「犬の1歳は人間の7歳」という数え方は、目安としてもかなりずれています。環境省の換算表では、小・中型犬の1歳は人間の15歳、2歳で24歳。その後は1年に4歳ずつ進みます。犬は最初の1〜2年で一気に大人になり、そこから先はゆるやかに歳を重ねるのです。
「7倍」はどこから来た?

寿命の比から生まれたざっくり計算
よく挙がる説明は、寿命どうしの割り算です。人の寿命をおよそ70年、犬をおよそ10年と置けば、比はちょうど7対1になります。覚えやすく計算も楽なので、この数字が広く定着しました。ただし、一生の長さを等分しただけの式なので、成長の速さが時期によって違うことは入っていません。
13世紀の修道院の床には「9倍」とあった
犬と人の歳を比べた古い記録として知られるのが、ロンドンのウェストミンスター寺院に残る1268年の銘文です。ワシントン州立大学の記事によると、そこでの比は7対1ではなく9対1でした。7倍に下がったのは50年ほど前のことで、カンザス州立大学の獣医師は「宣伝のための工夫だったのでは」と推測しています。はっきりした出どころは、今もわかっていません。
1歳の犬は「小学1年生」ではない
7倍の式に当てはめると、1歳の犬は人間の7歳。小学校に上がったばかりの子どもです。ところが獣医学の区分では、犬の思春期は生後6か月ごろに始まり、2歳ごろには成長を終えます。1歳の犬は、人でいえばもう中高生の年ごろ。子犬の時期こそ、7倍の式がいちばん外れる部分です。
最初の2年で人間の24歳になる

1歳で15歳、2歳で24歳
環境省がペットの飼い主向けに作った換算表では、小・中型犬の1歳を人間の15歳、2歳を24歳としています。生まれてからの1年で中学3年生くらいまで、次の1年でさらに9歳ぶん進む計算です。子犬を迎えた家で「あっという間に大きくなった」と感じるのは、気のせいではありません。
2歳を過ぎると1年に4歳ずつ
同じ表で、2歳から先は1年に4歳ずつ増えていきます。式にすると「24+(犬の年齢−2)×4」。3歳は28歳、5歳は36歳、10歳は56歳です。表の最後の17歳は84歳にあたり、ここまで来ればりっぱな長寿でしょう。
7歳と14歳は暮らしの節目
環境省の資料は、換算した年齢に暮らしの目安も添えています。7歳はシニアの入り口で、食事や健康管理に気を配り始める時期。14歳ごろには足腰が弱って白い毛が増え、散歩がつらくなったり、排せつや食事の世話が必要になったりすることもあるとされます。数字は、こうした変化に備えるためのものさしです。
大きい犬ほど速く歳をとる?

大型犬は1歳12歳、そこから7歳ずつ
環境省の表は、大型犬だけ別の列になっています。こちらは1歳が12歳、2歳が19歳で、その後は1年に7歳ずつ。10歳で75歳、15歳では110歳に達します。おもしろいことに、2歳を過ぎてからの大型犬は、もとの「7倍」の式に近い速さで歳を重ねていくのです。
4歳を境に小型犬を追い越す
2つの列を並べると、意外な逆転が見えてきます。1〜3歳のうちは大型犬のほうが「若い」のに、4歳で大型犬33歳・小型犬32歳と並び、そこから差が開いていく形です。
| 犬の年齢 | 小・中型犬と猫 | 大型犬 |
|---|---|---|
| 1歳 | 15歳 | 12歳 |
| 2歳 | 24歳 | 19歳 |
| 4歳 | 32歳 | 33歳 |
| 7歳 | 44歳 | 54歳 |
| 10歳 | 56歳 | 75歳 |
| 15歳 | 76歳 | 110歳 |
10歳では、同じ年齢でも20歳近い開きになります。チワワとゴールデン・レトリーバーを同じ物差しで数えられないのは、このためです。
5万6千頭の記録が示した老化の速さ
なぜ大きな犬は早く老いるのか。ドイツのマックス・プランク研究所などのチームは、北米の獣医大学の病院に残る74犬種・5万6637頭の死亡記録を分析し、2013年に発表しました。老化が始まる時期は体の大きさとはっきり結びつかず、差が出たのは老化が始まってからの進み方でした。大きい犬種ほど、歳とともに死亡の危険が速く高まっていたのです。
ただし体重50キロを超えるような超大型犬は例外で、成長しきる前から老化が始まっていたそうです。哺乳類どうしで比べると体の大きな動物ほど長生きなのに、同じ犬の中では逆になる。研究チームが解こうとしたのは、このねじれでした。
遺伝子で測ると1歳は31歳?

