ポテトチップスかどうかで税金が変わる、プリングルズが裁判になったわけ

社会と仕組みの話
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イギリスでは、プリングルズが「ポテトチップスかどうか」をめぐって、税務当局とメーカーが3つの裁判所で争いました。ポテトチップスなら税金がかかり、そうでなければかかりません。2009年5月に控訴院(こうそいん)は「ポテトチップスに似ていて、じゃがいもから作られている」と判断し、プリングルズには税金がかかることになりました。じゃがいもが42%しか入っていなくても、それで十分だという結論です。

メーカーは「じゃがいもは半分以下だから、ポテトチップスではない」と主張し、一度はその主張が通っていました。争われていた税金は、過去の分だけで最大1億ポンドともいわれます。判決文は裁判所のサイトで全文が公開されているので、この記事ではその原文をたどりながら、どこで線が引かれたのかを見ていきます。

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なぜ「ポテトチップスかどうか」で税金が変わるのか?

そもそも、お菓子の種類で税金が変わるのはなぜでしょうか。答えは、イギリスの消費税の仕組みにあるのです。

イギリスでは食べ物に税金がかからない

イギリスには、日本の消費税にあたる付加価値税(VAT)があります。裁判のあった2009年当時の税率は15%でした。ただし食べ物は原則として税率0%で、スーパーで買うパンや野菜や肉には税金がかかりません。

ところが、法律には「ただし次のものを除く」という例外のリストがついています。例外に入ると、食べ物でも15%の税金がかかるのです。0%か15%かの差は、たくさん売れる商品ほど大きな金額になります。

例外リストに「ポテトチップスに似たもの」と書いてある

その例外リストの5番目に、問題の一文があります。日本語にすると次のとおりです。

ポテトクリスプ、ポテトスティック、ポテトパフ、および、じゃがいも・じゃがいも粉・じゃがいもでんぷんから作られた、これらに類する製品。(1994年付加価値税法 別表8 グループ1 例外品目5より抜粋・要約)

イギリス英語では、薄切りのポテトチップスを「クリスプ」と呼びます(「チップス」と言うとフライドポテトのことです)。この記事では日本の読者向けに「ポテトチップス」と書きますが、条文の言葉は「ポテトクリスプ」です。

ポイントは、条文が「ポテトチップス」だけでなく「これらに類する製品」まで含めていることです。似ていて、しかもじゃがいもから作られていれば税金がかかる。プリングルズがこの二つの条件に当てはまるかどうかが、裁判の争点になりました。

プリングルズはどこがポテトチップスと違うのか?

メーカーのプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)は、自社の看板商品を「ポテトチップスではない」と言い張りました。奇妙に聞こえますが、判決文に書かれた製品の特徴を読むと、それなりの根拠があります。

じゃがいもは42%、残りは別の粉

判決文によると、通常のプリングルズに入っているじゃがいも粉はおおむね40%前後で、裁判の時点では42%でした。残りの原料は次のとおりです。

  • とうもろこし粉
  • 小麦でんぷん
  • 米粉
  • 油脂・乳化剤
  • 塩・調味料

じゃがいもを薄く切って揚げるだけのポテトチップスとは、材料の顔ぶれからして違います。半分以上がじゃがいも以外なのだから「じゃがいもから作られた」とは言えない。これがメーカーの主張の柱でした。

生地から作るので、全部同じ形

プリングルズは、粉を練った生地を同じ型で抜いて作ります。だから1枚1枚が同じ鞍(くら)のような形になり、きれいに積み重なって筒に入るわけです。色もポテトチップスより淡い、均一な黄色だと判決文は書いています。

じゃがいもを切ったものなら、形は1枚ごとに違います。全部が同じ形であること自体が、じゃがいもそのものから作ったのではない証拠だ。メーカーはそう言いたかったのです。

油が中に入っていて、口の中で溶ける

食感の違いにも、判決文は一段落を割いています。ポテトチップスでは油の大半が表面にとどまるのに対し、プリングルズでは油が生地の中に入り込んでいます。判決文はこれを「マウスメルト」、口の中で溶ける感触と呼びました。

ここまでの材料は、どれも「違う」と言おうと思えば言える事実です。同時に、店の棚では同じ売り場に並び、同じように食べられています。似ているかどうかは、誰かがどこかで線を引かなければ決まりません。

3つの裁判所はどう判断したのか?

