「ものもらい」は関西で「めばちこ」、呼び名は全国で何種類あるのか

眼帯をした女性のイラスト 言葉と論理の話
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まぶたの縁がぷっくり腫れる、あのできもの。目薬メーカーのロート製薬が全国の呼び名を集めた「ものもらいMAP」には、上位だけで16の呼び名が並びます。関東を中心とする「ものもらい」が全国の34%、関西の「めばちこ」が27%、京都・滋賀の「めいぼ」が7%。北海道の「めっぱ」や宮城の「ばか」、熊本の「おひめさん」まで、土地ごとに名前はまるで違うのです。

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  1. 呼び名は上位だけで16種類ある
    1. 上位3つで全国の7割近く
    2. 県ごとに強い呼び名が入れ替わる
    3. 一覧に並ぶ少数派の呼び名
  2. ものもらいとはどんな病気?
    1. 正式名は麦粒腫
    2. 原因菌は身近な黄色ブドウ球菌
    3. よく似た霰粒腫は脂の詰まり
  3. なぜ「もらう」という名前なの?
    1. 三軒の家から米をもらうと治る
    2. 「めこじき」も同じ発想から生まれた
    3. 江戸時代の本にも出てくる
  4. 「めばちこ」の語源は決着していない
    1. 大阪・兵庫・奈良では9割前後
    2. 「目+ハチ+コ」説と「パチパチ」説
    3. 関西で根強く残る理由
  5. めいぼ・めんぼ・めぼはどうつながる?
    1. 京都・滋賀の「めいぼ」は目のいぼ
    2. 言いやすい形に変わった「めんぼ」と「めぼ」
    3. 愛知の「めんぼう」は綿棒の連想か
  6. 北海道の「めっぱ」は移住者が運んだ?
    1. 北海道で63%、群馬でも30%
    2. 青森・秋田からの移民が持ち込んだ
    3. 群馬の「めっぱ」は日本海側の名残か
  7. 「めもらい」は北陸と九州で別々に生まれた
    1. 石川で68%、長崎で55%
    2. 北陸は「目のもらい」から
    3. 九州は「めしもらい」から
  8. 「ばか」と「おひめさん」は表裏一体
    1. 宮城では「ばか」が最多の59%
    2. 熊本の「おひめさん」は49%
    3. けなしても敬っても遠ざけたい
  9. 「ものもらい」は50年で全国へ広がった
    1. かつては東日本の一部の言葉だった
    2. テレビや新聞が広げたが限界もある
  10. 参考
  11. 関連記事

呼び名は上位だけで16種類ある

日本地図のイラスト

上位3つで全国の7割近く

ロート製薬の調査で全国の使用率が示されているのは上位3つです。1位の「ものもらい」が34%、2位の「めばちこ」が27%、3位の「めいぼ」が7%。この3つを足すと68%になり、残りの3割ほどを10を超える呼び名が分け合っている計算です。

数字だけ見ると「ものもらい」が圧勝に見えますが、2位との差は7ポイントしかありません。日本のおよそ4人に1人は、この病気を「めばちこ」と呼んでいる計算です。

県ごとに強い呼び名が入れ替わる

同じ調査には、呼び名ごとに「使用率の高い県」も出ています。主なものを並べると、地域のくっきりした分かれ方が見えてくるはずです。

呼び名使用率がいちばん高い県主に使われる地域
ものもらい神奈川県 91%東日本が中心
めばちこ大阪府 91%近畿(京都・滋賀を除く)
めいぼ徳島県 79%京都・滋賀・四国・宮崎など
めんぼ岐阜県 51%岐阜・愛知・三重
めぼ広島県 70%三重・中国・四国
めっぱ北海道 63%北海道・群馬
めもらい石川県 68%北陸(福井・石川)・長崎・大分
ばか宮城県 59%宮城・岩手・山形
おひめさん熊本県 49%熊本

大阪の91%は神奈川の「ものもらい」と同じ高さです。関西では「めばちこ」が、関東の「ものもらい」と同じくらい当たり前の言葉だとわかります。

一覧に並ぶ少数派の呼び名

上位の一覧には、表に入れなかった呼び名もあります。「おでき」「ものむらい」「めこじき」「めんぼう」「めぱちこ」「めんちょ」「めかいご」の7つです。「ものむらい」は「ものもらい」の言い方が少し崩れた形で、東日本で一緒に使われています。

一覧の外にも、ふだん耳にしない呼び名が残っています。佐賀の「おきゃくさん」や沖縄の「おともだち」は、そのなかでもひときわ変わった例です。理由はあとの「ばか」と「おひめさん」の話でふれます。

ものもらいとはどんな病気?

