「こむら返り」の「こむら」は、ふくらはぎの古い呼び名です。平安時代の辞書にはすでに「古无良(こむら)」と書かれていて、江戸時代の後期に「ふくらはぎ」という新しい言葉が広まるまでは、こちらがふつうの名前でした。いまの共通語では、ほぼ「こむら返り」の中にだけ残っています。
寝ている間に足がつりやすいのは、布団の中でつま先が伸びてふくらはぎの筋肉が縮んだ姿勢のまま長く置かれるから、という説明が一般的です。そこへ筋肉を縮める神経の信号が止まらなくなると、こむら返りが起きると考えられています。ただし仕組みの全体はまだ解明されておらず、「水分やミネラルの不足が原因」という定番の説明にも、研究では疑問符がついています。
「こむら」はからだのどこを指す言葉?

「こむら」は、すねの後ろ側でふくらんでいる部分、つまりふくらはぎのことです。漢字では「腓」と書き、医学用語の腓腹筋(ひふくきん)の「腓」も同じ字です。
こむらは平安時代からあるふくらはぎの名前
ふくらはぎを「こむら」と呼んだ記録は、千年以上前までさかのぼります。『精選版 日本国語大辞典』は、平安時代の初めから用例を拾っています。
934年ごろの辞書に「古无良」の読み
平安時代中期の漢和辞書『和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』は、「腓」の字に「古无良」という万葉仮名で読みを付けました。成立は934年ごろです。辞典に載る最も古い用例は、それより前の850年ごろにお経の注釈書へ書き入れられた訓点(読み方の書き入れ)で、お釈迦様の「両のこむら」が描写されています。
「こぶら」「こぐら」という言い方も
同じ部位は「こぶら」とも呼ばれ、898〜901年ごろの辞書『新撰字鏡(しんせんじきょう)』に見えます。平安以降は「こむら」と「こぶら」が並んで使われ、「こぐら」という形もありました。江戸時代前期の言葉の手引き『かた言』は「こぶら」を「こむら」と言うのを直すべき言い方として挙げていて、当時は「こぶら」のほうが正しいと考えられていたようです。
「ふくらはぎ」は江戸時代後期に広まった新顔
いま当たり前に使う「ふくらはぎ」は、実はかなり新しい言葉です。「ふくら」はふくらんだ様子、「はぎ」はすねを指します。
東国の言葉が江戸の町で勢いを得た
辞典の語誌によれば、「ふくらはぎ」は東国系の言葉として近世に現れ、後期の江戸語に受け継がれました。初出の用例は、1820〜49年に出た滑稽本『八笑人(はっしょうじん)』の「ふくらはぎへ力を入れて」です。
共通語の「こむら」は複合語の中だけに
「ふくらはぎ」が広がるにつれ、「こむら」「こぶら」は日常の言葉から退きました。同じ辞典は、共通語では複合語の「こむらがえり」の中に残るだけだと書いています。からだの部位は忘れられ、症状の名前だけが生き残ったわけです。
ふくらはぎの呼び名の移り変わり
同じ場所の名前が千年のあいだに入れ替わっていく様子を、辞典に残る用例の年代で追うと次のようになります。年代は「その時点で文字に残っている」という目安で、言葉が生まれた年ではありません。
| 呼び名 | 文字に残る早い例 | いまの扱い |
|---|---|---|
| こむら(腓) | 850年ごろのお経の注釈書の訓点/934年ごろ『和名類聚抄』 | 「こむら返り」の中に残る |
| こぶら(腓) | 898〜901年ごろ『新撰字鏡』 | 辞典では「こむら」と同じ扱い |
| こぐら | 辞典に「こむら」の別の形として記載 | 日常ではほぼ使わない |
| ふくらはぎ(脹脛) | 1820〜49年『八笑人』 | 共通語のふつうの名前 |
漢字の字典『字通』には、ひじのあたりを「たこむら」と呼ぶという記述もあります。脚だけでなく腕にも、「こむら」と対になる呼び名があったことになります。
「こむら返り」の「返り」は何がひっくり返る?

