確証バイアスとは、自分がすでに持っている考えに合う情報ばかりを探して重く見てしまう心の傾向です。合わない情報は軽く扱われ、見落とされることもあります。わざとではなく、本人は公平に調べているつもりのまま起きるのが厄介なところ。数字当てのような単純な課題でも現れ、指紋鑑定のプロでさえ例外ではありませんでした。どんな実験で確かめられ、どうすれば弱められるのか、順に見ていきましょう。
確証バイアスとはどんな心の傾向か

探す・読む・覚えるの3か所で起きる
この偏りは、情報とのつき合い方のあちこちに顔を出します。調べるときは、考えに合いそうな情報から先に手に取る。読むときは、合う話を「なるほど」と受け取り、合わない話には粗探しを始めます。後から思い出すときにも、残りやすいのは合っていた例のほう。一つひとつは小さな偏りでも、重なると考えはなかなか動かなくなります。
英語ではconfirmation bias
英語の confirmation の意味は「確かめること」「裏づけ」。日本語では「確証バイアス」のほか「確認バイアス」と訳されることもあります。どちらも、すでにある考えを確かめる方向にばかり情報を集めてしまう、という中身は同じです。心理学では1960年代から実験が重ねられ、いまでは認知の偏り(認知バイアス)の代表例として扱われています。
うそや頑固さとは別もの
都合のいい話だけを選んで人をだますのは、意図してやる行為です。確証バイアスはそうではありません。本人は真剣に答えを探しているのに、探し方そのものが片寄っている状態を指します。頭のよさや知識の量とも別の話で、後で見るように大学生も専門家も同じ落とし穴にはまりました。自覚がないからこそ、仕組みを知っておく意味があります。
「2・4・6」の数字当てで見えた癖

1960年のロンドンで29人が挑んだ
この傾向を実験で鮮やかに見せたのが、英国の心理学者ピーター・ウェイソンです。1960年に発表した研究で、ロンドンの大学の心理学専攻の学生29人に、一人ずつ同じ課題を出しました。「2・4・6」という三つの数は、私が考えているある規則に合っている。その規則を当ててほしい、というものです。
学生は三つの数を自由に書き、それを選んだ理由も添えます。実験者は書かれた数が規則に合うかどうかだけを答えます。「とても自信が持てたら、そのときに規則を言ってください」とも伝えられていました。時間の制限はなく、試せる数はいくらでもあります。
「2ずつ増える」を確かめ続けた学生たち
多くの学生が最初に思いつくのは「2ずつ増える」といった規則です。そこで8・10・12を書くと、答えは「合っている」。20・22・24も「合っている」。こうして何度か当たりを重ねたところで、自信を持って規則を口にします。ところが実験者の返事は「違います」でした。
正解は「だんだん大きくなる三つの数」
ウェイソンの規則は、小さい順に並んでいれば何でもよいというものでした。「2ずつ増える」は、この広い規則の中にすっぽり収まる狭い規則です。だから狭い規則に合う数をいくら試しても、返事は必ず「合っている」になります。当たりをいくつ重ねても、間違いに気づくきっかけが来ないのです。
論文によると、一度も外さずに正しい規則を言えたのは29人中6人でした。13人は一度間違えてから、9人は二度以上間違えてからたどり着き、1人は最後まで規則を言いませんでした。正解した6人は、自分の考えに合わない数をよく試していたことも分かっています。
外れそうな数を試さないのはなぜか

当たりからは少ししか学べない
「2ずつ増える」と考えた人が、次に何を書けば一番多くを学べるか。三つの数ごとに、返ってくる答えとそこから分かることを並べると、違いがはっきりします。
| 試す数 | 返事 | 「2ずつ増える」説にとって |
|---|---|---|
| 8・10・12 | 合っている | 説は崩れない(新しく分かることは少ない) |
| 101・103・105 | 合っている | 同じく崩れない |
| 1・2・3 | 合っている | 説が崩れる(2ずつでなくても合う) |
| 3・6・9 | 合っている | 説が崩れる(間隔は何でもよさそう) |
| 6・4・2 | 合っていない | 「大きくなる順」が鍵かもしれない |
上の2行は、何度書いても説を守るだけです。規則に近づけるのは、「たぶん外れる」と思いながら書く下の3行のほうでした。
当たりを探す作戦は、ふだんはよく効く
考えに合う例を試すこと自体は、悪い作戦ではありません。1987年に米国の研究者クレイマンとハは、こうした探し方を「肯定的テスト方略」と呼び、多くの場面でむしろ役に立つと論じました。たとえば「この店は火曜が定休日だ」と思えば、火曜に行ってみるのが一番早く確かめられます。予想が外れていれば、その場で分かるからです。
正解が予想より広いと、いつまでも外れない
困るのは、本当の答えが自分の予想をまるごと包んでいる場合です。2・4・6の課題はまさにその形に作られていました。ウェイソン自身も、合う例だけに頼ると「ほぼ確実に」誤った結論に行き着くよう課題を設計したと書いています。外れる例を自分から作りにいかない限り、思い込みは一度も否定されないまま育っていきます。
同じ研究を読んでも意見はかえって割れる