DNAの目印が刻む「エピジェネティック時計」
見た目や暮らしぶりではなく、細胞の中の変化から年齢を測る方法もあります。DNAには「メチル化」と呼ばれる小さな目印が付いていて、その付き方は歳とともに少しずつ変わっていきます。この変化を時計のように読む仕組みが、エピジェネティック時計です。
※ メチル化とは、DNAの一部に小さな化学の目印(メチル基)が付くことです。遺伝子の働きを強めたり弱めたりする切り替えのような役目をします。
ラブラドール104頭から出た計算式
カリフォルニア大学サンディエゴ校のチームは、生後まもなくから16歳までのラブラドール・レトリーバー104頭の血液を調べ、人のデータと突き合わせました。導いた式は「人間の年齢=16×ln(犬の年齢)+31」。lnは自然対数で、最初に急に伸びてだんだん緩やかになる曲線を表します。論文が学術誌『Cell Systems』に載ったのは2020年7月で、投稿は前年の11月でした。
2歳で42歳、12歳で70歳
この式で計算すると、1歳の犬は人間の31歳。2歳で約42歳、4歳で約53歳になります。論文では、生後8週ほどの子犬が人の9か月ごろにあたり、どちらも乳歯が生えそろう時期だと確かめています。ラブラドールの平均的な寿命の12歳は人の70歳に重なり、世界の平均寿命とよく合うそうです。
式が当てはまりにくい時期もある
もっとも、論文自身も万能とは言っていません。子犬の時期と老年期はよく合った一方、思春期から壮年期にかけての対応は「おおよそ」にとどまると書いています。調べたのもほぼ1つの犬種なので、チワワや超大型犬に同じ式が使えるかは別の話。環境省の表と数字が違うのは、測っているものさしそのものが違うからです。
猫の1歳は人間の15歳

小・中型犬と同じ列で数える
環境省の表では、猫は小・中型犬と同じ列に入っています。1歳で15歳、2歳で24歳、その後は1年に4歳ずつ。猫も最初の1年で一気に大人になり、2年目以降はゆっくり歳を重ねる点で、犬とよく似た歩み方をします。
猫の15歳は人間の76歳
同じ式で数えると、10歳の猫は人間の56歳、15歳なら76歳です。表は17歳(84歳)で終わりますが、同じ式をのばすと20歳の猫は96歳。人間でいえば卒寿を過ぎた年齢にあたります。
換算した年齢はどう使えばいい?

表どうしで数字がずれるのは当たり前
1歳の犬を、環境省の表は15歳、DNAの式は31歳と数えます。どちらかが間違いというより、体の成長で比べるか細胞の変化で比べるかの違いです。一の位まで正確な「人間の年齢」は、そもそも存在しないと考えたほうが自然でしょう。
年齢より体の変化を見るきっかけに
換算がいちばん役に立つのは、体の変化に気づくきっかけとしてです。小・中型犬の7歳は人間の44歳、大型犬なら54歳。人でいえば健康診断の結果が気になり出すころです。食事の量や散歩のペースを見直すタイミングとして、数字を借りるのがちょうどいい使い方かもしれません。
7倍の式は、犬の一生を同じ速さで刻むものさしでした。実際の犬は、最初の1年で子ども時代を駆け抜け、あとは大きさに応じた速さで歩いていきます。子犬の1年が人の15年ぶんだと知ると、あの短い子犬時代がいっそう貴重に思えてくるはずです。
参考
- 環境省「犬・猫の年齢(人間の年齢に換算した年齢)」
- Wang T et al. Quantitative Translation of Dog-to-Human Aging by Conserved Remodeling of the DNA Methylome. Cell Systems, 2020
- Kraus C, Pavard S, Promislow DEL. The Size–Life Span Trade-Off Decomposed: Why Large Dogs Die Young. The American Naturalist, 2013
- Washington State University「How Accurate Are Dog Years?」
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