イギリスの定番のお菓子ジャファケーキは、税金の上ではケーキです。1991年に税関が「チョコをかけたビスケット」として課税しようとしたところ、製造元が不服を申し立てました。付加価値税の審判所は、これをケーキと認めています。決め手の一つは、古くなると固くなるという性質。ビスケットなら、湿ってやわらかくなるはずだからです。
ジャファケーキはどんなお菓子?

スポンジとオレンジのジャムとチョコの三層
ジャファケーキは、直径5cmほどの丸いお菓子です。下から順に、スポンジ・オレンジ味のジャム・チョコレートの三層でできています。1枚およそ46キロカロリー。イギリスの菓子会社マクビティ・アンド・プライス(いまのマクビティ)が、1927年に売り出しました。大きさはクッキーとほとんど変わりません。いまは10枚・20枚・30枚・40枚入りの箱で売られていて、箱を開けて何枚も続けてつまめる形をしています。
名前は港町ヤッファのオレンジから
名前の「ジャファ」は、ジャファオレンジから来たもの。19世紀半ばにパレスチナの港町ヤッファ(いまのイスラエルのテルアビブ・ヤッフォ)の近くで生まれた品種で、現地ではシャムーティとも呼ばれます。
皮が厚くて傷みにくいので、船で遠くへ運ぶのに向いていました。1850年代にはヨーロッパへの輸出が始まっています。ジャファケーキが生まれたころのイギリスでは、よく知られたオレンジの銘柄でした。
名前はケーキ、売り場はビスケットの隣
名前には「ケーキ」とあるのに、お店ではビスケットと並べて売られています。見た目も大きさもビスケットに近く、指でつまんで食べるところもビスケットと同じです。このどっちつかずの立ち位置が、のちに税金の争いを呼びました。
なぜケーキかビスケットかで税金が変わるのか?

イギリスでは、チョコで覆ったビスケットには20%の付加価値税がかかり、ケーキは0%で売れるからです。ジャファケーキの上にはチョコがのっているので、どちらに入るかで税率が大きく変わります。
イギリスの食べ物の多くは税率0%
イギリスの付加価値税は、1973年に始まった税金です。標準の税率はいま20%。ただし食べ物の多くは「ゼロ税率」とされ、税率0%で売られています。
※ 付加価値税(VAT:Value Added Tax)とは、モノやサービスを売るたびにかかる税金のことで、日本の消費税にあたります。
例外は「菓子」、ただしケーキとビスケットは外れる
付加価値税法(1994年)の別表8は、人が食べる食品をゼロ税率とし、そこから除く品目を並べています。その2番目が菓子です。書き方は少し入り組んでいます。
菓子。ただしケーキまたはビスケットを含まない。ただし全体または一部をチョコレート、もしくは味と見た目がそれに似たもので覆ったビスケットは除く。
(付加価値税法1994年 別表8 第1グループ 除外品目2、筆者訳)
「ただし」が二度出てくる条文をほどくと、次の4つに分かれます。
- 菓子(チョコレート・あめなど):20%
- ケーキ:0%(チョコがかかっていても0%)
- ビスケット:0%
- 全体か一部をチョコで覆ったビスケット:20%
ケーキはチョコをかけても0%のままなのに、ビスケットはチョコをかけた途端に20%になる。同じチョコでも、下にあるのがスポンジかビスケットかで税率が変わる仕組みです。
ゼロ税率と「免税」は別のもの
この話を紹介する記事の中には「ケーキは免税」と書くものもありますが、イギリスの制度では別の扱いです。ゼロ税率は「0%の税率で課税する」という扱い。売る側は、材料などを仕入れたときに払った税金を取り戻せます。
免税(非課税)の品目では、この取り戻しができません。ジャファケーキの争いは「20%か0%か」の争いであって、税がかからない品目に入るかどうかの争いではありませんでした。
1991年、税関はジャファケーキをビスケットと言い直した

