シマウマの縞は、黒い地に白い縞が入ったものだと考えられています。決め手になるのは見た目の面積ではありません。皮膚の色と、縞ができあがる順番のほうです。
とはいえ「白地に黒だろう」と答えたくなる理由も、ちゃんとあります。腹が真っ白な種がいるからです。どちらの言い分にも根拠があり、そのうえで片方に軍配が上がる、という決まり方をしています。
判定は「黒地に白」——ただし根拠の重さが違う

二つの言い分を並べると、どちらもそれなりに筋が通って見えます。違うのは、証拠として効く場面の広さです。先に判定と、その内訳を出します。
| 言い分 | 主な根拠 | どう評価されるか |
|---|---|---|
| 黒地に白 | 毛の下の皮膚は一様に黒っぽく、白い毛は色素を作らない毛である | 種や個体を問わず当てはまる。発生の順番とも一致し、こちらが有力 |
| 黒地に白 | 模様が乱れた個体では、暗い地に白い斑点が出る | 逆向きのパターン(白地に黒い水玉)はほとんど知られていない |
| 白地に黒 | グレビーシマウマなどは腹が白い | 部位ごとの差であり、全身の地の色の話とは別 |
| 白地に黒 | 白い部分の面積が広く見える | 面積は種や個体で変わるため決め手にならない |
表の上から順に中身を見ていきましょう。そのあとで、そもそも縞が何のためにあるのかという別の問いにも触れます。
皮膚は一色で、縞は毛の側にしかない

「黒地」を支える一番強い証拠は皮膚です。シマウマの毛を剃っても、縞模様は出てきません。
剃っても縞は出てこない
地肌は一様に黒っぽい
縞の研究を長年続けてきたカリフォルニア大学デービス校のティム・キャロは、シマウマの皮膚は黒一色だと述べています。白い縞の下にも、黒い縞の下と同じ色の皮膚が続いているということです。
色素を作る細胞が皮膚全体にまんべんなく配置されているため、毛を剃った状態のシマウマは全身が黒く見えるとされます。つまり縞は皮膚の模様ではなく、そこから生える毛だけの模様です。
「白い毛」は色を作らない毛
毛の色は、毛穴の中にいる色素細胞がメラニンを渡すかどうかで決まります。黒い縞の毛穴では色素が渡され、白い縞の毛穴では渡されません。同じ皮膚から、色を持つ毛と持たない毛が生え分かれているわけです。
※ 色素細胞(メラノサイト)とは、皮膚や毛の色のもとになる色素「メラニン」を作る細胞のことです。人間の髪や肌の色にも同じ細胞が関わっています。
色素細胞の既定値は「作る」ほう
白い縞はスイッチが切れている状態
白い縞の部分にも色素細胞そのものは存在します。ただ、そこではメラニンを作る働きが止められている、と説明されます。何もしなければ色がつき、特定の帯だけで色づけが抑えられる。この順番が「黒が地、白が縞」と判定される理由です。
白は色ではなく「色の不在」
人間の白髪も、白い色素が増えるのではなく、色素を作る働きが弱まって起こります。馬の額や脚に出る白い部分も同じで、色素が届かなかった跡です。白は塗り足された色ではない、と考えると、シマウマの白い縞の立場もはっきりします。
絵を描くときの感覚だと、白い紙に黒を引くほうが自然に思えます。生き物の体では逆で、色がつくのが既定、白いのは色を止めた跡。この差が、問いを取り違えやすくしている原因でもあります。
縞の下絵は、生まれる前に描かれている

縞の配置は胎児の時期に決まります。イギリスの発生学者J・B・L・バードは1977年の論文で、成体の縞から時間を巻き戻す方法でその時期を推定しました。
逆算すると、等間隔の細い縞になる
0.4ミリ間隔の下絵
バードは馬の胎児の成長データを使い、シマウマの縞を胎児サイズまで縮めていきました。すると、どの種でも縞が背中の線に対してきれいに直角に並び、間隔が等しくなる時点が現れたといいます。その間隔はおよそ0.4ミリ。ごく細い縞が等間隔に並んだ下絵が、あとから体の成長に引き伸ばされて成体の模様になる、という筋書きです。
体が伸びれば縞も伸びる
この考え方だと、縞の幅が部位によって違う理由も説明がつきます。よく伸びる胴や尻では縞が太く広がり、あまり伸びない脚では細いまま残る。首から肩へ縞の向きが傾いていくのも、体の伸び方が場所ごとに違うためだと解釈されます。
種で本数が違うのは「描いた時期」の差
妊娠3週目ごろか、5週目ごろか
バードの推定では、縞の下絵が描かれる時期は種によってずれ、妊娠3週目から5週目のあいだに収まるとされます。早い時期に描けば胎児は小さく、0.4ミリ間隔で並べられる縞の本数も少ない。それが成長とともに引き伸ばされた姿が、太くて本数の少ない縞。
逆に遅い時期なら胎児はすでに大きく、同じ間隔でも縞は多く入ります。細い縞がびっしり並ぶグレビーシマウマは、この遅いパターンにあたると考えられています。模様の違いが「別のしくみ」ではなく「同じしくみを使う時期の違い」で説明できる、という見立てです。
3種の縞は腹と尻で見分けられる
現生のシマウマは3種です。動物園で見分けるときは、縞の太さに加えて腹と尻を見るのが早道になります。
| 種 | 縞の特徴 | 腹・尻の見どころ |
|---|---|---|
| サバンナシマウマ | 太く本数が少ない。南の個体群では縞が薄く、間に淡い「影縞」が出ることもある | 北の個体群は腹にも縞が回る |
| グレビーシマウマ | 細く本数が多い。現生3種で最も大きく、耳も大きい | 腹は縞のない白 |
| ヤマシマウマ | 縞は太めで整い、尻に格子状の並びが出る | 腹に縞がなく、喉に肉垂(にくすい)がある |
「白地に黒」派の言い分と、それが揺らぐところ

