シロアリと黒アリは何が違うのか——シロアリは「アリ」ではない

生きものの話
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白っぽいのがシロアリ、黒いのがクロアリ。名前も見た目もそう思わせますが、この二匹は「色違いの同じ虫」ではありません。シロアリは、生きものの分類でいえばアリよりもゴキブリに近い、まったくの別系統です。名前に「アリ」と付いているだけで、正体はかなり違うのです。

やっかいなのは、どちらも羽の生えた「羽アリ」になって家のまわりに現れる季節があること。ここを取り違えると、家の木材を食べる相手を見逃しかねません。見た目・暮らし方・そもそもの生い立ちの三方向から、二匹の違いを並べていきます。

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見分けの決め手を、先に一枚の表で

虫めがねで昆虫を観察する人

二匹は、体のパーツを一つずつ照らし合わせると違いがはっきりします。見るべきは触角・腰・羽・色の四か所。シロアリとクロアリを部位ごとに並べた対応表は、そのまま羽アリの見分けにも使えます。

見る場所シロアリクロアリ
触角数珠のように球が真っすぐ連なる「くの字」に折れ曲がる
胴のくびれ寸胴でくびれがない腰がきゅっとくびれる
羽アリの羽前後4枚がほぼ同じ大きさ・よく取れる前の羽が大きく後ろが小さい
体の色働き手は白っぽい半透明黒や茶色
分類上の仲間ゴキブリに近い系統ハチの仲間

「白いか黒いか」は実は当てになりません。シロアリの羽アリは黒っぽい種類もいるからです。頼りになるのは色よりも、触角と腰の形。ここからは、この表の一行ずつを開いていきます。

見た目でいちばん違うのは「腰」と「触角」

くびれた腰とくの字の触角を持つクロアリ

腰のくびれと触角の曲がり方

クロアリは「細い腰」と「くの字の触角」

クロアリを横から見ると、胸とお腹の間がはっきりくびれています。いわゆる「アリの腰」です。触角も途中で「くの字」に折れ曲がっていて、この折れた触角と細い腰が、ハチの仲間らしい姿の特徴になっています。

シロアリは「寸胴」と「数珠状の触角」

いっぽうシロアリは、胸からお腹までがずん胴で、くびれらしいくびれがありません。触角も折れ曲がらず、小さな球を真っすぐ数珠つなぎにしたような形です。二匹を並べたら、まず腰と触角を見る。これがいちばん確実な見分け方だとされています。

羽アリになると差はもっと分かりやすい

4枚の羽が「同じ」か「前後で違う」か

繁殖のために飛び立つ羽アリには、前後あわせて4枚の羽があります。シロアリはこの4枚がほぼ同じ大きさと形。クロアリは前の2枚が大きく、後ろの2枚が小さめで、前後で差があります。飛んでいる姿でも、羽のバランスが見分けのヒントです。

床に羽だけ落ちていたらシロアリを疑う

シロアリの羽はとても取れやすく、飛んだあとに自分で羽を落とします。窓辺や床に透明な羽だけが大量に散らばっていたら、シロアリの羽アリが屋内で発生したサインの可能性が高いとされています。クロアリの羽はここまで簡単には抜けません。

暮らし方は、もっと大きく違う

お腹がふくらんだシロアリの女王

育ち方が根本から違う

シロアリはサナギにならない

シロアリは「不完全変態」で、サナギの時期がありません。卵からかえった幼虫が、姿を大きく変えないまま育ち、そのまま働き手や兵隊へと役割を変えていきます。幼虫のうちから巣の中で働くのも、この育ち方ならではです。

クロアリは卵・幼虫・サナギ・成虫

クロアリはチョウやハチと同じ「完全変態」で、卵・幼虫・サナギを経て成虫になります。幼虫は自分では動けず、働きアリに世話をされて育ちます。同じ「アリ」の名でも、体のつくりの土台からして別物なのです。

働き手の「性別」も王の有無も違う

アリの働き手は全員メス

クロアリの巣で働くアリは、すべてメスです。オスは繁殖の季節にだけ生まれ、交尾を終えるとまもなく死んでしまいます。巣を切り盛りするのはメスの世界で、頂点にいる女王も一度の結婚飛行でためた精子を使い、その後は何年も産卵を続けるのです。

シロアリはオスも一生働き、王もいる

シロアリの働き手や兵隊には、オスもメスもいます。役割を果たすうえで性別の区別はありません。さらにシロアリには女王だけでなく「王」がいて、王は女王と生涯連れ添い、何度も交尾を繰り返します。一度の交尾では足りないため、二匹がずっと寄り添って卵を増やしていくしくみです。

