「emoji」が世界でそのまま通じるのは、日本の携帯電話で生まれた絵文字が国際的な文字の規格の土台になり、英語が日本語の呼び名ごと借りたからです。語の中身は「絵(e)」と「文字(moji)」で、英語の emotion(感情)に似ているのは偶然とされています。1997年の携帯電話から始まり、2010年にUnicodeへ入り、いまでは3,972字まで増えた26年の流れをたどります。
「emoji」は日本語の「絵」と「文字」

訳されずに音ごと借りられた語
英語の emoji は、picture character のような訳語を当てたものではありません。日本語の「絵文字」をローマ字にして、そのまま使っています。tsunami や karaoke と同じく、物と一緒に名前も輸出された語です。
訳されなかった理由のひとつは、物そのものが日本から来たことにあります。英語圏の人が初めて触れた絵文字は、日本の携帯電話向けに作られた一式でした。名前を付け直すより先に、元の呼び名が広まっていったわけです。
emotion に似ているのは偶然
emoji の「e」は「絵」、「moji」は「文字」です。英語の emotion(感情)や emoticon と綴りが似ていますが、語源のうえでは無関係で、似ているのは偶然とされています。とはいえ、気持ちを伝える記号が「emo」で始まるのは、英語話者にはいかにもそれらしく聞こえます。この空似が、覚えやすさを後押しした面はありそうです。
顔文字(emoticon)は別の系統
emoticon は emotion と icon を合わせた英語で、:-) のように既存の記号を並べて顔に見せる表現を指します。手持ちの文字を組み合わせる発想です。絵文字のほうは、はじめから一文字ぶんの新しい字として作られました。見た目は似ていても、成り立ちはまったく別です。
2015年の「今年の言葉」は😂
2015年、オックスフォード辞書が選ぶ「今年の言葉」に選ばれたのは、😂(Face with Tears of Joy=うれし泣きの顔)でした。アルファベットで綴る語ではなく、絵文字そのものが選ばれています。
日本の携帯電話のための記号が、英語圏でその年を代表する「言葉」として扱われました。emoji という呼び名が定着していたからこそ起きた出来事です。
最初の絵文字はどの携帯に載った?

1997年、J-PHONEの端末に90字
携帯電話に絵文字を最初に載せたのは、ドコモではありません。1997年11月に発売されたJ-PHONE(のちのソフトバンク)の「DP-211SW」には、メールで使える独自の絵文字が90種類入っていました。端末を作ったのはパイオニアです。
中身は数字・スポーツ・時刻・月の満ち欠け・天気など。どれも12×12ドットの白黒でした。気持ちを表す顔よりも、状況を短く伝える記号が目立つ顔ぶれです。
💩の祖先は1997年にいた
この90字には、のちに世界中で使われる「うんち」の絵文字の原型も含まれていたとされます。絵文字の事典サイト Emojipedia は、💩はこの端末が起源とみられると書いています。
この一式が「最初の絵文字」として広く知られるようになったのは、意外に最近のことです。Emojipedia が2019年3月に、元祖をドコモとしてきたそれまでの記述を改めました。手がかりになったのは、残っていた紙の取扱説明書です。
1999年、ドコモの176字
1999年2月、NTTドコモの「iモード」が176字の絵文字とともに始まりました。J-PHONEより2年あとですが、iモードの利用者の多さもあって、長く「元祖」として語られてきたのはこちらです。
J-PHONEの90字が白黒だったのに対し、ドコモの176字は色付きでした。ただし1つの絵に使える色は1色だけ。ハートなら赤一色、という具合に塗り分けられています。
ドコモの176字はどう生まれた?

ポケベルのハートマークが原点
176字をまとめたのは、iモードの立ち上げに加わった栗田穣崇(くりた しげたか)さんです。栗田さんが文字の中の記号を意識したきっかけは、ドコモの若者向けポケットベルに入っていたハートマークだったとされています。
ポケベルで送れるのは、ごく短い文字列だけでした。その中でハートひとつが付くかどうかで、同じ文の受け取られ方が変わります。そのハートは、176字の中にも赤い色で残りました。
12×12のマス目に収めた絵
176字はどれも、縦横12ドットのマス目の中に描かれています。合わせて144個の点しかないので、細かい描き分けはできません。伝わる形だけを残す作業は、絵を描くというより字を彫る仕事に近いものでした。
「わかった」と「わかった♥」は、書いてある内容は同じでも印象がかなり違います。短い文ほど、そっけなさが誤解を生みやすいもの。絵文字は文字数を節約する道具というより、この温度差を埋める道具として育っていきました。
天気やサービス案内の記号も
初代の176字には、表情だけでなく太陽・雲・傘といった天気の記号もそろっていました。狭い画面で天気を伝えるには、文字を並べるより絵ひとつのほうが早く読めます。
電話の小さな画面で、天気・気持ち・案内をまとめて伝える。初代の絵文字は、遊び道具というより実用の部品として組まれていました。
2016年、ニューヨーク近代美術館へ
2016年、ニューヨーク近代美術館(MoMA)がドコモの176字を所蔵品に加えました。館内では「Inbox: The Original Emoji, by Shigetaka Kurita」と題した展示も行われています。
携帯電話の仕様の一部が、そのままデザインの名品として美術館に入ったことになります。のちには、デザインの転換点をたどる同館の企画展「Pirouette」にも並びました。
会社が違うと絵文字が届かなかった

