テニスの点数はなぜ「15・30・40」と数えるのか

言葉と論理の話
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0点を「ラブ」と呼び、1点取れば15。次の2点目で30、そして3点目だけが40です。テニスのスコアは数の増え方も呼び名も、ほかの球技とまるで違っています。1点ずつ数えれば済むところを、なぜこんな飛び飛びの数列にしたのでしょうか。しかも15・30ときたら素直には45のはずなのに、三つ目だけが40なのです。

じつは、この数え方の由来をぴたりと言い当てられる人はいません。有力な説はいくつもあるものの、どれも決め手を欠いたまま何百年も使われてきました。ここでは数字の並びと言葉の由来という二層に分け、分かっている範囲と、あやしい俗説の見分け方まで見ていきましょう。

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  1. スコアの正体を一枚の表で見比べる
  2. なぜ15ずつ増え、45だけが40に縮んだのか
    1. 時計の文字盤で数えた、という有名な説
      1. 15分刻みで一周、60でゲーム終了
      2. 45が40になったのは「デュース」の余白を作るため
    2. でも「時計説」には時代の矛盾がある
      1. 中世の時計は「時」しか刻めなかった
      2. それでも四半刻を打つ大時計はあった
    3. もっと古い「60進法」説
      1. 賭けの単位と結びつく数え方
      2. 「15フィートずつ進む」コート説は根拠が弱い
  3. 「ラブ」はなぜ0点なのか——卵か、それとも「タダで」か
    1. よく聞く「l’oeuf(卵)=ゼロ」説
      1. 0の形が卵に似ているから、という話
      2. 証拠がなく、音の変化としても不自然
    2. 辞書が推す「for love=タダで」説
      1. 「賭けなしで」の言い回しから0点へ
      2. オランダ語「lof(名誉)」説などの傍流
  4. 「デュース」「アドバンテージ」は由来がはっきりしている
    1. デュース=「あと2点」のフランス語
      1. à deux du jeu(勝ちまで2点)から
      2. 40-40から2点連取が必要な理由
    2. アドバンテージ=デュース後の「優位の1点」
      1. 取れば勝ち、落とせばまたデュース
  5. いつから記録に残っているのか
    1. 1435年のバラッド、1522年のラテン語
      1. 詩人が「quarante cinq(45)」と詠んだ
      2. 「15」を論じた文献は16世紀から、起源はなお不明
    2. 元をたどれば「ジュ・ド・ポーム」
      1. 手のひらで打つフランスの球技から
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スコアの正体を一枚の表で見比べる

細かい由来に入る前に、コールと数字、そして一言でいう由来を並べてみます。テニスのスコアには二つの層がありました。点の呼び名という層と、その呼び名がどこから来たのかという層です。まずは全体像から。

コール意味する点由来の一言(有力説)
ラブ(love)0点「タダで(for love)」=賭けなしの意とされる
フィフティーン(15)1点目時計の15分、または60進法の刻み
サーティ(30)2点目同じく30分の位置
フォーティ(40)3点目もとは45。呼びやすさや余白のため40に縮んだ説
デュース(deuce)40-40フランス語「あと2点」から
アドバンテージデュース後の優位2点連取のうちの1点目

表のとおり、数字にまつわる説と言葉にまつわる説は、別々に語られてきました。順に、確からしさの高いものと低いものを分けて掘り下げていきます。

なぜ15ずつ増え、45だけが40に縮んだのか

数字の並びには、大きく分けて三つの説があります。いちばん有名なのは時計の文字盤を使ったという話。ただし、この説には時代の矛盾がつきまといます。近年はもっと地味な「お金の数え方」に由来を求める見方も出てきました。

時計の文字盤で数えた、という有名な説

15分刻みで一周、60でゲーム終了

コート脇に時計を置き、1点ごとに針を四半刻(15分)ずつ進めた——それが時計説です。15から30、45と進んで一周の60に届くと、そのゲームは終わり。時間の目盛りをそのまま得点板に流用した、という発想でしょう。目に見える針の動きで得点が分かるなら、たしかに便利だったはずです。