長いあいだケーキとして扱われていた
当時の税関(関税消費税庁。いまの歳入関税庁HMRCの前身)は、長いあいだジャファケーキをケーキとして0%で扱っていました。ところが見直しの結果、「一部をチョコで覆ったビスケット」だと考えを改めます。ビスケットなら20%の側に入ることになりました。
製造元が審判所に不服を申し立てた
製造元のユナイテッド・ビスケッツ(マクビティの親会社)は、この扱いを不服として付加価値税の審判所(VAT Tribunal)に申し立てました。事件番号はLON/91/0160。歳入関税庁の内部向けの手引きにも、この番号で載っています。
※ 審判所(しんぱんしょ)とは、税金の扱いをめぐる争いを最初に審理する場のことです。結論に不服があれば、さらに上の裁判所へ進めます。
「最高裁まで争った」は言いすぎ
この事件は「国でいちばん上の裁判所まで争われた」と紹介されることがあります。けれども判断したのは、税の争いを最初に扱う審判所でした。歳入関税庁の手引きも、この審判所の判断をもとにジャファケーキをケーキとして扱っています。
審判所は何を比べたのか?

ケーキにもビスケットにも、決まった定義はありません。そこで審判所は、名前・材料・食感など9つの点を一つずつ見て、どちらの性質が強いかを量りました。9つの物差しがそれぞれどちらに傾いたかを並べると、次のようになります。
| 物差し | 審判所の見方 | 傾いた側 |
|---|---|---|
| 名前 | 小さな考慮にすぎない | どちらでもない |
| 材料 | 卵・小麦粉・砂糖を泡立てた、スポンジケーキと同じ生地 | ケーキ |
| 食感 | スポンジの食感 | ケーキ |
| 大きさ | ケーキよりビスケットに近い | ビスケット |
| 包装 | ビスケットに近い包み方 | ビスケット |
| 売り場 | ビスケットと並べて売られる | ビスケット |
| 古くなったとき | ケーキのように固くなる | ケーキ |
| 食べ方 | 指でつまむおやつ。子どもが数口で食べる | ビスケット |
| スポンジの割合 | 量でも食感でも大部分を占める | ケーキ |
ケーキ寄りが4つ、ビスケット寄りが4つ。数だけなら引き分けで、多数決では答えが出ません。審判所は、物差しごとの重さの違いで結論を出しました。
材料と食感はスポンジケーキ
土台になっているのは、卵と小麦粉と砂糖を泡立てたゆるい生地を焼いたものです。審判所は、昔ながらのスポンジケーキと同じ作りだと見ました。ビスケットは小麦粉・油脂・砂糖を固めにこねた生地を、のばしたり型で抜いたりして焼くのが普通です。食感も同じ方向でした。ケーキはやわらかくほろりと崩れ、ビスケットはさくっとして折ると割れる。ジャファケーキの土台は、前者のスポンジの食感です。
大きさ・包装・売り場はビスケット
一方で、見た目と売られ方はビスケットそのものでした。審判所は、大きさはケーキよりビスケットに近いと認めています。箱の作りもビスケット風で、お店でもビスケットの隣に並んでいました。
大きさについて、マクビティは直径12インチ(約30cm)の大きなジャファケーキを作り、大きくしてもケーキはケーキだと示したとされます。小さいからビスケット、という見方への反論でした。
指でつまむおやつという食べ方
食べ方では、ジャファケーキは指でつまむおやつだと見られました。子どもが数口で食べてしまう点は、むしろ甘いお菓子に近い。ケーキならフォークで食べることも多い、というのが審判所の比べ方です。
決め手は「古くなると固くなる」

引き分けの物差しの中で、マクビティ側がとくに強く訴えたのが、古くなったときの変わり方です。ジャファケーキは時間がたつと固くなります。ビスケットとは逆の方向でした。
ビスケットは湿り、ケーキは乾く
ビスケットは水分の少ない生地を焼いて作り、日持ちします。置いておくと空気中の湿気を吸い、さくさく感が抜けてやわらかくなる。ケーキはもともと水分を含んでいるので、時間がたつと乾いて固くなります。
同じ「古くなる」でも、ビスケットは外から水分をもらい、ケーキは中の水分を失う。向きが正反対なので、どちらに変わるかを見れば、そのお菓子がどちらの仲間かの手がかりになります。
古くしたジャファケーキを見せた
マクビティは、袋から出して置いておいたジャファケーキが固くなることを審判所で示したとされます。審判所も、ジャファケーキは古くなるとビスケットのようにやわらかくはならず、ケーキのように固くなると認めました。
チョコをのせても本体はスポンジ
9つ目の物差しが、スポンジの割合でした。チョコとジャムは上に薄くのっているだけで、量でも食感でもスポンジが大部分を占めます。上にチョコがあっても、その下にあるのはビスケットではなくスポンジ、という見方です。
両方の性質がある、それでもケーキ
審判所の結論は「ジャファケーキにはケーキとビスケットの両方の性質がある」というものでした。そのうえで、ケーキとして認めるのに十分なケーキの性質を備えていると判断します。こうしてジャファケーキはケーキとされ、0%の側に残りました。
4対4の数を比べたわけではなく、全体を見てどちらの仲間と言えるかを考えた結果です。材料と作り方、そして古くなったときの変わり方という「中身」の物差しが、売られ方という「外見」の物差しより重く見られたと読めます。
「ケーキ」という名前は決め手にならなかった

