カモノハシは卵を産みますが、子を乳で育て、体が毛に覆われているので哺乳類に入ります。卵を産むのは、哺乳類の祖先がもっていた性質をいまも手放していないからだと考えられています。オスの後ろ足のかかとにある毒の蹴爪(けづめ)は、獲物をとるためのものではありません。繁殖期にメスをめぐってほかのオスと争うための武器とみられています。
卵を産むのに、なぜ哺乳類に入るの?

哺乳類を決めるのは乳と毛
「哺乳」という字のとおり、このグループの目印は乳で子を育てることです。お腹の中で子を育てて産むかどうかは、条件に入っていません。卵からかえったカモノハシの子は、3〜4か月ほど母親の乳だけで育ちます。
体は密な毛に覆われ、冷たい川に潜っても体温を一定に保てます。その体温は約32℃。ヒトの37℃よりかなり低めながら、羽でもうろこでもなく毛皮で寒さをしのぐ作りは哺乳類そのものです。
卵生は祖先から受け継いだ名残
哺乳類の祖先は、爬虫類と同じように卵を産んでいたと考えられています。ほとんどの哺乳類は途中で胎生へ切り替えました。カモノハシの仲間は、切り替える前の姿をいまに伝える数少ない生き残りです。
2021年に発表されたゲノム解析では、ヒトとカモノハシの仲間の共通の祖先は約1億8000万年前にさかのぼるとされました。恐竜が栄えていたジュラ紀のころです。カモノハシとハリモグラが枝分かれしたのはずっと後で、約5500万年前とみられています。
単孔類は世界に5種だけ
卵を産む哺乳類は「単孔類(たんこうるい)」と呼ばれます。現生はカモノハシ1種と、ハリモグラの仲間4種の計5種。すべてオーストラリアとニューギニアにしかいない動物です。
※ 単孔類とは、尿・便・卵を一つの出口(総排出腔)から出す哺乳類のグループのことです。「孔(あな)が一つ」という意味で名づけられました。
鳥やトカゲと並べた体のつくり
くちばしがあって卵を産むので、鳥の仲間に見えるかもしれません。けれど体の作りを項目ごとに見比べると、カモノハシは大半の欄でヒトの側に立っています。
| 項目 | カモノハシ | ヒト | 鳥 | トカゲ |
|---|---|---|---|---|
| 子の産み方 | 卵 | 胎生 | 卵 | 卵(一部は胎生) |
| 乳で育てる | する | する | しない | しない |
| 体の表面 | 毛 | 毛 | 羽 | うろこ |
| 体温 | 一定(約32℃) | 一定(約37℃) | 一定(40℃前後) | 外気に左右される |
| 出口 | 一つ | 別々 | 一つ | 一つ |
卵と出口の数だけが鳥やトカゲと同じで、残りは哺乳類の特徴。「卵を産む哺乳類」という呼び方は、この表をそのまま言葉にしたものといえます。
卵は母親が巣穴で約10日抱く

産む前に母親の体の中で2〜3週間
交尾のあと、卵はしばらく母親の体の中で育ってから産み落とされる仕組みです。その期間をオーストラリア・カモノハシ保護協会は約16日、オーストラリア博物館は約21日としています。野生での観察が難しい動物なので、数字にはまだ幅があるのが実情です。
1回に1〜3個、革のような殻の卵
ふつうは2個で、長さは16〜18ミリほど。うずらの卵の半分ほどの大きさです。殻は鳥の卵のように硬くはなく、トカゲの卵に似た羊皮紙のような手ざわりをしています。
中身は黄身がたっぷりで、胚は黄身の上の一部だけで分裂を始めます。これは鳥や爬虫類の卵と同じ育ち方。ヒトの受精卵は黄身をほとんど持たず、全体が均等に割れていきます。
体を丸めて尾とお腹で包む
メスは川岸の土手に子育て用の巣穴を掘り、その奥の部屋で卵を産みます。母親は体を丸め、丸めた尾とお腹のあいだに卵を挟んで温めるのが抱き方です。かえるまではおよそ10日と見積もられています。
オスは子育てに加わらず、つがいもつくりません。抱卵から授乳まで、すべて母親ひとりの仕事になります。
殻を内側から破る卵歯
子は鼻先にある小さな突起「卵歯(らんし)」で殻を内側から破って出てきます。ひよこのくちばしの先にも似た突起があり、殻を割る道具としては爬虫類時代からの持ち物だといえそうです。前足の小さな爪も、殻から抜け出す助けになります。
乳首がないのに、どうやって乳をあげる?

