最初のストローは、飲みやすくするための道具ではなかった——ビールの浮きかすをよけた5000年前と、「酔いやすい」を調べた研究

モノと道具の話
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英語の「straw」は、麦の穂を刈り取ったあとに残る茎、つまり麦わらそのものを指す言葉です。飲み物を吸うあの管の意味は、あとからついてきました。

しかも記録に残るいちばん古い使い方は、飲みやすくするためのものではなかったようです。約5000年前のメソポタミアで、人々はビールに浮いたかすをよけるために細長い管を使っていたと考えられています。

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  1. この記事が扱う、二つの別々の問い
  2. 名前だけは、5000年前の「麦わら」のまま
    1. strawは、刈ったあとの麦の茎
      1. 麦わら帽子と、同じ言葉
      2. 本物の麦の茎は、いまも売られている
    2. いちばん古い用途は、吸うためでなく「よける」ため
      1. 濾していないビールは、上澄みだけを飲むもの
      2. 材質は、資料によって食い違う
      3. エジプトの壁画にも描かれている
  3. 紙に変わった理由は、麦わらの味が移るから
    1. ミントジュレップと、ふやけたライ麦
      1. 1880年の夏に起きたこと
      2. 鉛筆に紙を巻いた試作品
    2. 曲がるストローは、娘のミルクシェイクから生まれた
      1. ネジとデンタルフロスで作った溝
      2. 最初に買ったのは、飲食店ではなく病院
      3. 1960年代に、素材がプラスチックへ
  4. 日本のストローは、麦わら帽子の副産物だった
    1. 始まりは岡山県浅口市
      1. 明治34年ごろ、寄島町の川崎三一
      2. 産地は残り、しかし大半は輸入品
    2. いまのストローは、何でできているか
      1. ポリプロピレンという素材
      2. 6ミリと、4.5ミリ
      3. 蛇腹の折り方と、ストライプの正体
  5. 「ストローだと酔いやすい」は、どこまで裏づけがあるか
    1. 管そのものについての研究は、見当たらない
      1. よく語られる説明と、その弱さ
      2. 体に入る量は、通り道では変わらない
    2. 裏づけがあるのは、炭酸のほう
      1. 21人中14人で、吸収が速まった
      2. 個人差の幅が、想像より大きい
    3. もうひとつは、器が変えてしまうペース
      1. グラスの形で、飲む速さが6割変わった
      2. 半分がどこかを、見誤っている
      3. 速く入れれば、濃度は高く上がる
  6. ストローをめぐる、もう少し細かい話
    1. 吸い上げられる高さには、限界がある
    2. ボクシングにあった「ストロー級」
    3. 紙に戻り、また別の素材へ
  7. 関連記事

この記事が扱う、二つの別々の問い

「ストロー」という一語でつながってはいますが、名前の由来の話と「ストローだと酔いやすい」の話は、たどる資料がまるで違う別々の問いです。混ざらないよう、先に答えだけを分けて置いておきます。

問い短い答え
「ストロー」とは何のことか英語で麦の茎、つまり麦わら。麦わら帽子(strawhat)のstrawと同じ語
いちばん古い用途は約5000年前のシュメールで、ビールの浮きかすや沈殿物をよけて上澄みを飲むための管
なぜ紙になったのか1880年ごろ、ライ麦の茎がふやけて草の風味が移るのを嫌ったマービン・ストーンが紙製を考案し、1888年に特許
日本ではいつから明治34年(1901年)ごろ、岡山県寄島町(現・浅口市)で麦稈ストローの生産が始まったとされる
ストローだと酔いやすいのかストローそのものが吸収を速めるとした研究は見当たらない
では何が効いているのか炭酸で割ってあること、そして飲むペース。どちらにも実験がある

名前だけは、5000年前の「麦わら」のまま

紙になってもプラスチックになっても、この道具は「麦わら」と呼ばれ続けています。日本語の「ストロー」も、その英語の音をそのまま借りたものです。

strawは、刈ったあとの麦の茎

麦わら帽子と、同じ言葉

strawが指すのは麦稈(ばっかん)です。穂を落としたあとに残る、中が空洞になった茎のこと。夏にかぶるあの帽子が英語でstrawhatと呼ばれるのも、材料が同じだからにほかなりません。飲み口の管と帽子は、日本語では縁もゆかりもない言葉に見えますが、英語では同じ一語から枝分かれしています。

