髪だけが長く伸びるのは、伸びる速さではなく「伸び続けていられる期間」が飛びぬけて長いからです。日本皮膚科学会によると、頭髪が伸びる成長期は2〜6年。眉毛やまつげの成長期は数週間から数か月しかなく、その間に伸びた分で長さが決まります。眉毛が切らなくても同じ長さに見えるのは、伸び切る前に生え替わってしまうためです。
※ 毛周期(もうしゅうき/ヘアサイクル)とは、一本の毛が生えて伸び、やがて抜けて新しい毛に生え替わるまでの繰り返しのことです。成長期・退行期・休止期の3つの段階に分けられます。
長さを決めるのは「伸びていられる期間」

頭髪の成長期は2〜6年
頭髪は一本ずつ、2〜6年ほど伸び続けます。日本皮膚科学会の皮膚科Q&Aでは、成長期の長さは毛包ごとに異なり「大体2〜6年」とされています。年単位で伸びられるので、切らずにいれば肩を越え、背中まで届くわけです。
まつげの成長期は1〜2か月ほど
まつげの成長期は、皮膚科の論文で1〜2か月ほど(4〜10週間とする総説もあります)と報告されています。頭髪と比べると、数十分の一の時間しかありません。伸び始めてまもなく成長が止まるため、まつげは1cm前後の長さでそろいます。
伸びる速さの差はわき役
速さにも差はあります。頭髪は1日0.3〜0.4mm、まつげは0.12〜0.15mmほどです。ただ速さの違いは2〜3倍にとどまり、期間の違いは数十倍にもなります。長さの差を生んでいる主役は、やはり期間のほうです。
毛は根元でつくられて押し上げられる

毛をつくる場所は皮膚の奥の「毛球」
毛の根元にあるのが、皮膚の奥でふくらんだ毛球(もうきゅう)です。中心にある毛乳頭(もうにゅうとう)が合図を出し、まわりの毛母細胞(もうぼさいぼう)が分裂を繰り返して毛の材料を生み出します。
新しくできた細胞は、下から次々に上へ送り出されます。毛先が伸びているのではありません。根元で足された分だけ、毛全体が押し上げられていく仕組みです。
見えている毛は硬くなった細胞の柱
押し上げられた細胞は、上へ向かう途中でケラチンというタンパク質をため込み、角化(かくか)して硬くなります。皮膚の外に見えている毛は、こうして固まった細胞が積み重なった柱です。生きて働いているのは、皮膚の奥にある毛母細胞のほうになります。
髪を切っても痛くないわけ
髪にはさみを入れても痛みも出血もないのは、切っている部分に神経も血管も通っていないからです。一方で、毛を根元から抜くとチクッとします。抜くときは、神経の通った皮膚の奥の組織ごと引っぱることになるためです。
頭髪は1日約0.4mm伸びる

1か月で約1.2cm、1年で15cm弱
日本皮膚科学会は、毛の伸びを1日約0.4mmとしています。30日で約1.2cm、1年なら15cm弱という計算です。美容院へ1〜2か月おきに通う人なら、そのたびに1〜2cmほど切りそろえている勘定になります。
伸びる速さには個人差があり、年齢や体の調子でも多少変わります。それでも1日に数mm伸びるような人はいません。頭髪だけが特別に速いのではなく、長く伸び続けられる点が特別なのです。
ロングヘアの毛先は数年前の髪
根元から押し上げられる仕組みを当てはめると、腰まである髪の毛先は、5〜6年前に毛母細胞がつくった部分ということになります。そのあいだ紫外線やドライヤーの熱、ブラシの摩擦を受け続けてきました。毛先ほど傷みやすいのは、それだけ長く外にさらされてきたからです。
毛周期は成長・退行・休止の3段階

成長期の毛は頭髪の85〜90%
毛母細胞がさかんに分裂し、毛が伸びている時期を成長期と呼びます。日本皮膚科学会によると、頭髪の85〜90%はこの「伸びる毛」です。残りの10〜15%ほどが、伸びるのをやめた退行期と休止期の毛です。頭にあるほとんどの毛が、いつも伸びている最中ということになります。
退行期は根元が縮む数週間
成長期が終わると、毛は退行期に入ります。毛包の下の部分がしだいに縮み、毛はもう伸びません。眉毛では2〜3週間、まつげでは15日ほどとされ、毛周期のなかではいちばん短い段階です。
休止期は頭髪で2〜3か月
そのあとの休止期は、毛が伸びも抜けもせずにとどまる時期です。頭髪では2〜3か月続き、次の成長期の準備が整うと抜け落ちます。同じ毛穴からは、やがて新しい毛が伸びてくるという流れです。
毎日抜けても薄くならないのはなぜ?

