A4やB5の紙は、縦と横の比がどれも1対√2(約1.414)に決められています。この比の長方形は、長い辺の真ん中で半分に折っても同じ比に戻るのが特徴です。そのうえでA判はいちばん大きいA0を面積1平方メートル、日本のB判はB0を1.5平方メートルと定め、そこから寸法を割り出しました。A4が210×297mm、B5が182×257mmという半端な数字になるのはこのためです。
半分に折っても形が変わらないのはなぜ?

1対√2なら折っても同じ比に戻る
短い辺を1、長い辺を√2とした紙を考えます。長い辺の真ん中で折ると、新しい紙の短い辺は√2の半分(約0.707)、長い辺はもとの短い辺の1になります。0.707対1を整えると、ふたたび1対1.414。何度折っても形がくずれない長方形は、この比のものしかありません。
正方形を折ると細長くなる
ほかの比と比べると、違いがよく分かります。正方形(1対1)を半分に折れば、1対2の細長い長方形です。それをもう一度折ると、今度は正方形に戻ってしまう。1対1.5の紙でも、折るたびに縦長と横長に近い形を行ったり来たりします。サイズ違いの紙を同じ形の仲間としてそろえるには、1対√2がどうしても必要でした。
白銀比と呼ばれる比
1対√2は「白銀比(はくぎんひ)」とも呼ばれ、日本では「大和比(やまとひ)」の名でも紹介されます。よく比べられる黄金比は約1対1.618で、白銀比よりやや横長です。ただし数学で黄金比の仲間をまとめた「貴金属比」の考え方では、白銀比を1対(1+√2)とする定義もあります。紙の話で白銀比といえば、ふつうは1対√2のほうです。
A4はなぜ210×297mmになる?

A0は面積1平方メートル
比だけでは大きさが決まらないため、A判ではいちばん大きいA0の面積を1平方メートルと決めました。縦横比が1対√2で面積が1平方メートルという二つの条件を満たすのが、841×1189mmです。掛け合わせると0.99995平方メートルで、ほぼぴったり1になります。
4回折るとA4、面積は16分の1
A0を半分にしたものがA1、その半分がA2という具合に、番号が一つ増えるたびに面積は半分になります。A4はA0を4回折った大きさで、面積は16分の1平方メートル(約0.062平方メートル)。数字が大きいほど紙が小さくなるのは、この半分ずつの決め方から来ています。
ミリ単位にそろえた半端な数字
210や297がきりの悪い数字に見えるのは、√2という割り切れない数をミリ単位にそろえた結果です。297を210で割ると約1.414で、ちゃんと√2になっています。ちなみにA4の短い辺210mmは、一つ上のA3の短い辺297mmのほぼ√2分の1。どのサイズも同じ規則でつながっています。
コピー機の「141%」「71%」の正体

A4からA3へは√2倍
コピー機の倍率ボタンに並ぶ141%は、A4をA3に広げるときの√2倍です。反対にA3をA4へ縮める71%は、√2分の1(約0.707)にあたります。紙の比がすべて同じなので、倍率を掛けるだけで余白も見切れも出ずに収まる。中途半端に見えるボタンの数字は、紙の比をそのまま写したものでした。
A判とB判をまたぐと115%や86%
日本のコピー機には、A判とB判を行き来する倍率も並んでいます。寸法から割り算してみると、ボタンの数字とぴたりと合うはずです。
| 変える向き | 計算 | 倍率 |
|---|---|---|
| B5→A4 | 210÷182 | 約115% |
| A4→B5 | 182÷210 | 約86% |
| A4→B4 | 257÷210 | 約122% |
| B4→A4 | 210÷257 | 約81% |
A判とB判の比が同じだからこそ、どの組み合わせでも倍率一つで形を保ったまま移し替えられるのです。
北米のレターサイズは比がそろわない
アメリカやカナダで使われるレターサイズ(216×279mm)は、この体系の外にあります。ケンブリッジ大学の研究者マーカス・クーン氏の解説によると、北米の用紙は縦横比が一定でありません。そのためサイズを変えて拡大や縮小をすると、どうしても余白が残ってしまいます。
A判は1922年のドイツ規格から

1786年、リヒテンベルクの手紙
√2の比の便利さを書き残した最も古い記録は、1786年10月25日付の一通の手紙だとされています。差出人はゲッティンゲン大学の物理学教授ゲオルク・クリストフ・リヒテンベルク。経済学者ヨハン・ベックマンにあてて、この比の紙の利点を説明しました。ただ当時は思いつきの域を出ず、規格になることはありませんでした。
ポルストマンがDIN 476にまとめる
この比を用紙の体系に仕立てたのが、ドイツの技術者ヴァルター・ポルストマンです。A・B・Cの三つの系列を考え出し、1922年にドイツ規格「DIN 476」として採用されました。リヒテンベルクの手紙からおよそ136年後のことです。
※ DINとは、ドイツ規格協会が定めるドイツの工業規格のことです。
1975年にISO 216として世界へ
DIN 476はベルギー(1924年)やオランダ(1925年)など近くの国から広がりました。イギリスは1959年、フランスは1967年に採用しています。1975年には国際規格「ISO 216」となり、同じ年に国連の文書の書式にもなりました。いまでは北米を除くほとんどの国がA判を使っています。
※ ISO(国際標準化機構)とは、世界共通の規格づくりを進める国際機関のことです。
日本のB判は世界のB判とどう違う?