「返り」がなぜ付いたのかを言い切る辞典は、今回あたった範囲にはありませんでした。手がかりになるのは、平安時代の辞書がこの症状を漢語の「転筋(てんきん)」で見出しに立て、そこに「こむらがへり」の読みを当てていることです。
和名類聚抄は「転筋」にこむら返りの読みを当てた
『和名類聚抄』には「転筋」の項があり、『脚気論(かっけろん)』という書物を引いたうえで和名を添えています。「転」は転がる・向きが変わるという字なので、筋がひっくり返るように縮むさまを「返り」と和語に移したと読むこともできます。ただしこれは字面からの推測で、辞典の裏付けがある説明ではありません。
「脚が弱ることで起きる」と書かれていた
国立国会図書館のレファレンス協同データベースに引かれた本文では、「転筋」は俗に「古无良加倍利(こむらかへり)」と言い、「由脚弱所生也」(脚が弱ることで生じる)と説明されています。千年前の辞書が、原因を脚の弱りに求めていたわけです。
鎌倉時代には「木瓜をあぶってさする」手当て
1305年の仏教説話集『雑談集(ぞうたんしゅう)』には、「転筋」に「コブラカヘリ」と注を付け、木瓜(ぼけ)をあぶってさすれば治ると書いた一文があります。当時の暮らしの知恵として残っている記述で、効き目が確かめられた方法というわけではありません。
もう一つの古い名前「からすなめり」
同じ『和名類聚抄』は、「転筋」の別名として「加良須奈米理(からすなめり)」も挙げています。平安時代のこむら返りには、二つの呼び名があったのです。
鎌倉時代の写本にも二つの名前が並ぶ
1241年の写本が残る漢和辞書『類聚名義抄(るいじゅみょうぎしょう)』にも、「転筋」に「コムラカヘリ」「カラスナメリ」の二つの読みが付いています。『時代別国語大辞典 室町時代編』に引かれた医学用語集『病論俗解集』では、からだに起きれば「からすなえ」、足に起きれば「こぶらかえり」と読み分けるとされていました。
語源の説は辞書によって別々
「からすなえり」の語源には、江戸時代の語源辞書『言元梯(げんげんてい)』の「空筋綯(からすなへり)」説があります。一方で大槻文彦の『大言海』は、「からす」をこむらの筋、「なへ」を足が不自由になる意味の「蹇(なえ)」と読む説を立てています。どちらも決め手はなく、鳥の「烏」との関係もはっきりしていません。
方言に残る「からすがえり」「からすまがり」
共通語から消えた「からす」系の名前は、各地の方言に形を変えて残っています。複数の方言辞典をたどった調査記録が、レファレンス協同データベースに残されていました。
新潟や飛騨では「からすがえり」
『日本国語大辞典 第二版』によると、「からすがえり」は新潟県の東蒲原(ひがしかんばら)郡・中頸城(なかくびき)郡や岐阜県飛騨の方言です。『全国方言辞典』では愛知県北設楽(きたしたら)郡の例もあり、長野県佐久の「からまげーり」のような変わり種も記録されています。
『大言海』は博多・信濃・長崎の言い方を記録
『大言海』の注記では、博多は「からすなへ」で信濃は「からすがへり」、長崎は「からすまがり」でした。烏の歩き方に似た手足のけいれんを「カラスオレ」「カラスガエリ」と呼ぶ、と書いた民俗語の辞典もあり、鳥の烏と結びつけて受け止める見方もあったことがわかります。
足がつったとき、ふくらはぎの中で何が起きている?

