「セロテープ」と名乗れるのは一社だけ——あの透明なテープは木からできている

モノと道具の話
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机の上に転がっている透明なテープ。その名を「セロテープ」と掲げられるのは、本当はニチバンの製品だけです。「セロテープ」はニチバンが持つ登録商標で、材質と品物そのものを指す一般名は「セロハンテープ」。そしてもう一つ、あの透明なフィルムはプラスチックではなく、木から作られています。

名前の話と中身の話は、一巻のテープの中で重なったまま。外側の呼び名から順にはがしていくと、占領下の日本や、消えかけた素材の話まで顔を出します。

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  1. 呼び名の持ち主を先に並べておく
  2. 「セロテープ」と名乗れるのは一社だけ
    1. 国産第一号だったから、名前が代名詞になった
      1. 売っているものが一つしかなかった時期
      2. シェアは今も6〜7割ほど
    2. 会社が「®」を付け続ける理由
      1. 普通名称になると、権利が働かなくなる
      2. 愛されるほど危うくなるという矛盾
  3. 生まれたきっかけは、GHQが検閲した手紙だった
    1. 絆創膏の会社に、いきなり話が来た
      1. 1947年12月、GHQからの打診
      2. 「粘着剤を薄く均一に塗る」技術は同じだった
    2. 冬になると、くっつかなくなった
      1. 試作は1か月、完成は4か月
      2. 12mm・18mm・24mmはインチの名残
  4. 透明な部分は、プラスチックではなく木
    1. 木材パルプが透明なフィルムになるまで
      1. いったん溶かして、また固める
      2. 発明は100年以上前のスイス
    2. 厚さ0.05mmに、4つの層がある
      1. 剥離剤・セロハン・下塗り剤・粘着剤
      2. ゴムの木と松の木でできた粘着剤
    3. 手でスッと切れるのも素材のおかげ
      1. 切るときの力は3分の1
      2. 静電気もにおいも少ない
  5. セロハンテープとOPPテープは、どこで分かれるのか
    1. 軽作業ならセロハン、梱包ならOPP
      1. 強さが要るところにセロハンは向かない
      2. 燃やしたときの差
    2. 「スコッチ」も「Sellotape」も、実はセロハンとは限らない
      1. 1930年のアメリカと1937年のロンドン
      2. メンディングテープの基材はアセテート
  6. 貼ってはいけない場所がある
    1. 古いテープが茶色くなるしくみ
      1. テープだけ落ちて、糊が残る
      2. セロハン自体も褐色になる
    2. 図書館が使うのは、和紙とでんぷん糊
      1. 「あとで剥がせる」ことが条件
      2. 浸みた跡は消せない
  7. セロハンを作る会社は、2社まで減っていた
    1. 13社から2社へ
    2. 脱プラスチックで、また声がかかった
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呼び名の持ち主を先に並べておく

透明なテープには呼び名がいくつもあり、そのうちいくつかは特定の会社のものです。誰の名前で、何を指しているのか。この対応さえ頭に入れば、あとの話は枝葉になります。

呼び名持ち主・立場指しているもの
セロテープニチバンの登録商標ニチバンが作るセロハン粘着テープ
セロハンテープ一般名(誰でも使える)セロハンを基材にした粘着テープ全般
スコッチ3M(アメリカ)のブランド同社の粘着テープ全般。基材はセロハンとは限らない
セロテープ(Sellotape)イギリスのブランド現地では透明テープの代名詞として定着
OPPテープ一般名ポリプロピレン製の梱包用テープ。石油由来

ややこしいのは、日本の「セロテープ」とイギリスの「Sellotape」が別々に生まれた別会社の商標だという点です。似ているのは偶然ではなく、どちらもセロハン(cellophane)という素材の名前から取られたためとされています。

