「こむら返り」の「こむら」は、ふくらはぎの古い呼び名です。平安時代の辞書にはもう「古无良(こむら)」と書かれていて、江戸時代の後期に「ふくらはぎ」が広まるまではこちらが普通の名前でした。寝ている間に足がつりやすいのは、布団の中でつま先が伸び、ふくらはぎが縮んだ姿勢のまま長く置かれるからだと考えられています。
「こむら」はふくらはぎの古い名前

漢字は「腓」、最古の用例は850年ごろ
「こむら」は、すねの後ろ側でふくらんでいる部分を指す言葉です。漢字では「腓」と書き、ふくらはぎの表面の筋肉を呼ぶ腓腹筋(ひふくきん)の「腓」も同じ字です。
『精選版 日本国語大辞典』が挙げるいちばん古い用例は、850年ごろにお経の注釈書へ書き入れられた訓点(漢文の読み方の書き入れ)で、お釈迦様の「両のこむら」が描かれています。934年ごろに成立した漢和辞書『和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』も、「腓」の字に万葉仮名で「古无良」と読みを添えました。千年以上前から、この部位の名前だったことになります。
「こぶら」「こぐら」という形もあった
同じ部位は「こぶら」とも呼ばれ、898〜901年ごろの辞書『新撰字鏡(しんせんじきょう)』に見えます。平安時代より後は「こむら」と「こぶら」が並んで使われ、「こぐら」という形も辞典に記録されていました。江戸時代の初めの言葉の手引き『かた言』は、「こぶら」を「こむら」と言うのを直すべき言い方に挙げました。当時はむしろ「こぶら」のほうが正しいと考えられていたようです。
「ふくらはぎ」は江戸後期の新顔
いま当たり前に使う「ふくらはぎ」は、意外に新しい言葉です。辞典の語誌によると、東国の言葉として近世に現れ、後期の江戸語に受け継がれました。最初の用例は1820〜49年に出た滑稽本『八笑人(はっしょうじん)』の「ふくらはぎへ力を入れて」という一節です。
「ふくらはぎ」が広がるにつれて、「こむら」「こぶら」は日常の言葉から退きました。同じ辞典は、いまの共通語では「こむらがえり」の中に残るだけだと書いています。からだの部位の名前は忘れられ、症状の名前だけが生き残ったわけです。
千年で入れ替わった呼び名
同じ場所の名前が入れ替わっていく様子を、辞典に残る用例の年代で並べると次のようになります。年代は「その時点で文字に残っている」という目安で、言葉が生まれた年ではありません。
| 呼び名 | 文字に残る早い例 | いまの扱い |
|---|---|---|
| こむら(腓) | 850年ごろのお経の訓点/934年ごろ『和名類聚抄』 | 「こむら返り」の中に残る |
| こぶら(腓) | 898〜901年ごろ『新撰字鏡』 | 辞典では「こむら」と同じ扱い |
| こぐら | 辞典に「こむら」の別の形として記載 | 日常ではほぼ使わない |
| ふくらはぎ(脹脛) | 1820〜49年『八笑人』 | 共通語の普通の名前 |
漢字の字典『字通』には、ひじのあたりを「たこむら」と呼ぶという記述もあります。脚だけでなく腕にも、「こむら」と対になる名前があったのです。
「返り」は何がひっくり返る?

和名類聚抄は漢語の「転筋」に読みを当てた
「返り」がなぜ付いたのかを言い切る辞典はありません。手がかりは、『和名類聚抄』がこの症状を漢語の「転筋(てんきん)」で見出しに立て、俗に「古无良加倍利(こむらかへり)」と言うと添えていることです。「転」は転がる・向きが変わるという字です。筋がひっくり返るように縮むさまを「返り」と和語に移した、と読むこともできるでしょう。ただし字面からの推測にとどまります。
同じ項は中国の医書『脚気論(かっけろん)』を引き、原因を「由脚弱所生也」と説明しています。脚が弱ることで生じる、という意味です。千年前の辞書は、こむら返りを脚の弱りから起きるものと見ていたのです。
鎌倉時代の手当ては木瓜をあぶってさする
1305年の仏教説話集『雑談集(ぞうたんしゅう)』には、「転筋」に「コブラカヘリ」と注を付けた一文があります。木瓜(ぼけ)をあぶってさすりなでれば治る、という内容です。当時の暮らしの知恵として残る記述で、効き目が確かめられた方法ではありません。
もう一つの古い名前は「からすなめり」