足がつるとは、自分の意思と関係なく筋肉が強く縮み、ゆるまなくなることです。MSDマニュアル家庭版は、突然起きて短時間続く意図しない筋肉の収縮で、通常は痛みを伴うものと定義しています。
「縮め」という神経の信号が止まらない
筋肉は、脊髄から伸びる運動神経の命令で縮みます。こむら返りの最中は、その命令が勝手に出続けている状態だと考えられるのです。
筋電図に映る高い頻度の発火
米国家庭医学会の雑誌『American Family Physician』の総説(2012年)は、筋電図の研究から、こむら返りは脊髄の運動神経の過剰で高頻度な発火から始まるとみられると紹介しています。筋肉の側より、命令を出す神経の側に始まりがあるという見方です。
平均で約9分、痛みが後に残ることも
同じ総説によると、夜の脚のこむら返りは1回あたり平均9分ほど続きます。治まったあとも数時間にわたって繰り返したり、筋肉痛のような痛みが残ったりすることがあります。翌朝までふくらはぎが重いのは、気のせいではないようです。
アクセル役とブレーキ役の二つのセンサー
筋肉には、縮み具合や引っ張られ具合を脊髄へ知らせるセンサーが組み込まれています。南アフリカの運動医学研究者シュウェルヌスらは1997年、この二つのセンサーの釣り合いが崩れることが、運動中のこむら返りの原因だとする仮説を示しました。
筋紡錘は「伸びたら縮め」と知らせる
筋紡錘(きんぼうすい)は、筋肉の中にあって伸びを感じ取る小さな器官です。引き伸ばされると脊髄に信号を送り、筋肉を縮める方向に働きます。仮説では、ここがアクセル役です。
腱の中のセンサーは「張りすぎたら緩めよ」
筋肉と骨をつなぐ腱の中には、ゴルジ腱器官という張力のセンサーがあります。強く引っ張られると、筋肉の収縮を抑える信号を出します。こちらがブレーキ役です。
※ ゴルジ腱器官とは、腱にある感覚受容器で、筋肉が引っ張る力の大きさを感じ取ります。発見者であるイタリアの医学者カミッロ・ゴルジの名前にちなみます。
疲れた筋肉ではアクセルが強くブレーキが弱い
シュウェルヌスらは、疲れた筋肉では筋紡錘の反射が強まり、ゴルジ腱器官の働きが弱まったとする二つの動物実験を根拠にしました。アクセルを踏んだままブレーキが効かなくなり、縮めという信号が出っぱなしになる、という見立てです。
ふくらはぎがとくにつりやすいのはなぜ?
こむら返りがいちばん起きやすい場所がふくらはぎなのは、この部位の筋肉のつくりと関係していると考えられています。
腓腹筋は膝と足首の二つの関節をまたぐ
ふくらはぎの表面をつくる腓腹筋は、太ももの骨である大腿骨の下の端から始まり、アキレス腱となってかかとの骨につきます。膝と足首の二つの関節をまたいでいるため、膝を曲げてつま先を伸ばすと、両側から縮められた姿勢になるわけです。シュウェルヌスらは、二つの関節をまたぐ筋肉は縮んだ位置に置かれやすく、ブレーキ役の信号が弱まりやすいと述べています。
深い層のヒラメ筋と合わせて「三頭」
腓腹筋の奥にあるのが、平たいヒラメ筋です。腓腹筋の内側と外側の2頭にヒラメ筋の1頭を足して、合わせて下腿三頭筋(かたいさんとうきん)と呼びます。つま先立ちや歩く・跳ぶときの踏み切りを担う、日常でよく働く力持ちの筋肉です。
なぜ寝ている間に足がつりやすい?