税務当局の歳入関税庁(HMRC)が「プリングルズには税金がかかる」と判断したのに対し、メーカーが不服を申し立てて争いが始まりました。判断は、税の専門機関である審判所・高等法院・控訴院の順に3回行われました。結論は2対1に割れています。

判断した機関結論理由
審判所税金がかかる見た目・味・原料・製法・売り方を全体として見れば、ポテトチップスに似ている
高等法院(2008年7月)税金はかからないじゃがいもが半分以下では「じゃがいもから作られた」とは言えない
控訴院(2009年5月)税金がかかる考えすぎ。42%あれば、ふつうに見て「じゃがいもから作られた」と言える

審判所は「似ている」、高等法院は「じゃがいもから作られていない」

最初に判断した審判所は、見た目・味・原料・製造工程・売り方を一つずつ確かめました。そのうえで、個々の要素に点数をつけるのではなく、全体としてポテトチップスに似ていると判断します。じゃがいも粉が4割を超えていれば「じゃがいもから作られた」と言うのにも十分だとしました。

これを不服として、メーカーは高等法院に持ち込みます。2008年7月4日、ウォーレン裁判官は審判所の判断を覆しました。条文が並べるポテトクリスプやポテトスティックは、じゃがいもそのものから作られている。「これらに類する製品」も、同じくらいじゃがいもが主役でなければならない。じゃがいも粉が半分で残りが別の粉なら、それは「じゃがいもから作られた」とは呼べない。この段階で、プリングルズは税率0%になりました。

控訴院は「考えすぎ。じゃがいもは十分入っている」

今度は税務当局が控訴院に上訴しました。2009年5月20日、マメリー・ジェイコブ・トゥールソンの3人の裁判官は、そろって審判所の判断を復活させます。判決文の大部分を書いたジェイコブ裁判官は、この問題の性格を第14段落でこう言い切りました。

この種の問題は分類の問題であって、過度に手の込んだ、頭が麻痺するような法律分析を求めるものでも正当化するものでもない。これは短い実務的な問いであり、短い実務的な答えを求めている。(判決文第14段落、筆者訳)

高等法院は「じゃがいもの割合はポテトチップスと同じくらいでなければならない」という基準を、条文から組み立てていました。控訴院は、法律はそんな細かい基準を求めていないと考えます。条文が言っているのは「じゃがいもから作られた」だけであり、それ以上でも以下でもない、という読み方です。

線の正確な場所を決めなくても、答えは出せる

メーカーは「じゃがいもから作られたと言えるには、その製品にじゃがいもの本質(じゃがいもらしさ)が備わっていなければならない」とも主張していました。ジェイコブ裁判官の返答が、この判決でいちばん引用される部分です。

「じゃがいもらしさ」について言えば、議会がそのような捉えどころのない基準を持ち込もうとしたとは考えられない。それはアリストテレス的な問いである。この製品は「じゃがいもの本質」を備えているか、と。(判決文第31段落、筆者訳)

アリストテレスは古代ギリシャの哲学者で、「ものの本質とは何か」を考えた人として知られています。税金の分類にそんな哲学は要らない、という皮肉です。判決文には「正確な線がどこにあるかを知らなくても、あるものがその線のどちら側にあるかは決められる」という趣旨の一節もあります。じゃがいもが何%なら「じゃがいもから作られた」と言えるのか。その数字を決めなくても、42%なら十分こちら側だ、という判断です。

判決文の冒頭には、この争いにかかっている金額も書かれています。過去の分で最大1億ポンド、将来は年およそ2000万ポンド。税務当局側の見積もりで、メーカーはこれまで納税してきたので追徴は生じないと反論したと報じられました。金額の大きさが、3つの裁判所を渡り歩いた理由です。

ほかにも「これは何か」で税金が変わった食べ物はあるのか?