平安の辞書は二つの名前を挙げた
『和名類聚抄』は「転筋」の別名として、「加良須奈米理(からすなめり)」も挙げています。平安時代末期の漢和辞書『類聚名義抄(るいじゅみょうぎしょう)』でも、「轉筋」に「コムラカヘリ」「カラスナメリ」の二つの読みが並んでいました。
医学の用語を集めた『病論俗解集』は、二つの名前を場所で読み分けていました。からだに起きる転筋は「カラスナヘ」、足に起きるものは「コブラカヘリ」と読むという説明です。いまの「こむら返り」は、そのうち足のほうだけが残った形とも言えます。
語源の説は二つあり決め手はない
「からすなへり」の語源について、江戸時代の語源辞書『言元梯(げんげんてい)』は「空筋綯」の意味だとしました。大槻文彦の『大言海』は「カラス」を茎筋の略とし、「ナヘ」を足が不自由になる意味の「蹇(なえ)」と読んでいます。どちらにも決め手はなく、鳥の烏との関係もはっきりしません。
方言に残る「からすがえり」「からすまがり」
共通語から消えた「からす」系の名前は、各地の方言に形を変えて残っています。『日本国語大辞典』によれば、「からすがえり」は新潟県の東蒲原(ひがしかんばら)郡・中頸城(なかくびき)郡や岐阜県飛騨の言い方です。『大言海』の注記には、博多の「からすなへ」と信濃の「からすがへり」、長崎の「からすまがり」が並びます。
長野県佐久の「からまげーり」のような変わり種も記録されています。烏の歩き方に似た手足のけいれんを「カラスオレ」「カラスガエリ」と呼ぶ、と書いた民俗語の辞典もあり、鳥の烏と結びつけて受け止める見方もあったようです。
足がつるとき筋肉では何が起きている?

「縮め」という神経の命令が出続ける
足がつるとは、自分の意思と関係なく筋肉が強く縮み、ゆるまなくなることです。MSDマニュアル家庭版は筋肉のけいれんを、突然起きて短時間だけ続く意図しない収縮で、通常は痛みを伴うものと説明しています。
筋肉は、脊髄から伸びる運動神経の命令で縮みます。米国家庭医学会の雑誌『American Family Physician』の総説(2012年)は、筋電図の研究から、こむら返りは運動神経の過剰で高頻度な発火から始まるとみられると紹介しました。筋肉の側より、命令を出す神経の側に始まりがあるという見方です。
1回平均9分、痛みが後に残ることも
同じ総説によると、夜の脚のこむら返りは1回あたり平均9分ほど続きます。治まったあとも、筋肉痛のような痛みが残ることがあるそうです。真夜中に飛び起きた翌朝までふくらはぎが重いのは、気のせいではないのかもしれません。
筋紡錘はアクセル、ゴルジ腱器官はブレーキ
筋肉には、伸び具合や張り具合を脊髄へ知らせるセンサーが組み込まれています。その一つが筋肉の中で伸びを感じ取る筋紡錘(きんぼうすい)で、引き伸ばされると筋肉を縮める方向に働くのが特徴です。もう一つは腱の中にあるゴルジ腱器官という張力のセンサーで、強く引っ張られると収縮を抑える信号を出します。
南アフリカの運動医学研究者シュウェルヌスらは1997年、前者をアクセル役、後者をブレーキ役とみる仮説を示しました。
※ ゴルジ腱器官とは、腱にある感覚受容器で、筋肉が引っ張る力の大きさを感じ取ります。発見者であるイタリアの医学者カミッロ・ゴルジの名前にちなみます。
疲れた筋肉では釣り合いが崩れる
シュウェルヌスらが根拠にしたのは、疲れた筋肉で筋紡錘の反射が強まり、ゴルジ腱器官の働きが弱まったという動物実験でした。アクセルを踏んだままブレーキが効かなくなり、縮めという信号が出っぱなしになるという見立てです。運動中のこむら返りを説明するために立てられた説ですが、夜のこむら返りを考えるときの手がかりにもなっている説です。
なぜ寝ている間に足がつりやすい?

