地震のとき、まず小刻みに揺れてから大きく揺れるのは、震源から同時に出た2種類の波が別々の速さで届くからです。先に着くP波は秒速約7kmで進み、起こすのは押し引きの小さな揺れ。遅れて着くS波は秒速約4kmですが、運んでくるのは横に揺さぶる強い揺れです。この時間差を読めば震源までの距離が分かり、緊急地震速報もこの差を使って鳴っています。
P波とS波は揺らし方の何が違う?

P波は押し引きで進む縦波
P波は、波の進む向きと同じ方向に地面を押したり引いたりしながら伝わる縦波です。地震本部(地震調査研究推進本部)の用語解説では「伸び縮みが伝わっていく」波と説明されています。ばねの端を軸の方向にトンと突くと、縮んだ部分と伸びた部分が先へ送られていきます。あの動きが地面の中で起きていると考えると分かりやすいはずです。
S波はねじれを運ぶ横波
S波は、進む向きに対して直角の方向へ地面をずらしながら伝わる横波です。同じ解説では「ねじれが伝わっていく」波とされています。ロープの端を上下に振ると、山と谷が横向きのまま先へ走っていく。あの形の揺れが地中を進んでくるのがS波です。
液体を通れるのはP波だけ
押し引きの力は、物が詰まってさえいれば固体にも液体にも気体にも伝わります。空気を伝わる音も同じ縦波の仲間です。いっぽうの横ずれは、粒どうしがしっかりつながった固体でないと隣へ渡りません。水のように形を変える物質はずらされても逃げてしまうため、S波は液体の中を進めないのです。この違いが、のちに地球の中心をのぞく手がかりになりました。
先に着くのはP波、秒速約7km

秒速約7kmと秒速約4km
気象庁の緊急地震速報の解説によると、P波は秒速約7km、S波は秒速約4km。地震本部の解説も、P波はS波より約1.7倍速いと説明しています。2つの波は震源から同時に走り出すので、距離が延びるほど到着の差は開く一方です。
PとSの名前は届いた順番
P波の「P」は英語のPrimary(最初の)、S波の「S」はSecondary(二番目の)の頭文字です。観測所に先に届くほうが1番目、後から届くほうが2番目という呼び方で、揺れの性質ではなく到着の順番が名前になっています。縦波・横波という性質とは別の物差しで名付けられているのが面白いところです。
震源が100km先なら差は十数秒
秒速7kmと4kmで計算すると、100km離れた場所にP波は約14秒、S波は約25秒で届きます。差はおよそ11秒です。震源が200kmなら差は20秒を超えます。小さな揺れが長く続くほど震源は遠いと読めるのは、この単純な引き算のおかげです(実際の速さは地盤や深さで変わるので、あくまで目安の計算です)。
なぜ後から来る揺れのほうが大きい?

カタカタは上下の小刻みな初期微動
最初に届くP波の揺れを初期微動と呼びます。地震本部の解説では、まずP波で「ガタガタと上下方向の小刻みな揺れ」を感じるとされています。揺れ幅が小さく、「地震かな」と気づく合図のような揺れです。この段階で家具が倒れることはあまりありません。
グラグラは横に揺さぶる主要動
続いてS波が届くと、地面が「ゆさゆさと横方向」に揺れ始めます。こちらが主要動です。気象庁もS波を「P波より遅いが揺れは強い」波として説明しています。小さく揺れてから大きく揺れる二段構えは、弱くて速い波と強くて遅い波が順番に着いた結果なのです。
被害の多くは横揺れのS波で起きる
建物や家具を大きく揺さぶり、被害につながりやすいのは主要動のほうだとされています。カタカタが収まりかけても、それで終わりとは限りません。数秒後に本当の揺れが来る前ぶれと受け止めて、頭を守れる場所へ動くのが安全です。
地表を伝わる表面波も加わる
大きな揺れをつくるのはS波だけではありません。地震本部の解説では、池に石を落としたときの水面の波のように地表を伝わる表面波も挙げられています。地面を横にくねらせるラブ波と、地面を転がすように波打たせるレイリー波が代表です。震源から遠い場所では、ゆっくりした長い揺れとして表面波が目立つこともあるのです。
初期微動の長さは震源までの距離を映す

