恵方巻きの方角は毎年どうやって決まるのか

文化と価値観の話
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節分が近づくと、恵方巻きのパッケージに「今年の恵方は南南東」と刷り込まれます。毎年ちがう方角が指定されるので、誰かがその都度決めているように見えるかもしれません。ところが恵方は、じつは昔から4つの方角をぐるぐる回っているだけです。しかも、どの方角になるかは西暦の下1桁さえ分かれば自分でも言い当てられます。

この記事では、方角を決めているしくみ・4つしか出てこない理由・「やや東」といった半端の正体・そもそも恵方とは何かまで、順番にほどいていきます。

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恵方は暦が決める「4方向の当番制」

細かい理由に入る前に、まずは方角の“当番表”を見てしまうのが早道です。恵方は東北東・西南西・南南東・北北西の4方向しかなく、その年の十干(じっかん)に応じて割り当てられます。十干は西暦の下1桁と対応しているので、下の表で一発です。

西暦の下1桁十干恵方
4・9甲・己東北東(やや東)
5・0乙・庚西南西(やや西)
6・8・1・3丙・戊・辛・癸南南東(やや南)
2・7壬・丁北北西(やや北)

決めているのは「その年の十干」

十干とは、年を10日ひとまわりで数える古い符号

恵方を回している正体は、暦につく「十干」という符号です。甲・乙・丙・丁と順に並ぶこの10文字が、干支(えと)の“十二支ではないほう”にあたります。年にも一つずつ割り当てられ、ちょうど10年でひとめぐり。

十干(じっかん)とは、甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸の10種類からなる古代中国由来の符号です。契約書の「甲・乙」や、成績の「甲乙丙丁」もこの並びから来ています。

西暦の下1桁を見れば十干が分かる

十干は西暦とぴたりと連動しています。下1桁が4なら甲、5なら乙と順に進み、下1桁3の癸でひとまわり。つまりカレンダーの西暦を見るだけで、その年の恵方まで芋づる式にたどれます。神社の発表を待つことも、占ってもらうことも要りません。

直近の恵方を並べてみる

2024〜2030年はこの順で回る

実際に何年がどの方角になるかを並べると、当番表がぐるりと回っている様子がよく分かります。

下1桁恵方
2024年4東北東
2025年5西南西
2026年6南南東
2027年7北北西
2028年8南南東
2029年9東北東
2030年0西南西

南南東だけ「連番」で出てくる

表をよく見ると、2026年と2028年のように南南東が近い間隔で二度顔を出します。じつは10年のうち南南東は4回もめぐってくる“皆勤賞ぎみ”の方角で、ほかの3方向はそれぞれ2回ずつです。この偏りには理由があり、次の章につながります。

なぜ4方向しかないのか

十干は10種類あるのに、恵方は4方向しか出てきません。10のうち「方角を持てる」ものが4つだけ、というのがそのからくりです。背景にあるのは、東洋の自然観である陰陽五行(いんようごぎょう)の考え方です。

十干を五行に並べると「土」は中央になる

戊・己には方角が与えられない

五行では、万物を木・火・土・金・水の5つに分けます。これを方角に置くと、木は東・火は南・金は西・水は北と四方に収まります。ところが土だけは「中央」の担当とされ、東西南北のどこにも置かれません。十干のうち土にあたる戊(つちのえ)・己(つちのと)が方角を持たないのは、このためです。

方角を持つのは陽の甲・丙・庚・壬

十干はさらに、それぞれ陰と陽(兄と弟)に分かれます。方位として立つのは陽(兄)の側で、木の甲・火の丙・金の庚・水の壬の4つです。この4つがそのまま東北東・南南東・西南西・北北西に対応し、恵方の“定位置”になります。10あるように見えて、方角の椅子は最初から4つしか用意されていないわけです。

残りの年は4つの席に振り分ける

陰の十干や土の年は近い方位へ相乗り

では椅子を持たない年はどうするのか。乙・丁・己・辛・癸といった年や、中央担当の戊も、五行の相性でこの4方位のどれかに割り振られます。たとえば己の年は甲と同じ東北東、戊の年は丙と同じ南南東へ、というふうに“相乗り”するかたちです。こうして10通りの年すべてが、4つの方角のいずれかに収まります。