プリングルズは一例にすぎません。例外リストがある限り、「これは何か」をめぐる争いは繰り返し起きています。

食べ物争点結論決め手
ジャファケーキ(英・1991年)ケーキかビスケットかケーキ(0%)古くなると固くなる、スポンジの生地
プリングルズ(英・2009年)ポテトチップスに似ているか似ている(税金がかかる)じゃがいも粉42%、同じような食べられ方
サブウェイのパン(アイルランド・2020年)法律上の「パン」かパンではない砂糖が小麦粉の重さの10%
ウォーカーズのポパダム風スナック(英・2024年)ポテトチップスに似ているか似ている(税金がかかる)じゃがいも由来の原料が約40%

ジャファケーキはケーキ

イギリスの例外リストには、菓子の項目もあります。「菓子類には税金がかかる。ただしケーキとビスケットは除く。ただしチョコレートで覆われたビスケットは除かない」という三重構造です。ではオレンジゼリーとチョコをのせた小さな丸いお菓子、ジャファケーキはどちらか。1991年に審判所で争われました。

決め手は「古くなるとどうなるか」でした。ビスケットは古くなると湿って柔らかくなりますが、ケーキは固くなります。ジャファケーキは固くなる。卵と小麦粉と砂糖を泡立てたスポンジ生地であることもあわせて、ケーキと認められ、いまも0%です。

サブウェイのパンはパンではない

2020年、アイルランドの最高裁判所はサンドイッチチェーンのサブウェイが使うパンについて、税法上の「パン」には当たらないと判断しました。アイルランドの法律は、主食としてのパンを0%にする代わりに、砂糖などの副原料の上限を小麦粉の重さに対する割合で決めています。サブウェイの生地は砂糖が小麦粉の10%で、この上限を超えていました。味や見た目ではなく、配合の数字で決まった例です。

プリングルズの後も、ポテトチップス裁判は続いている

税務当局のマニュアルには、スナック菓子の税率一覧があります。同じプリングルズでも、ディップにつけて食べる「プリングルズ・ディッパーズ」は0%です。ディップとセットで「そのまま食べる」形になっていない、という理由で例外リストから外れました。トルティーヤチップスも0%で、こちらはじゃがいもの製品ではないからです。

2024年3月には、ウォーカーズの「センセーションズ・ポパダム」というスナックが同じ条文で争われました。インド料理のポパダムを名乗っていても、じゃがいも由来の原料が約40%で、審判所は「ポテトチップスに似ている」と判断しています。プリングルズ判決から15年たっても、40%前後という線は生きているわけです。

日本の消費税にも同じ線引きはあるのか?

他人事のように読んできましたが、日本にも同じ構造があります。2019年10月から、飲食料品は8%、それ以外は10%という軽減税率が始まりました。「何が飲食料品か」という線引きが必要になったのです。

みりんは10%、みりん風調味料は8%

国税庁のQ&Aに、有名な例があります。本みりんは酒税法上の「お酒」なので飲食料品から外れ、10%です。一方、アルコール分が1度未満のみりん風調味料はお酒ではないので、8%になります。塩を加えて飲めなくした料理酒や、ノンアルコールビールや甘酒も8%です。

棚に並んだ瓶の中身はよく似ていても、「お酒かどうか」という線で税率が分かれます。プリングルズの「じゃがいも粉42%」と、同じ種類の線です。

栄養ドリンク・氷・水にも線がある

国税庁の個別事例集には、ほかにもこの手の例が並んでいます。

  • 栄養ドリンクは、医薬部外品なら「食品」ではないので10%。医薬品などに当たらないものは8%
  • 氷は、かき氷や飲み物に入れる食用の氷なら8%。保冷用の氷やドライアイスは10%
  • 水は、ミネラルウォーターなら8%。水道水は風呂や洗濯にも使われるので10%(ペットボトルに詰めて売る場合を除く)
  • ペットフードや家畜の飼料は、人が食べるものではないので10%

日本の線引きは、「人が飲んだり食べたりするものか」という一本の物差しで引かれています。同じ氷でも、口に入れるなら食品で、荷物を冷やすなら食品ではない。物そのものではなく用途で決まる点が、イギリスの例外リストとは少し違います。

じゃがいもが何%ならポテトチップスなのか。控訴院は、その数字を決めずに答えを出しました。線の正確な場所を知らなくても、どちら側かは分かる。税金の話でありながら、ものを分類するときに私たちが日常でやっていることを、そのまま言葉にした判決でもあります。筒を開けて一枚つまむとき、少しだけ思い出すと、味は変わらなくても見え方が変わるかもしれません。

参考

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