二礼二拍手一礼は、神社本庁が「再拝・二拍手・一拝」として示している参拝の基本形です。深いおじぎを重ねて神さまへの敬意をあらわし、拍手で誠の心と感謝を伝え、最後の礼で結びます。ただ、拍手を「二回」とする形が全国でそろったのは明治以降のことです。神職の祭式として国が定めたもので、一般の参拝者にまで広まったのは戦後、浸透は平成に入ってからという見方もあります。
二礼二拍手一礼はどんな作法?

深い礼を2回・拍手を2回・礼を1回
拝殿の前で姿勢を正し、腰を深く折るおじぎを2回します。神社本庁の案内では、腰を90度に折るのがていねいな形です。続けて胸の高さで両手を合わせて2回打ち、最後にもう一度深くおじぎをします。礼・拍手・礼という三つの区切りを順にたどるだけなので、覚えてしまえば迷うことはありません。
神社本庁の呼び名は「再拝・二拍手・一拝」
「二礼二拍手一礼」は世間で広まった呼び方で、神社本庁のページでは「再拝(礼)・二拍手・一拝(礼)」と書かれています。再拝(さいはい)は「二度続けて拝む」という意味の言葉です。神社本庁は全国およそ8万の神社の9割以上をまとめる団体で、この形を「基本形」と位置づけています。
※ 神社本庁とは、1946年(昭和21年)に設立された、全国の神社を包括する宗教法人のことです。伊勢神宮を本宗(ほんそう)と仰いでいます。
願いごとをする時点は決まっていない
意外なことに、神社本庁の参拝方法の説明には「いつ願いごとをするか」が書かれていません。多くの人は二拍手のあと手を合わせたまま祈り、それから最後の一礼へ。作法の中に祈りの時間がはっきり組み込まれていないのは、もともと神職が神前で行う祭式の作法だったことの名残だと指摘する人もいます。
礼を2回重ねるのはなぜ?

重ねたおじぎは改まった敬意のしるし
はじめの2回の礼は、神さまへの深い敬意をあらわす動作とされています。日常の会釈よりずっと深く、腰を90度近くまで折るのがていねいな形です。1回で済ませず2回重ねることで、ふだんの挨拶とは違う改まった気持ちを示している、と説明されることが多い動作です。
宮中の儀式でも「再拝」が基本だった
2回拝む形そのものは、古くからのもの。平安時代の初め、799年(延暦18年)の元日の朝賀では、天皇に四度拝んでいた礼を二度に減らしたと『日本後紀』に記されているとされます。重ねて拝むことが丁重さのしるしで、その回数を儀式の格に合わせて変えていたことがうかがえます。
最後の一礼で参拝を結ぶ
拍手と祈りのあとの一礼は、お参りの締めくくりです。お参りさせてもらったことへの感謝を込めて、もう一度深く頭を下げます。願いごとを伝えて終わりにせず、礼で始めて礼で結ぶ。前後を礼ではさむ形にしたことで、参拝が一続きの区切られた時間になっているのです。
拍手(柏手)には何の意味がある?

指をそろえた手の形が柏の葉に似ている
神前で打つ拍手の別名は「柏手(かしわで)」。神社本庁によれば、両手の指をそろえて打つ形が柏の葉に似ていることから、この名が付いたとされます。打つときは右手の指先を少し下にずらし、肩幅ほどに開いてから2回打ち、そのあと指先をそろえるのが案内されている形です。
誠の心と感謝を神さまに捧げる
神社本庁の説明では、拍手には神さまに誠の心を捧げ、ご加護への感謝をあらわす意味があります。手を打つのは、心を込めて神さまと向き合っていることを形にした動作といえます。仏教の寺では合掌して静かに拝むのが基本なので、音を立てるのは神社ならではの拝み方です。
音で邪気を祓うという考え方も
拍手の澄んだ音には、その場の邪気を祓って清めるはたらきがある、という考え方も広く知られています。ただ、これは神社本庁の公式な説明には入っていない解釈です。神職の世界では、葬儀にあたる神葬祭(しんそうさい)で音を立てずに打つ「しのび手」という作法もあり、音の有無にも場面ごとの意味が込められています。
手を打って拝む習わしは3世紀の記録にもある

『魏志倭人伝』に書かれた倭人の挨拶
手を打って敬意を示す習わしそのものは、とても古いものです。3世紀の日本の様子を伝える中国の歴史書『三国志』魏書の倭人の条、いわゆる『魏志倭人伝』には「見大人所敬,但搏手以當跪拜」とあります。身分の高い人に会うと、ひざまずいて拝む代わりに手を打った、という意味です。
もとは人に向けた礼でもあった
この記述から分かるのは、拍手がもともと神さまだけでなく、敬うべき人に向けた礼でもあったことです。その後、人に対して手を打つ習わしは廃れ、神さまに向けるものとして残ったと考えられています。いま神社で手を打つ私たちは、1700年以上前の挨拶の名残をなぞっているのかもしれません。
宮中では32回打つ儀式もあった
奈良時代の宮中の元日の儀式では、ひざまずいて手を32回打つ形だったと伝えられています。それが平安時代に入ると中国風の礼法に改められ、朝廷の儀式では拍手が打たれなくなりました。拍手の回数は、時代によって大きく変わってきたのです。「2回」が昔から決まっていたわけではないことが、ここからも分かります。
「拍手は2回」と決まったのは明治以降

