フクロウとミミズクを分けているのは、頭の左右に立つ一対の飾り羽だけです。目の色や体の大きさ、鳴き声で分けているわけではありません。この羽が立っていればミミズク、なければフクロウと呼ぶ慣わしで、生物の分類上の境目でもない。しかもその羽は耳ではなく、音を聞く穴は顔の羽の下に隠れています。
羽角があればミミズク、なければフクロウ

耳のように見えるのは羽角という羽の束
ミミズクの「耳」に見える突起は、羽角(うかく)と呼ばれる羽の束です。日本語版ウィキペディアは、ミミズクを羽角がある種の総称と説明し、その「耳」は耳ではなく突き出た羽毛だと書いています。英語でも ear tufts(耳の房)と呼ばれますが、聴覚とは関係がありません。
※ 羽角(うかく)とは、フクロウ類の頭の左右に立つ、耳のように見える一対の羽のことです。耳の穴とはつながっていません。
羽角の長さは種によって大きく違う
同じミミズクでも、羽角の長さはまちまちです。トラフズク(虎斑木菟)はまっすぐ長い羽角を立てます。いっぽうコミミズク(小耳木菟)の羽角はごく短く、野外ではほとんど見分けがつかないほど。「ある・なし」の線引きは、種によってはかなり微妙なものです。
「ミミズク」という分類はある?

ミミズク科もミミズク属もない
生物の分類に「ミミズク科」や「ミミズク属」という枠は存在しません。ミミズクと呼ばれる鳥は、コノハズク属(Otus)やワシミミズク属(Bubo)、トラフズク属(Asio)などに散らばっています。血のつながりで束ねたグループではなく、同じ飾りを持つ鳥に人がまとめて貼ったラベルなのです。
同じワシミミズク属にシロフクロウもいる
分かりやすい例がワシミミズク属です。羽角の長いワシミミズク(Bubo bubo)と同じ属に、シロフクロウ(Bubo scandiacus)が入っています。シロフクロウの羽角は長さ2センチほどの名残で、ふだんは見えません。近い仲間なのに、日本語では片方がミミズク、もう片方がフクロウ。
なおシロフクロウは、かつて独立したシロフクロウ属(Nyctea)に置かれていました。遺伝子の研究でワシミミズク属へ移されましたが、異論を唱える専門家もいます。
日本にフクロウの仲間は何種いる?

フクロウ目は二つの科に分かれる
フクロウ目は、メンフクロウ科(2属18種)とフクロウ科(25属202種)の二つに分かれ、合わせて27属220種です。ミミズクと呼ばれる鳥は、すべてフクロウ科の側にいます。ハート形の顔で知られるメンフクロウには羽角がありません。
日本の種数は数え方で変わる
日本語版ウィキペディアは、日本に生息するフクロウ目を10種ほどとしています。図鑑サイトにはもっと多く並ぶこともあり、エゾフクロウやモミヤマフクロウといった名前が混じります。これらはフクロウの地域ごとの亜種で、種としては同じフクロウ。亜種を別に数えるかどうかで、数が増えたり減ったりするわけです。
日本で見られる主な種と羽角
日本で名前を聞くことの多い種を、英名と羽角の有無で並べると次のようになります。英名に ear(耳)が入る種があるのも目を引くところ。
| 和名 | 英名 | 頭の羽角 |
|---|---|---|
| フクロウ | Ural Owl | なし |
| シマフクロウ | Blakiston’s Fish Owl | あり(横に垂れる) |
| ワシミミズク | Eurasian Eagle-Owl | あり(長い) |
| トラフズク | Long-eared Owl | あり(長い) |
| コミミズク | Short-eared Owl | あり(ごく短い) |
| オオコノハズク | Japanese Scops Owl | あり |
| アオバズク | Northern Boobook | なし |
シマフクロウは羽角があるのに「フクロウ」

羽角が立たずに横へ垂れる
北海道にすむシマフクロウには、はっきりした羽角があります。ただし幅が広くぼさぼさで、まっすぐ立たずに少し横へ垂れる形です。英語版ウィキペディアも、立って見えない羽角をこの鳥の特徴に挙げています。
立っていないので「耳が生えている」ようには見えません。呼び分けの基準が羽角の有無というより「耳に見えるか」だったと考えると、フクロウの側に置かれたことにも筋が通ります。
名前になったのは魚を獲る暮らし
英名の Blakiston’s Fish Owl は、直訳すれば「魚フクロウ」です。環境省によれば主食は魚類で、両生類や小型のほ乳類も食べます。全長66〜69センチ、翼を広げると180センチに達する日本最大のフクロウ。羽角より先に、魚を獲る暮らしのほうが名前に選ばれた鳥といえそうです。
北海道で確認されているのは100つがい
シマフクロウは環境省の第5次レッドリストで絶滅危惧IB類に挙げられています。国内の分布は北海道と北方領土だけ。保護増殖事業の計画を立てた1993年には推定100羽でしたが、2022年度には北海道内で100つがい(200羽)が確認されるまでに増えました。
アオバズクは「ズク」なのに羽角がない