「セロテープ」と名乗れるのは一社だけ

文房具売り場にある透明テープのうち、パッケージに「セロテープ」と書けるのはニチバンの製品だけ。他社の同種の商品は「セロハンテープ」と表記されています。

国産第一号だったから、名前が代名詞になった

売っているものが一つしかなかった時期

セロテープが世に出たのは1948年6月。国産としては最初のセロハン粘着テープでした。しばらくの間、日本で買えるセロハンテープはこれ一種類だけだったため、商品名がそのまま品物の名前として広まっていったとされています。

後発の各社が同じ品物を売り出したときには、すでに「セロテープ」という言い方が定着していました。名前が先に居座ってしまったわけです。

シェアは今も6〜7割ほど

国内のセロハンテープ市場でニチバンが占める割合は、6〜7割ほどとされます。「みんなが呼んでいる名前」と「実際によく売れている製品」がおおむね一致しているぶん、混同が起きても目立ちにくいのかもしれません。

ちなみに国内でセロハンテープを作っているのはニチバンだけではありません。積水化学工業・日東電工・共和なども手がけているメーカーです。

会社が「®」を付け続ける理由

普通名称になると、権利が働かなくなる

ニチバンの公式サイトを見ると、商品名はほぼ必ず「セロテープ®」と書かれています。神経質に見えますが、これには理由があります。商標が「その品物そのものを指す言葉」として広く使われるようになると、商標権が実質的に及ばなくなってしまうためです。

普通名称化(ふつうめいしょうか)とは、特定の会社の商標が、品物の一般名として世の中に定着してしまうことです。エスカレーターなどが例として挙げられます。

愛されるほど危うくなるという矛盾

よく売れて、みんなが口にするようになるほど、その名前は一般名に近づいていきます。®の表示や「セロハンテープ」という言い換えの提案は、その流れに小さく抵抗する作業でもあります。

日常会話で他社製品を「セロテープ」と呼んでも、とがめられることはまずありません。一方で、商売として自社の商品にその名を印刷すれば話は別になります。線引きがあるのは「話し言葉かどうか」ではなく、「商品の目印として使っているかどうか」のほうです。

生まれたきっかけは、GHQが検閲した手紙だった

国産セロハンテープの出発点は、文房具の需要ではありません。占領下で開封された郵便物を、もう一度閉じるための道具でした。

絆創膏の会社に、いきなり話が来た

1947年12月、GHQからの打診

戦後の日本に駐留していたGHQは、検閲した手紙の封をするのにアメリカ製のセロハン粘着テープを使っていました。ところが輸入品はいつでも十分に手に入るものではありません。そこで1947年12月、日本国内で作れないかという相談が持ち込まれます。

声がかかった先は、テープの会社ではありませんでした。創業者の歌橋憲一(うたはし けんいち)が1918年に興した歌橋製薬所、つまり絆創膏(ばんそうこう)を作っていた会社です。

「粘着剤を薄く均一に塗る」技術は同じだった

畑違いに見えて、絆創膏づくりとテープづくりは骨組みが似ています。どちらも、薄い基材の片面に粘着剤をむらなく塗り広げる仕事だからです。膏薬から始まった会社の蓄積が、そのまま応用できました。

冬になると、くっつかなくなった

試作は1か月、完成は4か月

発注からわずか1か月で、試作品はできあがりました。ただし最初に使った合成粘着剤には弱点があり、気温が下がる冬場に粘着力が落ちてしまいます。

そこで粘着剤を天然ゴムに切り替え、季節を問わずくっつくようにしたところで完成。発注から4か月後の1948年1月のことでした。同年6月には一般向けの販売が始まり、価格は1個20円。宣伝カーを全国に走らせて売り込んだと伝えられています。

12mm・18mm・24mmはインチの名残

いま売られているセロテープの幅は、たいてい12mm・18mm・24mmのどれかです。中途半端な数字に見えるこの並びは、GHQの担当官がインチを基準に決めた寸法に由来するとされています。12mmが1/2インチ、18mmが3/4インチ、24mmが1インチ。

巻いてある芯の直径も同じ流れで、大巻が3インチ(約7.6cm)、小巻が1インチ(約2.5cm)と決められました。テープカッターの軸に今も引き継がれている寸法です。

