横断歩道の白線の幅とすきまは決まっているのか

社会と仕組みの話
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横断歩道の白線は、線の幅も、線と線のすきまも45センチで揃っています。塗ってある部分と塗っていない部分が同じ寸法なので、あの縞は等間隔に見えるわけです。

自動車安全運転センターが2023年度に行った実験では、参加者の3割近くが「白線と間隔が同じだとは知らなかった」あるいは「興味を持って見たことがなかった」と答えています。その45センチという数字は、2024年7月の省令改正で最大90センチまで広げられるようになりました。足元の縞は、いま静かに描き替えられている最中です。

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横断歩道の決まりごとは、ほとんど数字でできている

横断歩道について定められているのは、じつのところ数字ばかりです。線の幅とすきま、白線の長さ、置く間隔。先にその数字を並べておきます。

項目現在の決まり補足
白線の幅45〜50センチ標識令が定める指示標示「横断歩道(201)」の様式
白線どうしのすきま45〜90センチ2024年7月の改正までは45〜50センチだった
ゼブラ長(進行方向の長さ)原則4メートル以上コスト縮減のため3メートル程度に縮めている例もある
黒い部分規定なし塗っていない路面そのもの
横断歩道どうしの間隔市街地でおおむね100メートル以上、非市街地でおおむね200メートル以上通学路や商店街では短縮できる
停止線の位置横断歩道の1〜5メートル手前舗装された道路に設ける場合
全国の本数約116万本(2022年)1971年は約19万本だった

縞という形が選ばれたのは、遠くからでも横断歩道だと気づけるからです。四角い枠が外れた理由は、摩耗と水はけと施工の手間。どれも見やすさというより、維持する側の事情でした。

標識令(道路標識、区画線及び道路標示に関する命令)とは、道路標識や路面の標示の形・色・寸法を全国共通で定めている命令です。1960年(昭和35年)に総理府・建設省令として施行されました。

白線45センチ、すきま45センチ——寸法の中身

横断歩道の縞は、幅も間隔も同じ数字で刻まれています。この等間隔は偶然ではなく、1950年代の東京で使われていた寸法がそのまま生き残ったものです。

「ゼブラ長」は原則4メートル以上

ゼブラ長とは、横断歩道の白線の長辺、つまり歩行者が渡っていく方向の長さを指す言い方です。横断歩道の「幅の広さ」にあたります。

歩く向きに4メートル

白線の短辺が45センチなのに対し、長辺は原則4メートル以上とされています。警察庁の交通規制基準に書かれた数字で、実験用に仮設する横断歩道もこの4メートルに合わせるのが通例です。

3メートルに縮める県もある

ただし、この長さを3メートル程度に縮めて費用を抑えている事例も報告されています。塗料は幅45センチ・厚さ1.5ミリで1メートルあたり1.7キロ必要とされ、長辺を1メートル削れば、その分の材料と手間がまとまって減ります。

黒い部分は、そもそも塗っていない

規定されているのは白線だけ

シマウマの縞は白と黒の毛で交互にできていますが、日本の横断歩道で塗られているのは白い帯だけです。黒く見える部分はアスファルトの地色で、標識令にも寸法の定めがありません。縞が縞に見えるのは、路面そのものが暗いおかげということになります。

塗料は溶けた状態で流す

路面標示に使われるのは、加熱して溶かしてから流し込む溶融式の塗料です。ガラスビーズを15〜18パーセント含んだ白い塗料が、2024年の公表価格で1キロ210円ほど。幅45センチの線を1メートル引くのに1.7キロ必要とされるので、長さ4メートルの白線1本なら塗料代だけで1,400円ほどになる計算です。

置く場所にも間隔の決まりがある

市街地は100メートル、郊外は200メートル

横断歩道どうしの間隔は、市街地でおおむね100メートル以上、非市街地でおおむね200メートル以上とされています。近すぎると車の流れが細切れになるためです。ただし通学路や高齢者の多い場所、商店街などでは短縮してよい決まりです。

停止線は1〜5メートル手前

舗装道路に横断歩道を設けるときは、その1〜5メートル手前に停止線を引くことになっています。手前に距離を取るのは、停まった車が渡る人の視界をふさがないようにするためです。信号のない横断歩道で車が停まると、その先が急に見通しよくなるのはこの数メートルの余白によります。

