雪国の信号機はなぜ「縦型」なのか——雪が乗る「棚」を減らすかたち

社会と仕組みの話
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雪の多い地域の信号機が縦に並んでいるのは、雪の乗る面積をできるだけ小さくするためです。横に長い信号機は、上面が三つ分ならんだ「棚」のようなもの。そこに雪が積もれば灯りは隠れ、重みは支柱まで届きます。

ただし、話は「縦にすれば解決」で終わりません。並び順を決めているのは法令ですし、LEDへの置き換えでかえって困った問題も生まれています。

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縦型が選ばれる理由を一枚で

横型と縦型、雪の前で何が違うのかを並べてみます。

見るところ横型(全国の標準)縦型(雪の多い地域)
上を向いた面灯り三つ分の庇が横並びいちばん上の一つ分だけ
雪が積もると庇に載った雪が垂れ、灯りを隠す載る量が少なく落ちやすい
支柱・アームの負担横に張り出した先に雪の重みが集中重みが小さく、たわみにくい
灯りの並び右から赤・黄・青上から赤・黄・青
おもな設置地域関東・関西・九州など北海道・東北・北陸などの日本海側

雪が「乗る面」を減らすという発想

縦型信号機の狙いは、雪を溶かすことでも払うことでもありません。そもそも積もる場所を作らない、という引き算の設計です。

横型が雪に弱い理由

庇が雪の受け皿になる

信号機の灯りの上には、日差しの映り込みを防ぐ庇(ひさし)が付いています。横型なら、その庇が三つ横並び。降った雪はそこに載り、やがて前へ垂れ下がって灯りの面をふさぎます。色が消えるのではなく、色の手前に雪のカーテンがかかった状態です。

重さは支柱まで伝わる

雪の重みは灯器だけの問題ではありません。横型は道路の上へ長く張り出したアームの先にぶら下がっているため、そこに雪が積もると、てこの原理でアームの付け根に大きな力がかかります。アームが歪んだり支柱が傾いたりする不具合を防ぐうえでも、上面を減らす意味は小さくないのです。

縦にすると何が変わるか

上を向いた面がひとつになる

灯りを縦に並べると、真上を向いた面は最上部の庇だけになります。下の二つの庇は、上の灯器の陰に入る形です。単純な話ですが、雪が載れる面積はおおよそ三分の一。落ちるのも早くなります。

風にも強くなる

縦型は横幅が狭いぶん、横から吹きつける風を受け止める面も小さくなります。雪と風がセットでやってくる地域では、この差が効いてくるでしょう。吹雪のなかで揺れにくいことは、そのまま見やすさにもつながります。

縦になっても、赤がいちばん先頭にある

縦型は上から赤・黄・青の順です。これは現場の判断ではなく、法令で決められた並びです。

並び順を決めているのは法令

横は右から、縦は上から

車両用の信号機の灯火の順序は、道路交通法施行令で定められています。横に並べるなら右から赤・黄・青。縦に並べるなら上から赤・黄・青。つまり日本中どこへ行っても、赤の位置は「右端」か「最上部」のどちらかです。

道路交通法施行令とは、道路交通法を実際に運用するための細かい決まりを定めた政令のことです。信号機の色や配置、灯火の意味などもここで規定されています。

赤をいちばん見える場所に置く

三色のうち、見落として困るのは圧倒的に赤です。ですから配置の設計は「赤をどこに置くか」から始まります。縦型で最上部が選ばれたのは、下のほうが街路樹や看板、あるいは前を走る大型車の陰に入りやすいためです。

横型で赤が右端にある理由

視界をさえぎる物は左側にある

日本は車が左側を走ります。運転席から見て、街路樹や標識、店の看板といった視界をさえぎる物はたいてい左側に集まっているもの。赤を左端に置くと、それらの陰に隠れる場面が出てきてしまいます。

道路の中央寄りのほうが遠くから見える

右端に置くということは、赤を道路の中央側へ寄せるということでもあります。中央寄りの灯りは正面に近い位置へ来るぶん、手前の車列越しでも視線に入りやすい。左側通行と右側通行で赤の端が入れ替わる国があるのも、同じ理屈からです。

そもそもこの三色がなぜ赤・黄・青なのか、青信号がどう見ても緑なのはなぜかについては、こちらで詳しく書いています。
信号機はなぜ赤・黄・青なのか?「青信号」が緑色である理由

縦と横の境目は、どのあたりにあるのか

縦型が並ぶのは、冬にまとまった雪が降る地域です。県ごとにきれいに分かれているわけではなく、同じ県のなかで北と南が違うこともあります。

日本海側と太平洋側で分かれる

北海道・東北・北陸に集まる

縦型が主流とされるのは北海道、秋田・山形・青森といった東北の日本海側、それに新潟・富山・石川・福井の北陸です。旅先で見上げた信号が縦に並んでいたら、そこはひと冬に何度も雪かきをする土地だと考えてよさそうですね。

目安は分水嶺のあたり

大まかには本州の分水嶺(ぶんすいれい)を境に、日本海側が縦型、太平洋側が横型と説明されることがあります。長野県のように、県北部では縦型が一般的で南部は横型という分かれ方をする例もあります。あくまで傾向であり、峠を一つ越えたら向きが変わっていた、というくらいの話です。

雪と関係なく縦になる場所

高架の下や、幅の狭い道

雪の降らない都市部でも縦型を見かけることがあります。多いのは、高架橋や歩道橋の下で高さに余裕がない場所、それと狭隘(きょうあい)な道路です。横に広げる余地がなければ、縦に積むしかありません。

