絵文字はなぜ世界で「emoji」と呼ばれるのか

モノと道具の話
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「絵文字」は、英語に訳されないまま emoji として世界語になった日本語です。picture character のような訳語が当てられたのではなく、日本語の音がそのまま借りられました。

1999年に176字で始まったその一組は、いまUnicodeの規格で3,953字まで増えています。ところが元祖とされるドコモの絵文字のほうは、2025年に新しい機種から姿を消しました。

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176字から3,953字まで、26年の年表

26年のあいだに、絵文字を動かしていた主体は三度入れ替わっています。日本の通信会社から、海外のプラットフォーム企業へ、そして世界中の提案者へ。下の年表は、その交代の記録として見ると筋が通ります。

時期できごと
1997年J-PHONEの端末に、独自の絵文字90字が載る
1999年2月NTTドコモのiモードが、176字の絵文字とともに始まる
2005〜2006年携帯3社が「他社宛て絵文字変換」を順次開始
2007年10月GoogleとAppleが、絵文字のUnicode収録を提案
2008年11月iPhoneに絵文字キーボードが載る(当初は日本向けのみ)
2010年10月Unicode 6.0が、722字の絵文字を規格に収める
2011年iOS 5で、日本の外でも絵文字キーボードが使えるようになる
2013年8月「emoji」がオックスフォード英語辞典に加わる
2015年オックスフォードの「今年の言葉」に😂が選ばれる
2016年10月ニューヨーク近代美術館が、初代の176字を収蔵する
2025年6月ドコモ絵文字が、新機種から順次提供終了
2025年Unicode 17.0の絵文字は3,953字

Unicode(ユニコード)とは、世界中の文字に共通の番号を割り当てる規格です。機種や国が違っても同じ番号が同じ文字を指すため、絵文字もここに入って初めて「どの端末でも同じ絵が出る」状態になりました。

最初の一組は90字、元祖として残ったのは176字

携帯電話に絵文字を最初に載せたのは、ドコモではありません。2年早く、別の会社の端末に90字の絵文字が入っていました。

1997年、J-PHONEの端末に載った90字

12×12ドットのモノクロで、天気と月齢と数字

1997年に発売されたJ-PHONEの「DP-211SW」には、スカイメールで使える独自の絵文字が90種類搭載されていました。パイオニアが手がけた端末で、絵文字を積んだ携帯電話としては世界初とされています。

90字の中身は、数字・スポーツ・時刻・月の満ち欠け・天気。いずれも12×12ドットの白黒です。感情を表す顔よりも、状況を短く伝える記号のほうが目立つ顔ぶれでした。

1997年の90字にすでにあった「うんち」

90字の中には、のちに世界中で使われることになる「うんち」の絵文字も含まれていました。いま💩として知られているものの祖先が、1997年の白黒12ドット四方にすでにいたわけです。

ただしこの90字は、後発のドコモ絵文字ほど広くは知られていません。iモードという大きな入口と結びつかなかったことが、その差になったと考えられます。

1999年、ドコモの176字

猶予は1か月、方眼紙に手描き

ドコモの176字を設計したのは、iモードの立ち上げメンバーだった栗田穣崇(くりた しげたか)さんです。当初は端末メーカーに図案を依頼する予定でしたが、日程が厳しく断られ、残された時間はおよそ1か月になりました。

そこで栗田さんは方眼紙を用意し、12×12ドットのマス目を自分で塗りつぶしていきます。太陽・雲・傘といった天気の記号から、さまざまな表情まで。世界の共通言語になるものの原本が、手描きの升目だったことになります。

2016年、ニューヨーク近代美術館が収蔵したのはこの176字

2016年10月、ニューヨーク近代美術館(MoMA)がこの176字を永久収蔵品に加えました。同年12月からは館内のロビーで展示もされています。

収蔵にあたってMoMAは、この一組を12×12ピクセルの慎ましい傑作と評しています。作品はドコモから美術館への寄贈という形をとりました。日本の携帯電話の仕様が、そのまま美術館の所蔵品になった珍しい例です。

発想のもとにあったのは、ポケベルのハートマーク

絵文字の着想は、携帯電話より前の道具から来ています。文字数がごく限られたポケットベルの、たった一つの記号でした。

文字の足りない道具が、記号を育てた

1995年ごろのポケベルとハート

1995年ごろのポケットベルには、ハートマークが用意されていました。送れるのは、ごく短い文字列だけ。その窮屈さの中で、ハートは親密さを一文字で運ぶ役を担っていたとされます。

栗田さんは20代前半にこの道具を使い、ハートの有無で同じ文の受け取られ方が変わることを体感していたと語っています。iモードのメールに他社にない特徴を足せないかと考えたとき、その記憶が呼び出されました。

