松竹梅の「松が一番上」は、植物そのものに備わった順位ではありません。三つはもともと、寒さに負けない対等なめでたいものでした。松が上に見えるのは、名前の先頭に立つ松がのちに寿司屋やうなぎ屋の品書きで最上級の札に当てられ、その使い方が広まったためです。並び順の由来には「縁起物になった時代の順」という説もありますが、辞典の記述とは食い違います。
松竹梅のルーツは中国の「歳寒三友」

寒さに耐える3つの植物
中国では松・竹・梅をまとめて「歳寒三友(さいかんのさんゆう)」と呼びました。冬でも葉の色を変えない松と竹、寒さのなかで花を開く梅。百科事典マイペディアは、この画題が「節操を曲げない士人の精神」を表したと説明しています。三つは同じ徳を分け合う仲間で、どれが格上という発想はありません。
梅・水仙・竹という組み合わせもある
「三友」の顔ぶれは一つに決まっていたわけでもありません。デジタル大辞泉は、松・竹・梅のほかに梅・水仙・竹を歳寒三友とする言い方も載せています。寒い季節に凛として立つものなら入れ替わりうる、ゆるやかなくくりだったのでしょう。同じ辞書には、山水・松竹・琴酒を「君子が友とする三つ」とする別の意味まで並びます。順位を付ける物差しが、そもそも入り込む余地の少ない言葉でした。
3つを一枚に描く絵は明の時代から目立つ
墨一色で竹を描く「墨竹(ぼくちく)」は、北宋の後半に文同や蘇軾(そしょく)といった文人たちのあいだで広まりました。墨で梅を描く「墨梅」も北宋の末に現れます。マイペディアによると、松・竹・梅を一枚に取り合わせた絵がはっきり増えるのは明の時代以降です。一つずつ愛された植物が、時間をかけて三人組になったわけです。
日本ではいつからめでたい組み合わせになった?

奈良時代に伝わり、謡曲で祝いの席へ
日本大百科全書は、この考え方が奈良時代に日本へ伝わり、祝いの品や正月の飾りに使われたとしています。室町時代には謡曲(ようきょく)に取り入れられ、慶事の席で謡われるようになりました。中国では「節操」の象徴だったものが、日本では「おめでたさ」の象徴へと性格を変えていきます。マイペディアも、日本では吉祥の意味合いが強まったと説明しています。
※ 謡曲とは、能の台本にあたる詞章や、それに節をつけて謡うことをいいます。
三つそろった言葉は室町の詩文集に
松・竹・梅が一語として文献に現れるのは、意外に遅い時期です。世界大百科事典は、三つの取り合わせが文献に見えるのは室町時代からだとしています。精選版日本国語大辞典が挙げる用例も、禅僧の漢詩文集『空華集(くうげしゅう)』で、1359〜68年ごろのものです。江戸時代になると、長唄や地歌・箏曲の曲名にも「松竹梅」が数多く使われました。
門松は松と竹から始まった
正月の門松も、室町時代の習わしとして日本大百科全書に出てきます。強い生命力を表す松に、伸びの早い竹を添えて門口に飾り、長寿を祝ったという記述です。ここには梅は登場しません。いまの門松には梅の枝を添えたものも多く、三つがそろった姿はあとから整っていったものと考えられます。
なぜ松が先頭に並ぶのか?

「縁起物になった時代の順」という説
よく紹介されるのが、三つが縁起物になった時代の順に並んだという説です。松は平安・竹は室町・梅は江戸にめでたいものとされ、その古い順が「松・竹・梅」になったという筋書きです。和文化研究家の三浦康子さんのコラムなどで紹介されている話で、マイナビニュースの記事も「一説では」と断ったうえで同じ流れを書いています。
辞典が描く流れとは食い違う
ただ、辞典の説明と並べると、この説はそのままでは成り立ちにくい。日本大百科全書は三つをまとめた考え方が奈良時代に伝わったとし、世界大百科事典は三つの取り合わせを室町時代からとしています。梅だけが江戸時代まで遅れたという話は、どちらにも見当たりません。時代順説は覚えやすい一説として受け取るのがよさそうです。
先頭にあるから上に見える
三つを並べて言えば、どれかが必ず先頭に来ます。室町の詩文集の時代から「松竹梅」の語順で使われてきた言葉を等級に当てるとき、先頭の松を最上級にするのはごく自然な選び方です。その結果、もとは対等だった三つに順位が付いて見えるようになったと考えられます。松は常緑で長寿を連想させる木でもあり、上等の名として違和感がなかったのでしょう。
等級の言葉になったのは店の気づかいから