本物の麦の茎は、いまも売られている

比喩として名前が残っているだけではありません。ライ麦の茎をそのまま使ったストローは、現在も製造・販売されています。脱プラスチックの流れのなかで、大麦の茎を使った製品も登場しました。素材のほうが一周まわって戻ってきた形です。

いちばん古い用途は、吸うためでなく「よける」ため

濾していないビールは、上澄みだけを飲むもの

約5000年前のシュメール人は、ビールを飲むときに細長い管を使っていたとされます。当時のビールは濾していないため、穀物のかすが表面に浮き、澱(おり)は底に沈みました。上でも下でもない中ほどの澄んだところに管を差し込めば、余計なものを口に入れずにすみます。飲むための道具というより、よけるための道具でした。

材質は、資料によって食い違う

ところが、その管が何でできていたかは資料ごとに違います。百科事典の記述は貴金属製の細長い筒とし、国内メーカーの解説は葦(あし)の管としています。時期も用途もほぼ重なるのに、素材のところだけが揃いません。

金属は副葬品として地中に残り、葦は残りません。私たちが見ているのは当時使われた道具の全体ではなく、たまたま朽ちなかった一部のほうだという可能性はあります。ただし、どちらが主流だったかを決められる材料はありません。

エジプトの壁画にも描かれている

使われた地域はメソポタミアだけではありません。古代エジプト新王国時代、第18王朝(紀元前1300年ごろ)の壁画にも、金属製のストローを使う様子が描かれています。3000年以上前の飲み方が、いまのコンビニのカップとほぼ同じ姿勢だというのは、なかなか妙な感覚です。

紙に変わった理由は、麦わらの味が移るから

いまの紙ストローの原型は、1888年にアメリカで特許が取られています。動機は環境問題ではなく、麦の茎が飲み物の中で崩れることへの不満でした。

ミントジュレップと、ふやけたライ麦

1880年の夏に起きたこと

マービン・ストーンは、紙巻きたばこの吸い口を作る職人でした。1880年の夏、冷たいカクテルのミントジュレップを飲んでいたときに、ライ麦の茎でできたストローが飲み物の中で崩れはじめます。ふやけるだけでなく、草のような風味が移るのも難点でした。

本業がすでに「紙で細い筒を作る仕事」だったのは、話がうまくできすぎているようにも思えます。ただ、たばこの吸い口とストローは太さも長さも近く、道具も工程も流用できました。

鉛筆に紙を巻いた試作品

ストーンは細長く切った紙を鉛筆に巻き付け、糊で貼り合わせて筒にしました。これが試作第一号です。1888年1月3日に人造ストローとして特許を取得し、1890年から大量生産に入ります。ふやけを抑えるため、紙にはパラフィン(ろう)を塗ったマニラ紙が使われました。1890年には、工場のストロー生産量が本業のたばこ吸い口を追い越したと伝えられています。

曲がるストローは、娘のミルクシェイクから生まれた

ネジとデンタルフロスで作った溝

1930年代、ジョセフ・B・フリードマンは兄が営むサンフランシスコの店で、娘のジュディスがまっすぐな紙ストローに苦戦しているのを見ました。カウンターが高く、ミルクシェイクの器に口が届きません。フリードマンはストローにネジを差し込み、その上からデンタルフロスを巻きつけて、らせん状の溝をつけました。溝のところだけが自在に曲がります。

この仕組みは1937年9月28日に「Drinking Tube」の名で特許(米国特許2,094,268号)となりました。いまも飲み口の下にある蛇腹は、90年ちかく形を変えていません。

最初に買ったのは、飲食店ではなく病院

フリードマンは自らフレックス・ストロー・カンパニーを設立しますが、実際に売れ出したのは1947年のことでした。最初の客はレストランでもソーダ売り場でもなく、病院です。寝たままの姿勢では、まっすぐな管は使いものになりません。曲がるという一点だけで、起き上がれない人が自分で水を飲めるようになりました。子どものために作られた道具が、最初に役立ったのは病床だったわけです。

1960年代に、素材がプラスチックへ

紙の天下は70年ほどで終わります。1960年代にプラスチックを大量生産する設備が整うと、安さと丈夫さで紙ストローは置き換えられていきました。麦わら、紙、プラスチック。素材はここまでで三度入れ替わっています。

