「®」「™」「©」は何が違うのか——似た記号が守る、別々のもの

COPYRIGHTと書かれたビルのイラストに「®・™・©」の文字 社会と仕組みの話
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「®」は特許庁に登録された商標にだけ付けられる印です。「™」は登録の有無に関係なく「これは自分の商標だ」と示す印で、「©」は文章や絵などの作品に著作権があることを示す印。®と™は名前やロゴを守る商標法の記号で、©は作品そのものを守る著作権法の記号です。似た小さな丸でも、守るものも根拠の法律も別々です。

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  1. ®は登録を済ませた商標の印
    1. Registered trademarkの頭文字「マルアール」
    2. 日本の正式な表示は「登録商標」の文字
  2. ®を付けないと罰がある?
    1. 表示は「努力義務」にとどまる
    2. ®の有無で権利の強さは変わらない
  3. 未登録の名前に®を付けるとどうなる?
    1. 登録前の®は「虚偽表示」になる
    2. 罰は3年以下の拘禁刑か300万円以下の罰金
    3. 範囲外の商品や更新切れの後も同じ扱い
    4. アメリカでは®は連邦登録の後だけ
  4. ™は登録前でも使える
    1. Trademarkの略で、出願前から付けられる
    2. 日本の法律には™の定めがない
    3. サービスの名前には℠を使う
  5. ©は作品につく名札
    1. Copyrightの頭文字「マルシー」
    2. 記号・発行年・名前の3点で一組
  6. ©がなくても著作権はある?
    1. 作った瞬間に権利が生まれる
    2. 1886年のベルヌ条約が土台
  7. ©は二つのルールの橋渡し役だった
    1. 登録しないと守られない国があった
    2. 1952年の万国著作権条約で「©があれば保護」
    3. アメリカでは表示を忘れると権利を失った
  8. ©が飾りに近づいたのは1989年
    1. アメリカのベルヌ条約加盟で表示は任意に
    2. 役目を終えても©が残る理由
  9. ®と©は守るものが違う
    1. 名前を守る®、作品を守る©
    2. 1冊の本に両方の権利が同居する
  10. 有名になりすぎた名前は守れない?
    1. 普通名称には商標権が効かない
    2. 日常語に見えて登録商標という言葉も多い
  11. 録音物には℗という別の記号がある
    1. ℗はPhonogram(録音物)の頭文字
    2. CDの裏に©と℗が並ぶわけ
  12. 参考
  13. 関連記事

®は登録を済ませた商標の印

赤いリボンで結ばれた証書のイラスト

Registered trademarkの頭文字「マルアール」

®はRegistered trademark(登録された商標)の頭文字Rを丸で囲んだ記号で、日本では「マルアール」「アールマーク」と呼ばれます。お菓子の箱や家電のロゴの右肩に、小さく添えられているのを見たことがあるはずです。付けてよいのは、特許庁の審査を通って登録された名前やロゴだけ。自分で考えた名前を使っているだけの段階では、まだこの印は付けられません。

日本の正式な表示は「登録商標」の文字

意外なことに、日本の商標法が定める正式な表示は®ではありません。商標法施行規則では、「登録商標」の文字とその登録番号を示す形と決まっています。「登録商標第○○号」といった書き方がこれにあたります。®は、そうした文字を入れにくいときの代わりとして、アメリカの習慣にならって広く使われている記号です。

®を付けないと罰がある?

お菓子や飲み物が並ぶ商品棚のイラスト

表示は「努力義務」にとどまる

付け忘れても罰はありません。商標法は、登録商標を使う人に対して、登録商標である旨の表示を付けるよう「努めなければならない」と定めているだけです。義務ではなく努力目標のような扱いなので、表示がなくても違反にはなりません。同じ会社の商品なのに、®があったりなかったりするのはこのためです。

®の有無で権利の強さは変わらない

商標権が生まれるのは、特許庁の登録簿に載った時点です。®を省いても権利そのものは残り、他人が同じ名前を勝手に使えば止めることができます。それでも多くの企業が®を添えるのは、「この名前は登録済みです」と周りに知らせておきたいから。うっかり似た名前を使われるのを防ぐ、見張り番のような役目を期待しているわけです。

未登録の名前に®を付けるとどうなる?

