しゃっくりの正体は、胸とお腹を仕切る横隔膜(おうかくまく)が勝手に縮み、その直後にのどの声門が閉じる反射です。きっかけの多くは早食いや炭酸で胃がふくらむことで、普通は数分から数時間で消えます。2日を超えて続くときは病気が隠れていることもあるため、医師への相談が勧められています。
しゃっくりは二つの動きの連携プレー

横隔膜が自分の意思と関係なく縮む
横隔膜は肺の真下にドーム状に張った筋肉で、上下に動いて空気を出し入れするポンプ役です。この筋肉が前触れなく「ピクッ」と強く縮むと、意図しないタイミングで息が一気に吸い込まれます。しゃっくりの一段階目はここで起きています。
縮むのは横隔膜だけではありません。肋骨のあいだの筋肉(外肋間筋)など、息を吸うための筋肉がまとめて動員されます。医学の呼び名は吃逆(きつぎゃく)。
約35ミリ秒後に声門が閉じて「ヒック」
吸い込みが始まった直後、のどの奥の声門(声帯のすきま)がパッと閉じます。勢いよく入ってきた空気が入り口で急に止められる、その衝撃があの「ヒック」という音です。カナダの救急医ダニエル・ハウズ氏が2012年に学術誌で整理したところでは、筋肉が縮んでから声門が閉じるまでは約35ミリ秒。まばたきよりずっと速い連携でした。
1分に4回から60回のリズムでくり返す
一度始まると、しゃっくりはほぼ一定の間隔でくり返されるのが特徴です。同じ論文によれば、その速さは1分に4〜60回と人によって大きな幅があるそうです。普通の呼吸とは別のリズムで勝手に刻まれるため、話している途中でも食事中でも割り込んできます。
しゃっくりを起こす神経の回路とは?

反射弓は入口・司令塔・出口の三つでできている
しゃっくりを起こすのは「反射弓」と呼ばれる神経の回路です。入口は食道の下のほうや胃、横隔膜のお腹側で、ここで受けた刺激が横隔神経・迷走神経(めいそうしんけい)・交感神経を通って脳へ届きます。司令塔は脳幹の延髄(えんずい)にあります。そこから横隔膜やのどの筋肉へ「縮め」の指令が出ていく、という一周です。
※ 反射弓(はんしゃきゅう)とは、刺激を受け取ってから体が反応するまでの、神経の一続きの回路のことです。熱いものに触れて思わず手を引っ込める動きも、この回路が起こしています。
念じても止まらないのは意思を通らないから
回路は意識を経由せずに働くので、「止まれ」と念じても止まりません。熱いやかんから手を引く反射を気合いで止められないのと同じ理屈です。しゃっくりの司令塔は、ふだんの呼吸のリズムを作る場所とは別にあると考えられています。呼吸を整えるつもりでいても、別系統の回路が勝手にスイッチを入れてしまうわけです。
のどと胃にも同時に指令が届く
指令の行き先は横隔膜だけではありません。ハウズ氏の整理では、しゃっくりの瞬間に食道のぜん動が止まり、食道と胃の境目の筋肉(下部食道括約筋)がゆるみます。息を吐く筋肉は逆に抑えられます。のど・胸・胃がそろって動く、意外に手の込んだ反射でした。この「胃の入り口がゆるむ」点は、後で紹介する授乳説の手がかりになります。
なぜ起きる? 胃がふくらむと横隔膜が刺激される

胃と横隔膜はすぐ隣どうし
胃は横隔膜のすぐ下。早食いで空気ごと飲み込んだり、炭酸飲料を一気に飲んだりして胃が急にふくらむと、その刺激が回路の入口に伝わります。岡山大学病院薬剤部の解説でも、しゃっくりの原因の筆頭は「胃拡張」です。食べすぎや飲みすぎのほか、胃カメラの検査で空気を入れたときにも起こるとされています。
熱い・冷たいの急な変化も引き金になる
胃のまわりの温度の急な変化も、引き金のひとつです。熱い飲み物や冷たい飲み物、冷たいシャワーを浴びたときなどが例に挙がっています。MSDマニュアル家庭版は、刺激の強い飲食物やアルコールも挙げています。
意外なのは、速く深い呼吸が続いて血液中の二酸化炭素が減ることも原因になる点です。この二酸化炭素は、止め方の話でもう一度鍵になるのです。
緊張・興奮・大笑いでも出る
飲み食いと関係なく、急な興奮やストレスがきっかけになることもあります。回路が迷走神経や交感神経を通っているため、体の状態だけでなく気持ちの揺れにも左右されるという見方です。MSDマニュアル家庭版も、笑う・話す・食べる・飲むが重なる場面を引き金に挙げています。「大事な場面に限って出る」という感覚には、それなりの裏づけがあるわけです。
なぜ止まらないことがある?