枠つきの「はしご型」から、縞だけの「ゼブラ型」へ

縞模様が採用された理由は、遠くからでも横断歩道だと気づけることにありました。ただしその形にたどり着くまでには、40年ほどの試行錯誤があります。

デザインできごと
1920年ごろ2本の線東京市の「電車線路横断線」が国内の始まりとされる
1951年2本の側線型警視庁が「交通区画線記号」で図示
1957年チェッカー型・波状型交差点と単路部でデザインを描き分ける
1960年2本の側線型/チェッカー型標識令が施行され、全国の様式が統一される
1965年はしご型施工しやすいように単純化、間隔は45〜50センチに
1992年ゼブラ型側線が廃止され、白い縞だけになる
2024年ゼブラ型すきまの上限が90センチまで拡大される

出発点は、2本の線で挟むだけだった

1920年ごろの「電車線路横断線」

国内で最初の横断歩道は、1920年(大正9年)ごろに東京市が路面電車の線路を渡る場所に引いた2本の白線だとされています。歩行者の通り道を線で挟んで示すだけの、ごく単純な形でした。

戦前の法令には、路面の絵がない

1942年(昭和17年)の道路標識令に載っているのは、「横断歩道」と記した道路標識だけです。路面の標示については触れられていません。舗装された道路がまだ少なく、地面に絵を描く前提が薄かったことが背景にあると考えられています。

チェッカー型と波状型が並んだ時代

単路部(たんろぶ)とは、交差点ではない道路の途中の区間のことです。交差点と違って横断歩道があると予想されにくいため、標示のデザインでも別扱いされてきました。

1957年、東京は場所で描き分けた

舗装の進んでいた東京では、1957年(昭和32年)に交差点と単路部でデザインを変えています。交差点は従来どおりの2本の側線型。単路部には、市松模様のチェッカー型や波打つ形の波状型を採用しました。

手間をかける場所と、かけない場所

横断歩道があって当然の交差点には安上がりな形を、見落とされやすい単路部には施工に手間がかかっても目立つ形を割り当てる。この使い分けはかなり合理的で、警視庁で採用されたデザインが全国へ広まっていったといわれます。チェッカーの間隔は当時から45センチでした。

1965年、はしご型に一本化される

ずれた市松を、まっすぐな横線に

1960年(昭和35年)の標識令では、信号機のある交差点付近が2本の側線型、それ以外がチェッカー型と決められました。側線の幅は15センチ、チェッカー部の白線と間隔は45センチ。この市松模様を1965年(昭和40年)に横線へ揃えたものが、両端に縦線の入った「はしご型」です。

間隔に「50センチまで」の遊びができる

変更の狙いは施工性の向上でした。市松にずらして塗るより、まっすぐ引くほうが速い。このとき白線どうしの間隔にも45〜50センチという幅が与えられ、現場の裁量が少し広がっています。

側線が消えた1992年、理由は3つ挙げられた

両端の縦線が姿を消したのは1992年(平成4年)11月です。標識令が改正され、側線のないゼブラ型が正式な様式になりました。同時に「2本の側線型」は横断歩道の標示から外され、現在は「歩行者横断指導線」という別の標示として残っています。

公式に示された理由

美観・水はけ・施工性

改正を解説した当時の専門誌では、ゼブラ型を選んだ理由として3つが挙げられています。美観のうえでの効果。横断歩道の水はけの向上。そして側線を省くことによる施工性とコストの改善です。

塗料は厚みのある「壁」でもある

溶融式の塗料は1.5ミリほどの厚みを持って路面に載ります。四方を囲まれた枠のなかでは、この厚みが小さな堤防のように働いて雨水が抜けにくくなります。縦線を外せば水は横へ流れていく。「水はけ」という理由は、塗膜の厚みを考えるとかなり現実的な話です。

新聞が伝えた説明

「タイヤですり減りやすい」

1992年5月の朝日新聞は、改正を「交通標識シンプルに 横断歩道も変身、ハシゴ型やめる」と報じました。記事に示された理由は4点あります。

  • 側線は通過する車のタイヤですり減りやすい
  • 側線を引かなければ工期が短くなり、費用も軽くなる
  • 車のスリップを防止できる
  • 側線がなくてもドライバーの見た印象は変わらない

「排水のため」だけではなかった

縦線が消えた理由は「排水のため」と紹介されることが多いのですが、当時挙げられていたのは摩耗・費用・スリップ・見え方を含む複数の事情でした。どれかひとつが決め手というより、外しても困らない線だと判断された、という言い方のほうが近いのかもしれません。

