映画やニュースを見ていると、海外の警察官はためらいなく銃を構えるのに、日本の警察官が発砲する場面はめったに見かけません。実は「警察官がいつ銃を撃てるか」は国によって大きく異なります。日本・アメリカ・イギリスを中心に、発砲をめぐるルールの違いを整理します。
※ この記事は各国の制度の傾向を一般的に紹介するものです。実際の運用は時期や地域、個別の状況によって異なります。
結論——銃を「持つ・撃つ」の前提が国でまるで違う
そもそも警察官が銃を携帯しているかどうかから、国によって考え方が分かれるのです。代表的な国の傾向を表にまとめました。
| 国 | 銃の携帯と発砲のスタンス |
|---|---|
| 日本 | 原則携帯するが、発砲は極めて抑制的。撃つと厳しく検証される |
| アメリカ | 携帯が前提。身の危険があれば比較的早い段階で使用が認められやすい |
| イギリス | 多くの一般警察官は銃を携帯せず、専門の武装部隊が対応する |
| ノルウェーなど北欧の一部 | 通常は非武装で、銃は車内に保管し許可を得て使う運用もある |
「警察官=銃を持って当たり前」というイメージは、実は世界共通ではないのです。

日本——「撃たない」を前提にした厳しい基準
使用は段階を踏んだ最後の手段
日本では、警察官の武器使用は法律で厳しく枠づけられています。基本は声をかけ、取り押さえ、警告へと段階を踏むのが原則。銃を使えるのは生命に関わる危険が迫った場合などに限られるとされ、発砲すればその判断の妥当性が事後に詳しく検証されます。「撃たずに収める」ことが前提に置かれているのです。
根拠となるのは警察官職務執行法の第7条です。人に危害を加えることは原則として禁じられていて、相手にケガを負わせかねない「危害射撃」が許されるのは、次のような場面に限られます。
- 自分や他人の身を守る、正当防衛・緊急避難にあたるとき
- 死刑や無期、3年以上の懲役にあたる凶悪な犯人が、抵抗したり逃げようとしたりするのを抑えるとき
- 逮捕状の執行などに、激しく抵抗されたとき
だから発砲件数はとても少ない
こうした抑制的な運用の結果、日本で警察官が実際に発砲する件数は、年間でみてもごくわずかにとどまります。威嚇射撃すら慎重に判断されるため、警察官が拳銃を抜く場面自体がまれです。治安の良さと、この厳格なルールは互いに支え合っているといえるでしょう。

アメリカ・イギリス・ヨーロッパ——多様なかたち
アメリカ——銃社会を前提にした運用
市民が銃を持つことが珍しくないアメリカでは、警察官も「相手が銃を持っているかもしれない」という前提で動きます。身に危険が及ぶと判断されれば、比較的早い段階で銃の使用が認められやすい傾向があります。州や市によって基準は異なり、近年は使用のあり方をめぐる議論も活発です。
数字の差も際立ちます。アメリカでは毎年およそ1,000人が警官に撃たれて命を落としており、ワシントン・ポスト紙の集計では2019年の死者は1,098人にのぼりました。発砲そのものがまれな日本とは、桁が何段も違う水準です。
イギリス——多くの警官は銃を持たない
一方イギリスでは、街なかを歩く一般の警察官の多くが銃を携帯していません。銃が必要な事件には、訓練を受けた専門の武装部隊が呼ばれて対応します。「警察官は原則として丸腰」という伝統は、市民と警察の距離の近さを大切にする考え方とも結びついているのでしょう。
これは数字にもあらわれています。2019〜20年度にイングランドとウェールズで銃器の使用が認められた出動は約1万9千回ありましたが、銃を扱える武装警官は全警官の5%ほどにすぎません。重大な事件には、ロンドン警視庁のSCO19のような専門部隊が呼ばれます。
ドイツ・フランス——「持つが、訓練と報告を徹底」
ヨーロッパ大陸の多くの国では、警察官が日常的に銃を携帯しています。ただしドイツやフランスでは、発砲に至るまでの訓練と、撃った後の報告が徹底されているのが特徴です。持つけれど乱用はさせない——アメリカとイギリスのちょうど中間のような立ち位置といえるでしょう。

発砲の後に待つ、厳しい検証
銃を「撃てるか」と同じくらい重要なのが、撃った後に何が起きるかです。とくに日本では、発砲は「して終わり」ではありません。
一発ごとに問われる「本当に必要だったか」
日本では警察官が発砲すると、その一発が本当に必要だったのかが組織内で詳しく調べられます。状況・距離・相手の危険度などが細かく検証され、不適切と判断されれば責任を問われることもあるのです。撃つという判断には、それだけ重い説明責任がついて回ります。
だから現場は「抜かない技術」を磨く
厳しく検証されるからこそ、現場の警察官は「銃を抜かずに収める」技術を磨いていきます。粘り強い説得や複数人での取り押さえなど、発砲以外の選択肢を尽くすのが基本です。日本の治安の良さは、こうした地道な積み重ねにも支えられているといえるでしょう。

豆知識——銃をめぐる各国のあれこれ
銃の前に使う「銃以外の装備」
警察官の装備は銃だけではありません。警棒やさすまた、相手を一時的に動けなくする道具など、銃を使わずに対応するための装備が各国で工夫されています。「最後の手段」である銃にたどり着く前に、いくつもの段階が用意されているわけです。

非武装の国にもいる「武装部隊」
イギリスや北欧のように通常は非武装の国でも、テロや銃器事件に備えた専門の武装チームは存在します。普段は銃を見せないだけで、いざというときの備えがないわけではないのです。「見えないところに用意がある」という形は、銃を日常的に見せる国とは正反対のアプローチといえるでしょう。
ルールの違いは「銃社会かどうか」を映す
警察官の発砲ルールは、その国に市民の銃がどれだけ広まっているかを映す鏡でもあります。誰もが銃を持ちうる社会では警察も身構えざるを得ず、銃が極端に少ない社会では警察も抜かずに済みます。同じ「警察官」でも、背負っている社会の前提がまるで違うわけです。
「なぜあの国の警官はすぐ撃つのか」「なぜ日本の警官は撃たないのか」——その答えは、警察官個人の気質ではなく、その国の社会と銃の関係そのものにあります。発砲ルールという一点を比べるだけで、国ごとの治安観が驚くほどくっきりと見えてきます。
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