世界地図のアフリカは実はもっと大きい——メルカトル図法の「ゆがみ」

身近な科学の話
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世界地図でアフリカとグリーンランドを見比べると、どちらも同じくらいの大きさに見えます。ところが実際の面積は、アフリカがグリーンランドの約14倍。同じ紙の上にあるのに、これほど印象と実物がずれている図はそう多くありません。

犯人は「メルカトル図法」という地図の描き方です。丸い地球を長方形の紙に写すと、赤道から遠い地域ほど大きく引き伸ばされてしまう。その仕組みと、なぜそんな地図がいまも世界中で使われ続けるのかを、順にほどいていきましょう。

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世界地図の大きさは、これだけ狂っている

まず、私たちが毎日見ている世界地図がどれくらい実物とずれているのか。代表的な例を一覧にしました。「見た目の印象」と「実際の面積」を並べると、地図の癖がはっきり見えてきます。

地域地図での見た目実際の面積ひとこと
グリーンランドアフリカ並みに巨大約216万km²実はアフリカの約14分の1
アフリカグリーンランドと同程度約3,037万km²実は約14倍
オーストラリアグリーンランドより小さそう約769万km²実はグリーンランドの3倍超
ロシア横に極端に長い約1,710万km²(世界一)一位は本当。でも盛られている
日本ほぼ見た目どおり約38万km²中緯度なので狂いは小さい

グリーンランドとアフリカ——同じに見えて14倍違う

地図の上では、ほぼ同じ大きさ

教室の壁に貼ってある世界地図を思い出してください。北の端で白く広がるグリーンランドは、赤道をまたぐアフリカ大陸に負けないくらい大きく描かれています。誰が見ても「同じくらいの大物」に見えるはずです。

実際はアフリカが約14倍

ところが実物は、グリーンランドが約216万平方キロメートル、アフリカが約3,037万平方キロメートル。その差はおよそ14倍にもなります。地図の第一印象は、面積に関してはまるで当てになりません。

グリーンランドとオーストラリア——見た目が逆転する

地図ではグリーンランドの勝ち

もっと極端なのが、グリーンランドとオーストラリアの比較でしょう。地図の上では、北にあるグリーンランドのほうが大きく、あるいは互角に見えます。素直に眺めれば、多くの人がグリーンランドに軍配を上げるはずです。

実際はオーストラリアが3倍以上

本当の面積は、オーストラリアが約769万平方キロメートルで、グリーンランドの3倍を超えています。見た目の勝者と実物の勝者が、きれいに入れ替わってしまうのです。この逆転こそ、メルカトル図法のいたずらを象徴する一例といえます。

ロシアは本当に大きい、でも盛られている

面積世界一は事実

すべてが錯覚というわけではありません。地図で横に長々と広がるロシアは、実際の面積も約1,710万平方キロメートルで堂々の世界一。ここは見た目と実物が一致しています。

それでも地図は引き伸ばしている

ただし「一位」という事実の上に、さらに水増しが乗っています。ロシアは国土の大半が高緯度にあるため、地図では実際以上に巨大化して見えるのです。本当に大きい国ほど、その大きさが誇張されやすいという皮肉があります。

なぜ高緯度ほど大きくなるのか

では、どうして北や南に行くほど地域が膨らむのか。原因は「丸いものを平らにする」という、地図が背負った根本的な無理にあります。

丸い地球を筒に写すという無理

円筒に巻きつけて写すイメージ

イメージをつかむなら、地球儀に紙の筒をぴったり巻きつけて、地形を筒に写しとる描き方を思い浮かべると近いでしょう。筒を切り開けば長方形の地図になります。地球儀では極に向かって細くすぼまる経線が、この地図ではすべて平行な縦線になるのがポイントです(実際の引き伸ばし量は、後述のとおり計算で細かく調整されています)。

北極と南極は写せない

この方式の弱点は、極が紙に収まらないこと。緯度が上がるほど引き伸ばしが強くなり、真上の北極点では拡大率が無限大になってしまいます。だからメルカトル図法の世界地図は、たいてい南北の端がばっさり切り落とされているのです。