「並」と言わずに済む札
寿司屋や蕎麦屋の品書きには「特上・上・並」という分け方があります。ところが、いちばん安い「並」は声に出して頼みにくい。そこで、どれもめでたい松・竹・梅に置きかえれば、どの値段でも気持ちよく注文できるというわけです。三浦康子さんのコラムもマイナビニュースの記事も、等級としての松竹梅をこうした店の配慮から説明しています。
辞書は「ふつう松を最上級」と書く
この使い方は辞書にも載るほど定着しました。デジタル大辞泉は、品物などを三つの等級に分けるときの語とし、「ふつう松を最上級とする」と添えています。一方の精選版日本国語大辞典は、品物や席を三等級に分けたときに使う語と説明するだけで、どれが上かには触れていません。「ふつう」の一言に、店の約束事という性格がよく表れています。
結婚式の席名にも使われる
料理だけではありません。マイナビニュースの記事によると、結婚式のテーブル名では新郎側に松竹梅、新婦側に福禄寿(ふくろくじゅ)を使うことが多いそうです。主賓の卓を「松」と「福」にして、そこから席の優先順に名前を割り振ります。席順が一目でわかり、式場のスタッフも案内しやすくなる工夫です。
梅が一番上の店もある?

松を安くして頼みやすくする逆転
実際にあるようです。三浦康子さんのコラムは、松が上というイメージを逆手にとって、梅を最上級にしている店もあると紹介しています。いちばん安い品が「松」なら、客は堂々と注文できるでしょう。「並」を避けるために生まれた札が、今度は「梅」の気まずさを消すために入れ替えられた形です。順位が店の都合で動くこと自体、もとは対等だった証拠ともいえます。
竹のほうが松より高かったうなぎ屋
小学館の辞書サイト「ジャパンナレッジ」のコラム「日本語、どうでしょう?」には、上野池之端のうなぎ屋で見かけた品書きの話が出てきます。その店には松と竹のうな丼だけがあり、竹のほうが松より高かったそうです。2011年の記事で、筆者は松竹梅で等級を表すのは比較的新しい用法で、松が上とは限らないと書いています。
「松竹梅」はうなぎ屋のしゃれにもなった

長く待たされることを「松竹梅」
デジタル大辞泉の「松竹梅」には、もう一つ変わった意味が載っています。うなぎ屋で長い時間待たされることを、しゃれていう言葉です。注文を受けてから焼く店が多く、うなぎは出てくるまでに時間がかかります。「待つ」と「松」を掛けた言葉遊びで、品書きの札がそのまま客の愚痴にも化けたわけです。
酒の名前にも選ばれた
同じジャパンナレッジのコラムは、テレビCMでもおなじみの日本酒「松竹梅」にも触れています。この名前は等級ではなく、めでたさにあやかったものだろうと筆者は見ています。祝いの席で開ける酒の名としては、たしかに順位より縁起のほうがふさわしいでしょう。三つの植物の本来の役どころが、ここではそのまま生きています。
寒さに耐える仲間として描かれ、日本で祝いの象徴になり、品書きでは客の気まずさを引き受けてきた三つの植物。松が一番上という序列は、その長い歴史のごく最近の一面にすぎません。次に「竹」を頼むときも、真ん中を選んだのではありません。めでたい三つのうちの一つを選んだと思えば、少しだけ誇らしい気分になれそうです。
参考
- 「松竹梅」(コトバンク:日本大百科全書・世界大百科事典・精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉)
- 「歳寒三友」(コトバンク:デジタル大辞泉・百科事典マイペディア・世界大百科事典)
- ジャパンナレッジ「日本語、どうでしょう?」第51回「松竹梅」は等級を表すことばなのか?
- All About「松竹梅」の順番は平等で「ピンキリ」の上下ランクは逆?(三浦康子)
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