変更の前に、実験が行われていた

22人が10段階で採点した4つの案

1985年度から2年かけて、日本自動車工業会が横断歩道のデザインを比べる調査を行っています。側線のあるはしご型・2本の側線型・側線のないゼブラ型・側線を点線にしたものなど4種類。白線の間隔も45センチ・70センチ・90センチの3通りを用意し、22人が運転時と歩行時それぞれについて10段階で採点しました。

1位はゼブラ型の70センチ間隔

評価が高かった順に並べると、ゼブラ型の70センチ間隔・ゼブラ型の45センチ間隔・はしご型の90センチ間隔でした。側線については「ないほうがすっきりして見やすい」という意見が出ています。2年目には実際の道路に敷いて耐久性まで確かめたうえで、1992年の変更につながりました。

2024年、すきまが最大90センチまで広がった

2024年7月26日、警察庁は白線どうしの間隔を「45センチ〜50センチ」から「45センチ〜90センチ」へ改める通達を各都道府県警察に出しました。上限がほぼ倍になったわけです。理由は視認性ではなく、維持費にあります。

116万本を塗り直せない

50年で6倍に増えたストック

1971年(昭和46年)に194,536本だった横断歩道は、2022年(令和4年)には1,161,113本になりました。信号機は29,396基から207,057基へ、道路標識は約203万枚から約942万枚へ。交通事故の死者を減らすために積み上げてきた設備が、そのまま更新すべき在庫として残っています。

塗り直しの目安は1〜2年

業界団体の調査では、更新の基準とされる摩耗ランクに達するまでの期間が示されています。交通量の少ない場所で18か月、多い場所では12か月。額面どおりに受け取れば、1〜2年ですべての横断歩道を塗り直さなければならない計算になります。予算はそこまで伸びていません。

消えた白線が裁判で問われた

2018年10月、川崎市の信号のない横断歩道で、渡っていた男性がタンクローリーにはねられ重い障害を負う事故が起きました。白線の摩耗が要因のひとつとされ、2023年の和解勧告で標示を管理する神奈川県の責任が認められています。消えかけた縞は、単なる見た目の問題では済まなくなっていました。

45センチのままだと、タイヤが白線を踏む

すきまを空ければ、踏まれにくくなる

間隔が45センチだと、車がどこを走っても白線のどれかにタイヤが乗ります。すきまを90センチに広げて白線の位置を調整すれば、タイヤの通り道から外すことも可能になる。摩耗そのものを遅らせる発想です。

費用は3割ほど下がる見込み

塗る作業のほうも安くはありません。区画線工の標準単価は1メートルあたり全国平均329.4円で、最も高い神奈川県が371.2円、最も低い鳥取県が272.3円。塗料代と合わせると、白線1本あたり2,700円前後という水準になります。単純計算では、間隔90センチで約30パーセント、135センチなら約50パーセントの経費が削減できると見積もられていました。

135センチは、実験で否決された

90センチなら8割以上が肯定

自動車安全運転センターは2023年度、茨城県ひたちなか市の模擬市街路に45センチ・90センチ・135センチの横断歩道を仮設して比べています。90センチについては運転者の肯定的な意見が8割以上。消えかかった45センチの横断歩道と画像で比べると、87.7パーセントが90センチのほうを高く評価しました。

135センチは82.2パーセントが否定

一方の135センチは評価が割れました。歩行者役の実験では、10メートル手前まで近づいても「分かりやすい」と答えた人が42.2パーセント。設置することについては82.2パーセントが「適当ではない」と回答しています。「消えかかった45センチのほうがまだ見やすい」という声まで出ました。ここが上限を90センチに置いた根拠です。

足で読む人がいる、という論点

エスコートゾーンとは、横断歩道の中央に敷かれた点状の突起の帯で、視覚障害者が横断中に進む向きを保てるようにしたものです。音響信号機と組み合わせて設けられることが多くなっています。

塗料の凹凸が手がかりになっている

改正前の意見募集では、次のような懸念が数多く寄せられました。塗料の凹凸を足で感じて横断歩道を認識している視覚障害者や、視力の弱い人が分かりにくくなるのではないか。1.5ミリの厚みは、目で見るための厚みであると同時に、足の裏で読むための厚みでもあったわけです。

設置場所には条件がついた

この意見を踏まえ、通達には次の3点が書き込まれました。

  • 音響信号機とエスコートゾーンが設置されている場所について、関係者の意見を聴取しつつ設置を検討すること
  • 設けた場合は、地域住民や学童・学校関係者・視覚障害者に実際に横断してもらう機会を設けるよう努めること
  • 設置状況を各都道府県警察本部で適切に把握すること