「罰金」と書かれた文字のイラスト

登録前の®は「虚偽表示」になる

付けない自由がある一方で、登録していない名前に®を付けることは禁じられています。商標法74条は、登録商標でない商標に登録の表示や「これと紛らわしい表示」を付ける行為を、虚偽表示として禁止しています。®は登録済みだと思わせる記号なので、この紛らわしい表示にあたるというのが一般的な理解です。大学の商標の取り扱い手引きでも、未登録のものに®を付けると刑罰の対象になると注意を促しています。

罰は3年以下の拘禁刑か300万円以下の罰金

違反したときの罰は軽くありません。3年以下の拘禁刑か、300万円以下の罰金と定められています(商標法80条)。拘禁刑は2025年6月に懲役と禁錮をひとつにまとめて生まれた刑で、古い解説記事では同じ条文が「懲役」と紹介されていることがあります。呼び名が変わっただけで、罰の重さは同じです。

範囲外の商品や更新切れの後も同じ扱い

虚偽表示になるのは、一度も登録していない場合だけではありません。商標の権利が届くのは、登録のときに指定した商品やサービスの範囲まで。その外の商品に®付きで名前を使うことも、同じ条文で禁じられています。更新を忘れて権利が消えた後に®を付け続けるのも、登録商標でない名前への表示です。勝手に名前を使ったときに何が問題になるかは、商標の「セーフ・アウト」の記事でも取り上げました。

アメリカでは®は連邦登録の後だけ

®が広まったアメリカでも、線の引き方は同じです。アメリカ特許商標庁(USPTO)は、商標を登録したら®を使うよう案内しています。そのうえで、®を付けられるのは登録した商品やサービスについてだけだと念を押しています。登録の前や範囲の外では、次に紹介する™か℠を使うのが決まりです。

™は登録前でも使える

会議室でグラフを指しながら説明する女性のイラスト

Trademarkの略で、出願前から付けられる

™はTrademark(商標)の略で、登録されているかどうかに関係なく付けられます。まだ出願していない名前にも、審査を待っている最中の名前にもOK。USPTOも、出願していなくても商品の名前には「TM」を使えると案内しています。登録を待つあいだの「仮の名札」と考えると分かりやすいかもしれません。

日本の法律には™の定めがない

™は、日本の商標法には出てこない記号です。付けたからといって権利が生まれるわけではなく、使っても罰はありません。役割は「この名前は自分の商標として使っています」という周囲への意思表示にとどまります。それでも新商品の名前に添えておけば、真似を思いとどまらせる効果は期待できるでしょう。

サービスの名前には℠を使う

™には兄弟のような記号もあります。丸で囲まないSとMを小さく並べた℠(サービスマーク)です。™が商品の名前に使われるのに対し、℠は運送や飲食、金融といったサービスの名前に使います。USPTOの案内でも、商品には「TM」、サービスには「SM」と書き分けています。日本ではまず見かけませんが、アメリカの広告ではときどき顔を出す記号です。

©は作品につく名札

パソコンとペンタブレットでイラストを描く女性のイラスト

Copyrightの頭文字「マルシー」

©はCopyright(著作権)の頭文字Cを丸で囲んだ記号で、「マルシー」と読みます。本の奥付やマンガのコマの隅、ウェブサイトの最下部など、目にする機会は®よりずっと多いはずです。®と™が名前やロゴを守る記号なのに対し、©が示すのは文章や絵・写真・音楽といった作品の著作権。ここから記号の系統が変わります。

記号・発行年・名前の3点で一組

©は記号だけを置くのではなく、三つの要素を並べて書くのが本来の形です。アメリカ著作権局の手引きでは、©(または「Copyright」の語)・最初に発行した年・著作権者の名前をひと続きで示すものとしています。例として挙げられているのは「© 2017 John Doe」。ホームページの最下部によくある「© 2026 ○○」という表示も、この形にならったものです。

©がなくても著作権はある?

原稿用紙に文章を書く作家のイラスト

作った瞬間に権利が生まれる

©がなくても、作品の著作権はきちんとあります。日本の著作権法は、著作権を持つのに「いかなる方式の履行をも要しない」と定めています。申請も登録も©の表示もいらず、作品を作った時点で自動的に権利が生まれるしくみです。この考え方を無方式主義といいます。子どもが描いた絵にも、ノートに書いた詩にも、作った瞬間から著作権があるわけです。

1886年のベルヌ条約が土台

無方式主義は、日本だけの決まりではありません。1886年にスイスのベルヌに10か国が集まって作ったベルヌ条約が、この原則を国際的なルールにしてきました。日本は1899年に最初の著作権法を作ると同時に、この条約を結んでいます。文化庁の資料によると、2024年6月時点の加盟国は181か国にのぼります。

©は二つのルールの橋渡し役だった

スーツ姿の男性と女性が握手しているイラスト

登録しないと守られない国があった

なくてもよい©がこれほど広まったのは、かつて世界の著作権のルールが二つに割れていたからです。アメリカなどでは、政府機関に登録しないと著作権を認めない「方式主義」が長く続きました。そのため日本やヨーロッパの作品は、登録しない限りアメリカでは守られないという事態が起きていました。

1952年の万国著作権条約で「©があれば保護」

この溝を埋めたのが、1952年にジュネーブで作られた万国著作権条約です。作品に©などを付けておけば、登録を求める国でも登録したものとみなして保護する、という取り決めでした。日本は1956年に加わり、同年4月28日から効力が生じています。当時の文部省はこの条約を、方式主義の国とベルヌ条約の国をつなぐ「かけ橋」と説明していました。

