朝いちばんに身長をはかると、夜より1センチほど高く出ます。気のせいではありません。昼のあいだ体の重みで押しつぶされた背骨のクッション「椎間板(ついかんばん)」が、横になって眠るあいだに水分を取りもどし、厚みを回復するからです。一枚ごとの変化は1ミリに届かないほど小さく、それが積み重なって一日の差になります。
朝と夜で背はどれくらい違う?

一日の差は平均1.4センチほど
英国のスポーツ科学者らが1986年に発表した研究では、一日のうちに起きる身長の変動は平均14.4ミリでした。同じ論文で測った25キロのランニングによる縮みより、ふだんの一日の変動のほうが大きかったのです。人によって幅はありますが、朝と夜で1〜2センチ違うと考えておけばおおむね外れません。
いちばん高いのは起きた直後
身長が最も高いのは、目が覚めて起き上がったばかりのとき。そこから立ったり座ったりして過ごすうちに少しずつ縮み、寝る前に最も低くなります。そして眠っているあいだに、また元の高さへ戻っていく。身長は毎日、この上下をくり返しています。
背すじの伸びだけでは説明できない
寝起きは姿勢がいいから高く出る、と思うかもしれません。ところがMRIで背骨そのものを撮ると、朝と夜とで長さが実際に違っています。韓国の放射線医学誌に載った2015年の論文では、20人の腰の骨の並びを12時間あけて撮り、夕方のほうが平均3.8ミリ短くなっていました。姿勢ではなく、骨の並びの長さが変わっているのです。
背骨のどこが縮んでいる?

骨と骨のあいだに二十数枚
背骨は一本の棒ではありません。椎骨(ついこつ)という小さな骨が首から腰まで積み重なり、そのすき間ごとに椎間板がはさまっています。枚数は二十数枚。一枚ずつは薄くても、背骨の長さの一部はこのクッションの厚みでできています。
※ 椎間板(ついかんばん)とは、背骨を形づくる骨(椎骨)と骨のあいだにはさまった円ばん状のクッションのことです。外側は丈夫な線維の輪、中心はゼリー状のやわらかい芯でできています。
中心は水をたくわえた髄核
椎間板の芯は髄核(ずいかく)と呼ばれ、水分を多く含んだゼリーのような組織です。水を抱えているあいだはふっくらと厚く、背骨にかかる衝撃をやわらげます。逆に水が抜ければ、クッションは少し薄くなる。身長の伸び縮みは、この水の出入りで起きています。
一日で水分は5〜10%減る
2015年の論文が引く過去の研究によると、腰の椎間板に含まれる水分は、朝から夜までに5〜10%ほど減るとされています。同じ論文のMRIでも、髄核の水分を示す信号は夕方にはっきり弱まっていました。朝と夜の身長差の正体は、この水分の目減りだといってよさそうです。
昼のあいだに重みで水が押し出される

立つだけでクッションに圧がかかる
起き上がると、頭や腕、上半身の重みが背骨に縦にのしかかります。椎間板は上下から押され、芯の水が少しずつ外へにじみ出ていく。座っていても上半身の重みはかかるので、縮みは止まりません。特別なことをしなくても、ふつうに過ごすだけで背は低くなっていくのです。
走ると1キロごとに約0.4ミリ
体を動かすと縮み方は速くなります。1986年の研究では、走り慣れた人が時速12.2キロで6キロ走ったところ、身長は2.35ミリ低くなりました。1キロあたり約0.4ミリで、この割合は続く19キロでも変わりませんでした。走りに慣れていない人では、同じ6キロで平均3.25ミリ縮んでいます。
筋トレでは短時間で5ミリ
同じ研究では、器具を使った筋力トレーニングを2セット回しただけで、平均5.4ミリ縮みました。重りを持ち上げる動きは、背骨を強く押すからです。運動のあとに20分ほど休んでも、身長はほとんど戻りませんでした。いったん抜けた水は、少し座って休んだくらいでは戻ってこないのです。
寝ている間に背骨で何が起きる?