B0は1.5平方メートル
日本のB判はJISの規格で、B0の面積を1.5平方メートルと決めています。A0(1平方メートル)とその倍の大きさ(2平方メートル)のちょうど真ん中です。一方、国際規格のB判は両者の掛け算の平方根をとっていて、B0は約1.41平方メートル。同じB判でも、真ん中の取り方が違うわけです。
※ JIS(日本産業規格)とは、日本の製品や材料などについて国が定めた規格のことです。
JISのB5とISOのB5は6mm以上違う
その結果、日本のB5は182×257mm、国際規格のB5は176×250mmになりました。短い辺で6mm、長い辺で7mmの差です。海外で買ったB5のノートが、日本のバインダーやファイルにわずかに合わないことがあるのはこのためです。
江戸の美濃判から来た大きさ
日本のB判が独自の大きさになったのは、江戸時代の公用紙だった美濃紙(みのがみ)の判型「美濃判」に由来するとされています。美濃判は9寸×1尺3寸、メートルに直すと約27×39cmです。明治に入ってからも、全国の紙の標準寸法はこの美濃判でした。B4(257×364mm)は、それよりひと回り小さい大きさにあたります。
1929年に規格となり、戦後JISへ
日本でA列とB列が決まったのは1929(昭和4)年で、当時の日本標準規格(JES)によるものでした。A列は当時のドイツ規格をそのまま取り入れ、B列には美濃判に近い日本独自の寸法を当てています。この規格は戦後に少し手直しされてJISに引き継がれました。海外の資料で日本の採用年が1951年とされるのは、このJIS化の年を指しています。
役所の書類はいつA4になった?

1993年までは役所の紙はB判
いまでは当たり前のA4の書類も、役所で使われるようになったのは平成に入ってからです。それまでは役所の用紙はB列が中心で、通知や申請書はB5、帳簿や表はB4が定番でした。学校のノートや教科書にB5が多かったのも、この時代の名残と考えられます。
平成5年の実施方針でA4へ
きっかけは、1992年6月の臨時行政改革推進審議会の答申でした。行政文書をできるだけ早くA判にそろえるよう求め、政府も同じ月の閣議決定でこれに沿って進めると決めます。厚生省は1993年1月に実施方針を出し、会議資料などは同年4月から、そのほかの文書は翌1994年4月からA判にすると定めました。
方針が挙げたねらいは、文書の管理を楽にすることと、書類を出す民間の手間を減らすことです。表彰状や地図、はがき大の通知書のように、A4にしにくいものは例外として残されました。
裁判所の書類は2001年から
裁判所はさらに遅れました。古い民事訴訟規則には、訴訟の書類はできる限りB4の二つ折りかB5を使うという定めがあったほどです。最高裁判所事務総局が弁護士会などに協力を求め、裁判の書類がA4の横書きに切り替わったのは2001年1月1日からでした。厚生省の方針でも、裁判所の様式で出す書類は「当面A判化が困難なもの」に数えられています。
封筒のC判と、建物にひそむ√2

C4の封筒にA4が折らずに入る
ポルストマンが考えたもう一つの系列がC判で、おもに封筒に使われます。C判は同じ番号のA判とB判の中間の大きさです。たとえばC4の封筒(229×324mm)には折らないA4の書類がすっぽり入り、そのC4の封筒は国際規格のB4の封筒(250×353mm)に収まります。紙と封筒が入れ子になるよう、最初から設計されていたのです。
法隆寺の五重塔にも√2がある?
白銀比は日本の古い建物にも見られるといわれ、よく例に出されるのが法隆寺(ほうりゅうじ)の五重塔です。いちばん上といちばん下の屋根の幅の比が、1対√2に近いと紹介されることがあります。ただし塔のような立体は、図面で測るか目で見た形で測るかで比が大きく変わります。白銀比が意図して使われたのかどうかは、言い切れないところです。
A4の紙一枚には、18世紀の物理学者の手紙・江戸の和紙の寸法・平成の役所の決定が重なっています。半分に折っても形が変わらないのは、その長い歴史を通じて√2という一つの比だけが守られてきたからでした。
参考
- Markus Kuhn「International standard paper sizes」
- 厚生労働省 法令等データベース「行政文書の用紙規格のA判化に係る実施方針について」(平成5年)
- 武蔵野美術大学 造形ファイル「B列用紙サイズ」
- 富士フイルムビジネスイノベーション「共通の決め事 ~サイズ~」
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