45が40になったのは「デュース」の余白を作るため

この説なら、45が40に削られた理由も説明がつきます。テニスは2点差をつけないとゲームが取れません。もし両者が45で並ぶと、勝ちにあたる60まで残りわずか15。優位の一点を置く場所がなくなってしまいます。そこで三つ目を40に下げ、優位なら50・勝ちは60と割り振り、目盛りに余白を作ったという筋書きです。

でも「時計説」には時代の矛盾がある

中世の時計は「時」しか刻めなかった

スコアの記録が現れる15世紀ごろ、機械式時計はふつう「時」しか示せませんでした。分の単位まで正確に指す分針が実用になるのは、振り子を使った脱進機が生まれる17世紀末ごろのこと。四半刻を刻む時計が広く身近だった、とは言いにくい時代です。この一点が、時計説を「話として面白いが証拠は弱い」ものにしています。

それでも四半刻を打つ大時計はあった

とはいえ、まったく荒唐無稽とも言い切れません。14世紀末には、四半刻を鐘で知らせる大時計が実在しました。イングランドのウェルズ大聖堂の時計(1386年)や、フランスのルーアンの時計(1389年)がその例です。こうした大時計に親しんだ貴族なら、15分刻みの感覚を得点に持ち込んでも不思議はない、という擁護も成り立つでしょう。

もっと古い「60進法」説

賭けの単位と結びつく数え方

近ごろ有力視されているのが、60進法に由来を求める見方です。中世ヨーロッパの貨幣や会計は60を基礎にしており、テニスはしばしば金を賭けて行われていました。賭け金の単位に合わせて15・30・45と刻んだ、と考えれば、時計を持ち出す必要はありません。

60進法(六十進法)とは、60をひとまとまりの区切りとして数える方法です。1時間を60分、1分を60秒と分けるように、古代から時間や角度の数え方に使われてきました。

「15フィートずつ進む」コート説は根拠が弱い

もう一つ、コートの長さから来たとする説もあります。得点のたびにサーブ側が15フィート前進し、次も15フィート、最後は10フィートという話でした。ただし中世のコートに決まった寸法はなかったと複数の資料が指摘しており、この説は分が悪いとされています。数字の由来をコートの実測に求める見方は、いまのところ支持されていません。

「ラブ」はなぜ0点なのか——卵か、それとも「タダで」か

数字と並んで由来が語られるのが、0点を指す「ラブ」です。よく紹介されるのは卵の形にちなむという話。ところが言葉の専門家は、むしろ別の説を推しています。有名な説がかならずしも正しいとは限らない、その好例といえるでしょう。

よく聞く「l’oeuf(卵)=ゼロ」説

0の形が卵に似ているから、という話

フランス語の l’oeuf(ルフ=卵)が0の丸い形に似ているため、ゼロの意味で使われ、それが英語のラブになった——これが卵説です。数字の0と卵は、たしかに見た目が重なります。語呂のよさもあってか、いちばん広まっている説明でしょう。

証拠がなく、音の変化としても不自然

ところが、この説を裏づける証拠は見つかっていません。そもそもフランス語で l’oeuf が「ゼロ」を指した用例が確かめられないのです。おまけに借用語としても音が合いません。ラテン語の bovem はフランス語で boeuf(ブフ)、英語では beef(ビーフ)へと変わりました。同じ流れなら l’oeuf は英語で「リーフ」に近い音になるはずで、ラブにはなりにくい。言葉の面から見ると、卵説は俗説(民間語源)と考えられています。

