仮説思考とは?問題解決のための思考法

言葉と論理の話
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仮説思考とは、情報を集めきる前に「おそらくこうだろう」という答えの当たりをつけ、確かめながら絞り込んでいく進め方です。調べてから考えるのではなく、考えてから調べる。順番を入れ替えるだけで、同じ持ち時間で届く場所が変わります。

コンサルティングの現場で鍛えられてきた言葉ですが、中身そのものは特別ではありません。空を見上げて雲が厚いと感じ、傘を持って出る。あの一瞬の判断を、仕事の規模まで引き伸ばしたものだと考えると近いはずです。

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仮説思考は何をどの順番でやる?

クリップボードを持って指差し確認をする男性のイラスト

段は四つあります。問いを決め、当たりをつける。確かめて、書き換える。一度で終わらせるものではなく、この四つを何周も回していきます。

段やることつまずきやすい点
①問いを決める答えを出したい問いを一つに絞る問いが大きすぎて手がつかない
②仮説を立てる「おそらく〇〇だ」と暫定の答えを書く確かめようのない書き方になる
③検証する最小限の材料で当たり外れを見る都合のいい材料ばかり集める
④書き換える結果をもとに仮説を直す直さずに押し通してしまう

問いをひとつに絞る

最初の段でつまずく人がいちばん多いようです。「売上が落ちている」は状況の説明であって、問いにはなっていません。ここが曖昧なまま進むと、そのあと何を調べても答えに近づかなくなります。

書くのは「困りごと」ではなく「決めたいこと」

「売上が落ちている」を問いに直すと、「来期の広告費をどの商品に寄せるか」のようになります。前者は嘆きで、後者は判断です。判断の形で書かれた問いだけが、調べる範囲を教えてくれます。

目安は、問いの文末が「〜か」で終わっていて、答えると誰かの行動が変わること。答えても何も動かない問いは、たいてい調べ物のための調べ物になります。

大きすぎる問いは条件を足して小さくする

「どうすれば会社が伸びるか」は、そのままでは一生かかっても終わりません。期間・対象・予算のどれかを足してみます。「今年度中に」「既存顧客に対して」「追加予算なしで」と三つ付け足せば、調べる先はかなり狭まるはずです。

「おそらくこうだ」を言葉にする

仮説は、その時点で持っている材料から立てる暫定の答えです。根拠が薄くてもかまいません。むしろ最初の段階で根拠が十分そろっているなら、それは仮説ではなくすでに結論です。

確かめられる形に言い換える

「商品Aの売り方に問題がある」では、何を見れば当たり外れが分かるのか決まりません。「商品Aは初回購入者には売れているが、二回目が続いていない」と書き換えると、リピート率を一つ見るだけで判定できます。

よい仮説かどうかは、内容の鋭さより「どの数字を見れば決着するか」が言えるかで決まります。決着のつけ方が思い浮かばない仮説は、まだ言葉が粗いということです。

仮説は2〜3本並べておく

一本だけ立てると、人はそれを守りにかかります。競合する仮説を横に並べておくと、比較の作業に変わり、思い入れが働きにくくなります。「二回目が続いていない」の隣に「そもそも一回目の客層がずれている」を置いておく、といった具合です。

確かめて、書き換える

検証は、仮説を証明する作業ではありません。当たっているか外れているかを、できるだけ早く、できるだけ少ない手間で見分ける作業です。ここを取り違えると、次に出てくる確証バイアスの罠にまっすぐ落ちます。

いちばん外れそうな部分から手をつける

仮説はふつう、いくつかの前提の上に乗っているものです。そのうち最も怪しい前提を先に確かめると、外れたときに残りの作業をまるごと省けます。確実そうなところから固めていく順番は、気分こそ安心でも時間を食う一方です。

外れた仮説は、次の仮説の材料になる

「二回目が続いていない」が外れたとしても、手元にはリピート率という実数が残ります。次の仮説はその数字の上に立てられるので、一周目より確実に精度が上がっています。外れは損失ではなく、範囲がひとつ消えたという前進です。

なぜ全部調べてから考えるとうまくいかない?

締め切りに追われて机で書類を書く男性のイラスト

網羅的に調べる進め方が悪いわけではありません。問題は、その進め方に終わりが用意されていないことにあります。

調べる作業には自然な終わりがない

資料は探せば探すほど出てきます。「これで十分」と言える客観的な線がどこにもないので、止めるきっかけは締め切りか体力の限界になりがちです。

集めた量と答えの確かさは比例しない

資料が十倍になっても、判断に効く一枚は一枚のままということがよくあります。残りの九十九枚は、決めたあとで説明に使う材料にはなりますが、決めるための材料ではありません。

期限のある仕事では致命傷になる

来週の会議までに方針を出す必要があるとき、材料がそろうのを待つという選択肢は事実上ありません。待った結果として出てくるのは、精度の高い答えではなく、間に合わなかったという報告です。

仮説があると調べる範囲が決まる

仮説の一番の働きは、答えを当てることではなく、調べなくていいものを決めることにあります。内田和成氏は著書『仮説思考』で、仕事の速さと出来栄えを決めるのは分析力ではなく仮説だと説きました。

「正しいなら何が見えるはず」で絞り込む

仮説を立てたら、それが正しい世界で観測されるはずの事実を書き出します。「二回目が続いていない」が正しいなら、初回と二回目の購入間隔に山があるはずです。見るべき表はそれで一つに決まります。

空振りしても範囲がひとつ消える

網羅的な調査で空振りすると、時間だけが減ります。仮説を持った調査なら、空振りは「この方向ではない」という結果そのものです。同じ一時間を使っても、手元に残るものが違います。

「空・雨・傘」は何を分けている?