時期できごと
紀元前3000年ごろシュメールで、ビールの浮きかすをよけるために管を使う
紀元前1300年ごろエジプト第18王朝の壁画に、金属製ストローを使う様子が描かれる
1888年マービン・ストーンが紙製ストローの特許を取得(1890年に量産開始)
1901年ごろ岡山県寄島町で、川崎三一が麦稈ストローの生産を始めたとされる
1937年ジョセフ・B・フリードマンが曲がるストローを特許化
1947年曲がるストローが売れ始める。最初の顧客は病院
1960年代プラスチック製が紙製に取って代わる
2018年EUが海洋ごみ対策としてストロー規制案を発表
2025年スターバックスが紙ストローの廃止を決め、別素材へ切り替える方針を示す

日本のストローは、麦わら帽子の副産物だった

日本での生産は明治期に岡山県で始まりました。ストローを作ろうとして始まったというより、麦わら帽子の材料が手元にあったことがきっかけだったようです。

始まりは岡山県浅口市

明治34年ごろ、寄島町の川崎三一

国内の麦稈ストロー生産は、明治34年(1901年)ごろに岡山県南西部の寄島町(現・浅口市)で川崎三一が始めたとされています。同じ地域で麦稈帽子、つまり麦わら帽子が作られていた時期と重なります。帽子のために刈り集めた茎を、別の形にも仕立てたという流れです。

産地は残り、しかし大半は輸入品

浅口市には、いまも国内生産のおよそ半分を占めるとされるシバセ工業があります。ただし日本で使われるストローの8〜9割は、中国や韓国などからの輸入品だといわれます。産地としての系譜は残っていても、身のまわりで手に取る一本が浅口市製である確率は、それほど高くありません。

いまのストローは、何でできているか

ポリプロピレンという素材

現在の主流はポリプロピレンです。汎用プラスチックのなかでは比重が0.9台と軽く、耐熱性は110℃ほど。そして折り曲げに非常に強い性質を持っています。蛇腹を何度曲げても折れ目から切れないのは、この性質のおかげです。

ポリプロピレン(PP)とは、1954年にイタリアのジュリオ・ナッタが発明し、1957年から本格生産が始まったプラスチックの一種です。軽さと折り曲げへの強さから、容器や包装、繊維など幅広く使われています。

6ミリと、4.5ミリ

一般的なストローの口径は6ミリほどです。これに対してアイスコーヒー用は4.5ミリが多く使われています。メーカーが喫茶店に理由を尋ねたところ、返ってきたのは「ゆっくり味わって飲んでもらいたいから」という答えだったそうです。太さを変えるだけで飲む速さに手を入れられる、という発想が現場にはありました。標準品だけで200種類以上あるといいますから、太さの選択はかなり細かく効いているのでしょう。

蛇腹の折り方と、ストライプの正体

蛇腹は、円周上に一定の間隔で山と谷の折り目をつけ、芯棒を通しながら折り曲げて作られます。芯棒を通さずに折ると、管が歪んでしまうそうです。一方、赤や青のストライプにはとくに機能上の意味がありません。デザインとして付けたところ評判がよく、そのまま定番になったというのが真相だと、国内メーカーは説明しています。

「ストローだと酔いやすい」は、どこまで裏づけがあるか

ここからが二つめの問いです。結論の位置だけ先に置くと、ストローという管そのものが酔いを強めるという研究は見つかりませんでした。裏づけがあるのは、その周辺にある二つの要素のほうです。

管そのものについての研究は、見当たらない

よく語られる説明と、その弱さ

吸うときに口の中が減圧されてアルコールが気化する、息を止めるので軽い酸欠になる。そうした説明を見かけることがあります。ただし、これらを実験で確かめた報告は見つけられませんでした。ひと口吸っている時間はせいぜい数秒ですから、呼吸への影響を持ち出すには短すぎるという指摘もあります。

体に入る量は、通り道では変わらない

同じ量・同じ度数の酒であれば、通り道が細い管でもグラスの縁でも、胃に届くアルコールの量は変わりません。つまり「ストローだから酔った」と感じたときに疑うべきは、管ではなく飲んだ量と速さのほうということになります。

