ロバと馬は、別の種の動物です。いっぽうポニーは種でも品種でもなく、体高147センチ以下の馬をまとめて指す「大きさの呼び名」にすぎません。
三つを横一列に並べると、とたんに分かりにくくなります。迷う原因ははっきりしていて、生きものとしての区分と、体の大きさによる区分。性質のちがう二つの分け方が、同じ列に紛れ込んでいるからです。
よくある五つの問いと、その答え

細かい話に入る前に、実際に聞かれることの多い順で答えだけを置いておきます。
| 問い | 短い答え |
|---|---|
| ロバと馬は同じ動物か | 別の種。染色体の数も64本と62本で違う |
| ポニーは馬の子どもか | 大人の馬。「子馬」という意味ではない |
| ポニーは品種名か | 品種ではなく、体高147センチ以下の馬の総称 |
| ロバとポニー、馬に近いのは | ポニー。ポニーはそもそも馬そのもの |
| ラバとは何か | 父がロバ、母が馬の雑種。染色体は63本 |
見た目の印象では、小さなポニーとロバが近い仲間に思えます。ところが血のつながりでいえば、ポニーは馬とまったく同じ種です。位置関係を数字つきで並べると、ずれの正体が見えてきます。
| 生きものとしての位置 | 染色体 | 体高の目安 | |
|---|---|---|---|
| 馬 | ウマ属の一種 | 64本 | サラブレッドで160センチ前後 |
| ロバ | ウマ属の別の種 | 62本 | 90〜150センチ(平均120センチ前後) |
| ポニー | 馬(同じ種)のうち小さいもの | 64本 | 147センチ以下 |
| ラバ | 馬とロバの雑種 | 63本 | 両親の組み合わせによる |
※ 体高(たいこう)とは、地面から肩の付け根(き甲)までの高さのことです。頭や耳の先までの高さではありません。
ロバと馬は「別の種」——染色体の数からして違う

ロバと馬は、同じウマ属に属する別々の種です。柴犬とゴールデンレトリバーのような品種ちがいではありません。見た目がよく似ているのは、共通の祖先から枝分かれした親戚どうしだからです。
体の設計図が違う
64本と62本
馬の染色体は64本、ロバは62本です。たった2本の差に見えますが、この違いが両者を別の種として隔てています。学名も馬は Equus caballus、ロバは Equus africanus asinus と別で、共通しているのは属名の Equus(ウマ属)だけ。
妊娠期間も1か月ちがう
馬の妊娠期間はおよそ330〜345日、ロバは約360日とされています。ほぼ1か月の差です。飼育の現場では、この差が交配計画や分娩の見込みを立てるときに効いてきます。
見分けるなら、どこを見るか
耳・たてがみ・尻尾の三点
いちばん分かりやすいのは耳の長さですが、確実なのは尻尾です。馬の尻尾は付け根から先まで長い毛に覆われるのに対し、ロバは牛のように先のほうだけに房状の毛がつきます。たてがみも違い、ロバのそれは短く、ぴんと立っているのが普通です。馬にある前髪(額に垂れる毛)も、ロバにはほとんど見られません。
背中の十字と、小さく硬い蹄
多くのロバは、肩から背にかけて濃い線が交差した十字の模様を持ちます。ヨーロッパには、キリストを背に乗せたロバへのしるしとしてこの十字が残ったという言い伝えもあるそうです。蹄も馬より小さく、角質が厚くて立っています。岩場を確実に歩くための形で、やわらかい地面を速く走るための馬の蹄とは、そもそも用途が違うわけです。
生まれ育った土地が違う
ロバは乾いたアフリカで家畜になった
2022年に国際研究チームが発表した遺伝子解析によると、ロバはおよそ7000年前のアフリカ東部で家畜化され、約4500年前にユーラシア大陸へ広がったとされます。背景にはサハラの乾燥化があったと考えられており、荒れた土地でも粗末な餌で働けるロバが、運搬役として重宝されたという筋書きです。アフリカとユーラシアの計238頭ぶんのDNAを突き合わせた解析でした。
長い耳は、涼むための装置でもある
あの耳は、遠くの音を拾うためだけのものではありません。表面積が大きく、皮膚のすぐ下を血液が流れるため、熱を逃がすラジエーターとして働くとされています。暑く乾いた土地で生きてきた動物が、体温をさばくために選んだ形。そう考えると、耳の長さそのものが出身地の証明書のようなものです。
ポニーは品種ではない——147センチという線