白い腹を見て「白地」だと考えるのは、観察としては正しい出発点です。ただ、それは全身の地の色ではなく部位差の話に収まります。
白い地に黒い模様という組み合わせ自体は、珍しいものではありません。ダルメシアンの斑点がまさにそれです。同じ白黒でも成り立ちが逆になりうる、というのがここでの分かれ目になります。
腹が白い種がいる
グレビーの白い腹
グレビーシマウマの腹には縞がなく、白いまま広がります。ヤマシマウマも腹に縞がありません。この2種だけを見れば、白い体に黒い縞を描き足したように見えるのは自然な受け取り方です。
北の個体は腹まで縞がある
ところがサバンナシマウマでは、腹に縞が回り込む個体群があります。同じ属の中で腹の縞が「ある/ない」に分かれるなら、腹の白さは種ごとの事情ということになります。地の色の判定を任せられる材料ではありません。
例外の個体が、かえって答えを補強する
水玉のシマウマ「ティラ」
2019年、ケニアのマサイマラ国立保護区で、縞のかわりに白い水玉が散った子馬が撮影されました。発見に立ち会ったマサイの案内人の名から「ティラ」と呼ばれた個体で、原因は偽メラニズムと呼ばれる珍しい変異とされています。
※ 偽メラニズムとは、体色が本来より黒っぽく偏り、模様が崩れて現れる変異のことです。全身が黒くなる「メラニズム(黒化)」とは区別されます。
遺伝学者のグレッグ・バーシュは、この個体でも色素細胞はそろっており、メラニンが縞として正しく現れていないのだと説明しています。模様の指示が崩れたときに残るのは暗い体色で、白い部分が点として抜ける。地と縞のどちらが土台かを、そのまま見せている例です。
崩れたときに残るのは、いつも暗いほう
ティラのような個体はボツワナのオカバンゴ・デルタでも記録があり、いずれも暗い地に白い斑が抜けた姿でした。反対に、白い体に黒い水玉が散ったシマウマはほとんど知られていません。この非対称も「黒が地」の側を支えます。
ちなみに、変わった体色の個体は成体まで育ちにくいとも言われます。理由は目立つことだけではありません。縞が薄いと吸血性のハエに刺されやすくなる可能性も挙げられています。この「刺されやすさ」が、次の話につながります。
そもそも縞は何のためにあるのか——最有力は虫よけ

地の色が決まっても、縞がある理由のほうは別の問題として残ったままです。長らく迷彩説が有名でしたが、現在いちばん支持を集めているのは吸血性のハエを避ける説です。
虫の分布と縞の分布が重なる
5つの説をまとめて検定した2014年の研究
キャロらは2014年、ウマ科の各種・各亜種の縞の入り方と、生息域が重なる環境要因を突き合わせました。迷彩・捕食者かく乱・体温調節・社会性・虫よけの5説を同時に比べる設計です。結果として一貫した関連が出たのは、吸血性のアブが多い環境かどうかという指標でした。
腹の縞とツェツェバエ
同じ研究では、腹の縞の本数とツェツェバエの分布のあいだにも関連が見つかっています。一方で迷彩・捕食者回避・体温管理・社会性については、支持が一貫しませんでした。縞の濃い集団が、たまたま虫の多い土地に住んでいるだけではないか——そう疑うには、重なりが良すぎたということです。
縞を描いた牛で試した実験
黒毛和種6頭に白い縞を塗る
分布の一致だけでは因果は決まりません。そこで日本で行われたのが、牛に縞を描いてしまう実験でした。愛知県農業総合試験場(長久手市)の小島朋樹らは、黒毛和種の牛6頭を使い、白黒の縞を塗った状態・黒い縞だけを塗った状態・無塗装の3条件を入れ替えて観察しています。
結果は、白黒の縞を塗った牛に付いた吸血性のハエの数が、無塗装や黒い縞だけの牛のほぼ半分。塗料の匂いや黒い線そのものではなく、白と黒が交互に並ぶことが効いていた、という切り分けになっています。
効いているのは色ではなく「境目」
では何がハエを遠ざけるのか。2023年に発表された実験では、模様のコントラストが高いほどハエの着地が減り、大きく一様な暗い面があると着地が増えるという結果が出ました。一様な灰色の布には、市松模様の布の13倍もの着地が記録されています。
シマウマの縞が細く輪郭のはっきりした形をしているのは、ハエを引きつける「広い暗がり」を体に作らないためだと説明されています。かつて有力だった偏光の違いによる説明は、この実験では支持されませんでした。虫よけという答えは固まりつつあり、その仕組みの中身はまだ動いている段階です。
迷彩・体温調節の説はどこまで残っているか