まぶたが赤く腫れた男性のイラスト

正式名は麦粒腫

「ものもらい」も「めばちこ」も俗称で、医学の名前は麦粒腫(ばくりゅうしゅ)です。日本眼科学会は、まぶたにある脂や汗を出す腺に細菌が感染して起こる病気だと説明しています。まぶたの一部が赤く腫れ、軽い痛みを伴うのが典型的な症状です。

炎症が進んで膿がたまると、自然に破れて膿が出ることもあります。膿が出れば、炎症はそこからおさまっていく流れです。治療は抗菌薬の目薬や飲み薬が中心で、化膿が進んだときは切開して膿を出すこともあります。

原因菌は身近な黄色ブドウ球菌

参天製薬の解説によると、原因菌の多くは黄色ブドウ球菌です。健康な人ののどや鼻、皮膚や手指にもいるありふれた菌で、感染力は弱い部類です。目にけがをしたときや体の抵抗力が落ちたとき、目をこすると起こりやすいといいます。

「もらう」という名前から人にうつる病気だと思われがちですが、感染する危険は大きくないとされています。汚れた手で目をこすらないことが、いちばん身近な予防です。

よく似た霰粒腫は脂の詰まり

見た目がよく似た病気に霰粒腫(さんりゅうしゅ)があります。こちらはまぶたの脂の腺(マイボーム腺)の出口が詰まってできるしこりで、細菌感染ではありません。痛みや赤みはほとんどなく、まぶたにコロコロしたしこりを触れるのが典型です。

多くは自然に吸収されますが、時間がかかることもあります。しこりが大きければ、手術で取り除くこともあるそうです。麦粒腫として治療を始めてから実は霰粒腫だったとわかる例もよくあると、日本眼科学会は書いています。まぶたの腫れが長引くときは眼科で診てもらうのが確実です。

なぜ「もらう」という名前なの?

米俵とお米のイラスト

三軒の家から米をもらうと治る

名前の由来は、薬に頼らない昔の治し方にあるとされます。ロート製薬のMAPで解説を担当した三重大学の余健(よ・けん)氏は、各地の言い伝えを紹介しています。福島県東白河郡には「三軒の家から米をもらって食べるとなおる」という言い伝えがありました。

岐阜県土岐市にも、よその家へもらいに行くと治るという話が残っています。人から物をもらうことで治す。この習わしが、そのまま病気の名前になったと考えられています。

「めこじき」も同じ発想から生まれた

同じ考え方から生まれた呼び名がほかにもあります。長野や岐阜に残る「めこじき」と、秋田や鳥取・島根で聞かれる「ほいと」系の呼び名です。どちらも、物をもらって暮らす人を指す古い言葉が下敷きになっています。

約50年前の国立国語研究所の調査では、「めこじき」は長野・岐阜・愛知・静岡・山梨の広い範囲で使われていました。今回の調査では長野で24%、岐阜で16%にとどまります。余氏は、意味の悪さが嫌われて若い世代に受け継がれなかったとみています。

江戸時代の本にも出てくる

「ものもらい」という呼び名は、少なくとも江戸時代の中ごろには使われていました。『精選版 日本国語大辞典』は、1775年の洒落本『風俗通』に目のふちの「ものもらひ」が出てくる例を挙げています。

同じ辞典で「ものもらい」を引くと、最初に出てくる意味は人に食べ物などをもらって暮らす人のことです。目のできものの意味は、そこから派生したものとして載っています。言葉の順番からも、「もらう」が先にあったことがうかがえます。

「めばちこ」の語源は決着していない

通天閣のイラスト

大阪・兵庫・奈良では9割前後

「めばちこ」の使用率は大阪府が91%、兵庫県が90%、奈良県が88%です。高い年代から若い世代まで、ほとんど変わらずに使われています。近畿でも京都府と滋賀県だけは別で、こちらは「めいぼ」が優勢です。