ポニーは、体高147センチ以下の馬をまとめて呼ぶ言葉です。特定の品種を指すのでも、子どもの馬を指すのでもありません。同じ種の中で「小さいほう」を切り出した区分にすぎず、線の位置は人が決めたものです。
147センチという半端な数字
もとは「14.2ハンド」だった
147という数字が中途半端なのは、これがメートル法で決められた線ではないからです。馬の世界では伝統的にハンドという単位が使われ、境目は14.2ハンドと定められました。14ハンドと2インチという意味で、換算すると147.3センチ。これを丸めた数字が、そのまま日本語の「147センチ以下」になっています。
※ ハンドとは、馬の体高を測る伝統的な単位です。1ハンドは4インチ(約10.16センチ)で、手のひらの幅がもとになっています。「14.2ハンド」は14.2倍ではなく「14ハンドと2インチ」の意味です。
サラブレッドはこの線を大きく超える
実感しやすいのは、よく知られた馬との比較でしょう。デビューを迎えるサラブレッドの体高は、牡でおよそ161〜162センチ、牝で159〜160センチとされます。147センチの線を10センチ以上うわまわる計算です。競馬場で見慣れた馬の姿は、馬の中ではむしろ大きいほうだと言えます。
ポニーと呼ばれる馬たち
100センチ台がずらりと並ぶ
ポニーに含まれる品種は幅広く、大きさもさまざまです。牧場の柵ごしに見上げるほどの品種もあれば、大型犬とさして変わらない品種もあります。
| 品種 | おおよその体高 |
|---|---|
| ファラベラ | 70センチ程度(40センチの成馬の例も) |
| シェトランドポニー | 平均100センチ程度 |
| ウェルシュマウンテンポニー | 平均120センチ弱 |
| ハフリンガー | 平均130センチ強 |
| コネマラ | 130〜140センチ |
日本の在来馬は、ほぼ全部がポニーサイズ
意外に思われるところですが、日本に残る8種の在来馬は、すべて147センチの線の内側に収まります。分類の言葉づかいのうえでは、道産子も木曽馬もポニーということになるわけです。
| 在来馬 | おおよその体高 |
|---|---|
| 北海道和種(道産子) | 125〜135センチ |
| 木曽馬 | 125〜135センチ |
| 御崎馬 | 平均130センチ |
| 対州馬 | 平均で雌125センチ・雄127センチ |
| 野間馬・トカラ馬・宮古馬・与那国馬 | 100〜120センチ |
「小さい馬」と「子どもの馬」は別
語源はたどると「動物の子」
ポニーを子馬だと思ってしまう誤解には、それなりの根拠があります。英語の pony は、17世紀半ばのスコットランド語 powny にさかのぼります。その先は中世フランス語で小さな馬を指した poulenet。さらに古フランス語の poulain(子馬)を経て、ラテン語の pullus(動物の子)へと続くとされます。語源の川上には確かに「子」がいるものの、現代の意味はあくまで小さい馬です。目の前の一頭は、成長途中ではなく、それが完成形。
ミニチュアホースはまた別の区分
ポニーよりさらに小さい馬として、ミニチュアホースがあります。体高は80センチ程度で、ファラベラなどを土台に作られました。ずんぐりして脚の短いポニーの体型に対し、ミニチュアホースは大きな馬の体つきをそのまま縮めた姿を目指しています。小ささの中身が違うわけです。
ロバの「頑固」は、たぶん誤解されている

ロバといえば頑固者。この評判は世界共通ですが、実際に起きていることは「言うことを聞かない」とは少し違うようです。危険に出会ったときの反応の型が、馬とロバでは異なるからだと説明されています。
逃げる馬、立ち止まるロバ
走り出すか、見きわめるか
馬は不安を感じるとまず走って距離を取ろうとします。広い草原で群れて暮らしてきた動物の、理にかなった反応です。いっぽうロバは、その場に踏みとどまって状況を確かめようとするとされています。岩がちで見通しの悪い土地では、やみくもに走るほうが危ないからだという見方です。
人の側からは「命令無視」に見える
引いても押しても動かないロバは、人間の目には強情な家畜に映ります。けれど当のロバにしてみれば、納得できるまで足を止めているだけ。頑固という評判は、危険への向き合い方の違いに人間が貼ったラベルなのかもしれません。
粗食に耐えるという強み
強健で、管理の手間が軽い
ロバは非常に強健で、質の低い餌でも働けます。乾いた土地の硬い草でも体を保てるうえ、手のかかる馬に比べて管理が楽。この評価こそ、ロバが家畜として選ばれ続けた理由です。もっとも、従順さでは馬にゆずり、体も小さいという弱点があります。長所と短所が、そのまま生まれ育った土地の条件を映しています。
いまも世界に4000万頭以上
ロバは過去の家畜ではありません。世界にはおよそ4400万頭がいるとされ、中国・エチオピア・パキスタン・エジプト・メキシコなどに多く飼われています。荷物の運搬、灌漑(かんがい)、脱穀や製粉。エンジンの届かない場所では、いまも現役の動力です。
ラバとケッテイ——父と母が入れ替わると名前が変わる

