入場日を1日間違えて買ったUSJのチケットは、気づいたその日に連絡しても、原則としてキャンセルできません。この「キャンセル不可」と「転売禁止」の規約は消費者契約法に反して無効ではないかとして、大阪の消費者団体が起こした裁判があります。2023年7月の大阪地裁、2024年12月19日の大阪高裁とも、規約は有効と判断しました。主な理由は、キャンセルや転売を自由に認めると転売目的の買い占めが起きる点です。そうなれば、一般の客が定価で買えなくなります。
規約はキャンセルも転売も一切認めない

購入後のキャンセルは「一切できません」
争われたのは、ネットでチケットを買うときに同意する「WEBチケットストア利用規約」です。規約は、チケットの種類や理由を問わず、購入後のキャンセルは一切できないと定めています(第8条)。ただし書きがあり、法律上の理由で客が契約を解除できる場合や、契約が無効になる場合は別扱いです。
転売は利益が出なくても禁止
利益を得るつもりがあるかどうかに関係なく、第三者への転売はすべて禁止です(第3条)。定価で友人に譲るのも、規約の上では転売にあたります。
違反したときの扱いも重めでした。転売に使ったチケットだけでなく、その人が買ったすべてのチケットが使えなくなり、返金もありません。会員登録の取り消しと、以後の購入禁止まで定められています。
スタジオ・パスは90日先まで日付を変えられる
キャンセルの代わりに用意されているのが日付変更です。入場券のスタジオ・パスは、元の入場日の翌日から90日後までなら、手数料なしで日付を変えられます。エクスプレス・パスと1回で決済した場合などは対象外です。
この仕組みは、裁判の途中で緩められたものです。2019年に提訴した時点では、変更できるのは30日後まででした。手数料200円がかかり、使えるのはクレジットカード払いに限られていました。2022年8月の規約改定で、判決が認定した今の形になっています。なお、アトラクションに優先して乗れるエクスプレス・パスは、日付変更もできません。
大阪の消費者団体が条項の差し止めを求めた

訴えたのは大阪の適格消費者団体
原告はNPO法人の消費者支援機構関西です。2019年10月16日、USJを運営する合同会社ユー・エス・ジェイを相手取り、大阪地裁に提訴しました。求めたのはお金ではありません。規約のうち二つの条項を今後使わないこと(差し止め)と、規約を載せた用紙やウェブページの廃棄でした。
※ 適格消費者団体(てきかくしょうひしゃだんたい)とは、内閣総理大臣の認定を受けた消費者団体のことです。被害を受けた本人でなくても、事業者が使う不当な契約条項について、使用の差し止めを裁判で求めることができます(消費者契約法12条)。
物差しは消費者契約法10条の二段階
争点の中心は消費者契約法10条です。条文は長いものの、要点を取り出すと二段階の判断になります。
- 前段:その条項がなかった場合の標準的なルール(法律の定め)と比べて、消費者の権利を狭めているか
- 後段:そのうえで、信義則(しんぎそく)に反して消費者の利益を一方的に害しているか
両方に当てはまったとき、はじめて条項は無効になります。信義則とは、互いに相手の信頼を裏切らないよう誠実に振る舞うべきだという、民法の基本原則です。この裁判では、前段には当てはまっても後段で退けられる、という判断が繰り返し出てきます。
団体が挙げた困りごと
団体が問題にしたのは、購入後に行けなくなった人の逃げ道がないことでした。枚数や日付の買い間違い、急な予定変更、新型コロナによる外出自粛などです。海外など遠方から来る人は、旅行自体が中止になれば、90日以内に来ることはできません。
地裁判決には、全国の消費生活センターに寄せられた、USJのチケットの解約や変更に関する相談件数も記されています。2014年4月から2019年4月までの5年間で87件、2020年2月から2021年7月までの約1年半で40件でした。
キャンセル不可はなぜ有効とされた?