傘立てに立てられたビニール傘のイラスト

仮説思考の説明でよく持ち出されるのが、空・雨・傘というたとえです。三つの言葉が、頭の中でひとまとめになりがちな作業を切り分けてくれます。

段中身仕事で言うと
空見たままの事実数字・現場で起きたこと
雨事実からの解釈仮説・原因の見立て
傘解釈にもとづく行動打ち手・提案

事実・解釈・行動の三段

空を見て「雲が厚い」と言うのが事実、「降りそうだ」と言うのが解釈、「傘を持つ」が行動です。仮説にあたるのは真ん中の雨で、ここだけが唯一、外れる可能性を持っています。

空は、まだ誰の意見も混ざっていない層

「前年比で八パーセント減った」は空です。「八パーセントも減った」と書いた瞬間に、それは雨に足を踏み入れています。「も」の一文字が評価を含んでいるからです。

傘まで行かない報告は、受け取る側が困る

空と雨だけを並べて終わる報告は少なくありません。受け取った側は「で、どうするの」と聞き返すことになります。外れるかもしれない傘でも、置いてあれば議論が前に進みます。

三段のどこが抜け落ちやすいか

このたとえが役に立つのは、抜けた段を指さしやすくなるからです。議論がかみ合わないときは、参加者が別々の段を話していることがよくあります。

事実と解釈が混ざる

「現場のやる気が下がっている」は、一見すると事実のようでいて解釈です。空にあたるのは、残業時間や離職率や面談での発言といった具体になります。混ざったまま議論すると、反論も同意も空回りします。

解釈で止まって行動に届かない

原因の分析だけが分厚く、打ち手が一行しかない資料。これは雨で止まっている状態です。傘を書くと責任が生じるので、無意識に避けてしまう人もいます。

空・雨・傘が効くのは時間が足りないとき

三段に分けるやり方は、じっくり研究する場面ではかえって窮屈です。持ち時間が短く、それでも何か決めなければいけない場面でこそ働きます。雲を見上げてから傘を掴むまでに、人は数秒しかかけていません。

仮説から始める考え方はどこから来た?

試験管の液体をビーカーに注ぐ白衣の男性のイラスト

ビジネス用語として広まったのは二〇〇〇年代ですが、考え方の筋そのものは、科学の方法論として一世紀以上前から論じられてきたものです。

科学の世界の「仮説形成」

観察から仮説を思いつく働きには、哲学の側でちゃんと名前が付いています。アメリカの哲学者パース(Charles Sanders Peirce、一八三九〜一九一四)が整理したアブダクションです。

※ アブダクション(abduction・仮説形成)とは、驚くような事実に出会ったとき、それをうまく説明できる仮説を思いつく推論のことです。演繹(えんえき)とも帰納(きのう)とも別の働きとされています。

探究は三つの推論の組み合わせ

理科教育学研究に載った柚木朋也氏の論考によれば、パースは後期の理論で探究を三段階に捉えていました。アブダクションが仮説を生み、演繹がそこから予測を導き、帰納が経験と照らして検証する。仮説思考の四段とほぼ同じ形です。

出発点は「驚き」に置かれている

アブダクションの説明で必ず出てくるのが、驚くべき事実という言い回しです。順調に説明がつく現象からは仮説が生まれません。「おかしいな」と引っかかった瞬間が、実は思考の入口になっているわけです。

日本のビジネス書で広まった経緯

「仮説思考」という言葉を職場の語彙にしたのは、ボストン・コンサルティング・グループで二十年を過ごした内田和成氏の著書です。二〇〇六年三月に東洋経済新報社から出た、二四〇ページの四六判でした。

章立てがそのまま手順になっている

目次は「まず、仮説ありき」「仮説を使う」「仮説を立てる」「仮説を検証する」「仮説思考力を高める」と並びます。立てる前に使う章が来る順番に、この本の主張がよく表れているようです。

売り文句は「作業量が激減する」

版元の紹介文は、仕事の速さと出来栄えを決めるのは分析力ではなく仮説である、という一文を掲げています。頭のよさではなく作業量の話として語られたことが、広まった理由のひとつでしょう。

科学の仮説とビジネスの仮説は少し違う

科学の仮説は、反証されない限り残り続けることを目指します。いっぽう仕事の仮説は、意思決定が終われば用済みです。同じ言葉でも寿命が違うので、ビジネスの側では「早く捨てられること」が長所になります。

仮説思考がうまくいかないのはどんなとき?