しかも「めばちこ」は周りへ広がっています。約50年前の調査と比べると、京都府の若い世代や岡山県の全世代でも使われるようになりました。共通語の「ものもらい」に押されるどころか、地域を広げている珍しい方言です。

「目+ハチ+コ」説と「パチパチ」説

語源には大きく2つの説があります。1つは「メ(目)+ハチ(こじき)+コ(小さいものを表す接尾辞)」とする説。もう1つは、目をパチパチさせる様子から来たとする説です。

前の説が正しければ、「めばちこ」も「ものもらい」や「めこじき」と同じく、もらって治す習わしの仲間ということになります。ただ、余氏はどちらの説についても、はっきりしたことはわかっていないとしています。

関西で根強く残る理由

余氏の見方では、近畿ではテレビなどのメディアの影響をほとんど受けず、家族や地域の会話を通じて世代から世代へ伝わってきました。一目で方言とわかる言葉がこれほど残るのは珍しいことです。

余氏が背景に挙げるのは、明治の遷都まで長く日本の中心だった歴史です。人口と経済の力やお笑いの文化も加わります。東京に張り合えるだけの力を持つ土地だからこそ、関西弁への愛着も強いのではないか。それが余氏の見方です。

めいぼ・めんぼ・めぼはどうつながる?

大きく口を開けた男性のイラスト

京都・滋賀の「めいぼ」は目のいぼ

京都府と滋賀県で多い「めいぼ」は、「目」+「いぼ」が語源と考えられています。見た目をそのまま名前にした、わかりやすい呼び方です。使用率がいちばん高いのは意外にも徳島県の79%。山口県の63%、宮崎県の62%が続きます。

余氏の見立てでは、かつて都だった京都の言葉が、テレビのない時代に人の行き来で少しずつ周りへ伝わりました。九州へは瀬戸内海沿いのルートと、四国を抜けて大分・宮崎へ渡るルートの2つがあったと考えられています。

言いやすい形に変わった「めんぼ」と「めぼ」

「めいぼ」が東海へ伝わると、岐阜や愛知では「めんぼ」になりました。「me-i-bo」のmとbはどちらも唇を閉じる音です。そのあいだの「i」が「m」に変わると、唇の動きがそろって言いやすくなります。

一方、三重や広島・山口では「i」が抜け落ちて「めぼ」になったと考えられています。広島県の使用率は70%です。同じ「めいぼ」から出発して、変わり方が2通りに分かれたわけです。

愛知の「めんぼう」は綿棒の連想か

愛知県では若い世代ほど「めんぼう」と言う人が増えています。余氏は、もとの「目+いぼ」という意味が忘れられ、腫れた様子が「綿棒」や「目の棒」に重ねられたのではないかと推測しています。

高知県でも同じことが起きました。50年前は「めぼ」だった海岸部を中心に、今では全世代で「めぼう」が多数派です。愛知では変化の途中で、高知ではほぼ変わり終えたという違いがあるそうです。

北海道の「めっぱ」は移住者が運んだ?

北海道の地図のイラスト

北海道で63%、群馬でも30%

北海道では「めっぱ」の使用率が63%にのぼります。2位はなぜか遠く離れた群馬県の30%、3位は秋田県の6%。語源は「めばちこ」と同じく「目+ハチ」から「チ」が落ちたという説などがありますが、はっきりしていません。

青森・秋田からの移民が持ち込んだ

余氏が注目するのは、北海道へ渡った人たちの出身地です。明治から大正にかけて北海道は本州から多くの移民を受け入れ、出身県の上位2つは青森と秋田でした。約50年前の調査では、その両県で「めっぱ」が多く使われていました。

つまり「めっぱ」は移住者と一緒に海を渡り、北海道で若い世代まで受け継がれたと考えられます。皮肉なことに、もとの青森・秋田では今は高齢の一部にしか残っていません。

群馬の「めっぱ」は日本海側の名残か

群馬から北海道へ移った人は少なかったため、群馬の「めっぱ」は別の道筋で説明されます。50年前の調査では、新潟に「めっぱつ」、秋田・青森に「めっぱ」がありました。

余氏は、かつては群馬南部から新潟・山形・秋田・青森まで「めっぱ」系の言葉が日本海側につながっていたと推測しています。あいだの地域で使われなくなり、今の飛び石のような分布が残ったという見立てです。