横になると縦の重みが消える
横になると、背骨にかかっていた縦向きの重みがほぼなくなります。押しつぶす力が弱まった椎間板は、まわりから水を吸い直してふくらんでいきます。乾いたスポンジを水に浸したときと同じ要領です。運動のあとは戻らなかった身長も、一晩眠ると元に戻ることが1986年の研究で確かめられています。
一晩で椎間板は約1割ふくらむ
2015年の論文が紹介している別の研究では、一晩横になって休むあいだに、椎間板の体積が10.6%増えました。量にすると約0.9立方センチの水分で、小さじの5分の1にも満たないくらいです。ごくわずかな水でも、背骨のあちこちで同じことが起きれば、朝の数ミリ〜1センチ余りの差になります。
一枚あたりの変化は1ミリに届かない

腰の5枚を合わせて約4ミリ
先のMRIの研究で測ったのは、腰の骨の1番目から仙骨(せんこつ)の上端まで。朝は平均183.8ミリ、夕方は179.9ミリで、縮んだのは2.1%でした。この範囲に椎間板は5枚あります。単純に割ると、一枚あたり1ミリに届きません。椎間板一枚の伸び縮みは、思った以上に小さなものです。
小さな変化が二十数か所で重なる
それでも朝と夜で1センチ以上の差がつくのは、首から腰まで二十数か所で同じ変化が起きるからです。腰の椎間板は背骨のなかで最も大きく、首や背中の椎間板はもっと薄くなります。一枚ずつは1ミリ未満でも、全部を足せば十数ミリ。冒頭の平均14.4ミリという数字とも、おおむね見合います。
宇宙では背が数センチ伸びる

重みのかからない状態が何か月も続く
重みが消えると椎間板がふくらむ、という仕組みは宇宙でもっとはっきり表れます。国際宇宙ステーションでは体重で背骨を押す力がほとんど働かず、その状態が昼も夜も続くのです。地上なら毎朝リセットされる程度の伸びが、宇宙では一日中続いて数センチになるわけです。
「9センチ伸びた」は計測ミスだった
2018年1月、宇宙ステーションに滞在中の金井宣茂(かないのりしげ)宇宙飛行士が「身長が9センチ伸びた」と発信し、話題になりました。ところがロシア人の船長に「さすがに伸びすぎでは」と疑われ、測り直すと約182センチ。地上より2センチ高いだけでした。翌日、金井さんは計測ミスだったと訂正しています。
年をとって縮むのは何が違う?

一晩では戻らない縮み
年齢を重ねると身長が少しずつ低くなるのは、毎日の伸び縮みとは別の話です。椎間板が年とともに水を保ちにくくなって薄くなるほか、姿勢の変化や背骨の骨そのものの変形も重なるとされています。こちらは眠っても戻らない、ゆっくり進む縮みです。
20歳ごろより2センチ未満なら加齢の範囲
骨粗鬆症(こつそしょうしょう)財団の資料では、20歳ごろの身長と比べて2センチ未満の低下なら、加齢による変化と考えられるとしています。それより縮んでいる場合は、体を動かすための筋力や運動の力が落ちている可能性があるといいます。身長は、自分の体の変化に気づく手がかりにもなるのです。
4センチ以上なら背骨の骨折にも注意
20歳ごろより4センチ以上低くなった人は、縮んでいない人に比べて骨粗鬆症で背骨が折れている可能性が約2.8倍。同じ資料はそう伝えています。背骨の骨折は気づかないうちに起きることもあります。大きく縮んだと感じたら、整形外科などで相談してみると安心です。
身長をはかるなら時刻をそろえる

朝の値と夜の値は比べられない
一日で1センチ以上変わる以上、朝はかった値と夜はかった値を並べても正しい比較になりません。健康診断で去年より縮んで見えても、去年は朝いちばん、今年は午後だったという違いだけで説明がつくこともあります。慌てる前に、はかった時刻を思い出してみる価値はあります。
子どもの成長記録こそ同じ時刻に
柱に印をつけるような成長の記録は、数か月で1〜2センチの伸びを追うものです。朝と夜がまざると、一日の変動だけで伸びが消えたり倍に見えたりします。毎回「朝食の前」「お風呂の前」のように時刻を決めておけば、ほんとうに伸びたぶんだけが見えてきます。
朝の身長は、眠っているあいだに背骨の二十数枚のクッションが水を吸い直した結果です。昼は重みに押されて少しずつ縮み、夜はまた戻る。その幅は一枚あたり1ミリにも届きませんが、毎晩休むたびに体は元の高さを取りもどしています。一日でいちばん背が高いのは、目覚めたばかりのあの数分間です。
参考
- Leatt, Reilly, Troup (1986) Spinal loading during circuit weight-training and running. British Journal of Sports Medicine
- Zhu et al. (2015) Segmental Quantitative MR Imaging Analysis of Diurnal Variation of Water Content in the Lumbar Intervertebral Discs. Korean Journal of Radiology
- 公益財団法人骨粗鬆症財団『Canopus』vol.17
- ギズモード・ジャパン「金井宇宙飛行士、宇宙で身長9cm伸びたは計測ミス! 本当はプラス2cm」
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