なぜ「食品ロス」は減らないのか?フードシステムと消費文化の視点から

一般教養の話
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日本では年間472万トンの食品が食べられないまま捨てられています(農林水産省・環境省、2022年度)。これは国民1人あたり毎日おにぎり1個分に相当する量です。「もったいない」という感覚が文化に根付いている日本で、なぜ食品ロスはなくならないのでしょうか。

食品ロスはどこで生まれるか

発生段階主な原因割合の目安
食品製造業製造過程の規格外・端材約130万トン
卸売・小売業売れ残り・返品・値引き後廃棄約60万トン
外食産業食べ残し・仕込みすぎ約80万トン
家庭食べ残し・賞味期限切れ廃棄約200万トン

家庭からのロスが全体の4割以上を占める一方、事業者側(製造・流通・外食)の合計もほぼ同量あります。ロスの構造は家庭と産業の両輪で成り立っているのです。

生産・流通段階でのロス

小売の発注慣行と「3分の1ルール」

食品業界には長年「3分の1ルール」と呼ばれる商慣行がありました。製造日から賞味期限まで3等分し、最初の3分の1以内に小売店へ納品できなかった商品は返品・廃棄されるという慣行です。消費者が常に「新鮮な商品」を求めるとの想定から生まれたルールですが、実際にはまだ十分食べられる状態のまま廃棄される商品が大量に発生していました。

近年は業界団体や農林水産省の働きかけで緩和が進み、「2分の1ルール」への移行が広がりつつあります。ただし、発注精度の低さによる売れ残りの問題は根強く、コンビニエンスストアの恵方巻やクリスマスケーキの大量廃棄は毎年話題になるのです。

農産物の「規格外」廃棄という問題

農産物には形・サイズ・色による厳格な規格があります。曲がったキュウリ、小さすぎるトマト——味に問題がなくても規格から外れた農産物は市場に出ることなく廃棄されてきました。

この規格外廃棄の背景には、スーパーや市場が「見栄えのそろった商品」を求めることと、輸送・陳列での効率化を優先する流通の論理があります。近年はEC販売や「訳あり品」市場の拡大で規格外農産物の活用が広がっていますが、廃棄をゼロにするにはフードシステム全体の設計変更が必要とされているのです。

消費段階でのロス

家庭での廃棄——「まだ食べられる」のに捨てる

家庭からのロスの内訳を見ると、「食べ残し」「直接廃棄(未開封・未調理のまま捨てる)」「過剰除去(皮を厚く剥きすぎるなど)」の3種類に分かれます。消費者庁の調査では、直接廃棄が家庭ロスの約4割を占めており、「まだ食べられる状態なのに捨てている」ケースが多いことが分かっています。

「賞味期限」と「消費期限」を混同して安全なうちに捨ててしまう行動も、直接廃棄を増やす要因のひとつです。賞味期限は「おいしく食べられる期限」であり、過ぎても即座に危険になるわけではありません。しかし消費者の多くが期限切れをリスクと感じ、早めに捨てる行動を選ぶのです。

外食産業の構造的な難しさ

外食産業では「食べ残し」だけでなく、ピーク需要に合わせた仕込みすぎが慢性的なロスを生みます。ランチのピークが読めない飲食店では、閉店後に大量の料理が廃棄されることは珍しくありません。

「持ち帰り(ドギーバッグ)」文化が日本では普及しにくい背景には、食中毒リスクへの懸念や店側の法的責任への不安があります。ヨーロッパや北米では持ち帰りが一般的である一方、日本では提供者側が躊躇する場面が多く残っているのです。

豆知識:法整備と世界の取り組み

日本では2019年に「食品ロス削減推進法」が施行され、国・自治体・事業者・消費者それぞれに努力義務が課されました。フードバンクへの食品提供や、賞味期限の年月表示(日まで表示しない)への移行も進んでいます。

フランスは2016年に世界初の食品廃棄禁止法を制定し、スーパーが未販売食品を廃棄することを法律で禁止しました。デンマークでは賞味期限切れ商品を割引で販売する専門スーパー「WeFood」が人気を集めています。日本でも「フードシェアリング」アプリの普及など民間の取り組みが広がっていますが、文化・慣行の変化には時間がかかるのです。

食品ロスは一人ひとりの「捨てる選択」が積み重なった結果であると同時に、それを促す流通・消費の構造が背景にあります。買い物の前に冷蔵庫を確認する、必要な分だけ買う——小さな行動の積み重ねが、その構造を少しずつ変えていく力を持っています。