48時間と1か月で呼び名が変わる
ほとんどのしゃっくりは、数分から数時間でいつのまにか消えています。長引いたものは、続いた時間で呼び名が分かれます。岡山大学病院薬剤部の解説による区分は次のとおりです。
- 吃逆発作……48時間以内に収まるもの
- 持続性吃逆……48時間を超え、1か月以内のもの
- 難治性(なんちせい)吃逆……1か月以上続くもの
長引く裏には病気や薬が隠れていることがある
2日を超えて続くしゃっくりは、回路のどこかが刺激され続けている疑いがあります。MSDマニュアル家庭版は、胃食道逆流症・肺炎・心膜炎・腎不全のほか、まれに脳腫瘍や脳卒中を原因に挙げています。お腹や胸の手術のあとに起こることもあるそうです。
岡山大学病院薬剤部の解説には、長引くしゃっくりは男性に多く、男女比は5対1以上という報告が紹介されています。男性では体の病気、女性では心の要因が多いという報告もあるそうです。
2〜3日続いたら受診の目安
MSDマニュアル家庭版は、ほかに気になる症状がなくても2〜3日以上続くなら受診を勧めています。頭痛・手足の力が入らない・しびれ・ふらつきを伴うときは、すぐに受診すべきサインです。長く続くと眠れない・食べられないといった形で体力を削ることもあります。たかがしゃっくりと我慢しないほうがよさそうです。
68年間止まらなかった男性がいた

豚を持ち上げた日に始まった
ギネス世界記録が紹介する最長記録の持ち主は、アメリカのチャールズ・オズボーンさんです。1922年、解体するつもりの約160kg(350ポンド)の豚を持ち上げて転んだ日から、しゃっくりが始まりました。止まったのは1990年2月のある朝。68年ものあいだ、昼も夜も1分に20〜40回のペースで続いたといいます。
4億回を超えるヒックと暮らした
回数は4億2000万回を超えると見積もられています。治療のために何度も遠くの病院へ通い、届いた民間療法の手紙は約4,000通。どれも効きませんでした。それでもオズボーンさんは2度結婚し、8人の子どもに恵まれています。しゃっくりの合間に息を吸って音を小さくするこつも身につけたそうです。
えら呼吸の名残という説がある

オタマジャクシと同じ神経の動き
そもそも何のためにあるのかは、まだ決着がついていません。有力な仮説のひとつが、2003年にカナダのカルガリー大学などの研究者ストラウスらが学術誌BioEssaysで出した「えら呼吸の名残」説です。オタマジャクシは水をえらに通すとき、水が肺に入らないよう声門を閉じながら吸う動きをします。しゃっくりの「吸いながら声門を閉じる」動きは、これとよく似ているといいます。
二酸化炭素と同じ薬に反応する共通点
似ているのは形だけではありません。ストラウスらによると、しゃっくりも両生類のえら呼吸も、吸う空気の二酸化炭素が増えると抑えられます。バクロフェンという薬で止まる点も同じでした。水と空気の両方で呼吸していた祖先の回路が、人の体にも残っているという見立てです。
生まれる前から始まっている
この説を後押しするのが、しゃっくりの始まりの早さです。おなかの中の赤ちゃんは、肺で呼吸する前からしゃっくりをしています。超音波検査で見えるだけでなく、母親がおなかの上から感じ取れるほどです。人生で最初のしゃっくりは、産声よりも先だったことになります。
赤ちゃんのげっぷを助ける反射説もある?