買い占めて売れ残りを返す手口を防ぐ
裁判所がまず重く見たのは、条項の目的です。自由にキャンセルできれば、転売目的の人は大量に買い、高く売れた分だけ利益を得られます。売れ残りはキャンセルして返せば済みます。損をするのは、本来なら定価で入れたはずの客でした。
地裁は、価格の高騰を防ぐという目的には合理性があると認めました。利益を受けるのはUSJだけでなく、客の側でもあるという見方です。判決の時点でもネットオークションには定価より高いチケットが出ており、USJが費用をかけて監視していることも認定されています。
客が来なくてもパークは同じように動く
団体は、チケットの購入はサービスを受ける契約だと主張しました。そうであれば委任契約(人に仕事を頼む契約)と同じく、いつでも解除できるはずだという理屈です。民法は、委任であればどちらからでもいつでも解除できると定めています(民法651条)。
高裁はこの考えを採りませんでした。委任をいつでも解除できるのは、当事者どうしの信頼関係が前提だからです。USJと一人ひとりの客の間に、そうした関係はありません。ある客が来なくなっても、パークは同じようにアトラクションを動かします。チケットと個々のサービスは直接結びついていない、というのが高裁の判断でした。
購入画面で何度も確認させている
地裁は購入の手順も細かく確かめています。チケットを選ぶ画面には「転売は固く禁止」と表示され、キャンセル不可と転売禁止の確認欄にチェックを入れないと先へ進めません。規約の全文は最後までスクロールしないと同意できず、最終確認の画面でも入場日と枚数が改めて表示されます。
こうした点から、買い間違いには一定の配慮がされていると判断されました。客も条項を十分に理解したうえで買っている、という評価です。「券種が多くて買い間違えやすい」という団体の主張は退けられています。
運用の不手際は条項を無効にしない
団体はさらに、ただし書きがあっても実際にはキャンセルが認められないと訴えました。誰がどんな手続きで判断するのか分からない、という理由です。高裁も、運用が適切でなければ、本来キャンセルできる客の利益が損なわれかねないことは認めています。
ただ高裁は、それを条項の欠陥ではなく「解釈運用の不手際」にすぎないとしました。条項の読み方や使い方の問題であり、無効の理由にはならないという結論です。地裁の認定では、USJはキャンセルの申し出に一定数応じていたとされています。
転売禁止はなぜ有効とされた?

高裁は転売を「権利の譲渡」と認めた
転売禁止については、地裁と高裁で理屈の組み立てが変わりました。地裁は、転売禁止は消費者の権利を狭めるものではないとして、10条の前段で退けています。高裁はここを改めました。
チケットは長い間、持っている人なら誰でも入れる券として扱われてきたはずです。高裁は転売を、サービスを受ける権利を他人に譲ること(債権譲渡)と位置づけました。本来は自由なはずの譲渡を規約で新たに制限している、と認めたわけです。つまり前段には当てはまる、という判断です。
転売目的の人と困った人を見分けられない
それでも、条項は後段の判断で生き残りました。高裁が挙げたのは、USJの側から見えないことの多さです。転売目的で買った人と、後から行けなくなった人は外からは区別できません。転売価格も知りようがないため、定価以下の譲渡だけを認めることもできないと判断されました。
低廉な定価で安定してチケットを購入できる機会を保障するという、消費者にとって利益となる目的・効果がある
(大阪高裁判決、第3の3⑷イの要旨)
一律に禁止すれば損をする人も出ます。それでも全体として見れば、消費者には定価で買えるという利益がある。だから一方的な不利益とは言えない、という筋立てです。
チケット不正転売禁止法より厳しくてもよい
団体は、国の法律でさえ禁じているのは高値での転売だけだ、とも主張しました。2019年6月に施行されたチケット不正転売禁止法は、定価を超える値段で商売として繰り返し売る行為を罰するもので、定価での譲渡までは禁じていません。
※ チケット不正転売禁止法の正式名称は「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」です。対象は、購入時に「興行主の同意のない転売は禁止」と示されているなど、いくつかの条件を満たすチケットです。違反すると1年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金(または両方)が科されます。
高裁の答えは短いものでした。この法律は国が不正な転売を取り締まるためのもので、事業者が自社のチケットにかける制限の上限を定めたものではない。法律より厳しい規約だからといって、それだけで無効にはならないということです。
公式リセールを作れば済むのでは?

団体が求めた定価での再販売
キャンセルも転売もできないなら、せめて公式の転売サイト(リセールサイト)を設けるべきだ、というのが団体の言い分でした。東京2020大会では公式のリセールサービスがあり、買った値段で再販売できたことも地裁判決に記されています。
団体は、チケット不正転売禁止法が興行主に対し、正規の方法でチケットを譲れる機会をつくる努力を求めている点も挙げました(5条2項)。その努力をしない事業者の規約は無効と評価されるべきだ、という主張です。
リセールの効き目には限界があるとされた
高裁は、リセールで救える人を時期ごとに分けて考えています。発売直後の買い間違いなら、一定の効果があるという評価です。ただ、その多くは錯誤(思い違い)などにあたり、法律上の取り消しや無効を主張できるケースと考えられます。ただし書きを正しく運用すれば救える、というのが高裁の見立てでした。
問題は、入場日の直前に行けなくなった人です。その時期には、転売目的で買った人も売れ残りを処分しようとリセールに出してきます。一般の客の出品がそれと競合し、結局は損を避けられないこともある、と高裁は見ました。
より穏やかな手段を選ぶ義務まではない
地裁はもう一歩踏み込みました。事業者は、消費者の不利益がより少ない別の手段を常に選ばなければならないわけではない、と述べています。リセールサイトの開設と運営には費用がかかり、その費用は最終的に客の負担になるかもしれません。作るかどうかは経営判断に任される、という結論でした。
地裁と高裁で分かれた転売禁止の扱い