食べるものがまるで別

シロアリの主食は、枯れ木や木材です。木の主成分であるセルロースは本来とても消化しにくいのですが、シロアリは腸の中に住む微生物に分解を手伝ってもらい、栄養に変えています。家の柱を食べてしまうのは、この食性のためです。

セルロースとは、植物の細胞壁をつくる繊維成分で、木や紙の主な材料です。多くの動物は自力で分解できず、シロアリは腸内の微生物の力を借りています。

クロアリのほうは肉食寄りの雑食で、ほかの虫や花の蜜、人間の食べこぼしの甘いものまで幅広く食べます。木を巣にすることはあっても、木そのものを栄養にして食べ尽くすわけではありません。「家を食べる虫」はシロアリで、クロアリは基本的にそうではない、という点は覚えておくと役に立ちます。

そもそもシロアリは「アリ」ではない

シロアリに近い仲間のゴキブリ

近い親戚はアリではなくゴキブリ

ここまでの違いの正体は、二匹の生い立ちにあります。クロアリはハチの仲間で、羽を持たない社会性のハチが祖先です。いっぽうシロアリは、朽ちた木を食べるゴキブリの一群から、社会性を発達させて生まれた系統だとされています。つまりシロアリにとって近い親戚は、アリではなくゴキブリのほうなのです。

木を主食にする点や、腸内の微生物に消化を頼る点など、シロアリの特徴の多くは木を食べるゴキブリの暮らしを引き継いだものと考えられています。白くて小さく、群れで動くので「アリ」に見えますが、体の中身はゴキブリ寄りというわけです。

似ているのは「別々に社会性を身につけた」から

では、なぜ系統が違うのに二匹はここまで似ているのでしょうか。どちらも、女王を中心に働き手や兵隊で役割を分ける「社会性の虫」だからです。この暮らし方を、シロアリとアリはまったく別の系統でそれぞれ独立に身につけました。似た環境で似た形にたどり着くこうした現象は、収斂進化(しゅうれんしんか)と呼ばれます。

収斂進化(しゅうれんしんか)とは、系統の異なる生きものが似た環境や暮らし方に適応して、結果的に姿や性質が似てくる現象のことです。

小さな体で列をつくり、巣で協力して暮らす。その見た目の共通点から、昔の人は木の中の白い虫を「白いアリ」と呼びました。英語でも、かつては「ホワイト・アント(白いアリ)」と呼ばれていた時期があります。名前は似ていても、たどってきた道はまったく別だったわけです。

家に出た羽アリは、どっち?

羽の生えた羽アリ

種類ごとに飛ぶ季節と時間が違う

家の被害でよく問題になるシロアリには、主にヤマトシロアリとイエシロアリがいます。この二種は、羽アリになって飛び立つ群飛(ぐんぴ)の季節や時間帯がそれぞれ違います。飛ぶ時期と時間帯も、種類を見当づける手がかりです。

種類群飛の時期時間帯
ヤマトシロアリおもに4〜5月昼間
イエシロアリおもに6〜7月夕方から夜(電灯に集まる)

ヤマトシロアリは全国に広く分布し、暖かくなった昼間に飛び立ちます。沖縄では2月ごろ、東北や北海道では6月ごろと、地域によって前後します。イエシロアリはより暖かい地方に多く、夜に飛んで電灯の明かりに集まるのが特徴です。

迷ったら「腰と触角」に戻る

クロアリにも羽アリになる季節があり、時期だけでは決め手になりません。判断に迷ったら、最初の表に戻ってください。腰がくびれず触角が数珠状なら、シロアリの疑いが濃くなります。とくに屋内で羽アリや抜け落ちた羽を見つけた場合は、木材の被害につながることがあるため、専門の業者に相談するのが安心です。

知っておくと面白い、二匹の関係

大きなあごを持つ攻撃的なアリ

名前が似た二匹ですが、自然界での関係は「仲間」どころか天敵どうしです。クロアリはシロアリにとって、もっとも手強い天敵のひとつとされています。シロアリの巣に入り込んでは、卵や幼虫、働き手をくわえて自分の巣へ運んでいきます。

とくに無防備になるのが群飛の瞬間です。いっせいに飛び立つシロアリの羽アリに、クロアリが集団で襲いかかる光景は、しばしば見られるといいます。「シロアリ」と「クロアリ」は、色が違うだけの兄弟ではなく、食う側と食われる側でもあったのです。

「アリ」と名につきながら、シロアリの正体はアリではなくゴキブリの近縁。しかもクロアリからすれば、れっきとした獲物です。名前が生きものの正体をそのまま映すとはかぎらない——「シロアリ」という三文字は、その小さな見本のような呼び名なのです。

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