記号ひとつで、文の温度が変わる

「わかった」と「わかった♥」は、書かれている内容としては同じです。それでも受け取る側の印象はかなり違います。短い文ほど、そっけなさが誤解を生みやすいという事情もありました。

絵文字は、文字数を節約する道具としてよりも、この温度差を埋める道具として設計されたことになります。

「絵文字はあくまで文字」という線引き

選定の基準は「意図が伝わること」

栗田さんは、絵文字を絵ではなく文字だと考えて設計したと述べています。だから基準は「かわいいか」ではなく、受け手が見たときに意図が伝わるかどうかでした。

12ドット四方では、細かい描き分けはできません。伝わる形だけを残す作業は、絵を描くというより字を彫る作業に近かったはずです。

176字の顔ぶれは、感情だけではなかった

初代の176字には、天気予報のための太陽や雲だけでなく、「無料」「iモード」といったサービス表示の記号も含まれていました。感情を伝える顔文字的なものは、そのうちの一部にすぎません。

電話の画面という狭い場所で、天気・気持ち・サービス案内を同時にまかなう。初代絵文字は、そういう実用の道具として組まれていました。

日本の中ですら通じなかったことが、世界標準を生んだ

絵文字が世界規格になった直接の理由は、人気が出たからではありません。同じ日本国内でさえ、会社が違うと絵が化けたからです。

キャリアが違えば、絵文字も違った

他社宛ての変換が始まったのは2005〜2006年

ドコモ・au・J-PHONE(のちのソフトバンク)は、それぞれ別の絵文字を持っていました。当初、絵文字入りのメールは同じ会社の端末どうしでしか使えません。

他社宛ての変換機能を最初に始めたのはソフトバンクで、2005年11月1日のことです。ドコモは2006年7月12日、auは2006年9月5日と続きました。絵文字の誕生から6年以上が経っています。

変換されても「別の絵」になった

変換は、あくまで近い意味の絵に置き換える仕組みです。手元で選んだ絵と、相手の画面に出る絵は一致しないことがありました。

絵文字は文字として設計されたのに、送った文字が届かない。この矛盾を根本から解くには、会社ごとの表ではなく共通の番号が要ります。

解決を引き受けたのは、海外の企業だった

2006年秋のGmail、2007年10月のGoogleとApple

2002年ごろにも携帯向けOSの企業から提案が出ましたが、このときは実らずに終わります。動き出したのは2006年の秋で、Gmailのチームが各社の絵文字を相互に表示する仕組みを考案しました。

2007年7月にはUnicodeへ符号化するためのチームが作られ、同年10月にGoogleとAppleが正式に提案します。日本の携帯電話の都合が、世界の文字コードの議題になった瞬間でした。

2010年10月、Unicode 6.0に722字

2008年には「emoji4unicode」というプロジェクトが立ち上がります。日本の3社が持っていた絵文字を一字ずつ突き合わせ、共通の番号へ対応づけていく作業です。2009年3月に提案書が出され、米国・欧州・日本の関係者が合意した722字が2010年10月のUnicode 6.0で規格に入りました。

この722字の土台は、日本の3社が使っていた絵文字の集合です。国内の互換性の問題を片づけるために作った表が、そのまま世界の初期値になりました。

iPhoneに載ってから、外へ出た

2008年11月、まずは日本だけ

Appleが絵文字キーボードをiPhoneに載せたのは2008年11月21日ですが、当初は日本向けの機能でした。日本以外の利用者からは、通常の設定では見えない状態です。

同じ2008年の10月には、Gmailにも絵文字が入っています。世界に開かれる前段として、日本市場向けの実装が先に置かれた形でした。

2011年、iOS 5で世界のキーボードへ

2011年のiOS 5で、絵文字キーボードは日本の外でも使えるようになりました。Unicodeに入った翌年です。規格が先にでき、それを載せた端末が世界に配られたという順番になります。

ここから先の広がり方は、日本の通信会社の手を離れています。絵文字を増やすのも選ぶのも、もう国内の話ではなくなりました。

「emoji」という語は、訳されずにそのまま残った

英語に入った「emoji」は、意味を移した訳語ではなく、日本語の音をそのまま借りた語です。そして emotion とも emoticon とも、語源のうえでは関係がありません。

emotion にも emoticon にも由来しない

「絵(e)」+「文字(moji)」。似ているのは偶然

emoji の語構成は、日本語の「絵」と「文字」です。英語の emotion(感情)や emoticon と形が似ているのは、辞書の説明では純粋な偶然とされています。

偶然にしてはできすぎた一致です。この空似があったからこそ、英語話者にとって覚えやすい語になったという面もあるでしょう。

顔文字=emoticon は別の系統

emoticon は emotion と icon を合わせた英語で、:-) のように既存の記号を組み合わせて顔をつくる表現を指します。新しい文字を作るのではなく、あるものを並べ替える発想です。