カタカタだけが続く時間に名前がある
P波が着いてからS波が着くまでの間、小さな揺れだけが続く時間を初期微動継続時間と呼びます。地震本部の解説にも、P波とS波の到達時間の差から震源までのおよその距離が分かるとあります。足の速さが違う2人が同時にスタートすれば、ゴールが遠いほど到着の差が開く。それと同じ理屈です。
大森房吉が式にした大森公式
この関係を簡単な式にまとめたのが、明治から大正にかけて活躍した地震学者・大森房吉(おおもり ふさきち)です。大森公式と呼ばれ、震源までの距離(km)は初期微動継続時間(秒)に係数をかけて求めます。講談社ブルーバックスの解説では係数は6〜8程度とされ、初期微動が10秒なら震源はおよそ70km先という見当になります。
係数が場所で変わるので目安にとどまる
係数に幅があるのは、波の速さが地盤の岩の種類や震源の深さで変わるからです。学校の教材では計算しやすいよう8などの値に決めて使う例もあります。1か所の観測だけで出した距離には誤差がつきものです。3か所以上の観測点の距離を円で描き、その交わりから震源を割り出す作図も、理科の定番の実習になっています。
緊急地震速報はどうやって揺れより先に鳴る?

震源近くでP波をとらえて計算する
気象庁の説明では、まず震源に近い地震計でP波をとらえます。その記録から震源の位置や地震の規模を求め、各地の揺れの強さをすぐに推定する流れです。そのうえで、強い揺れを運ぶS波が届く前に知らせるのが緊急地震速報です。地震を予知しているのではありません。起きた地震の速い波を使い、遅い波を情報で追い越しているわけです。
猶予は数秒から長くて数十秒
速報が出てから強い揺れが来るまでの時間は、気象庁によると「数秒から長くても数十秒程度」です。震源から遠いほどP波とS波の差が開くので猶予は長く、近いほど短くなります。数秒あれば、火から離れたり机の下にもぐったりすることもできるでしょう。
震源の真上では間に合わない
速報が成り立つのは、P波とS波の到着に差があるからです。内陸の浅い場所で起きた地震では、震源に近い場所への速報が強い揺れに原理的に間に合わないと気象庁も注意しています。解析と伝達にも数秒かかるため、揺れの最中に速報が鳴ることもあります。鳴らなかったから小さい地震、とは限らないということです。
外核が液体だと分かったのはS波のおかげ

震源から遠い側にS波の影ができる
世界中の観測所の記録を集めると、震源から地球の中心角でおよそ103度より先には、S波がまったく届かない範囲が現れます。アメリカの地震学研究機関IRISの教材では、これをS波の影(シャドーゾーン)と呼び、液体の外核がS波を止めているためと説明しています。届かない場所の広がりが、地球の奥の様子を教えているわけです。
1926年にジェフリーズが液体の核を唱えた
アメリカ物理学会の記事によると、イギリスの地球物理学者ハロルド・ジェフリーズは1926年、S波を通さない液体の核が地球の中心にあるはずだと結論づけました。人が掘って確かめたわけではありません。届かない波の記録から、深さ数千kmの世界が液体だと読み解いたのです。
1936年にレーマンが内核を見つけた
続いて、デンマークの地震学者インゲ・レーマンが1936年に、外核のさらに内側に別の核(内核)があると発表します。手がかりは1929年のニュージーランドの大地震で、影になるはずの範囲にP波がはっきり記録されていました。性質の違う2つの波を読み比べたことで、地殻・マントル・外核・内核という層の姿が描かれていったのです。
ナマズは地震を先に感じている?

東京都の水産試験場が調べたことがある
「地震の前にナマズが騒ぐ」という言い伝えは昔から語られてきました。かつて東京都水産試験場では、水槽で飼ったナマズの動きを振動計で記録し、地震との関係を調べる研究が行われました。人より先にP波の小さな揺れや地中の変化を感じ取っているのでは、という見方です。
動物の異変はまだ科学的な結論が出ていない
東海大学の研究者が2005年に日本地球惑星科学連合の大会で発表した要旨では、動物の異常行動などの宏観異常現象(こうかんいじょうげんしょう)について「科学的結論が得られていない」と書かれています。東京都の研究でも、振動計で測った量と行動そのものの結びつけが課題として残りました。ナマズの話は、確かめられた予知ではなく、研究が続いている仮説として楽しむのがよさそうです。
小さなカタカタは、遅れてくる大きな揺れを知らせる地球からの前ぶれです。秒速7kmと4kmというたった3kmの差は、震源までの距離を教えてスマートフォンを鳴らします。さらには地球の中心が液体であることまで明かしてきました。次に初期微動を感じたら、その数秒は身を守るために地球がくれた時間なのかもしれません。
参考
- 地震本部(地震調査研究推進本部)「地震波」
- 気象庁「緊急地震速報のしくみ」
- ブルーバックス(現代ビジネス)「地震学者・大森房吉が誕生」
- APS News「Inge Lehmann and the Earth’s inner core」
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