台風に名前をつけるのは、同じ時期にいくつも台風があるときに取り違えず、国をまたいで同じ呼び名で注意を伝えるためです。名前は日本を含む14の国と地域が出し合った140個を順に使い、日本が出した10個はすべて星座の名前。2026年7月には、そのうち3つが新しい星座に入れ替わりました。
名前があると何が助かる?

番号だけだと同時に並んだ台風を取り違えやすい
「台風18号と19号と20号が接近中」。数字だけで聞くと、どれがどの台風なのか頭の中で入れ替わりがちです。台風は同じ時期にいくつも発生することがあり、近い番号ほど聞き間違いも起きやすくなります。
世界気象機関(WMO)の説明でも、名前の大きな役目は同時に発生した嵐の見分けです。予報官や報道機関、防災機関から一般の人まで、混乱を減らせるとしています。
国をまたいでも同じ名前で呼べる
一つの台風がフィリピンの東から台湾、沖縄へと進むことは珍しくありません。日本の「第○号」は気象庁が独自に数える番号なので、ほかの国でもそのまま通じるとは限りません。共通の名前があれば、各国の気象機関や船・航空機のあいだで、同じ台風を指していると確かめやすくなります。WMOの位置づけは、警報を伝えて備えを促す「いちばん速い方法」です。
あとから記録をたどるときの目印になる
名前は、過ぎ去った台風をふり返るときにも役に立ちます。WMOは、名前が台風の記録づくりや、進み方・被害の研究にも使われるとしています。「何年の何号」と覚えるより、名前のほうが被害の様子や教訓と結びつけて思い出しやすいものです。
名付け親は14の国と地域でつくる台風委員会

140個のリストは各国が10個ずつ出し合ったもの
台風のアジア名を決めているのは、一つの国ではありません。北西太平洋や南シナ海の台風の影響を受ける14の国と地域が加盟する「台風委員会」です。加盟するのは日本・中国・韓国・フィリピン・米国など。それぞれが10個ずつ名前を出し合って、合計140個のリストができています。
※ 台風委員会とは、国連のアジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)と世界気象機関(WMO)が共同で設けた政府間の組織で、台風の被害を減らすために加盟国・地域が協力しています。
2000年の第1号はカンボジアの「ダムレイ」
リストの名前は、台風が発生した順に上から割り当てられるしくみ。提案国の並びも決まっていて、カンボジア・中国・北朝鮮・香港・日本・ラオス・マカオ・マレーシア・ミクロネシア・フィリピン・韓国・タイ・米国・ベトナムの順に回ります。アジア名が始まった2000年の台風第1号には、先頭にあるカンボジアの「ダムレイ(象)」がつきました。
140個はおよそ5〜6年でひと回り
140個を使い切ると、リストの先頭に戻ってまた順に使います。気象庁によると、台風の年間発生数の平年値は25.1個。リストがひと回りするのはおおむね5〜6年で、同じ名前が数年おきにニュースへ戻ってくるのはこのためです。
2000年までは米国がつけた英語の人名
アジア名が始まる前、北西太平洋の台風には米国が英語の人名をつけていました。WMOによると、嵐に女性の名前をつける習慣は20世紀の半ばに広まり、大西洋では1979年から男性の名前も交互に使われるようになりました。
いまのWMOは、その地域の人になじみがあり、短くて発音しやすい名前を選ぶことを命名の条件に挙げています。アジアの台風をアジアの言葉で呼ぶいまのしくみは、この考え方に沿ったものです。
「台風19号」と名前はどう違う?

番号は気象庁が1月1日から数える
日本のニュースでよく聞くのは「台風第19号」のような番号です。これは気象庁が、毎年1月1日以後に最も早く発生した台風を第1号とし、発生した順につけていく番号。アジア名とは別のしくみで、片方がもう片方の言い換えというわけではありません。
一度弱まって再び発達しても番号は同じ
台風はいったん勢力を落として「熱帯低気圧」になり、そこからまた台風に発達することがあります。この場合も新しい番号は振らず、もとの番号を使い続けます。同じ台風を2回数えてしまわないための決まりです。
リストに無い名前の台風が来ることもある
北西太平洋の外で生まれた嵐が入ってくると、事情が変わります。東経180度より東、または東経100度より西で発達した熱帯低気圧が北西太平洋に入って台風になった場合は、その海域を受け持つ気象機関がすでにつけた名前をそのまま使う決まりです。140個のリストに無い名前の台風は、こうして現れます。
日本の10個はなぜ星座なのか

