川の「右岸・左岸」はどっちから見て右なのか——上流を背に、下流を向いて決める

日本の地理と自然
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天気予報やハザードマップで「○○川の右岸で……」と聞いて、どちらが右岸なのか一瞬迷った経験はないでしょうか。答えははっきり決まっています。川の流れる方向、つまり上流から下流を向いて右側が右岸、左側が左岸です。自分が立っている場所ではなく、川そのものの向きを物差しにするのがポイントになります。

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  1. 下流を向いて右が「右岸」——見分け方は向き一つ
  2. なぜ「立っている人」ではなく「川の流れ」で決めるのか
    1. 人を基準にすると「右」が裏返る
      1. 向かい合う二人には右が逆に見える
      2. 川の流れは「動かない物差し」になる
    2. だから「対岸」も自動的に決まる
      1. 右岸に立てば、向かいは必ず左岸
  3. 地図では「右岸が左」に見えることがある
    1. 北へ流れる川もある
      1. 南から北へ流れる川では、地図の右が右岸
      2. 北から南へ流れる川では、地図の左が右岸
    2. 迷ったら、先に上流・下流を見つける
      1. 河口・標高・支流の合流で流れの向きがわかる
  4. 右岸・左岸は、防災と住所で活きている
    1. 氾濫情報や堤防工事の区別に使う
      1. 「○○川右岸で氾濫のおそれ」の右岸は、この右岸
      2. 堤防やハザードマップは、左右で別に管理される
    2. 同じ川でも、右岸と左岸で市区町村が違う
      1. 多摩川は右岸が神奈川・左岸が東京
  5. 船の「右舷・左舷」も、同じ考え方でできている
    1. 進行方向を向いて右が右舷(starboard)
      1. starboardは「舵の側」だった名残
      2. portは「舵のない側を岸につけた」から
    2. 「面舵」「取舵」は十二支から来ている
      1. 進行方向を子、右を卯・左を酉に当てた
  6. パリの「右岸・左岸」が語る、もう一つの顔
    1. セーヌ川も、下流を向いて北が右岸
    2. 右岸は商業、左岸は文化の街
  7. 関連記事

下流を向いて右が「右岸」——見分け方は向き一つ

川で遊ぶ子どもたち

右岸か左岸かは、たった一つの向きさえ押さえれば迷いません。その向きと覚え方を、先に表にまとめました。

呼び名どちら側か覚え方
右岸上流から下流を向いて右側流れる先を向いて、右手のほう
左岸上流から下流を向いて左側流れる先を向いて、左手のほう

この決め方は、国土交通省などの河川管理で使われる正式なものです。上流から河口に向かって右側が右岸、左側が左岸。そう定義されているため、川のどちら岸に立っても、地図のどこを開いても指し示す場所は同じになります。

なぜ「立っている人」ではなく「川の流れ」で決めるのか

上流から下流へと流れる川の風景

わざわざ流れの向きを基準にするのには、ちゃんと理由があります。人を基準にすると、答えが人によって裏返ってしまうのです。

人を基準にすると「右」が裏返る

向かい合う二人には右が逆に見える

もし「土手に立った人から見て右」で決めると、右岸に立つ人と左岸に立つ人とでは、右手の指す向きが正反対になります。同じ一つの岸を、片方は「右」ともう片方は「左」と呼ぶことになり、話がかみ合いません。人の向きは、その場でくるりと変えられてしまうからです。

川の流れは「動かない物差し」になる

その点、川の流れは上流から下流への一方向で、見る人がどこにいても変わりません。この動かない向きを基準にすれば、答えはいつも一つに決まります。東西南北の方角で決める手もありそうですが、川は曲がりくねって流れるので、同じ川でも場所によって東岸と西岸が入れ替わってしまう。流れの向きなら、川に沿ってどこまでも一貫します。

だから「対岸」も自動的に決まる

右岸に立てば、向かいは必ず左岸

右岸・左岸が流れの向きで決まる以上、自分が右岸にいれば、川を挟んだ向こう岸は必ず左岸です。「右岸の集落」「左岸を走る道路」と言えば、電話越しでも地図の上でも、相手と同じ一点を指し示せます。左右を言い間違えると全く逆の場所になってしまうので、河川の現場では基本の共通語になっています。

地図では「右岸が左」に見えることがある

北を上にして描かれた日本地図

ここで多くの人がつまずくのが、地図と右岸・左岸の関係です。地図の右にある岸を右岸だと思い込むと、川によっては取り違えます。

北へ流れる川もある

南から北へ流れる川では、地図の右が右岸

地図は北を上にして描かれるのが普通です。川が南から北へ流れている場合、下流にあたる北を向くと、自分の右手が指すのは東の方角。地図では右側です。このときは「地図の右=右岸」となり、直感どおりに一致します。

北から南へ流れる川では、地図の左が右岸

ところが北(上)から南(下)へ流れる川だと、話は逆になります。下流の南を向くと右手は西を指し、地図では左側。つまり地図をぱっと見て右にある岸のほうが、実際には左岸ということが起こります。日本でも、諏訪湖から遠州灘へ下る天竜川のように、北から南へ流れる川は各地にあります。「地図の右が右岸」という思い込みは、いちばんの落とし穴です。