「めもらい」は北陸と九州で別々に生まれた

中部地方の地図のイラスト

石川で68%、長崎で55%

「めもらい」が使われるのは、北陸の福井・石川と、九州の長崎・大分です。使用率は石川県が68%、長崎県が55%、福井県が37%。日本海を挟んで遠く離れた2つの地域に、同じ言葉が残っています。

一見すると共通語の「ものもらい」によく似ていて、方言だと気づきにくい言葉です。余氏は、そのことが若い世代まで受け継がれている理由の一つだとみています。

北陸は「目のもらい」から

余氏は、2つの地域のあいだで言葉が直接伝わったとは考えていません。北陸では約50年前の調査で、「めもらい」と並んで「めのもらい」も使われていました。「目のもらい」の「の」が落ちて「めもらい」になったと推測されています。

九州は「めしもらい」から

九州のほうは事情が違います。50年前の調査では、「めもらい」の近くに「めしもらい」がかなり使われていました。こちらは「mesimorai」の「si」が落ちて「memorai」になったと考えられています。

北陸は「目」、九州は「飯(めし)」。出発点の違う2つの言葉が、たまたま同じ「めもらい」にたどり着いたことになります。方言の地図では、離れた土地の同じ言葉が親戚とは限らないのです。

「ばか」と「おひめさん」は表裏一体

お姫さまのイラスト

宮城では「ばか」が最多の59%

宮城県では「ばか」の使用率が59%で、全世代を通じていちばん多い呼び名です。岩手県の27%、山形県の19%が続き、両県では共通語の「ものもらい」に次ぐ2番手になっています。

悪口と同じ言葉なのに若い世代にも残っている点について、余氏は2拍で短く言いやすいことを理由に挙げています。ののしり言葉として共通語にもあるので、意味が通じやすいという面もありそうです。

熊本の「おひめさん」は49%

逆に、熊本県では「おひめさん(おひめさま)」が49%です。佐賀では「おきゃくさん」、沖縄では「おともだち」という呼び名も確認されています。どれも、できものをわざわざ丁寧な言葉で呼んでいるのが特徴です。

余氏は、使うべきでない場面であえて丁寧な言葉を使い、相手を心のなかで遠ざける表現だと説明しています。鹿児島に少し残る「いもれ」は「いぬもらい」を縮めた言葉で、こちらは丁寧さの逆を向いた呼び名です。

けなしても敬っても遠ざけたい

「ばか」と「おひめさん」は正反対に見えますが、余氏は「自分から遠ざけたい対象」を表す点で表裏一体だとしています。けんか相手に「勝手にしやがれ」と言うのと「勝手になさいませ」と言うのは、どちらも相手を突き放す言葉です。

できものに「早く出ていってほしい」と願う気持ちは同じで、言い方の向きだけが違う。そう考えると、まるで逆の2つの呼び名がすっきりつながります。

「ものもらい」は50年で全国へ広がった

アンケート用紙を持つ人のイラスト

かつては東日本の一部の言葉だった

今では標準語の顔をしている「ものもらい」ですが、約50年前の国立国語研究所の調査では、東海・関東・東北の一部でしか確認されていませんでした。数ある方言の一つにすぎなかったわけです。

今回の調査では、東日本を中心に使用率が大きく伸びています。神奈川県の91%、千葉県と埼玉県の89%が上位です。遠く離れた佐賀・鹿児島・沖縄でも多く使われるようになりました。

テレビや新聞が広げたが限界もある

余氏は、広がった背景にテレビや新聞・雑誌を通じた共通語化があると見ています。とくに若い世代ほど「ものもらい」を使う傾向がはっきりしています。福岡や大分では、20代から下で「ものもらい」が「めいぼ」を上回りました。

ただ、近畿や中国・四国では若い世代でも「ものもらい」は少数派のままです。同じメディアを見ていても、地元の言葉を手放すかどうかは地域によって違う。呼び名の地図は、そんな土地ごとの気質まで映しているようです。

人から物をもらって治そうとした昔の人の工夫は、薬のある今ではもう必要ありません。それでも名前のほうは、土地から土地へ、親から子へと手渡され続けています。病気はうつらなくても、呼び名はしっかり「もらわれて」きたのです。

参考

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