教室の世界地図では、グリーンランドがアフリカと同じくらい大きく見えます。けれど実際の面積は、アフリカがグリーンランドの約14倍です。原因はメルカトル図法という描き方にあります。丸い地球を長方形に写すため、赤道から離れた土地ほど大きく引き伸ばされるのです。この図法は1569年に船乗りの道具として生まれ、面積と引き換えに「方角の正しさ」を守りました。
地図と実物はどれだけ違う?

グリーンランドとアフリカは14倍の差
メルカトル図法の世界地図では、北の端に白く広がるグリーンランドが、赤道をまたぐアフリカ大陸に負けない存在感で描かれます。ところが面積はグリーンランドが約217万平方キロメートル、アフリカは約3,037万平方キロメートルです。割り算をすると、およそ14倍の開きになります。
アフリカは地球の陸地のおよそ2割を占める大陸です。地図の第一印象は、面積の比べっこではまるで当てになりません。
オーストラリアとは見た目が逆転する
もっと極端なのが、グリーンランドとオーストラリアの組み合わせです。地図の上では北のグリーンランドのほうが大きく見えます。実際のオーストラリアは約769万平方キロメートルで、グリーンランドの3倍を超えます。見た目の勝者と本当の勝者が、そっくり入れ替わってしまう例です。
ロシアは本当に世界一、ただし誇張つき
すべてが錯覚というわけではありません。ロシアの面積は約1,710万平方キロメートルで、国としては本当に世界一です。ただ国土の大半が北緯50度より北にあるため、地図ではその大きさにさらに上乗せがかかります。本当に大きい国ほど、地図ではいっそう大きく見えるという皮肉な関係です。
主な地域の見た目と実際の面積
ここまでの数字を並べてみます。北にある地域ほど、見た目と実際の差が大きい。
| 地域 | おもな緯度 | 実際の面積 | 地図での印象 |
|---|---|---|---|
| グリーンランド | 北緯59〜83度 | 約217万km² | アフリカ並みに巨大 |
| ロシア | 北緯41〜81度 | 約1,710万km² | 実際以上に横長 |
| 日本 | 北緯20〜45度 | 約38万km² | やや大きめ |
| オーストラリア | 南緯10〜43度 | 約769万km² | グリーンランドより小さそう |
| アフリカ | 北緯37度〜南緯35度 | 約3,037万km² | 実物に近い |
なぜ北へ行くほど大きくなる?

すぼまる経線を平行にそろえた
地球儀の経線は、北極と南極に向かって細くすぼまっていきます。この経線を、すべて等間隔の平行な縦線として描くのがメルカトル図法です。すると北へ行くほど、実際には短いはずの緯線が横に引き伸ばされることになります。北緯60度の緯線は赤道の半分の長さしかないのに、地図の上では赤道と同じ長さ。
縦にも同じだけ引き伸ばす
横だけ伸ばすと、土地の形がつぶれて見えてしまいます。そこでメルカトルは、高緯度ほど緯線の間隔を広げ、縦にも横と同じ割合で伸ばしました。第一学習社の地理資料も、緯線の間隔は「高緯度に向かうにつれて」広がると説明しています。縦横を同じだけ伸ばすから、小さな範囲で見た島や半島の形は崩れません。
北極と南極は描けない
この伸ばし方には限界があります。緯度90度の極では引き伸ばしが無限大になり、紙に収まりません。そのためメルカトル図法の世界地図は、南北の端を途中で切り落としています。国土地理院の地理院地図も、北緯・南緯約85.0511度より極側を除き、世界全体を正方形に収める仕組みです。
拡大率は緯度で決まる

