商品のパッケージやロゴの右上に、小さな丸で囲まれた「®」。ホームページのいちばん下には「©」。どちらも数ミリの似たような記号ですが、守っているものはまるで違います。片方は「名前」を、もう片方は「作品」を指しているのです。さらに「™」まで混ざると、どれがどれだか分からなくなります。この三つの記号の正体と、意外な使い分けを整理してみましょう。
三つの記号の違いを一枚の表に

細かい理由に入る前に、®・™・©がそれぞれ何を意味するのかを表にまとめました。「守る対象」と「使えるのは誰か」で見比べると、似た記号でも役割がはっきり分かれています。
| 記号 | 読み方 | もとの語 | 守る対象 | 使えるのは |
|---|---|---|---|---|
| ® | マルアール | Registered trademark | ブランドの名前・ロゴ | 登録された商標だけ |
| ™ | ティーエム | Trademark | ブランドの名前・ロゴ | 登録前でも使える |
| © | マルシー | Copyright | 文章・絵・音楽などの作品 | 著作物なら誰でも |
大きく分けると、®と™は「商標」=ブランドの名前を守る記号で、©は「著作権」=作品を守る記号です。同じ丸囲みでも、守る中身がそもそも別の法律の話になります。
®マーク——「登録済み」の証

®は、特許庁に商標として登録された名前やロゴにだけ付けられる記号です。「登録された」というお墨付きが、この小さな丸の意味です。
Registered trademark の頭文字
登録された商標だけに付く
®はRegistered trademark(登録された商標)の頭文字Rを丸で囲んだもので、日本では「マルアール」「アールマーク」と呼ばれます。国が管理する登録簿に載って初めて付けられる、いわば免許証のような記号です。誰かが作った名前でも、登録という手続きを経ていなければ本来は付けられません。
日本では付けるのは「努力義務」
意外なことに、日本の商標法では®を付けること自体は義務ではありません。登録商標を使う人は登録商標である旨の表示を付けるよう努めなければならない、という努力義務にとどまります(商標法73条)。付けても付けなくても権利は変わらず、付け忘れても罰則はありません。街で®を見かけたり見かけなかったりするのは、このためです。
付けてはいけない場面がある
未登録なのに®を付けると「虚偽表示」
付けるかどうかは自由な一方で、登録していない名前に®を付けるのは禁止されています。まだ登録されていない商標に登録商標の表示を付ける行為は虚偽表示にあたり(商標法74条)、違反すると3年以下の懲役または300万円以下の罰金という重い罰が定められています(同80条)。以前は権利があったのに更新せず失効した後も付け続ける、というのも虚偽表示になります。
アメリカでも登録前の®は認められない
この考え方は日本だけのものではありません。®発祥のアメリカでも、連邦登録が済む前に®を付けることは認められていません。つまり®は「登録した」という事実とセットの記号で、飾りとして勝手に付けてよいものではないわけです。ブランド名を無断で使うと何が起きるかは、その名前、勝手に使ったらアウト?——商標の「セーフ・アウト」でも取り上げています。
™マーク——「これは商標です」という主張

登録前の名前に®は付けられません。では登録を待つ間はどうするか——そこで登場するのが™です。™は「登録の有無を問わず、これは自分の商標だ」と主張するための記号です。
登録前でも使える気軽な記号
出願前・出願中でも付けられる
™はTrademark(商標)の略で、登録されているかどうかに関係なく付けられます。まだ出願していない名前にも、審査を待っている出願中の名前にも使えます。「この名前は商標として使っているので、真似すると後で困りますよ」という、周囲へのやんわりした牽制の役割です。
日本には™の法的な裏づけはない
ただし™は、日本の法律に定められた記号ではありません。あくまでアメリカなどの慣習にならって使われている表示で、付けたからといって特別な法的効力が生まれるわけではないとされています。それでも「登録を目指している最中の名前」に添えておくと、うっかり他人に使われるのを防ぐ心理的な効果が期待できるのです。
サービス向けの「℠」もある
モノは™、サービスは℠
あまり見かけませんが、™には兄弟のような記号があります。℠(サービスマーク、SM)です。™が商品などモノにつく商標に使われるのに対し、℠は運送や飲食といったサービス(役務)の商標に使われます。日本ではほとんど目にしませんが、アメリカのサービス業の広告などでたまに顔を出す記号です。
©マーク——作品につける「名札」