虫眼鏡をのぞき込む女性のイラスト

この考え方が裏目に出る失敗には、いくつか決まった形があります。どれも原因は、仮説そのものではなく検証のしかたのほうにありました。

確証バイアスにつかまる

いちばん多いのがこれです。自分の仮説に合う材料ばかりが目に入り、合わない材料は無意識に軽く扱ってしまいます。

※ 確証バイアス(confirmation bias)とは、自分がもっている仮説を確かめるときに、その仮説に合致する証拠を重視してしまう傾向のことです。

ウェイソンの2-4-6課題

この傾向を有名にしたのが、イギリスの心理学者ピーター・ウェイソン(一九二四〜二〇〇三)が考案した課題です。「2・4・6」という三つ組を見せ、背後に隠れた規則を当ててもらいます。参加者は自由に別の三つ組を出せますが、返ってくるのは規則に合うかどうかだけ。

多くの人は「2ずつ増える偶数」と考え、8・10・12のような例ばかり試します。正解が「だんだん増える三つの数」であっても、合う例だけを出し続ける限り、そのことには永久に気づけません。

合う例ばかり試しても絞り込めない

認知科学に載った田村昌彦氏らの研究では、この課題で人がとる検証の進み方が正事例検証方略として分析されています。手が込んだ意地悪ではなく、ごく自然な癖として現れるところがこの問題の怖さです。

※ 正事例検証方略(せいじれいけんしょうほうりゃく)とは、自分の仮説に当てはまる例ばかりを選んで試してしまう、確かめ方の癖のことです。

反証を先に書いておく

癖をなくすのは難しいので、手順のほうで埋め合わせます。仮説を書いた紙の余白に、もう一行だけ足しておくやり方が手軽です。

「外れるとしたら何が見つかるか」

仮説と一緒に、それが間違っていた場合に観測されるはずの事実を書いておきます。先に書いておけば、あとから出てきた不都合な数字を見なかったことにしにくくなります。反証の条件は、自分との約束です。

撤退の条件を決めておく

「リピート率に差が出なければこの線は捨てる」と決めてから調べ始めます。差が出なかったあとに基準を作ろうとすると、人は必ず自分に甘い基準を作ります。順番が効いているところです。

そもそも検証できない仮説

三つめの失敗は、立てた時点で勝負がついています。どうやっても外れようのない仮説は、当たっても何も教えてくれません。

「たぶんうまくいく」は仮説ではない

「顧客志向が足りない」「コミュニケーションに課題がある」も同じ仲間です。反対のことを主張しにくい言い方は、だいたい検証の対象になりません。誰も否定しない一文が出てきたら、そこで一度止まる合図だと思ってください。

明日の仕事で仮説思考をどう使う?

長引く会議で退屈そうにしている人たちのイラスト

大がかりな導入は要りません。いつもの作業の順番を、少しだけ入れ替えるところから始められます。

調べる前に一行だけ書く

検索窓を開く前に、「たぶん答えはこうだ」と一行書いてから調べます。書いた内容が的外れでもかまいません。目的は当てることではなく、検索結果を眺める目に焦点を作ることにあります。

白紙で資料を読むと、どの段落も同じ重さで目に入ってくるはずです。一行の仮説があるだけで、関係のある段落とない段落が勝手に分かれて見えるようになります。

会議には「たたき台」を持ち込む

白紙から議論を始めると、最初の三十分は論点探しに消えてしまうものです。粗くても仮の結論を持ち込めば、参加者の仕事は「直すこと」に変わります。直すほうが、生み出すよりずっと速いものです。

このとき「叩いてください」と最初に言っておくと、場が動きやすくなります。仮説は否定されるために置かれているという前提を、先に共有してしまうわけです。

チームで使うときに気をつけること

役職が上の人が仮説を出すと、それは仮説ではなく指示として受け取られます。誰の仮説かを隠して並べる、複数案を必ずセットで出す。そんな工夫が要るところです。

仮説を取り下げた人が評価されるチームかどうかも、じつは効きます。撤回が恥になる場所では、外れた仮説が最後まで生き延びてしまうからです。

豆知識 — 仮説思考は「当てる技術」ではない

ダーツの矢を投げる男性のイラスト

『仮説思考』が出たのは二〇〇六年三月三十一日ですが、この本の面白いところは、仮説を当てる方法をほとんど語っていない点にあります。章立ては「使う」「立てる」「検証する」と進み、精度を上げる話は最後まで来ません。

成績を分けるのは能力ではなく手つき

ウェイソンの課題でも同じことが言えます。あの課題で成績のよい人は、頭の回転が速い人ではなく、自分の考えに合わない三つ組をわざわざ試してみた人です。違いは能力ではなく、手つきのほうにありました。

パースが探究の出発点に置いたのも、正解ではなく驚きでした。仮説思考という言葉はいかにも切れ味のよさそうな響きですが、実のところ中身は、間違え方をていねいに設計する技術に近いようです。

仮説は、当たったときより外れたときのほうがよく働きます。最初の一本が外れても、消えたのは選択肢のほうで、こちらは何も失っていません。だから一本目は、気楽に外していいのです。

参考

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