死刑の賛成派と反対派に同じ2本を読ませた
1979年、米国スタンフォード大学のロード・ロス・レッパーの3人は、死刑に賛成の学生と反対の学生を合わせて48人集めました。全員に同じ2本の研究報告を読んでもらいます。1本は「死刑には犯罪を減らす効果がある」という結果、もう1本は「効果はない」という結果です。どちらも実験用に作られた架空の報告で、どちらの結果にどの調べ方を組み合わせるかは、人によって入れ替えてあります。
自分に合うほうを「よくできた研究」と評価
結果ははっきり出ます。賛成派は「効果あり」の研究を説得力があると評価し、反対の結果には調べ方の欠点を次々と挙げました。反対派はその逆。同じ紙を読んでいるのに、どちらの側も自分の考えを支える研究のほうが手法もしっかりしていると感じたわけです。
読み終えたあと溝が深まった
さらに目を引くのは、両方の研究を読んだあとのほうが、賛成派も反対派も自分の考えを強めたと答えた点です。賛否が半々の材料を渡されたのに、歩み寄るどころか離れていきました。ただし、考えの変化は本人の申告で測られています。実際にどれだけ変わったかまでは測られていない点に、注意が要るでしょう。
質問の仕方が相手の姿まで変える?

「外向的な人か確かめて」と頼まれると
同じ偏りは、人を見るときにも働きます。1978年のスナイダーとスワンの研究では、大学生に「これから会う相手が外向的な人かどうか確かめてください」と頼みました。学生たちが多く選んだのは「パーティーを盛り上げたいとき、どうしますか」のような質問です。外向的な面を引き出しやすい問いばかり。内向的かどうか確かめるよう頼まれた学生は、逆の質問を選びがちでした。
相手も質問に沿った答えを返してしまう
面白いのはその先です。盛り上げ方を聞かれた人は、盛り上げ方を答えるしかありません。そのやり取りを聞いた第三者には、相手が実際に外向的な人に見えたと報告されています。確かめるつもりの質問が、確かめたい姿を相手から引き出してしまう。面接や初対面の会話で「やっぱりそういう人だった」と感じるとき、同じことが起きているのかもしれません。
指紋鑑定のプロでも避けられなかったのか

マドリードの列車爆破と一つの指紋
2004年3月、スペインのマドリードで通勤列車が爆破されました。捜査で見つかった起爆装置入りの袋から指紋が採られ、米連邦捜査局(FBI)が照合します。FBIの鑑定官3人は、これを米国オレゴン州の弁護士の指紋と判定しました。のちに裁判所が選んだ外部の鑑定人も、同じ結論を出しました。
弁護士は5月に身柄を拘束されます。しかしスペイン警察は、その指紋をアルジェリア国籍の別の人物のものと特定しました。弁護士は2週間ほどで釈放され、FBIは判定を取り消しています。
似た点を見つけると「あるはず」と見えてくる
2006年に米司法省の監察総監室がまとめた報告書は、二つの指紋が非常にまれなほど似ていたことを認めています。最大で10か所の特徴が一致していました。そのうえで、鑑定官が弁護士の指紋に見える特徴を手がかりに、現場のぼやけた指紋にも「同じ特徴がある」と読み込んでいったと指摘しました。報告書はこれを循環論法と呼んでいます。報告書に引かれた外部の専門家は、同じ現象を「確証バイアス」と表現しました。
確かめ役も先の結論を知っていた
FBIには、別の鑑定官が判定を確かめ直す手順がありました。ところが確かめ役は、同僚がすでに「一致」と判断したことを知ったうえで見ていたのです。FBIの内部の検証チームも、この手順が確証バイアスを招きうると認めました。改善策として挙げられたのは、先の結論を知らせずに確かめる「ブラインド検証」です。
検索でも「はい」の答えに寄っていく

検索語に知りたい答えが入っている
何かを調べるとき、多くの人は「〇〇 効く」と打ち込みます。「〇〇 効かない」と並べて調べる人はあまりいません。検索語を選んだ時点で、すでに見たい答えのほうへ一歩踏み出しているわけです。出てきたページの中からも、つい期待に合う見出しを選んで開いてしまいます。
健康の質問で正解に届いたのは半分ほど
米マイクロソフト研究所のライエン・ホワイトは2013年、「この治療は効くか」といった、はい・いいえで答えられる健康の質問について検索の様子を調べました。利用者は、医師の見解から見込まれる以上に「はい」の答えを好んでいました。検索結果の側も「はい」に傾いていたといいます。最終的に利用者が落ち着いた答えは、およそ半分が間違いだったという報告です。
血液型の性格診断が当たる気がするのはなぜ?