拡大率は緯度で決まる

引き伸ばしの強さは、緯度によってきれいに数字で決まります。目安を表にまとめました。

緯度長さの拡大(約)面積の拡大(約)
0度(赤道)1.0倍1.0倍
30度1.15倍1.3倍
45度1.4倍2倍
60度2倍4倍
80度5.8倍約33倍

赤道は等倍、緯度60度で2倍

赤道の上では拡大がなく、実物どおりの縮尺で描かれます。ところが緯度60度まで北上すると、横も縦も2倍に引き伸ばされる。北欧やカナダ、ロシアの多くはこのあたりの緯度に位置しています。

面積は「2倍×2倍」で4倍になる

ここで見落としがちなのが、面積の効き方です。縦に2倍・横に2倍なら、面積はかけ算で4倍にふくらみます。緯度80度ともなると長さは約5.8倍、面積はおよそ33倍という、もはや別物のスケールです。

だからグリーンランドだけ極端に膨らむ

高緯度に丸ごと乗っている

グリーンランドは、島の全体が北緯60度から83度あたりに収まっています。つまり「面積が4倍以上に盛られるゾーン」にすっぽり乗っているわけです。実物の何倍にも水増しされて、アフリカ並みの貫禄をまとうことになります。

赤道直下のアフリカは正確に近い

反対にアフリカ大陸は、赤道をまたいで南北に広がっています。大部分が拡大のほとんどない低緯度にあるため、地図でも実物に近い大きさで描かれる。「小さく見える」のではなく、アフリカだけが正直に描かれている、と言うほうが正確かもしれません。

そんなに歪むのに、なぜ使い続けるのか

これだけ面積が狂う地図が、なぜ何百年も生き残ってきたのか。答えは、この図法が「面積」ではなく別の大切なものを守るために生まれた、という一点にあります。

生まれは1569年、船乗りのための地図

メルカトルという地図職人

この図法を発表したのは、フランドル(現在のベルギー周辺)の地図製作者ゲラルドゥス・メルカトル。時は1569年、大航海時代のただ中でした。彼の名がそのまま図法の名前として、今日まで残っています。

「航海者のために補正した」という副題

メルカトルが作った地図には、「航海者が使えるように補正した、新しい世界の描写」という趣旨の長い副題が添えられていました。つまりこの地図は、鑑賞用でも面積比較用でもなく、はじめから船乗りの実用品として設計されたものなのです。

一定の方角で進める「等角航路」

直線を引けば、その角度で進める

この図法の最大の長所は、出発地と目的地を直線で結ぶと、その線が「つねに同じ方角」を示すこと。地図上で線を引き、分度器でその角度を測れば、あとはその方角を守って進むだけで目的地に着けます。この一定方位の進路を「等角航路」と呼びます。

等角図法とは、地図上の角度が実際の地球上の角度と一致するように描いた図法のことです。面積は正しく表せませんが、局所的な形と方角は保たれます。

コンパス一つで大洋を渡れる

GPSはおろか正確な時計すらなかった時代、羅針盤の方角だけを頼りに大海原を渡るのは命がけでした。進路の途中で角度を計算し直さなくてよいこの地図は、船乗りにとってまさに革命だったのです。多少アフリカが小さく見えようと、無事に港へ着けるほうがよほど大切でした。

大きさを捨てて、角度を守った

すべてを正しくはできない

丸い地球を平らにする以上、面積・形・角度・距離のすべてを同時に正しく写すことは原理的にできません。何かを立てれば何かが崩れる。メルカトルは、航海に必要な「角度」を最優先に選んだわけです。

形は保たれ、面積は崩れる

その代償として犠牲になったのが面積でした。狭い範囲で見れば国や島の形はきちんと保たれる一方、広い範囲での大きさ比べはまるで当てにならない。「正しい形」と引き換えに「正しい大きさ」を手放した地図、それがメルカトル図法なのです。