明治の初めまでは神社ごとにばらばらだった
江戸時代までは、全国の神社に共通する拝み方の決まりはありませんでした。拍手を3回打つところ、4回打つところなど、神社や地域によって作法はさまざまだったとされます。國學院大學の『神道事典』英語版も、古くは神社全体に共通する作法がなく、宮中の慣行が手本とされていたと説明しています。
1875年の「神社祭式」で再拝拍手が示される
流れが変わったのは明治の神社制度の再編です。1875年(明治8年)に式部寮(しきぶりょう)が「神社祭式」を定め、そこに「再拝拍手」と記されました。作法をそろえる動きは、ここから始まります。式部寮は宮中の儀式を担った役所で、いまの宮内庁式部職の前身にあたります。
1907年に神職の作法がこまかく決まる
1907年(明治40年)には、内務省がより詳しい「神社祭式行事作法」を出しました。神前での進み方や座り方から祝詞(のりと)の読み上げ・拝礼の手順まで、神職のふるまいを細かく定めた規程です。祭りの手順が全国の神社で同じ型にそろっていく、大きな一歩になりました。
1942年の改訂で「拍手の数を二とす」
戦時中の1942年(昭和17年)、この規程が改訂され、拍手の数を2回とすることがはっきり書き込まれたとされています。規程そのものは戦後、ほかの神社関係の法令とともに廃止されました。代わって1948年(昭和23年)に神社本庁が新しい祭式の規程を定め(1971年に改訂)、2回の拍手はそこへ引き継がれています。
一般の参拝者に広まったのはいつ?

もともとは神職の祭式の作法
明治から昭和にかけて定められたのは、あくまで神職が祭りのときに行う作法でした。一般の人が拝殿の前でどう拝むかまで、国が決めていたわけではありません。宗教学者の島田裕巳さんも、二礼二拍手一礼はもともと玉串(たまぐし)を捧げる神職の作法に伴うものだと指摘しました。
浸透は平成に入ってからという見方
2019年の著書『神社で拍手を打つな!』での島田さんの推測はこうです。参拝者に浸透したのは平成になってからで、昭和の時代にはまだそれほど広まっていなかったのではないか。いつから奨励され始めたのかははっきりしない、とも。いまでは巫女姿のイラスト入りの案内板を多くの神社で見かけますが、その光景自体が比較的新しいということになります。
「厳格な決まりはない」と添える神社も
神社本庁自身も、参道の歩き方の案内に「厳格な決まりはない」と添えているほどです。神社によっては特殊な拝礼の方法を行っているところがあり、その場合はその神社の作法に従うよう勧めています。二礼二拍手一礼は「守らないと失礼になる掟」というより、迷ったときに頼れる目安と考えるのが実態に近そうです。
四拍手や八拍手の神社もある

出雲大社はふだん四拍手、例祭は八拍手
島根県の出雲大社では、正式な参拝作法が「2礼4拍手1礼」です。本殿以外の社殿でも同じ作法で拝みます。5月14日の例祭(勅祭)のときだけは8回打ちます。8は昔から無限をあらわす数とされ、限りない拍手で神さまをたたえる意味があるそうです。ふだんの4拍手は、その半分という位置づけです。
宇佐神宮や彌彦神社も4回打つ
4回打つのは出雲大社だけではありません。大分県の宇佐神宮、新潟県の彌彦神社(いやひこじんじゃ)も四拍手で知られています。明治の統一より前から続く神社ごとの作法が、いまも残っている例です。出雲大社によれば、拍手の数で祈りや心に違いはないそうです。
伊勢神宮の神職は八度拝・八開手
伊勢神宮の神事では、8回拝んで8回手を打つ「八度拝(はちどはい)・八開手(やひらで)」という作法が伝わっています。これは神職が祭りで行うもので、一般の参拝者の拝み方は二礼二拍手一礼です。同じ神社の中でも、祭りと日々の参拝で作法を使い分けているわけです。
拝殿に着くまでの作法

参道の真ん中は神さまの通り道
神社本庁によれば、参道の中央は「正中(せいちゅう)」と呼ばれ、神さまが通る道とされます。そのため人は端のほうを歩くのが敬意のあらわし方です。どうしても中央を横切るときは、軽く頭を下げて通るか、中央で神前に向き直って一礼してから横切ります。神職が祭りで行う正中の作法にならったものです。
手水で清め、鈴と賽銭のあとに拝む
拝殿に向かう前には、手水舎(てみずや・ちょうずや)で手と口をすすいで身を清めます。拝殿の前に着いたら、鈴があれば鳴らし、お賽銭を納めてから二礼二拍手一礼に進むのが一般的な流れです。鳥居をくぐる前に軽く一礼する人も多く、神域に入る区切りとして大切にされています。
明治の祭式から生まれ、平成に入って広く根づいた二礼二拍手一礼は、思いのほか若い作法です。それでも、手を打って敬意を伝える習わしは3世紀の記録にまでさかのぼります。新しい「型」の中に、とても古い挨拶が受け継がれている。2回の拍手の音は、その両方を背負っているのです。
参考
- 神社本庁「参拝方法」
- 出雲大社「出雲大社での参拝はどのようにするのでしょうか?」
- 國學院大學デジタルミュージアム『Encyclopedia of Shinto』Gyōji sahō
- 東洋経済オンライン「初詣「二礼二拍手一礼」が古い伝統という勘違い」
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