赤道は等倍、北緯60度で2倍
引き伸ばしの強さは、緯度だけで決まります。赤道の上では等倍で、実物どおりの縮尺です。北緯60度まで来ると、横にも縦にも2倍に伸びます。北欧やカナダ北部、ロシアの多くはこのあたりの緯度にあります。目安を表にすると次のとおりです。
| 緯度 | 長さの拡大(約) | 面積の拡大(約) |
|---|---|---|
| 0度(赤道) | 1.0倍 | 1.0倍 |
| 30度 | 1.15倍 | 1.3倍 |
| 45度 | 1.4倍 | 2倍 |
| 60度 | 2倍 | 4倍 |
| 80度 | 5.8倍 | 約33倍 |
面積は「2倍×2倍」で4倍になる
見落としやすいのが、面積への効き方です。縦に2倍・横に2倍なら、面積はかけ算で4倍にふくらみます。長さの拡大率は「1÷緯度のコサイン」で求められ、面積はその2乗です。北緯80度では長さが約5.8倍、面積は約33倍に達します。ここまで来ると、もはや別物の縮尺です。
グリーンランドは丸ごと高緯度にある
グリーンランドは、島の全体がおよそ北緯59度から83度に収まっています。面積が4倍以上に盛られる帯の上に、すっぽり乗っている格好です。北の端に近い部分ほど拡大はさらに強まります。こうして実物の何倍にも水増しされ、アフリカ並みの貫禄をまとうわけです。
アフリカは正直に描かれている
アフリカ大陸は赤道をまたいで、北緯37度から南緯35度あたりまで広がっています。大部分が拡大の小さい低緯度にあるため、地図でもほぼ実物に近い大きさです。アフリカが小さく描かれているというより、北の土地だけが大きく描かれていると言うほうが正確でしょう。
1569年、船乗りのための地図

メルカトルが作った18枚の大地図
この図法を最初に使ったのは、フランドル(いまのベルギー周辺)出身の地図製作者ゲラルドゥス・メルカトルです。1569年、大航海時代のさなかに世界地図を出版しました。地図は18枚の紙に分けて刷られ、銅版はメルカトル自身が彫ったとされています。彼の名前は、そのまま図法の名前として残りました。
題名は「航海用に正しく補正した」
地図のラテン語の題名は、訳すと「航海での使用に正しく合わせた、新しく増補された地球の描写」という意味になります。鑑賞用でも、面積を比べるためのものでもありません。はじめから船乗りの実用品として設計された地図でした。北極のまわりは本図に収まらないため、別の図法で描いた小さな図が添えられました。
角度を守るとなぜ便利?

直線を引けば同じ角度で進める
この地図の上で2つの地点を結んだ直線は、「等角航路」と呼ばれる進路を表します。直線と経線のなす角を「舵角(だかく)」といい、この角度を保って船を進めれば目的地に着けます。第一学習社の資料によれば、航海図に用いられたのはこの性質のためでした。地図に定規を当てて角度を測るだけで、進む方角が決まるわけです。
※ 等角航路とは、どの経線とも同じ角度で交わり続ける進路のことです。最短の道筋ではありませんが、羅針盤の方角を一定に保つだけでたどれます。
羅針盤ひとつで大洋を渡った時代
GPSはもちろん、正確な時計もまだなかった時代です。船乗りは羅針盤の示す方角を頼りに大海原を渡っていました。途中で角度を計算し直さずに済む地図は、航海の負担を大きく減らしました。陸地の大きさが多少ずれていても、港に無事着けることのほうがずっと大切だったのです。
大きさを手放して角度を取った
丸い地球を平らにする以上、面積・形・角度・距離のすべてを同時に正しく写すことはできません。メルカトルは航海に欠かせない角度を選び、その代わりに面積を手放しました。第一学習社の資料では、メルカトル図法は「正角図法」に分類されています。狭い範囲の形は正しく、広い範囲の大きさ比べは苦手。その性格は、この選択から来ています。
面積が正しい地図はどれ?