1日100本程度までは自然な抜け毛
頭髪はおよそ10万本あるとされます。日本皮膚科学会は、毎日抜ける毛の量を「一日100本程度まで」としています。休止期を終えた毛が順に抜けていくので、ブラシや枕に毛がつくのは生え替わりの普通の姿です。
個人差や季節の差、ヘアケアのしかたでも本数は変わります。急に増えた、まとまって抜けるといった変化が続くなら、皮膚科で相談すると安心です。
一本ずつ周期がずれている
10万本の毛が同じ周期で動いていたら、ある日いっせいに抜けてしまいます。実際には、毛は一本ずつ周期のタイミングがずれています。隣り合う毛でも、片方は伸びている最中、もう片方は抜ける寸前ということがあるのです。
このずれのおかげで、いつもどこかの毛が伸びています。抜けた分は少しずつ補われるので、毎日100本近く抜けても見た目の量は変わりません。
頭髪はどこまで伸ばせる?

計算上は30cmから90cm近くまで
1日0.4mmで2年伸びれば約30cm、6年なら90cm近くになります。肩までで止まる人もいれば、腰まで届く人もいる。その差の多くは、成長期が2年寄りか6年寄りかで説明がつきます。
上限は成長期の長さで決まる
髪は無限には伸びません。成長期が終わればその毛は止まり、やがて抜けて生え替わります。一本の髪が届く長さは、その人の成長期の長さでほぼ決まるのです。
床につくほどの長い髪で知られる人たちは、手入れの努力に加えて、成長期がとりわけ長い体質だと考えられています。同じように伸ばしても、多くの人は途中で毛が入れ替わり、そこまでは届きません。
眉毛とまつげは「休んでいる毛」が多い

眉毛の成長期は2〜3か月
眉毛の成長期は、眉毛とまつげの脱毛症を扱った皮膚科の総説で2〜3か月とされています。年単位で伸びる頭髪とは比べものになりません。同じ総説は、眉毛やまつげの長さはこの短い成長期で頭打ちになると説明しています。
まつげはおよそ半数が休止期
頭髪は大半が成長期にありますが、まつげは事情が逆です。成長期にあるまつげは約41%で、およそ半数は休止期にあると報告されています。頭髪の休止期の毛は5〜15%ほどなので、休んでいる毛の割合がまるで違います。
伸びている毛が少なく、伸びる期間も短い。そのため生え替わっても長さがそろったままで、いつ見ても同じような眉やまつげに見えるのです。
休止期はむしろ頭髪より長い
伸びる期間が短いなら、休む期間も短いと思いがちです。ところが、まつげの休止期は4〜9か月と、頭髪の2〜3か月より長く報告されています。眉毛も2〜3か月ほどです。部位による違いは成長期だけでなく、休止期の長さや割合にも表れています。
抜いた眉毛がまた生えてくるのはなぜ?

毛をつくる細胞は皮膚の奥に残る
眉毛やムダ毛を毛抜きで抜いても、しばらくすると同じ場所から生えてきます。抜けたのは毛の本体で、毛をつくる毛母細胞や毛乳頭は皮膚の奥に残っているためです。次の成長期がめぐってくれば、そこからまた新しい毛がつくられます。
医療脱毛が根元をねらう理由
毛が生えてこないようにするには、奥にある毛をつくる仕組みそのものに働きかけるしかありません。医療脱毛のレーザーが毛の根元をねらうのはそのためです。表面の毛を抜いたり剃ったりするのとは、働きかける場所がまったく違うのです。
年を取ると眉毛が伸びる男性がいる

男性ホルモンが眉毛の成長期を延ばす
年配の男性に、ひときわ長い眉毛の人を見かけることがあります。米国の皮膚科医の解説を紹介した記事によると、男性ホルモンのテストステロンが眉毛・耳毛・鼻毛の毛周期を長くするためです。同じ顔の毛でも、成長期が延びれば伸びる長さが変わるわけです。
頭髪には逆向きに働く
同じテストステロンが、頭髪ではかえって成長期を短くします。眉毛が伸びるのに頭は薄くなる、という組み合わせはこの逆向きの働きから生まれます。なぜ部位によって反応が逆になるのかは、まだよく分かっていないそうです。
女性で目立たないのは閉経のため
女性は50歳前後の閉経で卵巣からのテストステロンの分泌が止まります。男性は70代になってもつくり続けるので、眉毛が長くなる変化は男性に偏ります。眉毛の長さひとつにも、成長期のタイマーとホルモンの関係が表れているのです。
頭髪も眉毛も、同じ毛母細胞が同じ手順でつくっています。違うのは、止まるまでのタイマーの長さだけ。腰まで届く髪も、いつも同じ形の眉も、その一本に与えられた「伸びていい時間」の長さがそのまま形になったものです。
参考
- 脱毛症 Q1 – 皮膚科Q&A(日本皮膚科学会)
- Nguyen, Hu, Tosti, Eyebrow and Eyelash Alopecia: A Clinical Review, American Journal of Clinical Dermatology, 2023
- Fagien, Management of hypotrichosis of the eyelashes: Focus on bimatoprost, Clinical, Cosmetic and Investigational Dermatology, 2010
- なぜ年を取るにつれ眉毛がふさふさになる現象は男性だけに生じるのか?(GIGAZINE)
関連記事