用途を分けたいとき

本線用と側道用のように、近い位置に複数の信号を置いて役割を分けたい場面でも縦型が使われます。形が違えば「自分に向けられた信号はどちらか」を取り違えにくくなるためです。雪対策として生まれた形が、別の目的にも使われているわけです。

LEDになって、雪の問題がぶり返した

信号機の光源が電球からLEDへ替わったことで、雪国では新しい困りごとが生まれました。灯器の表面に貼りついた雪が、いつまでも溶けないのです。

電球の熱が、雪を溶かしていた

白熱電球は暖房でもあった

白熱電球は、消費する電力の大半を熱として捨てています。信号機にとってその熱は無駄でしかありませんでしたが、雪国では話が別でした。灯器が自分の熱で温まり、付着した雪を勝手に溶かしてくれていたからです。誰も設計意図として狙っていなかった副産物が、じつは仕事をしていた形になります。

LEDは冷たいまま光る

LEDは同じ明るさを出すのに必要な電力がはるかに少なく、そのぶん発熱もわずかです。省エネの美点が、雪の前ではそのまま弱点に変わりました。灯器の面が冷たいので雪は溶けずに貼りつき、赤も青も雪の白に覆われてしまいます。信号の色が判別できないまま交差点に入る危険があり、北陸などでは対策が課題として扱われてきました。

溶かす、落とす、貼りつかせない

打つ手は大きく三方向あり、それぞれ得手不得手があります。

やり方しくみ弱点
溶かす庇の内側にヒーターを組み込んで灯器を温める電気を食い、LEDの省エネが相殺される
落とす灯器を斜め下へ傾け、雪を自重で滑らせる吹きつける方向によっては残る
寄せつけない着雪防止フードで覆う/表面を凹凸や撥水で加工する部材が増え、更新に費用がかかる

ヒーターを仕込む

失われた熱を人工的に足す方法があります。庇の内側に薄いシリコンラバーヒーターを組み込み、灯器の面を温めるやり方です。効果ははっきりしていますが、電気を食う分だけLEDにした意味が薄れるという悩みが残ります。

傾ける、覆う

熱を使わない対策もあります。灯器全体を斜め下に向けて取り付け、雪が自重で滑り落ちるようにする方法。もう一つは、お椀のような透明の着雪(ちゃくせつ)防止フードをかぶせ、灯りの面に雪を直接触れさせない方法です。どちらも「溶かす」から「積もらせない」への発想の転換といえます。

いま増えているのは、厚さ6センチの板

雪への答えとして近年広まっているのが、フラット型と呼ばれる薄い信号機です。庇そのものをなくしてしまった、という点でかなり思い切った形をしています。

庇をなくすという解決

厚さ約6センチ、前へ傾けて設置

フラット型の厚みはおよそ6センチ。光源が小さく軽いLEDだからこそ成立した薄さです。庇がないので雪の受け皿ができず、さらに前傾させて取り付けるため、一時的に載った雪もすぐ滑り落ちます。凹凸の少ない板状という見た目は、たしかにスマートフォンを思わせます。

レンズの表面をわざとざらつかせる

面白いのはレンズの作り方です。表面に細かい凹凸をあえて付けることで、雪が食いつく面を減らし、落ちやすくしています。つるつるに磨くより、微細に荒らしたほうが物は貼りつきにくい。水を弾く葉の表面をまねた撥水加工の研究も進められています。

雪国だけの装備ではなくなった

2017年の大阪から全国へ

フラット型は2017年に大阪で導入が始まり、そこから各地へ広がりました。最初の設置場所が雪と縁の薄い大阪だったのは、この形の利点が雪だけではないからです。薄く軽いので台風の強風や地震の揺れにも有利で、正面からの日差しが映り込みにくいという特徴もあります。

雪国では千基単位で

普及が早かったのはやはり雪の多い地域でした。北海道、石川県、秋田県ではそれぞれ千基を超える設置が進んだとされています。縦に並べるという昔ながらの工夫と、庇をなくすという新しい工夫。二つが重なった縦型フラット信号機が、いまの雪国の標準になりつつあります。

世界を見ると、縦型のほうが多数派

ここまで縦型を「雪国の特別な形」として書いてきましたが、視野を世界へ広げると評価がひっくり返ります。アメリカやヨーロッパをはじめ、縦型を標準としている国のほうが多いのです。日本の横型のほうが、じつは世界では少数派にあたります。

日本が横へ倒した理由

横型が日本に広まった理由としては、街路樹や看板が多い日本の道路事情が挙げられます。横に長い形なら信号機を道路の中央へ大きく張り出させることができ、路肩の障害物を越えて遠くからでも見える。歩道橋や標識の下など、高さの限られた場所に収めやすいという事情もあったようです。京都で考案されて全国へ広がったという説も語られますが、確かな一つの起源として断定はできません。

そう考えると、雪国の縦型は「世界標準へ戻った形」ともいえます。日本が独自に横へ倒し、雪の深いところだけが元の姿を保った。そんな見方もできそうです。

信号機の向きは、その土地がどれだけの雪を相手にしてきたかの記録でもあります。縦に並んだ三つの灯りは、庇に積もる雪の重さを何十年も測り続けてきた末の答えです。次に高速道路のトンネルを抜けて日本海側へ出たとき、空にある信号がいつのまにか縦になっていることに気づくかもしれません。その一本の柱が、季節の境界線の目印になっています。

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