アメリカでは表示を忘れると権利を失った

方式主義の厳しさは、アメリカ著作権局の手引きからも読み取れます。1989年3月1日より前に発行した作品には著作権表示が必要でした。表示を忘れたり書き方を誤ったりすると、アメリカでの保護を失うのが原則だったのです。小さな丸ひとつが、作品の権利を左右していた時代がありました。

©が飾りに近づいたのは1989年

緑色の世界地図のイラスト

アメリカのベルヌ条約加盟で表示は任意に

流れが変わったのは1989年です。アメリカがベルヌ条約に加わって無方式主義に移り、それ以降に発行された作品では©の表示が任意になりました。さらに2022年3月には、万国著作権条約の加盟国がすべてベルヌ条約にも加わった状態になります。文化庁の『著作権テキスト』は、これで©を付ける法律上の意味はほとんどなくなったと説明しています。

役目を終えても©が残る理由

それでも©が消えないのは、誰の作品かを一目で示せるからです。文化庁のテキストも、今では権利者の名前を示すマークとして使われ、著作権を意識してもらうための道具になっていると書いています。アメリカ著作権局も、表示は任意としながら、付けておくと法律上の利点があるとしています。飾りに近づいたとはいえ、まったくの飾りではないのです。

®と©は守るものが違う

金色の天秤のイラスト

名前を守る®、作品を守る©

三つの記号を混同しやすいのは、どれも「なんとなく権利を守るもの」とひとくくりにしてしまうからです。守る対象と根拠の法律で並べ直すと、違いがはっきりします。

観点®・™(商標)©(著作権)
守る対象商品やサービスの名前・ロゴ文章・絵・写真・音楽などの作品
根拠の法律商標法著作権法
権利が生まれるとき特許庁に登録されたとき作品を作ったとき
表示の扱い表示は努力義務。®は登録後だけ、™はいつでも付けなくても権利は同じ

権利の生まれ方が正反対なのが、いちばん大きな違いです。商標は手続きを経て初めて権利になり、著作権は手続きなしで最初から権利になります。

1冊の本に両方の権利が同居する

身近な例で考えると、区別がつきやすくなります。たとえば1冊のマンガでも、表紙のシリーズ名や出版社のロゴを守るのは商標です。いっぽう中身の絵やせりふを守るのは著作権。同じ本の中で、®と©の持ち場が入れ替わっているわけです。キャラクター商品の箱に®と©が並んで印刷されているのも、名前と絵とで守る法律が違うからです。

有名になりすぎた名前は守れない?

虫眼鏡をのぞき込む女性のイラスト

普通名称には商標権が効かない

®を付けていれば安泰、というわけでもありません。商標法には、商品の「普通名称」を普通の方法で表示する場合には商標権が効かない、という定めがあります。登録商標でも、あまりに広く使われて品物の一般的な呼び名のように扱われると、権利を主張しにくくなることがあるのです。名前が売れすぎることが、かえって弱みになりかねません。

日常語に見えて登録商標という言葉も多い

ふだん何気なく使っている言葉の中にも、特定の会社の登録商標が少なくありません。どんな名前がそうなのかは、身近な登録商標を集めた記事にまとめています。企業が広告や商品で®を添え続けるのは、名前が一般的な呼び名として扱われるのを防ぐ意味もあるとされています。小さな丸は、名前を守り続ける努力の跡でもあるわけです。

録音物には℗という別の記号がある

重なった2枚のCDのイラスト

℗はPhonogram(録音物)の頭文字

©の親戚に、丸で囲んだPの「℗」があります。Phonogram(レコードなどの録音物)の頭文字で、CDやレコードに収めた音そのものについての権利を示す記号です。1961年に採択されたローマ条約では、録音物に(P)の記号と最初の発行年を表示しておけば、手続きを求める国でもその手続きを済ませたとみなすと定めています。同じPでも、パテント(特許)とは関係ありません。

CDの裏に©と℗が並ぶわけ

アメリカ著作権局の手引きでも、録音物の著作権表示に使うのは©ではなく℗です。CDのケースの裏で「℗ 2020」「© 2020」のように二つが並んでいることがあります。録音された音と、ジャケットの絵や歌詞カードの文章とで守る対象が分かれているため、と説明されます。一枚のCDにも、記号の持ち場がきちんと割り振られているのです。

®は登録を済ませた名前の証で、™は登録を待つあいだの意思表示。©と℗は、作品と録音に付く名札です。どれも数ミリの丸に収まる記号ですが、その奥には商標と著作権という二つの法律と、国どうしが歩み寄ってきた百年あまりの歴史が詰まっています。次に商品の箱やCDを手に取ったときは、小さな丸がそれぞれ別の持ち場を受け持っていることに気づくかもしれません。

参考

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