夜のこむら返りは、寝ている姿勢でふくらはぎが縮んだ位置に置かれることが一因と説明されています。昼間の疲れや年齢も重なり、中高年ではとくに身近な症状です。
布団の中ではつま先が伸びたまま
あお向けやうつ伏せで寝ると、足首は力が抜けてつま先が下を向きやすくなります。この形は、ふくらはぎの筋肉が短く縮んだ状態そのものです。
掛け布団やシーツが足先を押し下げる
『日本大百科全書(ニッポニカ)』の説明では、眠っている間にシーツなどに足首が引っかかって足先が下を向きます。そのためふくらはぎと足の裏の筋肉が縮められ、こむら返りが起こるとされています。重めの掛け布団がつま先を押さえ込む寝姿を思い浮かべると、わかりやすいかもしれません。
縮みきった筋肉にブレーキの効かない信号
先の総説も、横になった姿勢では足が受け身でつま先側に曲がり、ふくらはぎの筋線維がすでに最大限に短くなっていると紹介しています。そこへ抑えの効かない神経の刺激が加わると、つってしまうという説です。仮説の一つとして挙げられているもので、確定した説明ではありません。
年齢とともに増える夜のこむら返り
夜の脚のこむら返りは珍しい症状ではありません。MSDマニュアル家庭版も、健康な人にしばしば起こり、中高年によくみられると書いています。
大人の5〜6割、子どもは約7%
『American Family Physician』の総説は、夜のこむら返りを経験したと答える大人は50〜60%、子どもは約7%としています。女性にやや多く、年齢とともに増えるのも特徴です。
毎日のように起きる人は最大2割
同じ総説によると、こむら返りを経験する人の最大20%はほぼ毎日症状があり、医療機関を受診するほど困っています。痛みで目が覚め、そのまま寝つけなくなる不眠につながることもあるほどです。
冬より夏に多いという調査結果
「冷えると足がつる」という感覚とは逆に、夏のほうが多いことを示したデータがあります。カナダの研究チームが2015年に医学誌『CMAJ』(カナダ医師会雑誌)で発表しました。
処方の記録とネット検索がそろって夏に山
研究では、ブリティッシュコロンビア州の50歳以上に出された、こむら返りに使われていたキニーネの新規処方(2001〜2007年)を調べました。あわせて米国とオーストラリアでの「leg cramps」の検索量(2004〜2012年)も分析しています。どちらも真夏に高く真冬に低い波を描き、冬の底から夏の山までおよそ2倍の差がありました。
なぜ夏なのかはまだわからない
研究チーム自身が、神経の不調である症状がなぜこれほど強い季節性を示すのかは今後の検討課題だと結んでいます。汗や暑さとの関係を思い浮かべたくなりますが、この研究はそこまでは確かめていません。
「水分とミネラル不足が原因」はどこまで本当?

脱水や電解質の不足は、こむら返りを起こしやすくする条件の一つとして挙げられています。一方で、ふつうの人のこむら返りの主な原因がそれだとする説には、はっきりした裏付けがありません。運動中のこむら返りを調べた研究は、むしろ別の答えを示しています。
脱水や電解質の不足が疑われてきたわけ
体液のバランスが大きく崩れる場面では、実際に筋肉のけいれんが起きやすくなります。これが「水分とミネラル」説を身近なものにしてきました。
大量の汗や利尿薬、透析の直後
MSDマニュアル家庭版は、けいれんのリスクを高める条件として、脱水やカリウム・マグネシウム・カルシウムの血中濃度の低下を挙げています。一部の利尿薬の使用、塩分を補わずに大量の汗をかいた場合、透析で体液が急に除かれた直後なども例に出されています。
運動中のこむら返りは説明しきれない
2009年の総説でシュウェルヌスは、脱水や電解質で運動中のこむら返りを説明する根拠が、経験談や計18例の症例報告と10人規模の小さな研究にとどまると指摘しました。参加者を前もって決めて追跡した4つの研究は、この説を支持しなかったとしています。
アイアンマンの210人を調べた研究
2011年に英国のスポーツ医学誌に載った研究は、トライアスロンの最長距離レース「アイアンマン」の出場者210人を、レースの前後で調べました。
つった43人と、つらなかった166人を比べた
レース中や直後につった43人と、つらなかった166人のあいだで、血液の電解質の濃度にもレース前後の体重の変化にも統計的に意味のある差はありませんでした。汗で失った水分や塩分の量は、つるかどうかを分けていなかったことになります。
差がついたのはペースの速さと過去のつり経験
つったグループは、予想タイムも実際のタイムも速い人たちでした。解析で独立した危険因子として残ったのは、ゴールまでの速さ(とくに自転車区間)と、直近10レースでのつった経験の二つです。運動の強さが関わるという、神経と疲労の説に沿う結果でした。
ピクルスの漬け汁で早く治まった実験
「ピクルスの汁を飲むとすぐ治る」というスポーツ現場の言い伝えを、米国の研究チームが2010年に確かめました。結果は意外な方向から、水分とミネラル説に疑問を投げかけています。
体重の約3%を脱水させて電気刺激でつらせた
実験では、体重の約3%ぶんの水分を失った男性に、足の裏の短母趾屈筋(たんぼしくっきん)という筋肉を電気刺激でつらせました。そのうえで、体重1kgあたり1mL(平均約74mL)の漬け汁か、ミネラルを除いた水を飲んでもらっています。
水より約49秒早いのに、血液はほぼ変わらず
漬け汁を飲んだときのつりは平均約85秒で治まり、水の約134秒より49秒ほど短くなりました。ところが飲んで5分後の血液の成分は、どちらもほとんど変わっていません。研究チームは、塩分が体に吸収されたからではなく、口やのどから始まる神経の反射がつりを止めたのではないかと推測しています。電気刺激で起こしたつりでの結果で、寝ている間のこむら返りで試したわけではありません。
マグネシウムのサプリで予防できる?