すでに現れはじめている

横浜市神奈川区の反町(たんまち)交差点では、県内で最初の新基準として白線が17本から12本へ減りました。長野県茅野市の市民館前交差点でも、2025年8月1日から間隔を約90センチに広げた横断歩道が使われています。エスコートゾーンと音響装置は、これまでと同じように設置されたままです。

「ゼブラゾーン」は横断歩道ではない

路面に縞が描かれていても、横断歩道とは限りません。右折レーンの手前などに現れる斜めの縞は導流帯といい、歩行者ではなく車に向けた標示です。

導流帯(どうりゅうたい)とは、車両を安全かつ円滑に誘導する必要がある場所を示す標示です。俗に「ゼブラゾーン」と呼ばれます。

標示見た目意味
横断歩道進行方向と直角の白い縞歩行者の横断場所。車には歩行者保護の義務がある
導流帯白い斜めの縞通らないよう誘導する区画。進入自体は禁止されていない
立入り禁止部分白い斜線を黄色の線で囲む進入が禁止されている

導流帯は「入ってはいけない」わけではない

置かれるのは、広すぎる交差点

導流帯が置かれるのは、交差点が広すぎたり形がいびつだったりして、車の動きが交錯しやすい場所です。車線が減る地点にも使われます。空白のまま残すと各自が好きな線を描いてしまうため、通ってほしくない面をあらかじめ塗りつぶしておく発想といえます。

走っても違反ではないが、事故では不利になりうる

道路交通法は導流帯への進入を禁じていません。ただし右折待ちの車を追い越す形で導流帯を走り、そこで事故が起きた場合には過失割合が上乗せされることがあるとされています。宮城県のように、公安委員会規則で走行が制限されている地域もあるとされます。

黄色い縁取りがあれば話は別

白い斜線に黄色の枠

同じ斜めの縞でも、白い斜線を黄色い線で囲んだものは「立入り禁止部分」です。こちらは進入が禁じられており、違反になります。縞そのものより、外側の色を見るのが早い見分け方になります。

ひし形は横断歩道の予告

路面のひし形(◇)は、この先に横断歩道があることを知らせる標示です。原則として約30メートル手前に1個、さらに10〜20メートルの間隔をおいて1〜2個。信号のない横断歩道や、手前から見えにくい横断歩道の前に置かれます。

「ゼブラ」と呼びはじめたのはイギリスだった

日本で「ゼブラ型」という言葉が新聞に載ったのは1992年ですが、縞の横断歩道を動物の名で呼ぶ習慣そのものはイギリス生まれです。

オレンジの球から縞へ

1934年のベリシャ・ビーコン

1934年、当時の運輸大臣レスリー・ホア=ベリシャが横断場所の目印としてオレンジ色の球のついた柱を導入しました。名前をとって「ベリシャ・ビーコン」と呼ばれます。路面には金属の鋲が並ぶだけで、縞はまだありませんでした。

1951年10月31日、スラウの交差点

球だけでは見えにくいという苦情を受け、1949年から全国1,000か所ほどで試験が行われます。太い白い縞を路面に引く方式が採用され、1951年10月31日にスラウの目抜き通りへ最初の1本が引かれました。柱の縞と路面の縞が揃ったことで「ゼブラ」という呼び名が定着したとされています。

名づけ親と、文化財になった縞

命名者はキャラハンとされるが

名づけ親は、のちに首相となる政治家ジェームズ・キャラハンだと言われます。試作を見て「シマウマのようだ」と評した、という逸話です。ただし本人が名づけを主張したことはなく、由来としては伝聞の域を出ません。

アビイ・ロードの横断歩道は指定建造物

ビートルズのアルバムジャケットで知られるロンドンのアビイ・ロードの横断歩道は、2010年にグレードIIの指定建造物になりました。文化的価値を認められた横断歩道という、世界的にも珍しい例です。イギリスにはこのあと、自転車も渡れる黄色と黒の「タイガー」など、動物の名を持つ横断施設が次々に生まれています。

白線45センチ、すきま45センチという等間隔は、1957年の東京から60年以上かけて受け継がれてきた寸法でした。それが動いたきっかけは、見やすさの改良ではありません。116万本を塗り直しきれないという台所事情です。

いまの日本の路面には、45センチ世代と90センチ世代が混ざりはじめています。すきまの広さは、安全と予算のせめぎ合いがそのまま地面に出た数字です。足元の縞がいつもより広く感じられたなら、それは新しいほうの世代ということになります。

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