古くから語られてきた説も、完全に消えたわけではありません。ただ、検証の結果として順位が入れ替わりました。
| 説 | 内容 | 現在の扱い |
|---|---|---|
| 虫よけ | 吸血性のアブやツェツェバエを寄せつけにくくする | 分布の一致と塗装実験の両方があり、最有力 |
| 迷彩 | 草むらに紛れて輪郭をぼかす | 捕食者の視力では遠くから縞を見分けられず、否定的 |
| 捕食者かく乱 | 走るときに縞が目を惑わせる | 一貫した支持は得られていない |
| 体温調節 | 白黒の温度差で空気の流れを作り体を冷やす | 相関の報告はあるが、冷却効果は確認できていない |
| 社会性 | 群れの仲間や親子を見分ける | 識別には使えるが、進化の理由としては支持が弱い |
迷彩説はどこでつまずいたか
50メートル先では縞が縞に見えない
2016年の研究では、ライオンやブチハイエナの視覚をもとに、どのくらいの距離まで縞を見分けられるかが計算されました。推定では日中およそ50メートル、薄暮ではおよそ30メートルを超えると、縞は溶け合って一様な灰色に見えてしまいます。人間の目には遠くからでもはっきり縞と分かるのに、です。
近づかれた時点で隠れる意味は薄い
縞が縞として働くのは、捕食者がかなり近づいたあとです。その距離まで来られていれば、匂いや動く音で見つかってしまう。開けた草原で暮らすシマウマが、ほかの同じ体格の草食獣より見つかりにくいわけでもないと報告されています。
走る縞が追い手の目測を狂わせる、という捕食者かく乱の説も似た立場です。第一次世界大戦の軍艦に施された「ダズル迷彩」は、船体に大胆な縞や幾何模様を描いて速度と進路を読ませない狙いだったとされます。ただ、シマウマの縞に同じ働きを求めた検証では、一貫した支持が得られていません。
体温説と社会性の説
相関はあるが、冷えたとは言えていない
気温の高い地域のシマウマほど縞がはっきりする、という相関を報告した研究はあります。ただ、白黒の温度差が空気の渦を生んで体を冷やすという肝心の仕組みについては、実験で確かめられていません。相関の存在と、そこに想定された仕組みの成立は、別に検証される必要があります。
見分けられることと、そのために進化したことは別
縞の並びは個体ごとに違い、写真から個体を判別する調査にも使われています。人間の指紋のような使い勝手です。ただ「識別に使える」は結果であって、「識別のために縞が進化した」ことの証明にはなりません。2014年の比較でも、社会性の説には一貫した支持が出ませんでした。
豆知識:ふつうの馬の脚にも、縞は出る

縞を出す下地は、シマウマだけのものではありません。「ダン」と呼ばれる毛色の馬には、背に一本の線が走り、脚に横縞が入ります。この脚の縞は英語で zebra stripes とも呼ばれ、原始的斑紋(げんしてきはんもん)と総称される特徴の一つです。
ダンはTBX3という遺伝子の変異が関わるとされ、モウコノウマやロバなどの野生のウマ科にも共通して見られます。ロバの肩に十字の線が出るのも同じ系列の話です。ウマ科は縞を描く仕掛けを一様に持っていて、シマウマ以外ではそれが抑えられている、という見方につながります。

- 前半分だけ縞があった種:クアッガは首から肩にかけてだけ縞があり、後半は茶色一色でした。飼育されていた最後の個体は1883年8月12日、アムステルダムの動物園で死んでいます
- 縞は個体識別に使える:縞の並びから個体を照合するソフトウェアが研究に用いられ、同じ個体の追跡に役立てられています
- 影縞:サバンナシマウマの一部では、黒い縞のあいだに淡い茶色の縞が重なって見えます
黒地に白、という答えは出ました。ただ、その黒と白が実際に仕事をしている場面を覗くと、効いているのは色そのものではありません。白と黒が接する境目の多さです。地の色を言い当てたところで、縞がある理由には届かない。答えの出た問いのすぐ隣に、まだ形を変えつづけている問いが並んでいます。
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