3社がそれぞれ別の絵文字を持っていた
ドコモ・au・J-PHONE(のちのボーダフォン、ソフトバンク)は、それぞれ独自の絵文字を持っていました。見た目も番号も会社ごとに別なので、絵文字入りのメールは基本的に同じ会社の端末どうしでしか使えません。
他社の相手に送ると、絵文字の部分が消えたり、別の記号に化けたりすることがありました。友だちの携帯会社を気にしながらメールを書いた記憶のある人もいるはずです。
他社宛ての変換は2005〜2006年から
他社宛ての絵文字を変換して届ける仕組みを最初に始めたのはソフトバンク(当時ボーダフォン)で、2005年11月1日です。ドコモは2006年7月12日、auは2006年9月5日に続きました。
ドコモの絵文字が始まってから、すでに6年以上が経っていました。それだけ長く、国内でさえ絵文字は「通じる相手を選ぶ文字」だったことになります。
変換されても別の絵になった
変換は、相手の会社の絵文字の中から意味の近い絵を選んで置き換える仕組みです。手元で選んだ絵と、相手の画面に出る絵が一致するとは限りませんでした。
文字として作られたのに、送った字がそのまま届かない。この食い違いを根本から解くには、会社ごとの対応表ではなく、世界共通の番号が必要でした。
なぜ日本の絵文字が世界標準になったのか?

2007年、GoogleとAppleが提案
日本の絵文字を世界の規格に入れようと動いたのは、海外の企業でした。2007年8月、Googleの技術者たちが文字コードの規格を決める委員会への働きかけを始めます。同年10月には、3社の絵文字をUnicodeに収める提案がGoogleとAppleの共同で出されました。
※ Unicode(ユニコード)とは、世界中の文字に共通の番号を割り当てる規格です。機種や国が違っても同じ番号が同じ文字を指すため、絵文字もここに入って初めて「どの端末でも同じ字として届く」状態になりました。
emoji4unicode で3社の表を突き合わせた
2008年には「emoji4unicode」という公開のプロジェクトが始まりました。ドコモ・au・ソフトバンクの絵文字を一字ずつ見比べ、同じ意味のものをまとめて共通の番号へ対応づけていく作業です。
Googleにとっては、日本の携帯電話とメールをやりとりする利用者のための実務でした。国内の会社どうしの食い違いを片づける表づくりが、そのまま世界の規格づくりになっていきます。
2010年、Unicode 6.0に722字
米国・欧州・日本の関係者の意見をすり合わせた結果、722字が標準の一式として合意されました。これが2010年10月のUnicode 6.0に収められます。
この722字の土台は、日本の3社が使っていた絵文字の集合です。だから世界の絵文字の初期値には、日本の暮らしがそのまま入りました。呼び名まで日本語のまま広まったのは、自然な成り行きだったといえます。
iPhoneとGmailから世界の画面へ

2008年のiPhoneは日本向けだけ
Appleは2008年、iPhone OS 2.2で絵文字キーボードを載せました。ただしこれは日本向けの機能で、ソフトバンクからiPhoneを売り出した日本市場のためのものです。日本以外の利用者は、通常の設定では使えませんでした。このころのiPhoneの絵文字は、ソフトバンクが独自に使っていた番号の領域に置かれていました。規格に入る前の、つなぎの実装です。
Gmailはauと組んで2008年10月
同じ2008年の10月、GoogleはGmailに絵文字を取り入れました。KDDIのauとの協力によるもので、日本の携帯電話とパソコンのメールのあいだで絵文字をやりとりできるようにする狙いがありました。
世界に配られる前に、まず日本の利用者のための実装が置かれた形です。海外の大企業が、日本の携帯電話の文化に合わせて動いていたことになります。
2011年、iOS 5で日本の外へ
絵文字キーボードが日本の外でも公式に使えるようになったのは、2011年のiOS 5からです。Unicode 6.0で規格ができた翌年で、規格が先に整い、それを載せた端末が世界に配られた順番になります。
ここから先の広がりは、日本の通信会社の手を離れていきます。英語圏の人にとって、emoji は最初から「iPhoneのキーボードにある日本語の名前の字」として現れました。
日本の暮らしがそのまま残った絵文字