布団の中ではつま先が伸びたまま
横になって力が抜けると、足首はつま先が下を向いた形になりやすくなります。先の総説は、この姿勢ではふくらはぎの筋線維がすでにいちばん短くなっていると紹介しています。そこへ抑えの効かない神経の刺激が加わると、つってしまうという説明です。重めの掛け布団がつま先を押さえ込む寝姿を思い浮かべると、わかりやすいかもしれません。ただし仮説の一つで、確定した説明ではない点には注意がいります。
二つの関節をまたぐ腓腹筋
腓腹筋は太ももの骨の下の端から始まり、アキレス腱となってかかとの骨につきます。膝と足首の二つの関節をまたぐため、膝を曲げてつま先を伸ばすと両側から縮められた姿勢になるのです。シュウェルヌスらは、二つの関節をまたぐ筋肉は縮んだ位置に置かれやすく、ブレーキ役の信号が弱まりやすいと述べました。
腓腹筋の奥には、平たいヒラメ筋があります。腓腹筋の内側と外側の2頭にヒラメ筋の1頭を足したものが、下腿三頭筋(かたいさんとうきん)です。つま先立ちや歩く・跳ぶときの踏み切りを担う、日常でよく働く筋肉でもあります。
大人の5〜6割が経験する
『American Family Physician』の総説は、夜のこむら返りを経験したと答える大人は50〜60%、子どもは約7%としています。こむら返りに悩む人の最大20%はほぼ毎日症状があり、医療機関を受診するほど困っているそうです。痛みで目が覚めてそのまま寝つけなくなると、睡眠そのものにも響いてきます。
夜のこむら返りは夏に多い

処方の記録とネット検索がそろって夏に山
「冷えると足がつる」という感覚とは逆のデータがあります。カナダの研究チームが2015年に医学誌『CMAJ』(カナダ医師会雑誌)で発表したものです。ブリティッシュコロンビア州で50歳以上に出された、こむら返り向けのキニーネの新規処方(2001〜2007年)が一つ目の材料でした。
二つ目は、米国とオーストラリアでの「leg cramps」の検索量(2004〜2012年)です。どちらも真夏に高く真冬に低い波を描き、冬の底から夏の山まで件数はおよそ2倍に増えていました。
夏に増える理由はまだわからない
研究チーム自身が、神経の不調である症状がなぜこれほど強い季節性を示すのかは、これから探るべき課題だと結んでいます。汗や暑さとの関係を思い浮かべたくなりますが、この研究はそこまで確かめていません。季節の波がはっきり見えたこと自体が、まだ説明のついていない発見というわけです。
「水分とミネラル不足が原因」はどこまで本当?

脱水はリスクの一つにすぎない
体液のバランスが大きく崩れる場面では、実際に筋肉のけいれんが起きやすくなります。MSDマニュアル家庭版は、脱水やカリウム・マグネシウム・カルシウムの低下をリスクとして挙げています。塩分やカリウムを補わずに大量の汗をかいた場合や利尿薬の使用、透析で体液が急に除かれたあとも例に出されていました。
ただ、一般の人のこむら返りの主な原因がそれだとする裏付けは強くありません。2009年の総説でシュウェルヌスが指摘したのは、運動中のこむら返りを脱水や電解質で説明する根拠の乏しさでした。経験談のほかは計18例の症例報告と10人規模の小さな研究しかなく、参加者を前もって決めて追跡した4つの研究はこの説を支持しなかったといいます。
アイアンマン210人で差がつかなかった
2011年に英国のスポーツ医学誌に載った研究は、トライアスロンの最長距離レース「アイアンマン」の出場者210人をレースの前後で調べました。つった43人とつらなかった166人のあいだで、血液の電解質の濃度にも体重の変化にも意味のある差は出ていません。汗で失った水分や塩分の量は、つるかどうかを分けていなかったことになります。
差がついたのは、レースのペースでした。独立した危険因子として残ったのは、ゴールまでのタイムの速さ(自転車区間を含む)と、直近10レースでつった経験の二つです。運動の強さが関わるという、神経と疲労の説に沿う結果でした。
ピクルスの汁とマグネシウムは効く?

ピクルスの漬け汁で約49秒早く治まった
「ピクルスの汁を飲むとすぐ治る」というスポーツ現場の言い伝えを、米国の研究チームが2010年に確かめました。体重の約3%ぶんの水分を失った人の足の裏の筋肉を、電気刺激でつらせる実験です。体重1kgあたり1mL(平均約74mL)の漬け汁を飲むと、つりは平均約85秒で治まり、水の約134秒より49秒ほど短くなりました。
ところが飲んで5分後の血液の成分は、漬け汁でも水でもほとんど変わっていません。研究チームは、塩分が吸収されたからではなく、口やのどから始まる神経の反射がつりを止めたのではないかと推測しています。電気刺激で起こしたつりの結果で、寝ている間のこむら返りで試したわけではありません。
マグネシウムは高齢者で偽薬と差が出ない
こむら返り対策として売られるマグネシウムについては、医療の研究を系統的にまとめるコクランが2020年にレビューを更新しました。含まれたのは11の試験、計735人です。はっきりした原因のないこむら返りをもつ主に高齢の人たちでは、マグネシウムと偽薬のあいだで回数に統計的な差がありませんでした。
妊娠に伴うこむら返りを対象にした5つの試験(計408人)では、結果が食い違っていました。偽薬と比べた3つの試験では、効果なしと効果ありが1つずつで、残る1つは結果が一貫していません。運動中のこむら返りにマグネシウムを試した比較試験は、見つからなかったそうです。
つったときと予防のために何ができる?