名前は小さな考慮にすぎない
商品名に「ケーキ」と入っていることは、審判所の判断ではほとんど重みを持ちませんでした。名前は小さな考慮にすぎない、という扱いです。名前は売る側が自由につけられるので、名乗っただけで0%になるなら線引きの意味がなくなる、と考えれば筋が通ります。
物差しは「普通の人がどう見るか」
ケーキかどうかの争いでは、作り方・材料・食感・見た目・売り方・包装・食べ方・名前をまとめて見るのが審判所の通例だと、歳入関税庁の手引きは説明しています。ひとつの決まりで切るのではなく、いくつもの点を合わせて判断する考え方です。
別の事件では、審判所が「街を歩く普通の人」にどう見えるかを手がかりにしたこともあります。専門家の定義より、買って食べる人の目でどう映るか。ジャファケーキの判断も、この考え方の延長にありました。
ほかのチョコ菓子はどう分けられている?

チョコとビスケットの組み合わせは、いまも細かく分けられています。歳入関税庁が一般向けに出している食品と付加価値税の案内(VAT Notice 701/14)には、境目にあるお菓子の例がいくつも並んでいます。
チョコチップを混ぜたビスケットは0%
チョコチップクッキーのように、チョコの粒を生地に混ぜ込んだり、焼く前に表面へ押し込んだりしたビスケットは0%です。チョコが入っていても、表面を「覆って」はいないという扱いになります。
2枚で挟んだチョコは0%、外へ回れば20%
2枚のビスケットのあいだにチョコのクリームを挟んだお菓子も、チョコが外側の面まで回っていなければ0%です。挟んでいるだけなら覆ってはいない、という線の引き方。外側までチョコがかかれば、覆ったビスケットとして20%になります。
チョコの目が2粒のジンジャーブレッドマンは0%
人の形をしたしょうが入りのビスケット、ジンジャーブレッドマンにも線があります。チョコで飾れば20%ですが、目の2粒くらいにとどまるなら0%のまま。どこまでが「一部を覆った」に入るかを、目の数で示した例です。
キャラメルショートケーキはケーキの側
ビスケット生地の上にキャラメルとチョコを重ねたキャラメルショートケーキも、手引きでは別の審判の結果をふまえてケーキとして0%に入っています。ビスケットの土台にマシュマロをのせてチョコで包んだティーケーキも同じくケーキの側。どれも「下に何があるか」と全体の性質で分けられています。
いまのジャファケーキはどう扱われている?

手引きではケーキの例に並ぶ
歳入関税庁の手引きでは、ケーキの例としてスポンジ・フルーツケーキ・エクレア・メレンゲと並んで、ジャファケーキの名前が挙がっています。チョコで覆われていても0%という扱いです。1991年の判断は、30年以上たったいまも生きています。
税金の答えと、食べる人の答えは別
審判所が決めたのは、税率を決めるための分類です。ジャファケーキをビスケットと呼ぶ人を、間違いだと言ったわけではありません。審判所自身も両方の性質を認めているので、ケーキかビスケットかの言い合いは、税金と関係のないところで続いていく余地を残しています。
ジャファケーキがケーキかどうかは、買ったその日にはわかりません。箱から出して何日か置き、固くなったところで、ようやくケーキの仲間だと名乗れるお菓子なのです。
参考
- HM Revenue & Customs「VAT Food manual VFOOD6260: Jaffa cakes」
- HM Revenue & Customs「VAT Food manual VFOOD6200: cakes and biscuits」
- legislation.gov.uk「Value Added Tax Act 1994, Schedule 8」
- GOV.UK「Food products and VAT (VAT Notice 701/14)」
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