ここから記号の系統が変わります。©は商標=名前ではなく、著作権=作品を守る記号です。本・写真・イラスト・音楽など、誰かが創作したものにつく名札のような存在です。
Copyright の頭文字「マルシー」
著作権者の名前と年をセットで書く
©はCopyright(著作権)の頭文字Cを丸で囲んだもので、「マルシー」と読みます。正式には記号だけで置くのではなく、「© 2026 Taro Yamada」のように、記号・著作権者の名前・最初に発表した年を並べて書くのが本来の形です。ホームページの最下部でよく見かける表示は、この決まりの名残です。
実は今の日本では付けなくてよい
作った瞬間に権利は生まれる
意外に思われるかもしれませんが、日本では©を付けても付けなくても著作権は変わりません。日本を含む多くの国が結んでいるベルヌ条約は無方式主義をとっていて、作品を創作した瞬間に自動的に権利が発生します。登録も、©の表示も、権利を持つための条件ではないのです。
では、なくてもいい記号がなぜこれほど広まっているのでしょうか。その答えは、©が生まれた歴史にあります。
©表示が生まれ、やがて「飾り」になったわけ

©には、国と国の著作権のしくみの違いを埋めるために生まれた、という出自の持ち主です。今では役目をほぼ終えていますが、そのいきさつを知ると、あの小さな丸の見え方が少し変わります。
二つの条約の「橋渡し」だった
方式主義の国と無方式主義の国があった
古くからある国際的な取り決めがベルヌ条約(1886年成立)で、これは前述のとおり登録などの手続きなしで権利を認める無方式主義です。ところが世界には、登録や表示をしないと著作権を認めない「方式主義」の国もありました。かつてのアメリカがその代表です。手続きの考え方が正反対の国どうしでは、作品を守るルールがかみ合いません。
「©+名前+年」で通じ合わせる約束
そこで両者をつなぐために結ばれたのが万国著作権条約(1952年成立、日本は1956年に加盟)です。この条約では、作品に「©・著作権者名・最初の発行年」の三つを表示しておけば、方式主義の国でも保護を受けられることにしました。つまり©は、手続きの厳しい国でも通用させるための「合言葉」として決められた記号だったのです。
役目を終えても残った記号
アメリカのベルヌ加盟でお役御免に
流れが変わったのは、方式主義の総本山だったアメリカが1989年にベルヌ条約に加わったときです。世界の主要国がそろって無方式主義になったことで、「©を書かないと保護されない国」がほぼなくなりました。こうして©は、法的にはほとんど意味を持たない記号になったとされています。それでも表示が残っているのは、「これは誰かの作品だ」と示す慣習と、無断利用への軽い抑止として便利だからです。
録音物には「℗」という別の記号
©の親戚に、丸で囲んだPの「℗」があります。これはPhonogram(録音物)の頭文字で、CDやレコードなど音を記録したものについて、その原盤を守る権利を示す記号です。同じPでもパテント(特許)とは無関係で、音楽ソフトの表記でひっそり使われています。
もう一歩——身近な取り違えと使い分け

三つの記号を混同しやすいのは、見た目が似ているうえに「なんとなく権利を守るもの」という漠然とした印象でひとくくりにしてしまうからです。守る対象と根拠になる法律で並べ直すと、違いがくっきりします。
®と©は「守るもの」が別
名前を守るか、作品を守るか
いちばんの分かれ目は、何を守っているかです。®(と™)はブランドの名前やロゴを守り、根拠は商標法。©は文章や絵、音楽といった作品そのものを守り、根拠は著作権法です。たとえば同じ本でも、表紙のシリーズ名を守るのは商標です。いっぽう中身の文章や挿絵を守るのは著作権。同じ一冊の中で、守る記号が入れ替わります。
| 観点 | ®・™(商標) | ©(著作権) |
|---|---|---|
| 守る対象 | ブランドの名前・ロゴ | 文章・絵・音楽などの作品 |
| 根拠の法律 | 商標法 | 著作権法 |
| 権利を持つには | ®は登録が必要 | 創作した時点で自動発生 |
| 表示の要否 | 努力義務(なくてもよい) | 不要(なくてもよい) |
有名になりすぎて®が外れることも
名前が「普通名詞」になると守れなくなる
®は付ければ安泰、というわけでもありません。登録商標でも、あまりに広く使われて一般名称のように扱われると、権利を主張しにくくなることがあります。私たちが日常語だと思って使っている言葉の中にも、実は特定の会社の登録商標だったものが少なくありません。その話は「ウォシュレット」も「宅急便」も、特定の会社だけの言葉——身近な登録商標のはなしにまとめています。®の小さな丸は、名前を守る努力の証でもあるわけです。
®は名前が登録された証、™は登録を待つ間の主張、©は作品につく名札。似た小さな丸に見えても、®が守るのは「名前」で、©が守るのは「作品」です。受け持ちは、きれいに分かれています。三ミリ四方の記号に、これだけの区別と歴史が畳み込まれている——似て非なる三兄弟の、それぞれの持ち場です。