面積を正しくした地図もある

面積が狂うのが困るなら、面積を正しく描く地図を使えばよい。実際そうした地図は存在します。ただし、そこにもやはりトレードオフが待っています。

正積図法——大きさは正しいが形が崩れる

正積図法(せいせきずほう)とは、地図上の面積の比率が実際の地球と等しくなるように描いた図法のことです。統計地図や分布図など、広さを比べたい用途で使われます。

ガル・ペータース図法

面積を正しく保つ地図の代表が、ガル・ペータース図法です。この地図ではアフリカやインドが堂々と大きく、グリーンランドは小さく描かれます。そのぶん、赤道付近の大陸は縦に間のびした形にゆがんでしまうのが弱点です。

モルワイデ図法・グード図法

地球全体を楕円形に描くモルワイデ図法や、その楕円を海の上で切り込んでゆがみを逃がすグード図法も、面積を正しく保つ仲間です。世界の人口分布や気候の広がりを見せる地図では、こうした正積図法がよく選ばれます。目的が「広さの比較」なら、四角い地図より正直です。

「完璧な平面地図」は原理的に作れない

球を平らにする時点でどこかが歪む

ここで大事なのは、どんな図法にも必ず弱点があるということ。みかんの皮をやぶかずに平らに広げられないのと同じで、球面を平面に写せば、面積・形・距離のどれかは必ず犠牲になります。「すべて正しい平面世界地図」は、数学的に存在しません。

だから用途で使い分ける

つまり地図に優劣はなく、あるのは向き不向きだけです。航路を引くならメルカトル、広さを比べるなら正積図法、というように目的で選ぶのが正解。悪いのは地図ではなく、一枚の地図をすべての用途に使い回してしまう見方のほうかもしれません。

新しい折衷案と、いちばん正直な地図

イコールアース図法(2018年)

面積の正しさを保ちつつ、見た目のバランスもよくしようという新しい試みも生まれています。2018年に発表された「イコールアース図法」はその一つで、正積を守りながら大陸の形が自然に見えるよう工夫されています。地図づくりは、今も進化の途中なのです。

結局、地球儀がいちばん正確

どんな平面図法も一長一短だとすれば、面積も形も距離も正しい地図はただ一つ——地球儀です。丸いものは丸いまま見るのがいちばん正直、という当たり前の結論に行き着きます。持ち運びに困るという、これまた当たり前の弱点はありますが。

スマホの地図で「本当の大きさ」を確かめる

ここまで見てきたゆがみは、昔の話ではありません。私たちが毎日開くスマホの地図こそ、メルカトル図法の直系の子孫です。そして今は、そのゆがみを自分の手で確かめることもできます。

Googleマップもメルカトルの仲間

ウェブメルカトルという方式

Googleマップをはじめ、多くのウェブ地図は「ウェブメルカトル」と呼ばれる方式で描かれています。これはメルカトル図法をコンピュータ向けに調整したもの。真上を北にしたまま拡大・縮小しやすく、道案内には都合がよいためです。だから世界全体を表示すると、やはりグリーンランドは巨大に見えます。

2018年、ズームアウトで地球儀に

もっとも、Googleマップは2018年から、パソコンで思い切りズームアウトすると平面地図が3D地球儀に切り替わるようになりました。この表示なら、グリーンランドはもうアフリカ大の大きさには見えません。ゆがみを承知のうえで、正直な姿も選べるようになったわけです。

自分の目で確かめる方法

国を赤道までドラッグしてみる

「The True Size of…」のような、国の形を地図上で動かせるサイトも公開されています。グリーンランドをつまんで赤道のほうへ引っぱると、みるみる縮んでいく様子が見られます。数字で「14倍」と言われるより、この方がずっと腑に落ちるはずです。

高緯度の国ほど劇的に縮む

同じ操作をロシアやカナダで試すと、やはり赤道へ近づけるほど小さくなります。逆に、赤道付近の国を北へ動かせば、今度はぐんぐん巨大化する。緯度と大きさの関係を、指先ひとつで体感できる時代になりました。

世界地図は、私たちに嘘をついているわけではありません。「角度を正しく」という一つの目的のために、あえて大きさを譲った結果の姿です。次に世界地図を広げるときは、北の端の国々を少しだけ割り引いて眺めてみる。それだけで、平べったい一枚の紙の向こうに、丸い地球の本当の姿が見えてきます。

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