結論は同じでも、二つの裁判所が条項をどの段階で退けたかには違いがありました。条項ごとに並べると、高裁が転売の扱いを組み直したことが分かります。
| 論点 | 大阪地裁(2023年7月21日) | 大阪高裁(2024年12月19日) |
|---|---|---|
| キャンセル不可・前段 | 満たさない(委任の解除権は当てはまらない) | 満たさない(信頼関係が前提の解除権は当てはめない) |
| キャンセル不可・後段 | 満たさない(高騰防止・買い間違いへの配慮・日付変更) | 満たさない(ただし書きの運用は条項の欠陥ではない) |
| 転売禁止・前段 | 満たさない | 満たす(転売は権利の譲渡) |
| 転売禁止・後段 | 満たさない | 満たさない(定価で買える機会という利益) |
| 公式リセール | 作るかは経営判断 | 直前の救済には限界 |
転売禁止が「消費者の権利を狭めている」と認められた点は、団体にとって一歩前進とも読めます。ただ、後段で退けられたため、差し止めには至りませんでした。
行けなくなったときはどうすればいい?

日付変更とキャンセルの例外
スタジオ・パスなら、まず90日以内の日付変更を考えるのが現実的です。購入完了メールと、そこからリンクされた「キャンセルについて」のページには、法律上の解除や無効の理由があればキャンセルできると明記されています。この点は高裁も確認しました。
判断に迷ったら、消費者ホットライン「188(いやや)」で近くの消費生活センターに相談できます。ここで紹介した規約や日付変更の条件は、判決が認定した時点のものです。最新の内容は、購入時に公式の規約で確かめてください。
ほかのテーマパークも同じ方向
地裁は、ほかの施設のルールも並べて認定しています。どこもキャンセルと転売には厳しい姿勢です。
- 東京ディズニーリゾート:転売禁止、運営会社が認める場合を除きキャンセル不可
- レゴランド・ジャパン:転売禁止、理由を問わず交換・変更・キャンセル不可
- ハウステンボス:転売されたWEBチケットは使用不可、購入後のキャンセルや日程変更・払い戻し不可
USJの規約だけが特別に厳しいわけではなく、人気施設の多くが同じ設計をとっています。この判決は、その設計が法律の上でも認められることを示した例といえます。
判決文の細部から分かること

キャンセルの例外は団体の質問状から生まれた
2017年4月の時点で、キャンセルの条項は例外のない「一切できません」だけでした。消費者支援機構関西は同年4月26日、条項の理由を尋ねる質問書をUSJに送っています。
USJは6月2日付の回答で、自社に責任がある場合や、法律で解除が認められる場合はキャンセルに応じていると説明しました。そのうえで、ただし書きを加える改定を予定していると答え、現在の条文になっています。裁判で争われた条項の一部は、裁判の前のやりとりから生まれたものでした。
1日間違えた5枚で11万5,100円
高裁判決には、団体に寄せられた相談の一つが、団体の主張として載っています。2023年8月10日に日付を1日間違えてエクスプレス・パスを5枚買い、すぐに気づいて変更を頼んだものの、断られたという内容です。買い直した結果、11万5,100円が無駄になったとされています。
裁判所は、チケットが一般の消費者にとって高額で、購入者の負担は軽く見られないことも認めました。そのうえで条項を有効とした形です。判決は「買い間違いの救済はただし書きの適切な運用で」という宿題をUSJ側に残した、とも読めます。
キャンセルできない規約は、目の前の一人には冷たく見えます。それでも二つの裁判所がその規約の先に見たのは、まだチケットを買っていない大勢の客でした。定価で買える席を、買い占めから守るための線引きです。その線の内側でこぼれる人をどう救うかは、規約の文字ではなく運用に委ねられています。
参考
- 裁判所 裁判例結果詳細(大阪高裁 令和6年12月19日判決 令和5(ネ)1812)
- 裁判所 裁判例結果詳細(大阪地裁 令和5年7月21日判決 令和1(ワ)9185)
- 消費者支援機構関西 USJのチケット利用規約の差止めを求める控訴審の判決言渡し
- e-Gov法令検索 消費者契約法
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