透明な部分は、プラスチックではなく木

セロハンテープの「セロハン」は、木材パルプから作られるフィルムです。石油から作る一般的なプラスチックフィルムとは出自が違います。

木材パルプが透明なフィルムになるまで

いったん溶かして、また固める

原料は木材チップです。そこから植物繊維の塊であるパルプを取り出し、薬品で溶かしてビスコースという粘り気のある液体にします。これを薄く押し出して再びセルロースに戻すと、透明なフィルムになります。

ビスコースとは、パルプを薬品で処理して得られる粘性の高い液のことです。同じ液から糸を作ればレーヨン、膜にすればセロハンになります。

発明は100年以上前のスイス

セロハンを生み出したのは、スイスのジャック・ブランデンベルガーです。1908年に連続してフィルムを作る試験機を組み上げ、1912年に製造法を発明したとされています。テープに使われるより20年ほど前から、包装材として存在していた素材でした。

厚さ0.05mmに、4つの層がある

剥離剤・セロハン・下塗り剤・粘着剤

セロテープの厚みは約0.05mm、1mmの20分の1ほどしかありません。その中に、役割の違う4つの層が重なっています。

材料・役割
剥離(はくり)剤表面側。粘着剤をはじき、巻いたテープを引き出しやすくする
セロハン本体となるフィルム。原料は木材パルプ
下塗り剤セロハンと粘着剤を密着させる接着の下地
粘着剤天然ゴムと松脂(まつやに)などの天然樹脂が主成分

巻いたテープがぴたりと固まらず、端からするりと引き出せるのは、いちばん外側に剥離剤が塗ってあるからです。粘着剤の反対面がわざと「くっつきにくく」してある、という設計になります。

ゴムの木と松の木でできた粘着剤

粘着剤の主原料はゴムの木から採れる天然ゴムで、これに天然樹脂を混ぜて粘りを調整しています。基材も接着面も植物由来という、意外に古風な組み合わせです。

手でスッと切れるのも素材のおかげ

切るときの力は3分の1

ニチバンの比較によれば、カットするときに指へかかる力はセロテープが約0.5N、OPPテープが約1.5N。3倍ほどの差があります。セロハンは繊維の向きに沿って裂けやすい性質があるとされ、指先の力でもまっすぐ切れてくれます。

静電気もにおいも少ない

帯電量はセロテープが約1kV、OPPテープが約8kV。テープを引き出したときに髪やほこりが寄ってきにくいのは、この差によるものです。においの強さも、5段階の目安でおよそ2と4という開きがあります。

セロハンテープとOPPテープは、どこで分かれるのか

透明なテープの主役は、いまや事務用のセロハンテープよりも、段ボールを閉じるOPPテープのほうが多いかもしれません。両者は見た目こそ似ていますが、素材から用途まで別物です。

OPP(二軸延伸ポリプロピレン)とは、ポリプロピレンを縦横に引き伸ばして強くしたフィルムのことです。梱包用テープや食品の袋に広く使われています。

項目セロハンテープOPPテープ
基材セロハン(植物由来)ポリプロピレン(石油系)
粘着剤ゴム系(天然ゴム・天然樹脂)アクリル系など
手で切る切れる(約0.5N)切りにくい(約1.5N)
上から字を書く書ける書きにくい
静電気約1kV約8kV
焼却時のCO2約20g/巻約45g/巻
得意な場面紙の貼り合わせ・軽作業段ボールの封・重い荷物

軽作業ならセロハン、梱包ならOPP

強さが要るところにセロハンは向かない

セロハンは湿気を吸えば伸び、乾けば縮みます。重い荷物を長時間支える用途には力不足で、段ボールの封にはOPPテープやクラフトテープが選ばれます。目安としては「軽作業ならセロハンテープ、梱包ならOPPテープ」と覚えておけば外しません。