こむら返り対策として売られるマグネシウムについては、医療の研究を系統的にまとめるコクランが2020年にレビューを更新しています。
主に高齢者を対象にした試験では差が小さい
レビューには11の試験、計735人が含まれました。はっきりした原因のない夜のこむら返りをもつ、平均60代の人たちでは、マグネシウムと偽薬で4週間後の回数に統計的な差がありませんでした。著者らは、高齢者に意味のある予防効果をもたらす見込みは低いと結論しています。
妊娠中のこむら返りは研究の結果が割れている
妊娠に伴うこむら返りを対象にした5つの試験では、結果が食い違っていました。偏りの危険が高い試験も多く、さらに研究が必要とされています。運動中のこむら返りに対するマグネシウムの試験は、見つからなかったと書かれています。
三つの研究は、それぞれ別の角度から「水分とミネラル」説を試したものでした。
| 研究 | 調べたこと | わかったこと |
|---|---|---|
| アイアンマン210人(2011年) | つった人とつらなかった人の血液の電解質と体重変化 | 差はなし。速いペースと過去のつり経験が危険因子 |
| ピクルスの漬け汁(2010年) | 脱水状態でつらせた筋肉に漬け汁と水を飲ませる | 漬け汁で約49秒早く治まったが、血液の成分はほぼ不変 |
| マグネシウムのレビュー(2020年) | 11試験・735人の予防効果 | 高齢者では偽薬と差なし。妊娠中は結果が割れる |
つったときと予防のために何ができる?

つったときにまず役立つのは、縮んでいる筋肉をゆっくり伸ばすことです。MSDマニュアル家庭版は、ふくらはぎのけいれんなら、手で足やつま先を上のほうへ引っ張る方法を挙げています。
つま先を手前に引いてふくらはぎを伸ばす
つった直後は痛みで体を丸めたくなりますが、ふくらはぎにとってはそれが縮んだ姿勢です。反対の形をつくると楽になりやすくなります。
膝を伸ばしたまま引くと腓腹筋まで伸びる
腓腹筋は膝の上から始まっているので、膝を曲げたままつま先を引いても十分には伸びません。脚を前に投げ出して膝を伸ばし、つま先をすねのほうへ引き寄せると、膝と足首の両側から筋肉を伸ばせる理屈です。
伸ばすとブレーキ役の信号が働く
シュウェルヌスらの仮説では、筋肉を受け身に伸ばすとゴルジ腱器官から抑えの信号が出て、つりが解けると考えます。運動中のランナーの筋電図でも、伸ばすことで筋肉の電気活動が下がったという報告がありました。
寝る前のふくらはぎのストレッチ
筋肉のけいれんには予防が最善だとするのが、MSDマニュアル家庭版です。運動や就寝の前の軽いストレッチが勧められています。
壁に手をつく「ランナーストレッチ」を30秒
壁に手をついて片脚を前に出し、後ろの脚は膝を伸ばしてかかとを床につけます。前の膝を曲げていくと、後ろの脚のふくらはぎが伸びる姿勢です。同マニュアルが紹介するのは、この姿勢を30秒保って4〜5回繰り返し、反対の脚でも行う方法です。
カフェインやたばこを控えるという助言も
ほかにも、食後すぐの運動を避けることや運動後の十分な水分補給、カフェインを控えることと禁煙が挙げられています。コーヒーやチョコレートに含まれるカフェインは、神経を刺激するものの一つという扱いです。
漢方の芍薬甘草湯と、使われなくなったキニーネ
薬の話になると、日本と欧米で登場する名前が違います。どちらも自己判断で続けるものではない点は同じです。
芍薬甘草湯は「こむらがえり」を効能に掲げる
芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)は、シャクヤクの根と甘草(かんぞう)の二つの生薬からなる漢方薬です。ツムラの市販品では、こむらがえりや筋肉のけいれん、腹痛と腰痛が効能に挙げられています。一方で製品の注意書きには、症状があるときだけ服用して連用しないことと、心臓病と診断された人は服用しないことが書かれていました。まれに起こる重い副作用として、偽アルドステロン症や肝機能障害なども挙げられています。
キニーネは副作用のため勧められなくなった
欧米では、マラリアの薬でもあるキニーネがこむら返りに使われてきました。現在は不整脈や視覚障害、耳鳴りなどの副作用があるため、治療として推奨されていないとMSDマニュアル家庭版は書いています。先の総説の推奨も、キニーネは使うべきではない、というものでした。
こんなときは医師に相談を
多くのこむら返りは重い病気のサインではありませんが、別の原因が隠れていることもあります。
腕や胴体までつる、力が入らない
注意すべき徴候としてMSDマニュアル家庭版が挙げるのは、腕や胴体の筋肉のけいれんや筋力の低下、感覚がなくなる症状などです。嘔吐や下痢、大量の汗で体液を失ったあとのけいれんも、すぐに受診したい場合とされています。
飲んでいる薬や持病との関係
一部の降圧薬や利尿薬、骨粗しょう症の薬などは、けいれんに関係する薬として挙げられています。関わる病気としては、甲状腺の働きの低下や腰の神経が圧迫される病気も挙がっていました。急に回数が増えたときは、飲んでいる薬を伝えて相談すると原因を探しやすくなります。
英語ではこむら返りを「チャーリーホース」と呼ぶ

英語の口語で脚のこむら返りを指す言葉の一つが、「charley horse(チャーリーホース)」です。『American Family Physician』の総説も、冒頭で脚のこむら返りの言い換えとしてこの語を添えています。
1887年のスポーツ界の俗語
語源辞典のEtymonlineによると、この言葉は1887年に使われ始めたスポーツの俗語です。由来ははっきりせず、誰かの足を痛めた競走馬の名前だったのではないかとされています。当時「チャーリーホース」は馬や馬の種類を指す名前だったらしく、脚の悪い馬を指したのかもしれない、とも書かれています。
日本語はつる場所で、英語は馬の姿で名づけた
日本語の名前は、つる場所である「こむら」をそのまま名前に入れました。平安の「からすなめり」には鳥の烏と同じ音が入り、英語は脚を痛めた馬の姿を借りています。同じ痛みでも、どこに目をつけて名づけたかは言葉ごとにずいぶん違います。
平安時代の辞書は、こむら返りの原因を「脚の弱り」と書きました。千年後の研究は、疲れた筋肉でアクセル役とブレーキ役の釣り合いが崩れることを疑い、水分やミネラルだけでは説明しきれないことを示しつつあります。
「ふくらはぎ」という言葉に押されて、「こむら」は日常から姿を消しました。それでも夜中に足がつった翌朝、「こむら返りが起きた」と話すとき、私たちは平安時代の辞書と同じ名前でふくらはぎを呼んでいます。千年前に「脚の弱り」と書き留めた人も、あの痛みに布団の中で飛び起きていたのでしょうか。
参考
- MSDマニュアル家庭版「筋肉のけいれん」
- American Family Physician「Nocturnal Leg Cramps」(2012年)
- 国立国会図書館 レファレンス協同データベース「「こむら返り」を「からす返り」とも言うが、なぜそう言うのか知りたい。」
- コトバンク「腓(こむら)」
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