世界にはおよそ200の国があり、それぞれに国旗があります。デザインは実にさまざまですが、じつは一つだけ、すべての国旗に共通する点があります。どの国旗も、長方形か正方形、つまり「四角い」という点です。
ところが、その常識にただ一国だけ、堂々と背いている国があります。ヒマラヤのふもとの国、ネパールです。その国旗は、三角形を二つ重ねたような、ギザギザの不思議な形をしています。なぜネパールだけが、四角くないのでしょうか。その理由を、ひもといていきましょう。
ネパール国旗 早見表

この独特な旗のポイントを、表で先に整理しました。一つずつの意味は、このあと順にたどります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 形 | 世界で唯一、四角くない(三角の旗を2枚重ねた形) |
| 上の三角 | 月 |
| 下の三角 | 太陽 |
| 色 | 真紅は国花シャクナゲ、青い縁は平和 |
| 現在の旗の制定 | 1962年 |
世界でたった一つ、四角くない国旗

まず、その形がどれほど特別なのかを確かめておきましょう。ネパールの国旗は、世界の国旗の中で、まさに例外中の例外です。
約200カ国で、ネパールだけの形
※ ペナントとは、三角形をした細長い旗のことです。運動会の応援旗や、優勝旗などでおなじみの、あの三角の旗を思い浮かべてください。
すべての国旗は四角——一つを除いて
あらためて世界の国旗を見わたすと、そのほとんどが横長の長方形です。スイスとバチカンだけは正方形ですが、それでも「四角」であることに変わりはありません。ところがネパールだけは、そのどちらでもないのです。四角い旗が当たり前の世界で、ただ一国、まったくちがう輪郭をかかげています。
三角を二つ重ねたギザギザ
ネパールの国旗は、二つの三角形の旗を、上下に重ねたような形をしています。右側のふちが、山の稜線のようにギザギザと二段にとがっているのが特徴です。三角の旗、つまりペナントを二枚かさねた、と考えるとわかりやすいでしょう。この一風変わった形にこそ、ネパールの歴史がぎゅっと詰まっていました。
なぜこの形なのか——二つの旗の名残

では、なぜ三角が二つ重なっているのでしょうか。その答えは、もともと別々だった二つの旗が、一つにまとめられたことにあります。
もとは別々の「二つの三角旗」
王家の旗と、宰相家の旗
上の三角にある月は、もともとネパールの王家であるシャハ家を表す旗でした。いっぽう下の三角の太陽は、宰相(さいしょう)の家系であるラナ家の旗だったとされます。この二つは、それぞれ単独の三角旗として、およそ200年ものあいだ使われてきました。もとは、まったく別の家の、別々ののぼりだったのです。
二つを重ねて、一つの旗に
19世紀、ラナ家が国の実権をにぎるようになると、この二つの旗は上下に重ねて使われるようになります。王家と宰相家、二つの権威をならべて示したわけです。四角くないあの形は、二枚の三角旗を合体させた結果、生まれたものでした。つまりネパールの国旗は、二つの旗が一つに溶け合った姿だったのです。
三角形そのものが表すもの
ヒマラヤの山並み
二つの三角には、旗の由来とは別に、こんな意味も重ねられています。一つは、ネパールにそびえるヒマラヤの山々です。世界最高峰エベレストをふくむ、あの雄大な山脈の連なりを、とがった三角形が象(かたど)っているというのです。国土の象徴が、そのまま旗の形になっているとも読み取れます。
ヒンドゥー教と仏教
もう一つ、二つの三角は、ネパールの二大宗教を表すともいわれます。ヒンドゥー教と仏教です。ネパールは、仏教の開祖ブッダの生誕地をもつ国でもあります。二つの信仰が並び立つこの国のありようが、二つの三角に映し出されている、という見方です。
月と太陽に込められた願い

形の次は、中に描かれた月と太陽です。この二つの天体にも、ネパールの人々の思いが託されています。
国よ、永く続け
月と太陽のように、いつまでも
月と太陽が並んで描かれているのには、切なる願いが込められています。それは、月や太陽が空にありつづけるように、この国も末永く栄えてほしいという祈りです。天に浮かぶ二つの光に、国の永遠を重ねる。旗の一つひとつの絵柄が、そのまま国の未来への願掛けになっていたのです。
かつては「顔」が描かれていた
おもしろいことに、昔のネパール国旗では、月と太陽に人の顔が描かれていました。目や鼻、口のついた月と太陽が、旗の中からこちらを見ていたのです。ところが1962年、現在の国旗が定められたときに、この顔は取りはらわれました。今のすっきりとした月と太陽は、じつは比較的新しい姿だったというわけです。
色にも意味がある——赤と青

形と絵柄を見てきましたが、色にもきちんと意味がこめられています。旗をいろどる、深い赤と、ふちの青です。
国花の赤と、平和の青
真紅は国花シャクナゲ
旗全体をおおう鮮やかな真紅は、ネパールの国花であるシャクナゲの花の色です。この赤は、国を代表するナショナルカラーであり、同時にネパール国民の勇敢さを表すとされます。山国に力強く咲く花の色が、そのまま国の旗を染めているのです。
青い縁取りは平和
その真紅のまわりを、細い青のふちが囲んでいます。ギザギザの輪郭をぐるりとなぞる、この青は「平和」を意味します。勇ましさを表す赤を、平和の青がやさしく包みこむ。二つの色の組み合わせにも、この国の願いがそっと表れていました。
豆知識——憲法に「描き方」が書いてある

最後に、この国旗ならではのおどろきの豆知識を紹介します。なんとネパールでは、国旗の描き方が、憲法にきっちり定められているのです。
定規とコンパスで描ける旗
手順は全24ステップ
ネパールの憲法には、国旗を正しく作図するための手順が、こまかく書きこまれています。その数、なんと24のステップ。しかも、定規とコンパスさえあれば、だれでもあの複雑な形を正確に描けるようになっています。あの独特のギザギザは、感覚で描かれたのではなく、幾何学の計算に裏打ちされた精密なかたちだったのです。国の形をここまで厳密に定めた例は、世界でもめずらしいといえるでしょう。似ているのに別の国、という国旗の不思議もあわせて、こちらの記事でどうぞ。

四角い旗が世界の当たり前であるなかで、ネパールだけが二つの三角をかかげ続けています。その一枚には、たくさんの物語が幾重にも折りたたまれていました。王家と宰相家の歴史・二つの宗教・ヒマラヤの山々・そして月と太陽への願い。形が違うのには、ちゃんとした理由がある。あの一枚のギザギザに刻まれているのは、ネパールという国の歩み、そのものでした。