由来を知らないと読めない絵
初期の722字は日本の携帯絵文字が土台だったため、日本でしか意味の通らない絵もそのまま世界に配られました。いまもキーボードに残る代表的なものを並べます。
| 絵文字 | 日本での意味 | 由来 |
|---|---|---|
| 🔰 | 初心者マーク(若葉マーク) | 運転免許を取って1年間、車に付ける標識 |
| 💮 | 花丸 | 先生が答案に付ける「たいへんよくできました」の印 |
| 🈚 | 無料 | 「無」の一字で「無料」を表す、携帯電話生まれの記号 |
| 🍥 | なると | ラーメンなどに載る渦巻きの練り物 |
| 🎎 | ひな人形 | 3月3日のひな祭りの飾り |
🔰は海外でスポーツチームの色に
🔰は日本の道路交通のきまりから来た形で、イギリスの「L」プレートのような役割の標識です。けれども事情を知らない人には、黄色と緑の盾にしか見えません。
Emojipedia によれば、海外では黄色と緑をチームカラーにするスポーツチームの応援に使われることがあります。イングランドのノリッジ・シティや、アメフトのグリーンベイ・パッカーズがその例です。
💮は海外でお祝いの花に
💮のほうは、Appleなどのデザインでは花の中に「よくできました」の文字が入っています。日本の先生が答案に付ける印がそのまま字になったものです。
ところが日本の外では、バレンタインデーや母の日などのお祝いに添える花として使われることが多いといいます。答案の印という出どころは抜け落ち、きれいな花としての意味が育ちました。同じ字でも、読まれ方は土地ごとに違います。
新しい絵文字はどう決まる?

2026年の受付は4月2日〜7月31日
いま絵文字を増やしているのは、世界中から届く提案書です。Unicodeコンソーシアムの案内によると、2026年の受付は4月2日に始まり7月31日に締め切られました。次の受付は2027年に再開する予定です。
受付期間は年によって変わり、決まった日付があるわけではありません。提案書はPDFにまとめ、専用のフォームから出します。2026年の提案者には、11月30日までに結果が知らされることになっています。
「使われそうだ」を数字で示す
提案書には、どれくらい使われそうかを示す資料が欠かせません。Google検索やGoogleトレンドの画面を添え、トレンドでは比べる相手として「elephant(ゾウ)」の検索数を並べるよう求められています。
署名運動やSNSのハッシュタグ、身の回りの体験談は根拠として認められません。「あったら便利そう」では通らず、すでに人が求めている記号を後から追認する手続きに近いといえます。
最新版で3,972字
審査で見られるのは、ほかの意味にも使えるかや既存の絵文字と区別がつくかという点。逆に、細かすぎるもの・一時の流行で終わりそうなものは外される決まりです。
こうして積み重なった結果、Unicodeの集計では最新のEmoji 18.0で絵文字は3,972字になりました。1999年の176字と比べると、20倍を超えています。
元祖のドコモ絵文字は2025年に退いた

2025年6月下旬以降の新機種から終了
ドコモは2025年5月21日、ドコモ絵文字の提供を終えると案内しました。対象は2025年6月下旬以降に発売するAndroid端末とケータイで、Galaxyは7月以降の機種からです。2025年8月発売の「らくらくホン F-41F」は例外として引き続き使えます。
置き換わった先は、GalaxyではSamsungの絵文字、それ以外ではGoogleの「Noto Color Emoji」です。日本の通信会社の絵文字が、世界の規格に沿って作られた字体に入れ替わりました。
古い機種もAndroid 17で使えなくなる
この案内は2026年9月30日に更新されました。それより前に出た機種でも、一部はAndroid 17へ更新するとドコモ絵文字が使えなくなります。Android 16以前のままなら、使い続けることは可能です。
Galaxyの一部の旧機種は、2025年10月からのソフトウェア更新で順に対象になりました。保存してあるメールなどのドコモ絵文字は、機種ごとの置き換え先の絵文字に変換されて表示されます。
消えたのは一社の絵柄だけ
終わったのは「ドコモが描いた絵柄」であって、絵文字という仕組みではありません。同じ番号の字は、別の会社の絵柄でいまも表示されます。1999年の176字は役目を終えましたが、そこから育った規格は世界中の端末に入ったまま。元祖が退いたあとも、その名前だけは日本語のまま使われ続けています。
いまキーボードを開けば、🔰も💮も🍥も並んでいます。日本の免許制度、学校の花丸、ラーメンの具。使っている人の大半は出どころを知らず、それでも通じています。emoji という呼び名も同じで、「絵」と「文字」という意味を知らないまま、世界中の人が毎日口にしています。
参考
- Unicode Consortium「Submitting Emoji Proposals」
- Unicode Consortium「Emoji Counts」
- NTTドコモ「ドコモ絵文字の提供終了について」
- Emojipedia「Correcting the Record on the First Emoji Set」
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