膝を伸ばしてつま先を手前に引く
つったときにまず役立つのは、縮んでいる筋肉をゆっくり伸ばすことです。MSDマニュアル家庭版は、ふくらはぎなら手で足やつま先を上のほうへ引っ張る方法を挙げています。腓腹筋は膝の上から始まっているので、膝を伸ばしたままつま先をすねのほうへ引き寄せると両側から伸ばせる理屈です。
シュウェルヌスらの1997年の論文は、筋肉を受け身に伸ばすと筋電図の活動が下がると紹介しています。ゴルジ腱器官から抑えの信号が届き、つりが解けるという考え方です。痛みで体を丸めたくなる場面ですが、ふくらはぎにとってはそれこそが縮んだ姿勢になります。
寝る前のランナーストレッチを30秒
予防として、MSDマニュアル家庭版は運動や就寝の前のストレッチを勧めています。紹介されているのは、壁に手をついて片脚を前に出し、後ろの脚の膝を伸ばしてかかとを床につけるランナーストレッチです。この姿勢を30秒保って4〜5回繰り返し、反対の脚でも同じように行います。
同じマニュアルは、食後すぐの運動を避けることや運動後に十分な水分をとることも挙げました。カフェインを控えることと禁煙も、予防策の一つです。カフェインやニコチンは、けいれんを起こしやすくする刺激物として扱われています。
薬の選び方と受診の目安

日本は芍薬甘草湯、欧米はキニーネ
日本でこむら返りの薬としてよく知られるのが、芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)です。シャクヤクの根と甘草(かんぞう)の二つの生薬だけでできていて、ツムラの解説では急に起こる筋肉のけいれんを伴う痛みに用いる処方とされています。注意事項や副作用は添付文書で確かめ、続けて飲むかどうかは医師や薬剤師に相談して決めることになります。
欧米では、マラリアの薬でもあるキニーネがこむら返りに使われてきました。MSDマニュアル家庭版によると、不整脈や視覚障害、耳鳴りなどの副作用があるため現在は推奨されていません。『American Family Physician』の総説も、夜の脚のこむら返りの治療にキニーネを使うべきではないとしています。
腕や胴体までつるときは受診を
多くのこむら返りは重い病気のサインではありませんが、別の原因が隠れていることもあります。MSDマニュアル家庭版が注意すべき徴候に挙げるのは、腕や胴体の筋肉のけいれんや筋力の低下、感覚がなくなる症状などです。嘔吐や下痢、大量の汗で体液を失ったあとのけいれんも、すぐに受診したい場合とされていました。
利尿薬や一部の降圧薬、気管支拡張薬などは、けいれんに関係する薬として挙げられています。関わる病気としては、甲状腺の働きの低下や神経の病気も挙がっていました。急に回数が増えたときは、飲んでいる薬を伝えて相談すると原因を探しやすくなります。
英語の呼び名は「チャーリーホース」

1880年代の野球の俗語
英語の口語で脚のこむら返りを指す言葉の一つが、「charley horse(チャーリーホース)」です。『American Family Physician』の総説も、冒頭でこの語を言い換えとして添えています。記録に現れるのは1880年代のアメリカの野球の俗語としてで、由来ははっきりしません。「オールド・ホス」とあだ名された投手の足のつりから来たという説や、当時「チャーリー」が馬によく付く名前だったからという説があります。
日本語はつる場所で名づけた
日本語の名前は、つる場所である「こむら」をそのまま入れました。平安の「からすなめり」には鳥の烏と同じ音が入り、英語は馬の名前を借りています。同じ痛みでも、どこに目をつけて名づけたかは言葉ごとにずいぶん違うものです。
平安時代の辞書は、こむら返りの原因を「脚の弱り」と書きました。千年後の研究は、疲れた筋肉でアクセル役とブレーキ役の釣り合いが崩れることを疑っています。「こむら」が日常から姿を消しても、夜中に足がつった翌朝に「こむら返りが起きた」と話すとき、私たちは平安時代と同じ名前でふくらはぎを呼んでいるのです。千年前に「脚の弱り」と書き留めた人も、布団の中であの痛みに飛び起きていたのでしょうか。
参考
- MSDマニュアル家庭版「筋肉のけいれん」
- American Family Physician「Nocturnal Leg Cramps」(2012年)
- 国立国会図書館 レファレンス協同データベース「「こむら返り」を「からす返り」とも言うが、なぜそう言うのか知りたい。」
- コトバンク「腓(こむら)」
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