絵文字のほうは、はじめから一文字ぶんの新しい字として作られました。似た見た目の二つは、成り立ちの階層が違います。

英語の辞書に入るまで

2013年8月にオックスフォードへ、初出は1997年の英字紙

「emoji」がオックスフォードの辞書に加わったのは2013年8月です。オックスフォード英語辞典が挙げる最古の用例は、1997年の日本の英字紙(Nikkei Weekly)とされています。

1997年といえば、J-PHONEの端末に90字が載った年です。英語の記録のうえでも、絵文字という語はドコモの176字より前から動いていたことになります。

2015年の「今年の言葉」は、語ですらなかった

2015年、オックスフォード辞書の「今年の言葉」に選ばれたのは😂(Face with Tears of Joy)でした。アルファベットで綴られる語ではなく、絵そのものが選ばれています。

日本生まれの記号が、英語圏で「その年をもっとも表す言葉」の座に就いた。1999年に方眼紙で塗られた升目からは、16年しか経っていません。

日本の事情でできた絵文字が、いまも世界の端末にある

Unicodeの初期の722字は日本の携帯絵文字が土台だったため、日本国内でしか意味の通らない絵もそのまま世界に配られました。それが、いまでも手元のキーボードに残ったままです。

意味が国境を越えなかったもの

由来を知らないと読み解けない絵

代表的なものを並べると、日本の制度や習慣がそのまま字になっているとわかります。

絵文字日本での意味由来
🔰初心者マーク(若葉マーク)運転免許を取って1年間、車に付ける標識
💮花丸先生が答案に押す「たいへんよくできました」の印
🈚無料「無」の一字で「無料」を表す、携帯電話生まれの記号
🍥なるとラーメンなどに載る渦巻きの練り物
🎎ひな人形3月3日のひな祭りの飾り

🔰は海外では「盾」に見え、💮は万能の祝福になった

🔰は日本の道路交通のきまりから来た形なので、事情を知らない人には黄色と緑の盾のように見えます。実際、そういう使われ方をすることも少なくありません。

💮のほうは、日本の外では「よくやった」を伝える万能の印として定着しました。答案のハンコという出どころは抜け落ち、意味だけが残った形です。字は同じでも、読まれ方は土地ごとに育っています。

いま増やしているのは、世界中から届く提案書

誰でも出せる。受付は毎年4月15日から8月31日

新しい絵文字は、Unicodeコンソーシアムに提案書を出すことで検討されます。提案できるのは企業だけではありません。個人も非営利団体も政府も対象で、費用もかかりません。

受付期間は毎年4月15日から8月31日まで。採用されても、実際に端末へ届くのは提案から1年以上あとになります。

求められるのは「すでに使われている」証拠

提案書には、使用頻度の見込みを示す資料が要ります。検索動向や辞書の記載、SNSやスタンプでの利用実態など。既存の絵文字との区別がつくか、複数の意味に使えるかも評価の対象です。審査は2015年に設けられた絵文字小委員会がまず行い、そこから技術委員会へ回されて可否が決まります。

つまり「あったら便利そう」では通りません。新しい字を作る手続きというより、すでに人が使っている記号を後から追認する手続きに近いといえます。

豆知識 ― 元祖のドコモ絵文字は、2025年に姿を消した

世界の規格として絵文字が定着していく一方で、その出発点だったドコモ独自の絵文字は役目を終えました。

新機種から順次、提供終了

ドコモは2025年5月21日、ドコモ絵文字の提供を終えると案内しました。対象は2025年6月下旬以降に発売するAndroid端末とケータイで、Galaxyは7月以降の機種からです。それ以前に発売された機種や、2025年8月発売のらくらくホン F-41Fでは引き続き使えます。

置き換わったのは、GalaxyではSamsungの絵文字、それ以外ではGoogleの「Noto Color Emoji」。つまり日本の通信会社の絵文字が、世界標準を実装したフォントに入れ替わりました。

作った本人の言葉

栗田さんは終了の報を受け、ドコモ絵文字が世に出ていた26年について感謝を述べています。1か月で仕上げた176字が、四半世紀を超えて現役だったことになります。

絵文字そのものは消えていません。消えたのは「ドコモの絵文字」という一社の実装のほうで、そこから育った規格は世界中で使われ続けています。ちなみに絵文字を世に出したiモードも、新規受付は2019年9月30日で終了しました。土台のFOMA回線は2026年3月末に停波する予定です。

いま手元の端末でキーボードを開けば、🔰も💮も🍥も並んでいます。日本の免許制度、小学校のハンコ、ラーメンの具。それぞれに出どころのある形です。使っている人の大半はその由来を知りませんし、知らないままでも通じています。日本語のまま世界へ出た「emoji」は、意味の説明を持たずに旅をして、行った先でそれぞれの読まれ方を手に入れました。

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