胃の空気を抜いてミルクの場所を空ける
えら呼吸説に疑問を投げかけたのが、先に紹介したハウズ氏です。2012年の論文で、しゃっくりは授乳中の赤ちゃんの胃から空気を抜くために進化した「げっぷの反射」ではないか、と提案しました。胃の入り口がゆるんだ瞬間に強く息を吸えば、胃の空気が食道へ引き上げられます。その分、胃にミルクが入る余地が増えるという考え方です。
新生児は起きている時間の2.5%をしゃっくりに使う
授乳説の根拠のひとつは、しゃっくりが新生児にいちばん多いことです。ハウズ氏によれば、生まれたばかりの赤ちゃんは時間の2.5%ほどをしゃっくりに費やすこともあります。成長とともに減り、大人では時々出るだけになります。大人のしゃっくりは赤ちゃんの反射の名残、というわけです。ただしこの説も検証はこれからで、えら呼吸説と同じく決め手はありません。
よく聞く止め方は効くのか?

息こらえと紙袋は二酸化炭素を増やす
息を止めたり、紙袋を口に当てて自分の吐いた息を吸い直したりすると、血液中の二酸化炭素が増えます。二酸化炭素がしゃっくりを抑えることは、えら呼吸説の研究でも指摘されていました。数ある止め方のなかでは、しくみの説明がつきやすい方法です。MSDマニュアル家庭版は、袋を使うならビニール袋ではなく紙袋に、と注意しています。
冷たい水・砂糖・驚かすは迷走神経への刺激
冷たい水をすばやく飲む、グラニュー糖を飲み込む、舌を軽く引っぱる。こうした方法は、のどを通る迷走神経を刺激して回路を断ち切る狙いです。岡山大学病院薬剤部の解説には「驚かせる」も並んでいます。どれも経験的に行われてきた方法で、効く人もいれば効かない人もいる、というのが実際のところです。
決定版と言える方法はまだない
MSDマニュアル家庭版は、民間の止め方の効果は限られていると書いています。どれかが特に優れているという確認もありません。ただ一般に安全なので、試して困ることは少ない方法です。代表的なものを、ねらいと一緒に並べました。
| 方法 | ねらい | しくみの説明 |
|---|---|---|
| 息を止める・紙袋で呼吸 | 血液中の二酸化炭素を増やす | 比較的つきやすい |
| 冷たい水を飲む | のど・迷走神経を刺激する | 経験的 |
| 砂糖を飲み込む | のどの奥を刺激する | 経験的 |
| 驚かす | 迷走神経を刺激する | 俗説に近い |
柿のへたも薬として使われてきた

柿蔕湯という漢方の煎じ薬
長引くしゃっくりに使われてきた薬のなかに、ちょっと変わったものがあります。柿のへたを乾かして煎じた柿蔕湯(していとう)です。岡山大学病院薬剤部の解説でも、病院で使われる薬と同じ列に並んでいます。秋の果物のへたがしゃっくり止めになるとは、なかなか意外な組み合わせです。
病院の薬もしくみは分かっていない
病院では、原因の病気があればまずその治療をします。原因が分からず長引く場合は、クロルプロマジンやバクロフェン、ガバペンチンなどの薬の出番です。それでも止まらないときは、横隔神経を麻酔で一時的に止める方法もあります。ただ岡山大学病院薬剤部の解説によれば、どの薬もしゃっくりに効く理由ははっきりせず、経験的に使われているとのことです。
毎日のように誰かが経験しているのに、何のためにあるのかも、確実な止め方も分かっていない。しゃっくりはそんな不思議な反射です。オタマジャクシの呼吸か、赤ちゃんのげっぷか。次にヒックが出たら、それは体に残った古い回路が一瞬だけ目を覚ました合図なのかもしれません。
参考
- MSDマニュアル家庭版「しゃっくり」
- 岡山大学病院薬剤部「薬の窓口 No.189 吃逆」(2009年)
- Howes D.「Hiccups: A new explanation for the mysterious reflex」BioEssays 34巻(2012年)
- ギネス世界記録「Extreme measures person with 68-year attack of hiccups took to try and stop them」
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