2026年7月からの日本の10個
日本が出している10個は、どれも星座から取った名前です。動物の名前に見えるものも、もとは「こいぬ座」「くじら座」のような星座。気象庁の一覧に載っている、いまの顔ぶれは次のとおりです。
| リストの番号 | アジア名 | もとの星座 |
|---|---|---|
| 5 | コイヌ | こいぬ座 |
| 19 | トモ | とも座 |
| 33 | ヘビ | へび座 |
| 47 | カジキ | かじき座 |
| 61 | コト | こと座 |
| 75 | クジラ | くじら座 |
| 89 | コグマ | こぐま座 |
| 103 | トケイ | とけい座 |
| 117 | トカゲ | とかげ座 |
| 131 | ヤマネコ | やまねこ座 |
「トモ」は船の後ろの部分を指す「艫(とも)」のこと。耳で聞くと星座だとは気づきにくい名前です。
番号が14ずつ飛ぶのは提案国が順に回るから
表の番号は5、19、33……と14ずつ増えています。14の国と地域が順番に名前を出すので、日本の名前は毎回5番目の席に回ってくるのです。台風が14個発生するあいだに、日本の星座がひとつ使われる計算になります。
中立で利害関係が生じにくい
気象庁が星座を選んだ理由として挙げるのは、まず「中立的」で利害関係が生じにくいことです。人の名前や会社名、地名を台風につければ、大きな被害が出たときにその名前を持つ人や土地が嫌な思いをしかねません。誰のものでもない星座なら、その心配は小さくなります。
台風と同じ空にあり、親しまれている
ウェザーニュースは、星座が大気の現象である台風と同じ「天空」にあってイメージがつながること、人々に親しまれていることも理由として紹介しています。星座は全部で88個あるので、名前が引退しても次の候補に困りにくいのも強みといえそうです。
大きな災害を出した名前は引退する

加盟国・地域の求めで以後は使わない
140個の名前は、ずっと同じではありません。気象庁によると、大きな災害をもたらした台風の名前は変更されることがあります。台風委員会の加盟国・地域から要請があれば、以後の台風には使わないという扱いです。被害の記憶と結びついた名前を、次の台風に使わないための配慮です。
空いた席には同じ国が新しい名前を出す
引退で空いた席は欠番にしません。その名前を出した国や地域が代わりの名前を出し、リストの同じ位置に入れます。140個という総数はそのままに、中身だけが少しずつ入れ替わっていくしくみです。
2026年までに77個が引退
ウェザーニュースによると、2026年に適用された分までで引退した名前は合計77個。140個のリストの半分を超える数が、26年ほどのあいだに入れ替わったことになります。
なかには、発音が紛らわしいといった理由で外れた名前も含まれます。とはいえこの入れ替わりの多さは、アジアの国々が大きな台風被害を何度も受けてきた記録でもあるのです。
日本の名前も8個が入れ替わった

ワシからウサギまで、後継ぎも星座
日本が出した名前も例外ではありません。ウェザーニュースのまとめでは、これまでに引退した日本の名前は8個。後を継いだ名前も、すべて星座から取られています。
| 引退した名前 | 最後に使われた台風 | 後を継いだ名前 |
|---|---|---|
| ワシ | 2011年台風第23号 | ハト |
| コップ | 2015年台風第24号 | コグマ |
| ハト | 2017年台風第13号 | ヤマネコ |
| テンビン | 2017年台風第27号 | コイヌ |
| カンムリ | 2019年台風第28号 | コト |
| コンパス | 2021年台風第18号 | トケイ |
| ヤギ | 2024年台風第11号 | トモ |
| ウサギ | 2024年台風第25号 | ヘビ |
ハトは引退した名前の後継ぎだった
表をよく見ると、「ワシ」の後を継いだ「ハト」も、2017年には引退しています。その席に入ったのが、いまの「ヤマネコ」です。一つの席が10年足らずのあいだに2回入れ替わったことになり、名前の顔ぶれが思いのほか早く変わることが分かります。
2026年7月にヤギ・ウサギ・コンパスが交代
いちばん新しい入れ替わりは2026年7月です。ヤギはトモへ、ウサギはヘビへ、コンパスはトケイへ。気象庁の一覧もすでに新しい顔ぶれになっていて、少し前の解説でウサギやヤギが日本の名前として紹介されているのは、この交代より前に書かれたものだからです。
日本には別の「台風の名前」もある

伊勢湾台風は気象庁がつけた名前
アジア名とは別に、気象庁は特に大きな災害をもたらした気象現象に名前を定めています。台風では「洞爺丸台風(1954年の台風第15号)」や「伊勢湾台風(1959年の台風第15号)」など10件。前もって用意しておくアジア名とは逆に、災害の記録として残すための名前です。
令和元年の2つの台風には名前が2つずつ
いちばん新しいのは、2019年(令和元年)の台風第15号「令和元年房総半島台風」と、第19号「令和元年東日本台風」。この2つにはアジア名もあり、それぞれ「ファクサイ」と「ハギビス」でした。どちらの名前も、いまの140個のリストには載っていません。日本で大きな被害を出した台風の名前も、アジアのリストからはすでに外れているのです。
台風の名前は、番号だけでは伝えにくいものを補うための道具です。14の国と地域が少しずつ持ち寄り、被害が出れば入れ替え、日本はその席を星座で守ってきました。天気予報で「トモ」や「トケイ」を耳にしたら、それは2026年にリストへ加わったばかりの新しい星座の名前です。
参考
- 気象庁「台風の番号とアジア名の付け方」
- 気象庁「気象庁が名称を定めた気象・地震・火山現象一覧」
- ウェザーニュース「台風の名前はどうやって決める? 日本など提案のアジア名140個の呼名リスト」
- 世界気象機関(WMO)「Tropical Cyclone Naming」
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