「ズク」はミミズクと同じ古い呼び名
アオバズクの「ズク」は、ミミズクの「ズク」と同じく、フクロウ類の古い呼び名ツク(ヅク)に連なる語です。ところがこの鳥に羽角はなく、頭は丸いまま。日本語版ウィキペディアも、アオバズクの仲間は羽角がないのでミミズクではないとしています。
名前の「青葉」は渡ってくる季節
アオバズクは東南アジアで冬を越し、春に日本へ渡ってきて子育てをする夏鳥です。和名は、青葉が茂る5月ごろに飛来することにちなみます。全長は約29センチと小柄。羽角ではなく、渡ってくる季節が名づけの手がかりになりました。
属もアオバズク属(Ninox)で、コノハズク属やワシミミズク属とは別の枝です。名前の上ではミミズクの一族に見えても、見た目も系統もフクロウ寄りの鳥といえます。
「ミミズク」の「ミミ」は後から付いた?

語源には「耳付く」など複数の説
ミミズクの語源には、いくつもの説が並びます。「耳付く」「耳突く」とする説のほか、ツクを「角毛」の意味とみる説や、鳴き声から来たとみる説も。歴史的仮名遣いでは「ミミヅク」と書きます。
語源由来辞典は、古い名前のツク(ヅク)に特徴の「ミミ」が加わったという順序を、より妥当な説として挙げています。この見方に立てば、耳という要素は言葉にも後から付いたことになる。鳥の側に耳がなかったのと、どこか重なります。
漢字は木菟・角鴟・耳木菟
漢字の書き方も一つではありません。いちばんよく見る「木菟」は熟字訓で、一字ずつ読んでも「みみずく」にはならない書き方です。羽角を木にいるウサギの耳に見立てた字とされます。「角鴟」のほうは、角のある猛禽という見立てをそのまま字にしたものでしょう。
※ 熟字訓(じゅくじくん)とは、漢字二字以上のまとまりに、字ごとの読みとは関係のない訓読みを当てる書き方のことです。「木菟(みみずく)」「土竜(もぐら)」などがあります。
英語には耳の見立ても角の見立てもある
トラフズクの英名は Long-eared Owl、コミミズクは Short-eared Owl です。耳の長短に目をつける点は日本語の「コミミズク」とぴたりと重なり、学名もどちらも Asio 属。いっぽう北米の Great Horned Owl(アメリカワシミミズク)は「大きな角のあるフクロウ」で、漢字の「角鴟」と同じ発想です。同じ突起を、ある名前は耳と呼び、別の名前は角と呼んできました。
羽角は何のためにある?

2025年の研究がフクロウ科184種を調べた
耳でないなら、羽角は何の役に立っているのか。ポーランドの研究者 Surmacki と Minias は2025年、Frontiers in Zoology 誌でこの問いに取り組みました。フクロウ科184種を調べると、羽角を持つのは94種で全体の51.1%。ほぼ半々に分かれていました。
研究チームは羽角の有無や大きさを、活動する時間帯や体の大きさ、獲物の種類と突き合わせています。近い仲間どうしが似てしまう影響を差し引くため、系統の関係を組み込んだ統計を使いました。
夜行性の種ほど羽角が大きい
結果ははっきりしていました。夜に活動する種ほど羽角が大きく、体の大きい種でも羽角は大きくなる傾向です。鳥を獲物にする種では、体に比べて目立つ羽角が見られました。
獲得は約1回、消失は約9回
進化の道筋の推定も興味深い数字です。祖先は羽角を持っていなかったと判定され、獲得はおよそ1.28回、消失はおよそ9.27回と算出されました。フクロウ科の早い段階で一度だけ手に入れ、その後あちこちの系統で別々に失っていった、という筋書きになります。
有力なのは昼の休息中のカモフラージュ説