お腹の2か所からしみ出す乳
カモノハシのメスには乳首がありません。乳はお腹の毛に覆われた皮膚の2か所から、汗のようにしみ出してきます。子は毛にたまった乳をなめるようにして飲むのです。
吸いつく先がないので、ほかの哺乳類とはずいぶん違う飲み方といえます。乳を出す腺そのものは、汗腺に近い仕組みから生まれたと考えられています。
牛乳の3倍濃い乳
オーストラリア・カモノハシ保護協会によると、乳の固形分は約39%。牛乳の約12%と比べると3倍を超える濃さです。子はかえってから3か月ほど巣穴の中で過ごし、この濃い乳で体を大きくしてから初めて水に入ります。
乳そのものが細菌から子を守る
乳首がないということは、乳が外の空気や毛に触れたまま置かれるということ。細菌が入り込む機会は、吸い口から直接飲む哺乳類よりずっと多くなります。その弱点を補うように、カモノハシの乳には細菌を抑える成分が含まれていて、2010年にその抗菌性が報告されました。
2018年にはオーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)とディーキン大学が、乳のタンパク質の形を明らかにしています。ほかに例のない折りたたまれ方で、子役スターの巻き毛にちなんで「シャーリー・テンプル」型と名づけられました。薬の効かない細菌への手がかりとして期待されています。
赤ちゃんの歯は大人になると消える
大人のカモノハシには歯がありません。子どものうちは小さな歯をもっていても、やがてなくなり、代わりに角質の硬い板で餌をすりつぶすようになります。
2021年のゲノム解析では、歯を作るのに関わる遺伝子8個のうち4個が失われていたことがわかりました。その時期は約1億2000万年前と見積もられています。
オスの蹴爪の毒は何のため?

かかとの蹴爪と太ももの毒腺
毒を持つ哺乳類はごくわずかで、カモノハシはその代表格です。ヘビのように牙で咬むのではなく、後ろ足の蹴爪で刺して毒を送り込みます。毒を作るのは太ももの付け根にある一対の腺で、管で蹴爪とつながっています。
成熟したオスの蹴爪は、オーストラリア・カモノハシ保護協会によると15〜18ミリ。オーストラリア博物館は約12ミリとしていて、どちらにしても指の爪ほどの小さな武器です。
メスの蹴爪は1歳前に消える
メスも生まれてしばらくは、蹴爪のような小さな突起を持っています。けれど生後9か月ほどまでになくなり、大人のメスに毒の武器はありません。オスの蹴爪も子どものうちは白っぽい角質に包まれていて、1歳になるころまでにそれがはがれて鋭い先端が現れます。
毒が強まるのは繁殖期だけ
毒を作るのは成熟したオスだけで、量がいちばん増えるのは繁殖期です。時期は地域によって違い、ビクトリア州では8〜10月が繁殖の盛り。季節とオスに偏っていることが、毒の使いみちを物語っています。
繁殖期のオスは、縄張りやメスをめぐって争う間柄です。毒はライバルとの争いで優位に立つために発達したと考えられています。相手を弱らせることができれば、それだけ子孫を残せる見込みが上がるからです。
狩りには使わない「勝つための毒」
カモノハシの獲物は川底の虫やエビといった小さな無脊椎動物です。わざわざ毒で仕留める必要はありません。ヘビやクモの毒が「食べるための毒」なのに対し、カモノハシの毒は「勝つための毒」といえます。成分の顔ぶれもヘビ毒とはまったく違うことがわかってきました。
人が刺されるとモルヒネも効かない痛み
人が命を落とすような毒ではないとされます。ただし刺されると激しい痛みと腫れが起き、数週間続くことも。筋肉の衰えや腫れが何か月も残る例もあり、痛みに過敏な状態が長引くこともあるそうです。
やっかいなのは、モルヒネなど普通の鎮痛薬がほとんど効かないこと。神経の伝わりをせき止める薬なら抑えられるとされます。野生のカモノハシを素手でつかむべきでないのは、このためです。
くちばしは約4万個の電気センサー

