朝起きたときだけ身長が少し高いのはなぜか——背骨と水分

からだの話
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朝いちばんに身長をはかると、夜より少し高く出る。健康診断で「去年より伸びた?」と一瞬うれしくなったこと、ありませんか。じつはこれ、気のせいではありません。

私たちの身長は、一日のうちで平均1〜2センチも伸び縮みしています。朝がいちばん高く、夜にかけて縮んでいく。そのカギをにぎるのが、背骨のあいだにある水分たっぷりのクッションなのです。

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朝がいちばん高い——一日で背は伸び縮みする

まず、一日のなかで身長がどう変わるのかを見てみましょう。朝と夜では、同じ人でもはっきり差が出ます。

時間帯身長背骨のクッション
起床直後いちばん高い水分をたっぷり含んでふくらむ
日中だんだん縮む重力で水分が抜けていく
就寝前いちばん低い薄くつぶれた状態

椎間板(ついかんばん)とは、背骨を形づくる骨(椎骨)と骨のあいだにはさまった、円ばん状のクッション。中心はゼリーのようにやわらかく、水分を多く含んでいます。

朝と夜で平均1〜2センチ

朝と夜の身長差は、平均でおよそ1〜2センチ。人によっては、もっと差が出ることもあります。ほんの数センチとはいえ、同じ一日のうちにこれだけ変わるのは意外に大きな幅です。

いちばん高いのは、朝、目が覚めて起き上がった直後。そこから時間がたつほど少しずつ縮み、寝る前がいちばん低くなります。身長は一日のなかで、ゆっくり上下しているのです。

「気のせい」ではない理由

朝のほうが高いのは、寝起きで背すじが伸びているから、というだけの話ではありません。背骨そのものの長さが、実際に変わっているのです。その主役が、次に見る椎間板です。

だから、身長を正確にはかりたいなら、いつも同じ時間帯にそろえるのがコツになります。朝はかった値と夜はかった値をならべても、フェアな比較にはなりません。

カギは背骨の「クッション」椎間板

背骨は、一本の棒ではありません。小さな骨がいくつも積み重なり、そのあいだに椎間板というクッションをはさんだ構造になっています。

骨と骨のあいだの水分クッション

椎間板の中心にあるのは、髄核(ずいかく)と呼ばれるゼリー状の芯。ここが水分をたっぷりため込むことで、クッションはふっくらと厚みを保ちます。背骨をしなやかに動かし、衝撃をやわらげる大事な部品です。

背骨には、この椎間板が二十枚あまりもはさまっています。一枚一枚は小さくても、積み重なれば背骨全体の長さを左右するのです。

重力で水分が押し出される

朝、起きて立ち上がると、頭や上半身の重みが背骨にのしかかります。すると椎間板は上から押しつぶされ、含んでいた水分が少しずつ外へにじみ出ていくのです。クッションが薄くなるぶん、背骨は縮みます。

立っている時間が長い日ほど、この圧縮は進みます。日中に少しずつ身長が減っていくのは、椎間板から水分が抜けていく過程そのものなのです。

寝ている間に水分が戻る

では、縮んだ背骨はどうやってもとに戻るのでしょうか。答えは、毎晩の睡眠。

横になると圧が抜ける

横になって眠るあいだ、背骨は重力から解放されます。上下に押しつぶす力がなくなると、椎間板はゆっくりと水分を吸い直し、ふたたびふくらんでいきます。ちょうど、水を含んでもどるスポンジのようなものです。

こうして一晩かけてクッションが厚みを取りもどし、朝には背骨がいちばん伸びた状態になります。朝の数センチは、寝ているあいだの回復の成果というわけです。

一枚1ミリでも、積もれば2センチ

ひとつの椎間板が回復する厚みは、ほんの1ミリほどです。けれども背骨には、二十枚以上のクッションがあります。一枚1ミリの変化でも、全部を足し合わせれば2センチを超える計算です。

小さな変化の積み重ねが、朝と夜のはっきりした差を生みます。背骨とは、そんな細かい部品の集合体なのです。

宇宙では背がぐんと伸びる

この「圧がなくなると伸びる」という仕組みは、地球を飛び出すとさらにはっきりあらわれます。無重力の宇宙では、背骨をつぶす力がほとんど働かないからです。

無重力で椎間板がふくらむ

宇宙に長くいると、椎間板が地上以上にふくらみ、背が数センチ伸びることが知られています。寝ているときと同じで、重力から解放された背骨がめいっぱい伸びるのです。ただし地球に帰れば、やがてもとに戻ります。

身長がずっと伸びるわけではなく、あくまで一時的な変化です。この点は、毎朝の私たちの背伸びと変わりません。

「9センチ伸びた」騒動の真相

2018年、宇宙ステーションに滞在していた日本人宇宙飛行士の金井宣茂(かないのりしげ)さんが「無重力で身長が9センチ伸びた」と発表しました。これが大きな話題になります。ところが翌日、船長から「さすがに伸びすぎでは」と指摘され、はかり直したところ——実際は2センチほどだったのです。

金井さんは「計測ミスで、とんだフェイクニュースを失礼しました」と訂正しました。宇宙で背が伸びるのは本当ですが、伸びるのはせいぜい数センチ。9センチは、さすがに勘違いだったというわけです。

年をとって縮むのは、別の話

ここまでは、一日で戻る一時的な伸び縮みの話でした。一方で、歳を重ねると身長がじわじわ低くなる、という現象もあります。こちらは仕組みが少し違うのです。

観点一日の伸び縮み加齢による縮み
おもな原因椎間板の水分の出入り椎間板の水分が減る・骨の変化
戻るか毎朝もとに戻る基本的に戻らない

水分が「戻らなくなる」

年齢を重ねると、椎間板そのものの水分が少しずつ失われ、クッションが薄いままになっていきます。若いころのように一晩で回復しなくなるため、身長はゆっくりと縮んでいくのです。背骨の圧迫や姿勢の変化も、これに重なります。

つまり、毎朝の数センチは「戻る伸び縮み」、加齢による縮みは「戻りにくい縮み」。同じ背が縮む話でも、中身はまったく別ものなのです。

身長を正しくはかるコツ

身長を記録するなら、いつも同じ時間帯にはかるのがおすすめです。とくに成長期の子どもの記録は、朝と夜がまざると正しく伸びを追えません。毎回そろえておけば、ほんとうの変化だけが見えてきます。

健康診断で去年より縮んで見えても、はかった時間がちがえば当てにはなりません。あわてる前に、まず時間帯を思い返してみるといいかもしれません。

朝、目覚めたときのほんの数センチは、背骨が一晩かけて水を含み直したしるしです。私たちは眠るたびに、少しだけ背筋を伸ばしてリセットしている。今日いちばん背が高いのは、たった今、起きたばかりのあなたなのです。