燃やしたときの差

1巻を焼却したときのCO2排出量には、約20gと約45gという開きがあるとニチバンは示しています。植物由来のセロハンは、土の中でも海水中でも生分解する素材。小さな道具ですが、選び方で差が出る部分ではあります。

「スコッチ」も「Sellotape」も、実はセロハンとは限らない

1930年のアメリカと1937年のロンドン

セロハン粘着テープそのものを生んだのは、アメリカの3Mです。技術者のリチャード・ドリューが開発し、発売されたのは1930年9月8日。イギリスのSellotapeが生まれるのは、その7年後にあたる1937年のロンドン西部・アクトンでした。

Sellotapeという綴りにも事情があります。素材名のCellophaneはすでに商標だったため、頭のCをSに替えて登録したと説明されています。

メンディングテープの基材はアセテート

3Mのスコッチ メンディングテープは、透明テープの仲間に見えて基材がアセテートフィルム、粘着剤はアクリル系です。つや消しになっていて、貼った跡が目立ちにくく、変色もしにくいという性格。書類に貼ったままコピーを取っても線が写り込みにくいのは、この表面の加工によるものです。

ブランド名だけでは中身は決まりません。「スコッチ」も「Sellotape」も会社の看板であって、素材の名前ではないからです。

貼ってはいけない場所がある

便利さの裏側で、セロハンテープには時間に弱いという弱点があります。図書館や資料館では、修理に粘着テープを使わないのが原則です。

古いテープが茶色くなるしくみ

テープだけ落ちて、糊が残る

年月が経つと、粘着剤が変質してテープの部分だけがはがれ落ちます。糊は紙の表面に残ったまま。やがて硬く固まり、茶色く濃くなり、紙の内部まで浸み込んでいきます。

セロハン自体も褐色になる

セロハンは5〜15%ほどの水分を含んだフィルムで、湿度の変化で伸び縮みします。古くなると淡い褐色に変わり、指で触れただけで割れるほどもろくなるのです。押し入れで何年も眠っていたテープがパリパリになっていた、という経験がある人もいるでしょう。

図書館が使うのは、和紙とでんぷん糊

「あとで剥がせる」ことが条件

資料の修理では、中性の安定した材料を使うのが基本とされています。破れたページに当てるのは和紙、接着に使うのはでんぷん糊。水を含ませれば剥がせるため、何十年か先にやり直すこともできます。東京都立図書館などが公開している修理の手引きも、この考え方にもとづくものです。

浸みた跡は消せない

粘着テープで補修された本は、修理の専門家にとって悩みの種だといいます。良かれと思って貼った一片が、直す前より状態を悪くしてしまう。変色した痕は取り除けず、紙同士がくっついてしまうこともあります。

セロハンを作る会社は、2社まで減っていた

名前のほうは「セロテープ」として日常語になった一方で、素材そのものは静かに姿を消しかけていました。

13社から2社へ

国内のセロハンメーカーは、かつて13社を数えたと報じられています。それが現在も生産を続けるのは、レンゴーとフタムラ化学の2社だけ。1970年代以降、耐水性や価格で勝るプラスチックフィルムに包装の座を奪われていった結果です。

おにぎりやパンの個包装が広がるほど、セロハンの出番は減りました。透明な包み紙といえばセロハンだった時代は、とうに過去のものになっています。

脱プラスチックで、また声がかかった

ところが近年、生分解する素材として再び注目が集まっています。レンゴーは2020年、セロハンをベースにした包装材シリーズ「REBIOS(レビオス)」を開発しました。生分解性樹脂と組み合わせ、耐水性やヒートシール性を持たせたものです。

古い素材が、環境という新しい理由で呼び戻される。100年前の発明にしては、ずいぶん息の長い話です。

テープを貼るとき、人は数十年後のことを考えていません。とりあえず今この紙を留めたい、というだけの短い時間のための道具です。その短さを引き受けているのが、木から作られた0.05mmのフィルムと、ゴムの木から採れた粘着剤。そして、はがす側に回る誰かが、何十年か経ってからその跡と向き合うことになります。

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