潜ると目も耳も閉じてしまう
目と耳は頭の両側の溝の中にあり、潜るとこの溝がぴったり閉じます。濁った川底で獲物を探す手がかりは、くちばしだけです。
オーストラリア博物館によると、1回の潜水は30〜140秒ほど。獲物は頬の袋にためておき、水面に浮かんでから噛み砕きます。餌探しに使う時間は、主に夜を中心に1日10〜12時間にもなります。
くちばしは硬い角でなく柔らかい皮膚
「鴨の嘴(はし)」という名前ですが、鳥のくちばしのような硬い角質ではありません。しなやかで毛のない、しっとりした皮膚です。学名の Ornithorhynchus anatinus は「鴨に似た鳥の鼻」という意味で、名づけた学者たちもまずこの見た目に目を奪われました。
獲物の筋肉が出す微弱な電気を拾う
生きものは筋肉や神経が動くたびに、ごく弱い電気を出すもの。カモノハシのくちばしには、この電気を感じる受容器が約4万個並んでいます。川底に潜む虫やエビの位置を、くちばしを左右に振りながら探り当てるのです。
電気のセンサーとは別に、水の動きや感触を拾う受容器も約4万6500個。上くちばしのふちに特に密集していて、二つの感覚を組み合わせて獲物の向きと距離をつかんでいると考えられています。
食べものをためる胃がない
もう一つ意外なのが消化器です。カモノハシには、食べものをためて酸で溶かす胃と呼べる部分がほとんどありません。2021年のゲノム解析では、胃酸の分泌をうながすガストリンの遺伝子など、胃の発達に関わる遺伝子が失われていたと報告されています。ハリモグラも同じなので、単孔類の共通の祖先の段階で起きた変化とみられます。
最初は偽物だと疑われた?

1799年、ロンドンに届いた毛皮
カモノハシが初めて学術的に記載されたのは1799年です。オーストラリアから送られた乾燥した毛皮を調べたのは、大英博物館の博物学者ジョージ・ショーでした。鴨のようなくちばしに獣の毛皮という組み合わせは、ヨーロッパの学者には信じがたいものだったのです。
刃物を入れて縫い目を探した
ショーは論文の中で、人の手による作り物ではないかという疑いを隠しませんでした。鴨のくちばしを獣の毛皮に縫い付けたのではないか。そう考えた彼は、標本に刃物を入れて縫い目を探したと伝えられています。
縫い目は見つからず、ショーは本物の新しい動物だと認めて Platypus anatinus と名づけました。ギリシャ語で「平たい足」を意味する名前です。のちに学名は Ornithorhynchus anatinus に改められ、英語の呼び名としてだけ platypus が残っています。
卵を産むと決着したのは1884年
本物とわかってからも、卵を産むのか子を産むのかで学者たちは長く争いました。決着をつけたのは、ケンブリッジ大学の若い研究者ウィリアム・コールドウェルです。1884年、オーストラリアのクイーンズランドで産卵を確かめた彼は、その結果を短い電報で伝えました。
文面は「単孔類は卵生、卵は部分割」という意味のわずか4語。部分割とは、黄身の上の一部だけが分裂する爬虫類型の育ち方のことです。最初の毛皮が届いてから答えが出るまで、85年かかったことになります。
和名は見た目どおりの鴨の嘴
日本語の「カモノハシ」は、鴨の嘴という見た目をそのまま名前にしたものです。卵のことも毒のことも、名前からはわかりません。いちばん目立つくちばしですら、実物は鳥のものとまったく違う柔らかい皮膚でした。
性染色体10本、光る毛皮

XとYが5本ずつ、計10本の性染色体
ヒトの性染色体はXとYの2種類で、女性はXX、男性はXYです。カモノハシの仲間はXが5本、Yが5本の計10本を持っています。2021年の論文では、これらがもとは輪のようにつながった染色体から生まれたという説が示されました。
紫外線を当てると青緑に光る
2020年、博物館の標本に紫外線を当てると、茶色の毛皮が青緑色に光ることが学術誌『Mammalia』で報告されました。オスもメスも同じように光ったといいます。夜や薄暗い時間に動くカモノハシにとってこの光に意味があるのか、理由はまだわかっていません。
体長は60cm前後、寿命は約20年
体長はくちばしの先から尾の先までで、オスが40〜63cm、メスが37〜55cm。体重はオスで0.8〜3kg、メスで0.6〜1.7kgと、オスのほうがひと回り大きくなります。寿命は野生でも飼育下でも最長で約20年です。
国外の動物園ではほとんど会えない
カモノハシは飼育がとても難しく、オーストラリアの外で見られる施設はごく限られます。2019年11月、シドニーのタロンガ動物園からアメリカのサンディエゴ動物園サファリパークへ2頭が渡り、国外の動物園での飼育は50年以上ぶりと話題になりました。国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは「準絶滅危惧」に分類されています。
縫い合わせた偽物ではないかと疑われた1799年から、200年以上がたちました。見えてきたのは、鳥と獣のつぎはぎではなく、哺乳類がまだ卵を産んでいたころの設計図を抱えたままの動物です。卵も毒も電気の感覚も、その設計図の一ページ。偽物どころか、哺乳類の歴史をいちばん古いところまでさかのぼれる本物だったわけです。
参考
- Australian Museum「Platypus」
- Australian Platypus Conservancy「Platypus reproduction」
- Australian Platypus Conservancy「Platypus venom and spurs」
- CSIRO「Saving lives with platypus milk」(2018年)
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