気象台では長く自記湿度計として現役でした。
伸びの半分以上は、湿度30%までに起きる
おもしろいのは伸び方の癖です。毛髪は湿度30%までに、湿度100%で伸びる量の半分以上をすでに伸ばしてしまい、そこから先は伸び方が次第に小さくなっていきます。目盛りが等間隔にならないので、湿度計としては補正が必要でした。
選ばれるのは、細くてまっすぐな金髪
そして計器の材料には、しばしば金髪が選ばれてきました。人種による髪の違いが、そのまま測定精度の話につながります。
細いほど、吸湿と放湿が速い
西洋人の髪は日本人のものより細く、水分を吸うのも吐くのも速い。実験でも金髪がいちばんよく伸びたと報告されており、細くてまっすぐな髪が適するとされてきました。うねらない髪のほうが計器向きというのも、なんだかできすぎた話です。
汚れると狂う
細い髪は感度がよいかわりに、汚れると伸び縮みの特性が変わり、応答も鈍って指示が狂います。中性洗剤でよく洗った毛髪で実験がやり直された記録も残っています。髪を洗うと調子が戻るのは、人間の頭の上にかぎった話ではなかったようです。
今朝うねっている髪は、今朝の湿気だけのせいではありません。その毛が頭皮の奥で作られていた数週間前に、硬い側と柔らかい側の配分はもう決まっていました。鏡の前で向き合っている相手は、今日の天気と、少し前の自分の頭皮の合作なのです。
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