辞書が推す「for love=タダで」説

「賭けなしで」の言い回しから0点へ

権威ある英語辞典が支持するのは、for love という言い回しに由来する説です。英語の for love には「賭け金なしで、ただ好きでやる」という意味があり、この使い方は1670年代ごろまでさかのぼれます。賭けがない=得るものがゼロ、という連想から0点をラブと呼んだ、という筋書きでした。テニスで「無得点」を指すラブの用例は、1742年ごろの記録に確認できます。

オランダ語「lof(名誉)」説などの傍流

ほかにも、オランダ語やフラマン語の lof(ロフ=名誉・称賛)に由来するという説もあります。試合を戦いになぞらえ、名誉のために=賞金なしで戦う、という発想です。決め手はありませんが、「タダで」説と根っこは似ています。卵説よりは言葉として筋が通る、と見る向きも少なくありません。

「デュース」「アドバンテージ」は由来がはっきりしている

数字やラブの由来があやふやなのに対して、40-40からの言葉はもっと素性がはっきりしています。どちらもフランス語がそのまま英語に入った、わかりやすい借用語でした。

デュース=「あと2点」のフランス語

à deux du jeu(勝ちまで2点)から

デュースは、フランス語の à deux du jeu(ア・ドゥ・デュ・ジュ=勝ちまであと2点)が縮まった言葉とされます。deux はフランス語で「2」のこと。40-40で並ぶと、そこから2点続けて取らないとゲームが決まりません。「あと2点」という状況が、そっくり呼び名になったわけです。

40-40から2点連取が必要な理由

テニスは2点差でゲームが決まる仕組みでした。40-40のあと1点取っただけでは、まだ1点差にすぎません。だからもう1点を上乗せして、初めて勝ちになります。この「2点差ルール」があるからこそ、デュースという言葉は意味を持ちます。

アドバンテージ=デュース後の「優位の1点」

取れば勝ち、落とせばまたデュース

デュースから1点先に取った状態が、アドバンテージ(優位)です。この一点をそのまま取り切れば2点差になり、ゲーム成立。逆に相手へ取り返されると、また2点差が消えてデュースに逆戻りします。決着がつくまで、この綱引きが延々と続くわけです。

いつから記録に残っているのか

これだけ由来がはっきりしないのは、裏を返せば相当に古いということでもあります。文献をたどると、スコアの数字は600年近く前から使われていた形跡が残っていました。

1435年のバラッド、1522年のラテン語

詩人が「quarante cinq(45)」と詠んだ

いま確認できるいちばん古い記録の一つが、1435年、フランスの詩人シャルル・ドルレアンのバラッドです。そこには quarante cinq(カラント・サンク=45)という語が登場します。40ではなく45と書かれている点が、「もとは45だった」説の手がかりになりました。さらに1522年のラテン語の文にも、「30、45で勝っている」という表現が残っています。

「15」を論じた文献は16世紀から、起源はなお不明

「なぜ15なのか」を論じた文章が現れるのは、1555年や1579年といった16世紀の資料でした。当時の人々もすでに、この数え方の由来を不思議に思っていたことになります。裏を返せば、その頃には由来があいまいになるほど習慣が古かった、ということ。専門的な事典でも、15・30・40の起源は「いまだ不明」と記されています。

元をたどれば「ジュ・ド・ポーム」

手のひらで打つフランスの球技から

今のテニスのもとになったのは、中世フランスで行われたジュ・ド・ポームという球技です。paume はフランス語で「手のひら」を指します。最初はラケットではなく、素手や手袋でボールを打っていました。フランス語由来の言葉がテニスのスコアに多いのは、この球技を通ってきたから。数字の由来がフランスの説に集まるのも、同じ理由といえるでしょう。

フィフティーン、サーティ、フォーティ。耳になじんだこの数列の正体は、いまも謎のままです。時計の四半刻か、賭場の勘定か、それともタダで遊んだ午後の名残か。どれも決め手を欠いたまま、コールだけが六百年ぶん、コートの上で変わらず響いてきました。答えの出ない問いを抱えたまま今日も数えられている——スコアの数字は、そんな珍しい生き証人なのです。

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