馬とロバのあいだには子が生まれます。ただし、どちらが父でどちらが母かによって、生まれてくる家畜の呼び名も性質も変わります。
組み合わせで別の名前になる
ラバとケッテイの分かれ目
父がロバ、母が馬ならラバ。逆に父が馬、母がロバならケッテイ(駃騠)と呼ばれます。同じ二種のかけ合わせでありながら、生まれるものは同じになりません。
| 呼び名 | 父 | 母 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| ラバ | ロバ | 馬 | 体格が大きく育てやすい。広く飼われてきた |
| ケッテイ(駃騠) | 馬 | ロバ | ラバより小さく、数はずっと少ない |
両親のどちらより優れる、という現象
ラバは馬の力強さとロバの粘り強さを併せ持ち、雑種強勢の代表例として知られています。性質もおおむね穏やかで臆病。ただし乱暴に扱われて機嫌をそこねると、まったく動かなくなる一面があり、これはロバ側から受け継いだ気質だとされています。
※ 雑種強勢(ざっしゅきょうせい)とは、異なる系統をかけ合わせた雑種が、両親のどちらよりも体格や強さの面で優れる現象のことです。
なぜラバに子ができないのか
63本という、割り切れない数
馬の64本とロバの62本を受け継いだラバの染色体は63本です。生殖細胞を作るときには染色体がきれいに二組へ分かれる必要があり、奇数ではそれがうまくいきません。ラバに繁殖能力がないのは、この数の違いによると考えられています。発情そのものはあり、ごくまれに出産例が報告されている点も、事実として押さえておきたいところです。
ローマ帝国は、ラバのためにロバを大きくした
ラバは自分では殖えないため、必要な数だけ馬とロバをかけ合わせ続けるしかありません。先ほどの2022年の遺伝子解析では、ローマ帝国が栄えた時代に、軍事用のラバを得る目的で体格の大きいロバの近親交配と選抜が行われていた形跡も見つかっています。ラバの需要が、ロバという動物の体つきそのものを変えていたわけです。
もう一歩踏み込むと

ヒーホーと鳴けるのはロバだけ
ロバのあの「ヒーホー」という声は、息を吸いながら「ヒー」、吐きながら「ホー」と出しているとされています。ウマ属の中でこの鳴き方ができるのはロバだけで、馬もシマウマも同じようには鳴けません。乾いた土地では音が遠くまで届くため、姿の見えない仲間に居場所を知らせる手段として役立ったと考えられています。
シマウマも同じ属の隣人
馬・ロバと同じウマ属には、シマウマも含まれます。属が同じであれば交雑が起きうるのは、ラバの場合と同じです。シマウマとロバのあいだに生まれた個体は「ゾンキー」などと呼ばれ、動物園や保護区で報告例があります。脚にだけ縞が出る姿は、両親の特徴がそのまま分け合われたように見えるものです。
ロバの背丈は、産地でこれだけ違う
ロバは乾燥地ほど大型になる傾向があるとされ、体高の幅は90センチから150センチにおよびます。中国・山東省の大驢(だいろ)のように160センチ級と紹介される系統もあれば、90センチほどの小型もいる。つまりロバの中には、147センチという「ポニーの線」の両側にまたがる開きがあることになります。もっともロバは馬ではないので、大きかろうと小さかろうとポニーとは呼ばれません。
ロバと馬を分けた境目は、人が引いたものではありません。染色体の数や耳の長さ、危険を前にした身の処し方。どれもそれぞれの土地で長い時間をかけて枝分かれした結果です。いっぽうポニーの147センチは、人が定規を当てて引いた線。同じ「違い」という言葉でくくられていても、片方は生きものの側にあり、もう片方は測る側にあります。三つを並べたときの座りの悪さは、その出どころの差から来ていたのです。
関連記事