輪郭を崩して枝や樹皮に見せる
夜に狩るフクロウは、昼のあいだ木にとまって休みます。そのとき怖いのは、目で獲物を探す捕食者です。頭に角のような突起があると丸い輪郭が崩れ、折れた枝や樹皮にまぎれやすくなる。研究者たちは、昼の休息中に身を隠すことが羽角のいちばんの役目だろうと結論づけました。
威嚇や仲間の見分けの説も残る
これで全部が説明できたわけではありません。同じ論文も、羽角を急に立てて相手を驚かせる働きや、小鳥に集団で騒がれる「モビング」を防ぐ働きはなお考えられるとしています。場面によって役目が変わる、複数の機能を持つ飾りなのかもしれません。
※ モビングとは、小鳥などが捕食者を見つけたときに集団で近づき、鳴き騒いで追い立てる行動のことです。昼に休んでいるフクロウはよくこの標的になります。
羽角の役目として挙がってきた説を並べると、次のとおりです。
| 説 | 中身 | 2025年の研究での扱い |
|---|---|---|
| カモフラージュ説 | 昼の休息中に輪郭を崩し、枝や樹皮に見せる | 主な機能として支持 |
| 威嚇説 | 急に立てて相手を驚かせる | なお成り立ちうる |
| モビング対策説 | 小鳥に見つかって騒がれるのを防ぐ | なお成り立ちうる |
本物の耳はどこにある?

耳の穴は顔の羽に隠れた頭の横
本物の耳の穴は頭のてっぺんではなく、頭の横、顔の羽をかき分けた先に開いています。羽角の生えぎわとは離れた位置です。羽角の高さや向きは、音の聞こえ方とは直接には関係しません。
顔盤がパラボラのように音を集める
フクロウ類の顔には、目を囲んで羽が並ぶ顔盤(がんばん)という部分があります。くぼんだ皿のような面が音を受け止め、耳の穴へ導く。パラボラアンテナにたとえられる仕組みで、羽角が耳でないぶん、集音は顔全体で受け持っているのです。
※ 顔盤(がんばん)とは、フクロウ類の顔面にある、目を囲むように羽毛が並んだ円盤状の部分のことです。音を集める役割があると考えられています。
左右の耳の穴がずれている
フクロウの左右の耳の穴は、高さや奥行きがずれた位置にあります。音が左右の耳に届く時間の差はおよそ30マイクロ秒ほどのわずかなもの。こうした左右の差を手がかりに、音の来る方向を上下左右から立体的に割り出します。暗がりで姿の見えない獲物を、音だけで捕らえられるのはこのためです。
首が270度回るのは目が動かないから

筒形の目は眼窩に固定されている
フクロウ類の目は球形ではなく筒に近い形で、骨の筒に固定されています。人間のように瞳だけを動かして横を見ることはできません。視線を変えるには、頭ごと回すしかないのです。
首の骨は人間の2倍の14個
人間の首の骨(頸椎)が7個なのに対し、フクロウは14個あります。関節が倍あるぶん小さな回転を積み重ね、左右それぞれ270度ほどまで回せる。真後ろのさらに先まで見えている計算です。
2013年に分かった血管の仕掛け
首をそこまでひねれば、脳へ向かう血管がねじ切れそうなものです。ジョンズ・ホプキンス大学の Fabian de Kok-Mercado らは、2013年に血管の画像解析でこの謎に答えを出しました。見つかった工夫は次のようなものです。
- 首の骨の血管が通る穴が、動脈の直径のおよそ10倍もある
- 椎骨動脈が首に入る位置が、ほかの鳥より高い(12番目の頸椎)
- 頸動脈と椎骨動脈が細い血管でつながり、片方が詰まっても血が流れる
- 頭の付け根で動脈がふくらみ、血をためておける
フクロウとミミズクを分ける線は、飾り羽を耳と見立てた人間が引いたものでした。ところが2025年の研究によれば、羽角を持つ種ほど夜に生き、昼のあいだ身を隠す必要が強いらしい。耳の勘違いから生まれた呼び名が、結果として「夜に生きる度合い」をおおまかに言い当てていたことになります。シマフクロウやアオバズクのように、はみ出す名前もあるとはいえ。見当違いの物差しが思わぬところで当たる。名前には、ときどきそんなことが起こります。
参考
- Frontiers in Zoology「Evolutionary history reveals information on the functionality of ear tufts in owls (family: Strigidae)」2025年
- 環境省「シマフクロウ」
- Johns Hopkins Medicine「Owl mystery unravelled: Scientists explain how bird can rotate its head without cutting off blood」2013年
- 語源由来辞典「ミミズク」
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