南南東の席にいちばん多く集まる

振り分けの結果、南南東(丙の方位)には丙・戊・辛・癸という4つの年が集まります。ほかの方位が2つずつなのに対し、ここだけ倍の人数が同居しているわけです。「近ごろ南南東ばかりな気がする」という感覚は、気のせいではなく席の割り当ての偏りだった、というのが答えになります。

「東北東やや東」の“やや”とは何か

恵方巻きの説明でよく見る「南南東やや南」「東北東やや東」の“やや”。あれは書き手の気分でぼかしているのではなく、もともとの方角が16方位にきれいに乗っていないことから来ています。

恵方は二十四方位で決まっている

甲は真北から約75度の位置

恵方のもとになる十干の方位は、円を24等分した「二十四方位」で定められています。たとえば甲は、真北を0度として時計回りに約75度の地点です。ふだん耳にする16方位では、東北東がちょうど67.5度の位置。75度はそこから少しだけ東へずれているので、「東北東やや東」と半端な言い方になります。

方位磁石やアプリは16方位に丸めている

市販の方位磁石やスマホのコンパスは、たいてい東・東北東のような16方位で目盛りが振られています。二十四方位の半端な角度をそこへ当てはめる際に、いちばん近い方位へ寄せて「やや東」と補足する、という仕組みです。厳密に向きたいなら、方位磁石より角度(方位角)で合わせるほうが正確といえます。

方位角で見る4つの恵方

角度に直すとズレが見える

4つの恵方を方位角(真北0度・時計回り)に直してみましょう。16方位の代表値との、わずかな差が浮かびます。

恵方(俗称)十干方位角の目安
東北東やや東約75度
南南東やや南約165度
西南西やや西約255度
北北西やや北約345度

4つの角度は、どれも90度ずつきれいに離れています。恵方が東西南北の“ちょうど間”をあえて突くように置かれているのが、数字にも表れているわけです。

そもそも「恵方」とは何なのか

方角の決め方が分かったところで、そもそもなぜその方向がめでたいのか、という土台にも触れておきます。恵方は「その年の縁起のいい方角」で、そこには一柱の神様がいると考えられてきました。

歳徳神がいる方角

その年の福徳をつかさどる神

恵方とは、歳徳神(としとくじん)がその年に滞在するとされる方角のことです。歳徳神は一年の福徳を運ぶ神とされ、その神がいる方向で物事を始めると縁起がよい、と考えられました。神様が毎年“引っ越す”ので、めでたい方角も年ごとに変わる、という理屈です。

歳徳神(としとくじん)とは、その年の福徳をつかさどるとされる神です。「とんど様」などとも呼ばれ、正月に迎える年神(としがみ)と同じ神とみなされることもあります。

昔は「恵方参り」に使っていた

恵方はもともと、恵方巻き専用の方角ではありません。かつては元日にその年の恵方にある社寺へお参りする「恵方参り(恵方詣り)」の習わしがあり、初詣の原型の一つとされています。ほかにも旅立ちや商いの吉方として、生活のさまざまな“始まり”に恵方が参照されていました。

恵方巻きは意外と新しい風習

方角の背景まで来たので、その方角を向いて食べる恵方巻きそのものにも触れておきます。長い歴史のある行事に見えて、全国区になったのは案外つい最近のことです。

関西のローカルな習わしだった

方角を向いて太巻きをまるかじりする風習そのものは、もともと大阪を中心とした関西のローカルな習慣でした。大正のはじめごろから家庭にあったとされ、昭和には大阪の寿司業界や海苔業界が販促として後押しした記録も残っています。花街(かがい)の遊びから広まった、といった説も語られますが、はっきりした起源は分かっていません。

全国区にしたのはコンビニ

この習慣を全国へ広げたのは、コンビニエンスストアでした。1989年に広島のセブン-イレブンが売り出したのが早い例とされ、1998年ごろの全国展開を境に一気に定着します。「恵方巻」という呼び名が広く使われだしたのも、このころです。恵方を向いて無言で丸かじりし、願い事をする作法。その由来には諸説あり、定説はまだ定まっていません。

毎年のように「今年はどっち」と調べ直す恵方も、じつは誰かがその年に決めているわけではありません。方角は千年以上前から同じ順番で回りつづけていて、暦さえ開けば来年も再来年も先回りして分かってしまいます。くるくる変わって見えたのは、私たちが当番表を覚えていなかっただけのこと。種を明かせば恵方は案外きまじめで、決められた順路をきちんと守りながら、毎年ひとつずつ席を移してやってくる方角なのです。

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