正積図法は大きさを優先する
面積を比べたいときに向くのが、面積の比率を正しく保つ「正積図法(せいせきずほう)」の地図。人口や気候の分布を色分けした地図では、こちらがよく選ばれます。ただし大きさを守る代わりに、形のどこかにゆがみが出ます。地図の世界では、何かを立てれば何かが崩れるのが常です。
ガル・ペータース図法は縦に間のびする
代表例のひとつがガル・ペータース図法です。1855年にイギリスのジェームズ・ゴールが発表し、1973年にドイツのアルノ・ペータースが世界地図として広めました。アフリカは堂々と大きく描かれますが、赤道付近の大陸は縦に間のびした形になります。2017年には、アメリカのボストン市の公立学校がこの地図を教室に取り入れ始めました。
モルワイデ図法とグード図法
モルワイデ図法は、1805年にドイツのモルワイデが考えた楕円形の正積図法です。グード図法は1923年にアメリカのグードが考案しました。低緯度に強いサンソン図法と、高緯度が見やすいモルワイデ図法を、北緯・南緯40度44分でつなぎ合わせたものです。大陸の形を保つために、海の部分に切れ込みを入れてあります。
イコールアース図法は2018年生まれ
比較的新しいのがイコールアース図法です。2018年にボヤン・シャブリッチらが発表しました。面積の正しさを守りながら、地図帳でおなじみのロビンソン図法に近い自然な見た目を目指しています。きっかけは、ボストンの学校がガル・ペータース図法を採用した際の議論でした。形のゆがみが大きすぎるという声を受け、別の正積図法を作ったのです。
アフリカの大きさを正しく見せる運動

アフリカ連合が2025年に後押し
地図の大きさの問題は、教室の雑学だけでは終わりません。アフリカの市民団体が始めた「Correct the Map(地図を正そう)」という運動があります。2025年8月には、アフリカ諸国でつくるアフリカ連合(AU)がこの運動への支持を表明しました。求めているのは、学校や政府・国際機関がメルカトル図法からイコールアース図法へ切り替えることです。
地図は見る人の印象をつくる
運動の背景には、小さく描かれた地図がアフリカを周縁の地域だと思わせてきた、という問題意識があります。アフリカは世界で2番目に大きな大陸で、10億人を超える人が暮らす土地です。図法を選ぶことは、単なる技術の話にとどまらないのかもしれません。どの地図を毎日目にするかで、世界の見え方は少しずつ変わります。
スマホの地図もメルカトルの仲間

ウェブ地図の標準は「ウェブメルカトル」
私たちが毎日開くウェブ地図も、メルカトル図法の子孫です。Googleマップが2005年に採用して以来、「ウェブメルカトル」と呼ばれる方式が事実上の標準になりました。国土地理院の地理院地図も、メルカトル投影の数式で座標を変換しています。北が常に上で、どこを拡大しても形が崩れにくく、道案内に向いているからです。
2018年、ズームアウトで地球儀に
とはいえ世界全体を平面で表示すると、グリーンランドはやはり巨大に見えます。そこでGoogleマップは2018年8月、パソコン版で最大まで縮小すると立体の地球儀に切り替わる表示を加えました。当時のGoogleマップの公式投稿は、グリーンランドがもうアフリカの大きさには見えない、と紹介していました。
国を赤道まで動かして比べる
国の輪郭をつまんで地図上を動かせるウェブサイトもあります。グリーンランドを赤道のほうへ引っぱると、みるみる縮んでいく。逆に赤道付近の国を北へ動かせば、今度はぐんぐん大きくなります。「14倍」という数字を読むより、指先で動かしたほうがずっと腑に落ちるはずです。
メルカトル図法の世界地図は、うそをついているわけではありません。「方角を正しく」というひとつの目的のために、大きさを譲った姿です。面積も形も方角も正しい地図は、結局のところ丸い地球儀だけ。平らな一枚の紙には、いつも何かを選んだ跡が残っています。
参考
- 第一学習社「図法の種類と特徴」(地理資料GEO)
- 国土地理院「地理院タイルについて」
- GeoGarage blog「Google Maps now has globe projection」(2018年8月)
- Hyperallergic「Africa Wants a More Accurate World Map」(2025年8月)
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