裏づけがあるのは、炭酸のほう

21人中14人で、吸収が速まった

英マンチェスター大学のロバーツとロビンソンは2007年、21人(男性12人・女性9人)を対象に実験を行いました。飲んでもらったのは次の3種類で、それぞれ別の機会に血中アルコール濃度の上がり方を追っています。

  • ウォッカの原酒(37.5度)
  • 水で割ったウォッカ(18.75度)
  • 炭酸水で割ったウォッカ(18.75度)

炭酸割りで吸収が速まったのは21人のうち14人でした。残る7人は変化がないか、むしろ遅くなっています。

個人差の幅が、想像より大きい

この論文が報告した変化の幅は、減少側の1.64から増加側の4.75まで開いていました。「炭酸で割れば誰でも速く酔う」という単純な話ではありません。しくみとしては、炭酸で胃の内圧が上がり、胃から先へ送り出されるのが速くなるためと説明されています。ハイボールやチューハイをストローで飲んで早く回った気がするなら、効いていたのはストローではなく炭酸だった、という筋書きのほうがありそうです。

もうひとつは、器が変えてしまうペース

グラスの形で、飲む速さが6割変わった

英ブリストル大学のアトウッドらは2012年、18〜40歳の160人にラガーを飲んでもらう実験を行いました。使ったのは、まっすぐな寸胴のグラスと、くびれのあるビアフルート。まっすぐなグラスのほうが、飲み終わるまでに60%長くかかったという結果でした。差が出たのは満杯のときだけで、半分の量では出ません。ノンアルコール飲料でも差は出ませんでした。

半分がどこかを、見誤っている

研究者たちは、原因を「半分の位置を見誤ること」に求めています。曲面のグラスでは、どこが半量かの判断が実際にずれ、そのずれの大きさが飲む速さと関係していました。量の把握が甘くなると、ペースが上がる。器の形は、味でも吸収でもなく、この見積もりのところに効いていたわけです。アイスコーヒー用のストローを細くする喫茶店の判断も、同じ場所を狙っていることになります。

速く入れれば、濃度は高く上がる

血中アルコール濃度が最高に達するのは、飲んでから30〜60分ほどあとです。短い時間に大量のアルコールを入れると濃度が一気に跳ね上がり、急性アルコール中毒につながります。中身の見えない容器を細い管で飲む場面には、どれだけ入ったかの見積もりが狂いやすい条件がそろっている。管が悪さをしているのではなく、量が見えなくなっていると考えたほうが、打てる手もはっきりするはずです。

急性アルコール中毒とは、短時間に多量の飲酒をしたことで意識障害などが起きる状態のことです。嘔吐や呼吸状態の悪化を伴い、命にかかわることもあります。一気飲みや飲酒の強要は、その最も典型的なきっかけとされています。

ストローをめぐる、もう少し細かい話

吸い上げられる高さには、限界がある

どれだけ長いストローでも、水を吸い上げられる高さには天井があります。理論上はおよそ10メートル、実験してみると8メートルほどだったと国内メーカーは書いています。管の中の空気を減らすと、外の大気圧が水面を押して水が上がってくる。私たちは吸っているつもりで、実は大気に押し上げてもらっているだけなのです。

ボクシングにあった「ストロー級」

ボクシングの最も軽い階級は、かつてストロー級と呼ばれていました。麦わらのように軽い、という意味です。日本では1998年4月にミニマム級へと呼称が改められ、いまこの名で呼ばれることはほとんどありません。ここでも指していたのは飲み口の管ではなく、もとの麦わらのほうでした。

紙に戻り、また別の素材へ

2018年にEUが海洋ごみ対策として規制案を出して以降、飲食チェーンは相次いでプラスチック製の廃止を打ち出しました。ところが2025年1月、スターバックスは紙ストローをやめ、別のバイオマス素材へ切り替える方針を示しています。麦わら・紙・プラスチック・ふたたび紙、そして次の素材。100年あまりで4度目の乗り換えです。

5000年前のあの管は、飲み物の中の要らないものをよけるための道具でした。いま同じ形の管は、飲むペースを速めてしまうのではないかと疑われる側に回っています。よけるための道具から、急がせる道具として名指しされるまで。ずいぶん遠くまで来たものですが、実験がそろって指しているのは管ではなく、それを口に運ぶ手の速さのほうでした。

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