当てはまった場面だけが記憶に残る
「A型だから几帳面」と思っていると、その人が書類をきちんとそろえた場面がよく目に入ります。散らかった机を見ても「今日は忙しかったのだろう」と例外の箱にしまいがちです。当たった場面は記憶に残り、外れた場面は数に入らない。こうして「やっぱり当たっている」という感覚が、日々少しずつ積み上がっていきます。
1万人超の調査では関係が見つからなかった
2014年、社会心理学者の縄田健悟(なわた・けんご)さんは、日本と米国の計1万人を超える調査データを使って血液型と性格の関係を調べ直しました。性格や行動に関する68項目のうち、血液型で差が出なかったのは65項目。効果の大きさで見ても、性格のばらつきのうち血液型で説明できるのは0.3%未満でした。感覚として「当たる」ことと、数えて確かめた結果とは、これだけ離れることがあります。
400年前にベーコンが書いていた

1620年の『ノヴム・オルガヌム』
名前がつくずっと前から、この傾向は知られていました。英国の哲学者フランシス・ベーコンは1620年の著作『ノヴム・オルガヌム(新しい道具)』で、こう述べています。人の知性はいったん考えを持つと、ほかのあらゆるものをその考えを支える方向へ引き寄せる。反対の例のほうが多くて強くても、見落とすか軽く扱うか理由をつけて退けてしまう、と。
「沈んだ人の絵はどこにある?」
ベーコンは古代ギリシャの逸話も引いています。神殿に案内された無神論者ディアゴラスは、神に誓いを立てて難破から助かった人々の奉納画を見せられ、神の力を認めるかと問われました。彼の返事はこうでした。では、誓いを立てたのに沈んでしまった人々の絵はどこにあるのか。ベーコンは、占星術や夢占いが信じられ続けるのも同じ仕組みだと続けています。
ウェイソンの論文もベーコンから書き出した
1960年のウェイソンの論文は、序論の1行目でベーコンの言う「単純な枚挙による帰納」に触れています。合う例を数え上げて結論を出すやり方のことです。340年の時を隔てて、哲学者の指摘が数字当ての実験として確かめられた形になります。そこで示されたのは、合う例をいくら集めても考えは証明されないという点です。
確証バイアスを弱める方法はある?

「公平に」より「逆を考えて」が効いた
1984年、ロードとレッパーらは、社会問題についての研究を評価する課題などで偏りを弱める方法を比べました。「できるだけ公平に、偏りなく判断してください」とお願いするだけでは、偏りはそれほど減っていません。より効いたのは「もし逆の結果が出ていたら、自分はどう評価したか」を考えてもらうやり方です。公平でいようと心がけるより、反対側の可能性を具体的に思い浮かべるほうが役に立ちました。
外れそうな例を自分から試してみる
2・4・6の課題で一度目に正解した6人は、考えに合わない数を進んで試していました。日常に置きかえるなら、調べものの検索語に「効かない」「デメリット」「反論」を足してみることです。自分の考えが崩れるとしたら、どんな事実が出てきたときか。それを先に書き出しておくと、探す方向が片寄りにくくなります。
結論を知らない人に見てもらう
自分一人で偏りを消すのは、専門家でも難しいことでした。だからFBIは、先の判断を伏せたまま別の人に確かめてもらう手順を取り入れようとしました。身近なところでは、企画書や文章を「私はこう思う」と言わずに読んでもらう、といった工夫が同じ考え方です。偏りは気合いで消すより、仕組みで避けるほうが確かなのでしょう。
1960年の実験室で「2ずつ増える」と答えた学生も、一度だけ1・2・3と書いていれば、すぐに気づけたはずです。返事は「合っている」。その一言で、自信のあった規則は崩れていました。外れそうな数を書くのは、少しだけ居心地が悪いものです。けれど本当の規則へ続く道は、たいてい、その居心地の悪いほうに通じています。
参考
- P. C. Wason「On the failure to eliminate hypotheses in a conceptual task」Quarterly Journal of Experimental Psychology 12(1960)
- C. G. Lord ほか「Biased assimilation and attitude polarization」Journal of Personality and Social Psychology 37(1979)
- 米司法省監察総監室「A Review of the FBI’s Handling of the Brandon Mayfield Case」(2006年)
- 縄田健悟「血液型と性格の無関連性」心理学研究 85巻2号(2014年)
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