迷ったら、先に上流・下流を見つける

河口・標高・支流の合流で流れの向きがわかる

取り違えないコツは、右か左かを先に決めようとせず、まず流れの向きを確かめることです。海や湖につながる河口側が下流、山側・標高の高い側が上流。支流が本流に合流している地点なら、合わさって水量が増える側が下流です。向きさえ定まれば、あとは下流を向いて右手か左手かを見るだけで済みます。

右岸・左岸は、防災と住所で活きている

大雨で水かさが増した川と堤防

右岸・左岸は専門用語のようでいて、暮らしの安全や行政の区切りに直結する言葉です。知らないと困る場面が、意外なほど身近にひそんでいます。

氾濫情報や堤防工事の区別に使う

「○○川右岸で氾濫のおそれ」の右岸は、この右岸

大雨のとき、河川管理者や自治体は「△△川、右岸○○地区で氾濫のおそれ」という形で危険な場所を知らせます。ここでの右岸も、下流を向いて右側という同じ定義です。左右を取り違えると避難の判断そのものがずれてしまうため、自分の住まいが右岸か左岸かを平時に確かめておくと役立ちます。

堤防やハザードマップは、左右で別に管理される

堤防の高さや工事、遊水地の配置も、右岸・左岸で分けて計画されます。同じ川でも右岸だけ堤防が低かったり、左岸に水をあふれさせて逃がす区域があったりと、左右で治水の事情が違うことは珍しくありません。ハザードマップを見るときも、自分がどちらの岸かを押さえておくと、危険度を正しく読み取れます。

同じ川でも、右岸と左岸で市区町村が違う

多摩川は右岸が神奈川・左岸が東京

川が県境や市境になっている場所では、右岸と左岸で行政区域が分かれます。たとえば多摩川は、下流を向いて右側の右岸が神奈川県(川崎市など)側、左側の左岸が東京都側です。同じ川べりを歩いていても、右岸と左岸では住所も、川を管理する自治体も違ってきます。ちなみに多摩川には、昔の流路が変わった名残もあるそうです。右岸側にわずかに東京都が食い込むなど、県境と河岸がぴったり一致しない区間も残っています。

船の「右舷・左舷」も、同じ考え方でできている

帆を張って進む昔の帆船

進行方向を基準に右・左を決める発想は、川だけのものではありません。船の右舷(うげん)・左舷(さげん)が、まさに同じ仕組みでできています。

進行方向を向いて右が右舷(starboard)

starboardは「舵の側」だった名残

船首、つまり進む方向を向いて右側が右舷、左側が左舷です。英語では右舷をスターボード(starboard)といい、これは steer(操船する)と board(側)が合わさった言葉とされます。船尾の真ん中に舵が付く前の時代、大きな操船用のオールを船の右側に下ろして舵を取っていた——その名残が、そのまま右側の呼び名になったのです。

portは「舵のない側を岸につけた」から

左舷は英語でポート(port)。舵のオールが右側にあると、右舷を岸に寄せたときにぶつけて傷めてしまいます。そこで舵のない左側を港(port)に着けて停めるのが習わしになり、それが左舷の呼び名として定着したといわれています。ここでも「進む向き」が右左を決める物差しになっているわけです。

「面舵」「取舵」は十二支から来ている

進行方向を子、右を卯・左を酉に当てた

日本語の号令では、面舵(おもかじ)が右、取舵(とりかじ)が左を指します。船の進む方向を十二支の子(ね)に見立てると、右舷側が卯(う)、左舷側が酉(とり)の方角にあたります。右の「卯舵(うかじ)」がなまって「おもかじ」に、左の「酉舵(とりかじ)」がそのまま「とりかじ」になったとされています(由来には諸説あります)。方角を使って左右を言い分ける工夫は、昔の人にとって自然なものだったのでしょう。

パリの「右岸・左岸」が語る、もう一つの顔

パリのエッフェル塔

右岸・左岸の決め方は世界共通で、フランス語にも右岸・左岸という言葉があります。パリでは、この呼び名が街の個性そのものを言い表す言葉になりました。

セーヌ川も、下流を向いて北が右岸

市内を流れるセーヌ川は、東(上流)から西(下流)へ向かって流れています。下流を向くと、北側が右岸(リヴ・ドロワット/Rive Droite)、南側が左岸(リヴ・ゴーシュ/Rive Gauche)。ルールは日本の川と全く変わりません。

右岸は商業、左岸は文化の街

右岸はルーヴル美術館やオペラ座、高級ブティックが集まる商業と華やぎの地区です。対する左岸には、カルチエ・ラタンやサンジェルマンの界隈が広がります。大学・カフェ・出版社が並び、かつてサルトルやヘミングウェイといった文人・芸術家が語り明かした街として知られてきました。「彼女は左岸の人」と言えば、パリではおおよその気質や趣味まで伝わるのだとか。同じ一本の川の右と左が、これほど違う顔を持つのは面白いところです。

右か左かで迷ったら、地図を回すのでも対岸へ渡るのでもなく、川がどちらへ流れているかを一度だけ確かめる。上流に背を向け、下流をまっすぐ見る——その向き一つで、右岸も左岸も過たず決まります。

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